第4話 弱者なりの戦い方

 

 大句の指示に従うように龍神ドラグアギトが天を舞い、その口から燃え盛る炎の息吹を発した。


 その息吹が逃げ場を失くすように勝のフィールド全体を覆った。


「これがレジェンドレアカードの輝き! お前の雑魚カードとは比べ物にもならず、そこの女とは比べ物にもならない程の実力を持つ、俺にこそふさわしいレアカードだ! その威光を身を持ってしれ!」


 炎が消え去ると、フィールドには熱に耐え切れなくなった黒猫の体が炭と化していた。


 だが、熱に耐えれなかったのは何もキーカードだけではない。そこには同じように熱に耐え切れず、膝を付く勝の姿があった。

 

 フィールドで起こる現象は全てホログラムが見せる映像。だが、カードバトルを行っているプレイヤーはデバイサーから繋がるチョーカーから直接映像を脳に転写する事で、そのダメージは現実の物とほぼ変わりなく映り、勝負で受ける衝撃や熱は全てプレイヤーにも反映されるのだ。


「先生っ!」


 勝の傷ついた体に声を上げる達美。だが、それすらも嘲笑あざわらうように大句は自分のカードに指示する。


「まだまだ! 俺はドラグアギトで雑魚カードに攻撃! 滅・罪・弾メガ・クライム・フレア!」


 指示を受けたドラグアギトがまた天高く飛ぶと、その巨大な口に白い炎を蓄え、それを地上のくず鉄キッドへ向けて放つ。くず鉄キッドはその攻撃を回避できず直撃。後には溶けた鉄だけが残った。


【激昂の龍神ドラグアギト AP3000 SP3】

   VS

【くず鉄キッド AP1000 SP1】


【王道勝コア8→6】


「キーカード同士の戦闘に負ければ、キーカードが持つSP(ソウルポイント)の差分だけプレイヤーのコアが破壊される。そんな雑魚じゃあお前の壁にもならないがな」


 したり顔で解説する大句。そんな大句の顔を見て、勝はまた溜息を吐いた。


「…………とんだプレイングミスだな」


「…………何だと?」


「ルールが分かっているつもりなら、さっきお前が生贄に捧げたキーカードのSPの合計が、ドラグアギトのSPよりも勝っていることが分かるよな? ならドラグアギトを出さず、二体の巨人で俺のキーカードを攻撃していれば、俺のSPを更に一減らせたはずだ」


「それがどうした? たかだが一ポイントだ。そんな小さな数字、強者の俺には関係ない」


「本当の強者は、そのたった一ポイントを大事にするものだ。そして――これもな」


 勝が手を振ると、その手にはいつの間にかカードが二枚加えられており、更に勝の手札が増えた。


「なっ!? どうして!?」


「聖域はただプレイヤーを守るだけじゃない。プレイヤーが戦う為に一つだけ効果が永続的に発動している。俺の聖域スクラップ・フィールドは、AP1000以下のバニラカードがバトルで破壊される度に一枚ドローができる効果を持っている」


【王道勝 手札4→5】



 増えた勝の手札を見て大句は苛立ちを隠さずに舌打ちをし、そのままターンを終了する。


 そして、勝のターンが始まった。


「俺のターン、ドロー」


 ドローしたカードを一瞥し、それから勝は大句に言い放った。


「見せてやるよ。本当の強者のバトルを」


【王道勝 手札5→6 マナ4→9】


「俺はまず、コスト2のマジックカード《くず漁り》を発動。トラッシュにあるバニラカード二枚を手札に戻し、それをそのまま召還する。戻ってこい《くず鉄キッド》、《不幸しか呼ばない黒猫》」


 先程ドラグアギトにやられたはずの二体が場に戻り、状況はまた前のターンと同じになった。勝はすかさずカードを発動し、攻勢に出た。


「そして俺はくず鉄キッドに対して、コスト2でスキル《存在意義》を付与」


 くず鉄キッドの体から目に見える程の闘士が沸き立ち、今にもドラグアギトを殴り倒そうと拳を握り締めた。


「スキルカードは、キーカードに新たな効果を付与するカード。《存在意義》は俺のバニラカードのAPがバトルする相手のキーカードよりも下回っている場合、そのAPを+2000する」

「何っ!?」


【くず鉄キッドAP1000→AP3000】


 数値の変化を見て、嬉しそうに静が歓声を上げた。


「やりましたわ! これで大句さんのドラグアギトのAPと並びましたわ!」


「…………私のドラグアギトね」


「行けキッド! お前の力を証明してこい!」


 勝の言葉を背に受けて、キッドは廃墟と化したビルを駆け上り、その屋上をジャンプした。


 ドラグアギトはその攻撃を許さずブレスで対抗するものの、闘士と共に体を燃やして攻めるキッドの攻撃を完全に受けきる事は叶わず、キッドの体と共にその巨体を炎上させながら地上に落下した。


 その結果、二体のキーカードは破壊され、地上に粉塵が吹き荒れた。

 

【激昂の龍神ドラグアギト AP3000 SP3】

     VS

【くず鉄キッド AP3000 SP1】


「くそっ、まさか俺があんな雑魚カードなんかに――!」


 そこまで言って大句は自分に粉塵の奥から見える二つの影を捉えた。


「キッドに続け! 《くず鉄ピエロ》と《不幸しか呼ばない黒猫》でプレイヤーに直接攻撃だ!」


 粉塵を搔き分けて現われた鉄のピエロとその肩に乗っかる黒猫が不安定な玉乗りで大句に突撃する。だが、寸前でピエロはバランスを崩し横転。


「は? ぐえええ!?」


呆気にとられている大句の顔に、勢いが死ななかった大玉と黒猫のひっかき攻撃が同時に襲いかかり、大句は潰された。


【大句英コア10→8】


「俺はこれでターン終了。どうした、お前のターンだ」


「ふざけた攻撃しやがって…………なら、お前には俺の本当の切り札を見せてやる! 俺のターン、ドロー!」


【大句英 手札4→5 マナ6→12】


 鼻息を荒くしながらドローをする大句に静は小馬鹿にするように笑う。


「ドラグアギトを倒されてまだ諦めないなんて、往生際が悪いですわね」


「いや…………はなからドラグアギトがあいつの切り札じゃない。あいつの切り札は…………」


 苦々しく言う達美を置いて、大句は


「…………!? まずい、あの行動は私の時と同じ!」

 

 突然の奇行に勝までもが身構え、警戒する。それと同時に二人が立っているフィールドの中央の地面が割れ、唸り声と共に巨大な手が大地を掴んだ。


「手札の巨人カード三枚をトラッシュに送り『蹂躙』発動!! 全ての敵を踏み潰し、絶望を与えろ! 《殲滅の巨人ゴライアス》!!」

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