パーティーの終わりに

 パーティーが始まった。

 アーヴァインは、ジュジュにそっと耳打ちする。

 いきなり接近する美貌、耳に当たる吐息にドキマギしながらジュジュは聞いた。


「少し、挨拶に行ってくる……ここから動くなよ」

「え、ちょ、一人にするの!?」

「仕方ないだろう。いいか、動くなよ。ダンスに誘われても断れ」

「え、でも……ダンスを断るのって、マナー違反じゃ」

「俺の名を出せばいい」


 それだけ言い、アーヴァインはジュジュから離れた。

 どこに行くのか見ていると、禿げ頭にでっぷりしたお腹の貴族男性に挨拶していた。


「貴族って大変……」


 どういう繋がりなのか、ジュジュにはわからない。

 アーレント王国の公爵でも頭を下げなきゃいけないのか。それだけ想い、顔を反らした。

 緊張しすぎたせいで、喉が渇いていた。

 通りかかったメイドが、炭酸水にレモンと砂糖を加えた飲み物を渡してくれる。


「はぁ~……おいしい」


 シュワシュワした刺激が心地よい。ほどよい酸味と甘さも今のジュジュには必要なものだった。

 アーヴァインに言われた通り、動かずに待っていると。


「お、ジュジュ!!」

「げっ」


 第一王子ゼロワンが来た。

 ゼロワンの手には大きな皿があり、ローストビーフやら唐揚げやら骨付き肉やらが載っていた。

 ゼロワンは、ニコニコしながらジュジュの真正面へ立つ。


「へへ、パーティーっていいよな。メシは美味いし、酒は美味いし」

「そ、そうですか」

「……なぁ、もっとふつーに喋れよ。ふつーに」

「ふ、普通にですか?」

「おう。あ、王子って肩書にビビッてんなら大丈夫だぞ。オレ、王子だからってどうこうするつもりないし、したことないし。タメ口でも許してやるぜ」

「えー……」

「はは、こんな性格だから、親父からもうるさく言われるんだ」


 ゼロワンは、親しみやすい性格だった。

 第一王子というか、平民に近い。

 ジュジュは、思い切って言ってみることにした。


「わかった。じゃあ私も遠慮なく言うわ」

「お、いいね。何でもこい!」


 パーティーの空気が、ジュジュを大胆にさせたのかもしれない。ジュジュは、不思議と心地よかった。

 ジュジュは、ゼロワンに向かってビシッと言う。


「もっと野菜を食べなさい!! こんなに肉ばっかり食べると身体壊すわよ!? いい? 若いからって脂っこいものばかり食べると、後からすっごく後悔するんだから。私のおじいちゃんも、若い頃の肉がなかなか落ちないーって後悔してさ……」

「…………っぶ、あっははははは!! おま、おもしれーな!!」

「そう? じゃあほら、野菜食べましょ! あ、私もお腹減ったし何か食べよっと」

「おい。あっちに、スイーツもあるぞ!」

「お、いいわね。ふふふ、貴族のスイーツ~♪」

「なんかいいノリだな! 行こうぜ!」


 ジュジュは、ゼロワンと一緒にスイーツコーナーへ向かった。

 そして、周囲の貴族たちはこの様子をしっかり見ていた。

『アーヴァイン公爵が連れてきた令嬢が、第一王子ゼロワンと仲睦まじくスイーツを食べていた』……と。

 ちなみに、ジュジュは気付いていない。

 ジュジュの飲んでいたレモン炭酸水に、そこそこ度数のあるお酒が含まれていたなんて。

 スイーツを食べていると、ゼロワンが言う。


「あ、ジュジュ。せっかくだしさ、一曲踊らねぇ?」

「ダンスぅ? んん~……わたし、ダンス苦手なのよねぇ」

「ま、いいじゃん。オレだって好きじゃねーし。でも、お前となら踊ってもいいかなーって思うんだ。お前はどうよ?」

「んん~……気分いいし、いいかもね」

「よし! じゃあ一曲───……」


 と、ここでジュジュの背後に黒い青年が現れた。

 どことなく、黒いオーラが見える。


「王子殿下。申し訳ありません……どうやら、令嬢の体調がよろしくないようで」

「え~? あ、確かに酒臭いな」

「うぅ~~~~~ん……」

「申し訳ありません。ここで失礼します」

「おう……ま、しょうがないな」


 ジュジュは、フラフラになりながらアーヴァインの腕に抱きついた。

 アーヴァインは、ため息を吐きながら、ジュジュを支えてパーティーホールを出た。

 ジュジュを支えながら歩くのは、けっこう歩きにくい。


「やれやれ……手のかかる令嬢だ」


 アーヴァインは、ジュジュを抱き上げた。

 ジュジュは、すやすやと寝息を立てている。


「…………もう少し、警戒心を持て」

「ん……」


 ジュジュは、にへっと笑いながらアーヴァインの胸に顔を擦り付けた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌朝。


「……………………」


 ジュジュの記憶が飛んでいた。

 ゼロワンが現れた辺りから曖昧だった。

 気が付くとベッドの上。ドレスは脱がされ、寝間着に着替えている。

 

「あいたっ!?…………え、なにこれ」


 頭痛がした。

 初めての二日酔いだった。

 すると、ドアがノックされ、侍女が数人入ってきた。


「お嬢様。湯あみとお着換えを。その後、旦那様とご朝食です」

「は、はい……」


 こうして、ジュジュの初めてのパーティーは、アーヴァインに連れられ、カーディウスに挨拶し、ゼロワンと一緒にスイーツを食べまくり、酔っぱらって終わった。

 ジュジュが社交界で最も注目されている令嬢と気付くまで、もう少しかかりそうだった。

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