第22話 皆殺しの剣
【大句 手札4→5 マナ2→8】
「見せてやるよ。力の差をよ! 俺は手札の巨人カード三枚をトラッシュに送る」
手札を三枚地面に投げつける。すると、無残に捨てられた三枚のカードを地面から出た巨人の手が掴みあげた。
「『蹂躙』発動。全ての敵を踏み潰し、絶望を与えろ! 《殲滅の巨人ゴライアス》っ!!」
地面が
そこに現われたのは、二本の剣を背負った巨人。
大句の切り札にして、レジェンドレアカードであるゴライアスだ。
【殲滅の巨人ゴライアス AP3000SP3 コスト8 赤 バーサーカー】
「あっ……あぁ…………」
紅蓮に燃える瞳が敵である恵奈を捉えると、その瞳を受けた恵奈は足をガクガクと震わせ、数歩退いた後に尻餅を付いた。
「へへっ、いい反応してくれるじゃねえか。だがな――これで終わりじゃねんだよ」
ゴライアスの召還条件である『蹂躙』は手札を大幅に使いはするもののマナを使うことはない。
その利点を生かし、大句は残りわずかな手札二枚を余すこと使用した。
「マナを6支払い、《破損の巨人》二体を召還する!」
大句がカードを操作すると、周りの廃屋を破壊しながら体中が棘だらけの巨人二体が現われた。
【破損の巨人 AP1000SP1 コスト3 赤 バーサーカー】
「まずは破損の巨人二体であのコスプレ女に攻撃だ。やれお前ら!」
大句の声に導かれて棘だらけの巨人二体はその痛々しい体を用いた愚直な突進を繰り出した。
「いや……やめ……きゃあああぁぁぁぁぁっ!!」
場にセットカードはあるものの、恵奈は先程のターン同様に脅えで体が動かず、無抵抗のまま二体の巨人の攻撃を受けた。
【恵奈 コア8→6】
AP1000という低い攻撃もあってか、恵奈は地面を転がる程度の衝撃で済んだ。
だが、その目には恐怖心から涙を流していた。
「ひっく……うぅ……うぅぅぅっ!」
――どうして、私はこんなに駄目なんですか。
悔しさと恐怖が体を縛りつけ、何もできない自分に嫌気が差し、
そんな恵奈の涙で濡れた表情や薄汚れていく服を見ても大句は同情するどころか喜ぶ。
「きゃはははっ! お前本当にいい表情するよなぁ。もしかして本当はドMなんじゃねぇのか?」
何度も何度も恵奈は言い返そうと必死に顔を上げるが、その度に映る大句の
そしてそんな自分に憤りを感じ泣き続けた。
対戦相手である恵奈の無様な姿が気に入ったのか、大句は待っていたメインディッシュを頂こうと舌なめずりをする。
「そんなにいたぶられるのが好きならやってやるよ! ゴライアス、攻撃だ!」
大句の指示を受け、真赤な瞳でターゲットを捉える巨大な破壊者が背負った二本の剣を抜き、恵奈に向かって走り抜ける。
血に濡れて錆びた剣が新たな血肉を求めて振り上げられた。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
目の前の恐怖の権化に恵奈の鼓動と過呼吸は早まり、次の瞬間――恵奈は爆ぜた。
「《エクスターミネーション・ブレイド》」
大句が技名を言い放ったと同時に、地形を変えてしまうほどの斬激が恵奈に放たれる。
ライオンは弱い獲物相手にも本気を出し襲い掛かる。
それを体現したような一撃に恵奈の体は地面に食い込み、辛うじて醜い泣き顔だけを空気に晒していた。
【恵奈 コア6→3】
「ぁっ…………あぁ…………」
容赦のないゴライアスの攻撃と大句に対する恐怖心で心が壊れそうな恵奈。
その様子にまた大句は猿のおもちゃみたいに手を叩いて喜んだ。
「まだ生きてるなコスプレ女。寝るにはまだ早いぜ、俺のバトルはまだ終わってないんだからよぉ」
「あっ…………えっ……?」
恵奈は必死に「何で」と言葉を紡ごうとするが、恐怖で噛み合わない歯をガチガチさせるばかりで言葉にならない。
その恵奈の状態を知ってかどうか、大句は自慢するようにゴライアスの足をパンパンと自慢げに叩きながら説明しだした。
「俺のゴライアスは『蹂躙』によって召還に成功し、なおかつその為に捨てたカードが全て巨人カードであったならば、全てのキーカードに攻撃が可能になる。そう――全てにだ」
そこまで言われて恵奈は気付く。
全てのカードに攻撃ができるということは、自分のカードにも攻撃ができるということに。
本来であるならばそれはただの自爆行為だろう。
だが、その攻撃をするのがゴライアスならば話しは別だ。
「そして、俺のゴライアスがキーカードをぶっ殺した時、ゴライアスは相手のコアを一つ消滅させることが出来る。そして俺の場には二体の破損の巨人。ここまで言えば、馬鹿なお前でも分かるだろう?」
「ま……さか……!」
「そう、俺は……俺の破損の巨人二体をゴライアスで攻撃するっ!」
その宣言に二体の棘だらけの巨人は慌てふためき主人である大句を説得しようと身振り手振りをする
だが、二体は気付いていなかった。
本当に説得しなければならないのは大句ではなく、二体の後ろに立つ血に飢えた双剣の巨人であることを。
「殺れ――《皆殺しの剣》」
二体が気付いたのはその後だった。
一体は首が胴体から離れた時、もう一体は自分の体がバラバラになり視線が低くなった時だ。
そして、その無慈悲なる攻撃は恵奈も襲った。
「ぐおうっ! ぎゃはあああぁぁぁぁぁっ!!」
ゴライアスの効果は二つの斬激となり、一太刀目で恵奈の体が埋まっていた地面一帯を破壊し、二太刀目で恵奈の体をリング中央から入り口付近まで吹き飛ばした。
【恵奈 コア3→1 加護:二つ消滅】
【加護:自動攻撃呪文】
相手のコアを二つに攻撃する。または、相手のAP2000以下のキーカードを破壊する】
【加護:魔法陣】
デッキからコスト三以下のマジックカードを一枚手札に加える】
運悪く加護を二つ消滅され効果を消された。
残った恵奈のコアはただ一つ。
その最後の砦さえも温情の余地はなく大句は狙う。
「更に破損の巨人の効果。こいつがバトルで破壊された場合、相手のコア一つを破壊する。お前に一つもコアは残させねぇ!」
バラバラになったはずの破損の巨人。その肉片であった体中の棘が大句の宣言で意志があるように動き出し、放物線を描いて恵奈に襲い掛かった。
「かひゅ……かはっ……」
【恵奈 コア0】
アナウンスにより恵奈のコアを破壊し尽くした大句は満足そうに大口を開けて笑った。
「……………………」
もう悲鳴すらも上げれないほどに
――もう何もできない。こんな辛い思いをするくらいなら……。
その先の言葉を思い浮かべ恵奈が諦めようとした、その時だった。
「――立て、黒木」
耳元近くで聞こえたその声に恵奈は数分ぶりに目を開いた。
二人と一体だけのリング内部。
誰の侵入も介入も認めないはずの無慈悲なリングでその男、勝が立っていた。
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