決着

 三戦目。

 国王が取り出したのは、大きな水晶玉だった。

 それを台座に置くと同時にジュジュが走り出す───が。


「させませんわ!!」

「ぶっ!?」


 スカートを掴まれ、思いきり転んでしまう。

 バネッサはジュジュの脇をすり抜けようとするが、今度はジュジュがバネッサの足首を掴む。


「きゃっ!?」

「卑怯な真似するな!!」

「離しなさい!! この、あんたなんかに負けるわけにはいかないのよ!!」

「それはあたしもよ!! アーヴァインの婚約者はね、あたしがなるのよ!!」


 ドレスを引っ張り、髪を掴み、頬を張り……さすがに止めなければとアーヴァインたちが動く。だが、国王はそれを止めた。

 まるで、女同士の戦いに水を差すなとばかりに。


「あたしはねぇ!! やっと気付いたのよ!! アーヴァイン……アーヴァインの笑顔がすっごく好きって!! 一緒にいると暖かくて、優しい気持ちになれるのよ!!」

「だから!? わたくしだって、ずっと公爵夫人に憧れてたの!! せっかく巡ってきたチャンスを、ポッと出のあんたなんかに!!」


 ギャーギャーと叫ぶ二人。

 すると、ジュジュのドレスのスカートがびりっと破けた。さらに、バネッサのドレスの胸元もびりっと破ける。


「きゃっ!?」

「ちゃーんす!!」


 バネッサは胸元を隠し、ジュジュはスカートを無視。生足を見せながらダッシュ。

 そのまま水晶を鑑定。


◇◇◇◇◇◇

〇はじまりの水晶


 この世界で初めて見つかった完全水晶。

 混じりけのない純粋な水晶は、世界にこれ一つだけ

◇◇◇◇◇◇


「よっし! 鑑定できた! さぁ、アンタの番よ」

「う、うぅ……と、殿方に、肌を見せるなんて」

「動けないの? あはは。じゃあこれであたしの勝利ね!! ねぇ、あたしの勝ちでしょ!?」


 バネッサは蹲ったまま動けず、鑑定を放棄した。

 ジュジュは、下着こそ見えなかったが、太腿まで足が見えていた。

 鑑定士たちは一斉に背を背け、アーヴァインは頭を抱え、ゼロワンは耳まで真っ赤にし、カーディウスはゲラゲラ笑っていた。

 そして、国王は大きく頷いた。


「鑑定士バネッサが鑑定放棄のため……勝者、鑑定士ジュジュ!! 二勝により、勝者は鑑定士ジュジュ!! 我が名において宣言する。ライメイレイン公爵の婚約者は、ボナパルト公爵令嬢ジュジュとする!!」

「やったぁぁぁ!!」


 ジュジュはぴょんぴょん飛び跳ね、喜んでいた。

 スカートに気付き、羞恥心で気を失うまで、ジュジュは飛び跳ねて喜んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇


「……あれ? ここは」


 目を覚ますと、知らない天井だった。


「王城の客間だ」

「客間。って……アーヴァイン!?」

「お前、馬鹿か?」


 いきなりだった。

 ジュジュはあっけにとられ、ポカンとしてしまう。


「あんな風に、その……肌を見せて。いや、そうじゃない。令嬢らしからぬ喧嘩……でもない。その……お前、俺のことを、好きと」

「……~~~~~~っ」


 ジュジュは一瞬で沸騰した。

 でも、首をブンブン振る。

 そして立ち上がり───いつの間にか新しいドレスだったことは気にしない───アーヴァインに接近し、手を握った。


「アーヴァイン、あなたが好きです。あたし、まだまだ未熟ですけど、鑑定士としてあなたの隣に並べるように頑張ります。だから……あたしとけっこ」

「待て」


 アーヴァインは、ジュジュの口を押える。


「どこまで男前なんだ……それ以上言わせると、俺の立つ瀬がない」

「むぐぐ」

「一度しか言わない。ジュジュ、愛している……俺と結婚してくれ」

「っぷは、はい!!」


 二人はしっかりと手を握り……同時に噴き出した。


「っぷ、あはははは!! もう、何よこれ」

「くははっ……お、俺が知るか」

「でも、王様も認めた婚約者になれた。ふふ、嬉しい!!」

「カーディウスの目論見というのが気に喰わんがな」

「えへへ。お父さんの悪口はダメよ?」

「勘弁してくれ……」


 と、二人の距離が思ったより近い。

 二人はクスっと笑い……そのまま、唇が重なった。


 ◇◇◇◇◇◇


「…………」

「ゼロワン。いいのですか?」

「ああ……もう、野暮なことはしねぇよ」


 ジュジュのいる客間の前に、ゼロワンとカーディウスがいた。

 ゼロワンは、苦笑していた。

 恋破れた少年の、寂しい笑顔だ。

 カーディウスは、何も言わない。


「オレ、もう行くよ」

「ええ」

「へへ、アーヴァイン兄……幸せになれるといいな!!」

「ええ、きっと……」

「じゃ、またな!!」


 ゼロワンは無理やり作った笑顔を見せながら走り去った。

 最後の笑みは、どこか泣きそうに歪んで見えた。


「さて……私も、私の仕事をしましょうか」


 カーディウスは、ジュジュたちの部屋を後にした。


 ◇◇◇◇◇◇


 カーディウスが向かったのは、バネッサの部屋だった。

 バネッサは、湯あみを済ませ、着替えも終え、髪も綺麗に整えていた。

 カーディウスを迎え入れると、不快感を隠さなかった。


「敗者に何か?」

「ええ。あなたに言っておこうと思いまして」

「ああ、あの子の家を汚したことでしたらご自由に。どうせわたくしの評判はすでに地に落ちている……今更、別に」

「そのことでしたらご安心を。あなたを訴えることはしませんので」

「……え?」

「ジュジュさんが、それを望みませんので」

「……そう、ですか」

「それと、提案が」


 カーディウスは、バネッサに手を差し伸べる。


「私と、結婚しませんか?」

「は?」

「公爵夫人の椅子が欲しいのでしょう? ライメイレイン公爵家と双璧を成す、ボナパルト公爵家の婦人。あなたに相応しいと思います」

「……冗談、ではないのですか?」

「まさか。ふふ、負けん気の強いあなたは、ジュジュさんのいい友人になれる。互いに切磋琢磨する相手として相応しい」

「…………」


 バネッサは、カーディウスの手をジッと見て……笑う。


「わたくし、こう見えてズバズバ言いますわよ?」

「かまいません。あなたのような方がいれば面白い」

「そんなことで、わたくしを妻に?」

「ええ。ここだけの話……あなたのような方は、なかなかに好みだ。それに、私も婚約者を探していましてね。ジュジュさんにはいると言いましたが、あれは噓です」

「ふふ、いいでしょう」


 バネッサは、カーディウスの手を取る。


「わたくしを、あなたの妻に」

「喜んで」


 ジュジュとアーヴァイン、バネッサとカーディウス。

 恋愛と、計略により、四人は結ばれた。

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