婚約者?
『さーて。久しぶりの外、遊んでこよっと』
「あ、ちょっと!!」
ロキは、外へ向かって飛んでいってしまった。
一同は唖然とし……カーディウスが言う。
「え、ええと……一体、今のは?」
「……知るか」
「なんか虫みたいの生まれたな。なぁジュジュ、あれなんだ?」
「……あたしが知りたいわよ」
ロキと名乗った妖精。それしかわからない。
カーディウスは咳払いし、全員に言う。
「とりあえず、ここから出ましょう。ボナパルト家の遺物が『妖精の卵』ということがわかりました……そして、ジュジュさんの眼のことも」
「あ……」
「……カーディウス。その件は後だ」
「……わかりました」
妖精の眼。ロキはそう言った。
カーディウスもゼロワンも聞いた。アーヴァインは、面倒なことになりそうな予感がした。
こうして、ボナパルト家の訪問は終わった。
ジュジュとアーヴァインは、ライメイレイン家へ向かうための馬車に乗り、ゼロワンも同行したがっていたが、騎士たちに連行されるように城へ帰った。
「……厄介なことになりそうだ」
「え?」
「お前の眼。妖精の眼だと? あの虫のいう話が真実とは限らんが……あの場でウソを付く理由もない。ゼロワンの奴が国王に報告したら、お前の眼を調査することになるかもしれん」
「え……ちょ、面倒なのは嫌よ」
「安心しろ。一応、お前は俺の庇護下にある。面倒なことにはならん」
「公爵様強い……でも、王族の命令とか」
「知るか」
アーヴァインは、ジュジュの眼をまっすぐ見た。
「とりあえず、お前は俺の傍にいろ。鑑定眼を鍛えること、俺の手伝いをすることだけを考えていればいい……わかったな」
「……」
わかった。とは言わなかった。
ジュジュは、自分の眼が特別なことが、かなり気になっていた。
◇◇◇◇◇◇
公爵家に戻ると、見慣れない馬車が止まっていた。
豪華絢爛な装飾が施され、引いている馬はなんと白馬だ。
すると、アーヴァインが頭に手を当てる。
「またか……」
「え?」
「いいか。余計なことを言うなよ」
「え? え?……どういう」
馬車が止まり、アーヴァインが先に降りた。
そして、ジュジュをエスコートしてくれる。
ジュジュは、アーヴァインが差しだした手に掴まり、馬車を降りる。
すると、アーヴァインたちを出迎えたのは……美しい桃色のドレスを着た、これまた美しい令嬢だった。
「アーヴァイン様! おかえりなさいませ!」
「バネッサ……また来たのか」
「もちろん! アーヴァイン様、おいしいお茶が手に入りまし……」
と、バネッサはようやくジュジュを見た。
ジュジュを見た途端、眉がつり上がっていく。
「…………どなたですか? みすぼらしいわね」
「え」
「紹介しよう。彼女はジュジュ。私の弟子だ」
「弟子!? あ、あ、アーヴァイン様の、弟子!? そんな!! アーヴァイン様、私に鑑定の勉強を教えてくれる約束は!?」
「……そんな約束はしていないが」
「しました!!」
と、アーヴァインに食って掛かるバネッサ。するといきなりジュジュへ詰め寄った。
「あなた!! アーヴァイン様のお弟子ですって?」
「は、はい」
「…………フン!!」
「ひっ!?」
ジュジュをジロジロ見たバネッサは、持っていた扇でジュジュの胸を突く。
「調子に乗らないことね……覚えてなさい」
「え、えっと。あたし、何かしました?」
「…………」
バネッサは何も言わず、白馬の馬車に乗り込んで行ってしまった。
「あのー……誰?」
「…………一応、婚約者」
「え」
「だった」
「……え?」
「バネッサは、俺の元婚約者だ」
アーヴァインは、どこか疲れているように見えた。
◇◇◇◇◇◇
バネッサは、馬車の中で歯噛みしていた。
「何よ、あの女……アーヴァイン様に馴れ馴れしくして」
アーヴァインにエスコートして馬車を降りるなんて、バネッサはやってもらったことがない。
距離も近く、アーヴァインもまんざらではなさそうだった。
それが、非常に気に喰わない。
「アーヴァイン様の婚約者は、私なのに……」
かつて、ライメイレイン公爵家とバネッサのサイレンス伯爵家の間で決められたことだった。
幼いころから、アーヴァインのことが好きだった。
でも……大人になり、アーヴァインが爵位を継いだ途端、婚約は白紙となった。
何度も理由を聞いた。だが、アーヴァインは「自分の婚約者は自分で見つける」と、それだけしか言わなかったのだ。
もちろん、バネッサは納得していない。
何度も何度も、何年も……ライメイレイン家に通い、アーヴァインに振り向いてもらおうとしている。
「……嫌」
いきなり現れた女に、取られたくない。
バネッサは、決めた。
「あんな女に、取られてたまるもんですか」
調べなくてはいけないことが、山ほどある。
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