鑑定少女ジュジュの恋愛~イケメン鑑定士たちに言い寄られてるけど、とりあえず今は待って!~
さとう
とある国の小さな鑑定屋で働く少女
この世界には、千人に一人の確率で『特殊な眼』を持って生まれてくる人がいる。
その特殊な眼は『鑑定眼』と呼ばれ、様々な『情報』を読み取ることができるのだ。
鑑定眼を持つ者を『鑑定士』と呼ばれた。
確かに鑑定眼は珍しいが……そこまで珍しいという物ではない。
大きな町に2~3人は鑑定士がいる。だが、大抵の鑑定士は『下級』鑑定士だ。
「姉ちゃん! これいくらになる?」
「はいはーい。え~っとですねぇ……」
アーレント王国。
大陸最大の国。この城下町の外れの外れ、ほぼ路地裏といってもいい寂れた場所に、一軒の小さな『鑑定屋』があった。
こじんまりとしたお店のカウンターに、古びた本やボロッちいナイフ、よくわからないキラキラした石などが乱雑に並べられている。
そのキラキラした石をつまみ、銅でできたモノクルでジーっと見る少女がいた。
「ん~……おじさん、この石はただの石。たまーに落ちてるのよね、こういうキラキラしたただの石が」
「えぇぇ~~~?……お宝かと思ったのに」
「ちゃんと『情報』出てる。『ただの石ころ』ってね」
「はぁぁ~~~……」
少女は、長い菫色の髪を適当にポニーテールにしていた。
大きくてクリっとした眼はどこか人懐っこそうだ。
来ている服も、お洒落で流行の服ではなく、安売りしていた作業服だ。背中には『ボレロ鑑定屋』と刺繍されている。
「なぁジュジュちゃん。なんとか高くならねぇか?」
「ダメダメ。鑑定士の『鑑定』は真実なの。もしあたしが噓ついたら、あたしの鑑定士としての人生はおしまい。あたしの夢もおしまい。このお店もおしまーい……ね?」
「はぁ~……」
ジュジュ。
この『ボレロ鑑定屋』の看板娘にして跡継ぎ。十六歳の女の子だった。
ジュジュは、女の子っぽくないニヤッとした笑みを浮かべる。
手に持っているのは、古びた本だ。
「おじさん、この本どうしたの?」
「あ? 家の屋根裏にあったボロ本だけど」
「これ……あたしの『鑑定』で読み取れない。もしかしたらお宝かもね!」
「なにぃ!? おい、読み取れないってマジか?」
「うん。残念だけど……『下級』のあたしじゃ、『
「おおお……か、鑑定、鑑定してくれ!」
「別途料金かかるよ~?」
「構わん!」
「まいどあり! おじいちゃん、おじいちゃーんっ!」
ジュジュは、バックヤードに声を掛ける。
すると、腰の曲がった老人が欠伸をして出てきた。
ジュジュの祖父にして『ボレロ鑑定屋』の店主ボレロだ。
「なんじゃ騒々しい……」
「これ! あたしじゃ見えないの。中級鑑定士のおじいちゃんなら見えるでしょ?」
「どれ……」
ボレロは、銀製のモノクルを取り出す。
そして、古びた本をジッと見た。
「これは……セントマリアンナの悲劇、その舞台本じゃな。準主役のアルベールのセリフがびっしり書かれとる」
「台本!? 爺さん、それ、お宝か?」
「お宝っちゃぁお宝だな。セントマリアンナの悲劇はアーレント王国で流行した悲劇の舞台。四十四回目の公演中に、主役のマリアンナがシャンデリアに押しつぶされて死んだ曰く付きの舞台劇じゃ。その台本、アルベールの台本……もうほとんど消えているが、マリアンナへの愛の言葉がつづられとる。舞台俳優としてではなく、アルベールを演じた役者自身が、役者であるマリアンナを愛して書いた言葉じゃな。ほっほっほ、熱い熱い」
「「…………」」
ジュジュと客は顔を見合わせ黙り込んだ。
ボレロは、本をまじまじ見て言う。
「値段は、七万エンから十万エンってところかの。個人売買するなら十万、オークションにかけるなら七万から始めるのがええ。ジュジュ、鑑定報告書を書いてやれ」
「あ、はーい。ってかおじいちゃんの鑑定眼、ほんとすごいなー」
「ふん。わしはただステータスを読んだだけじゃ」
ジュジュは、鑑定報告書を書く。
鑑定士の書く鑑定報告書は、『鑑定士が書いた』というだけで信用される。
鑑定士協会が発行する報告書を書き、ジュジュは最後に自分のモノクルを鑑定報告書に押し付けた。すると、報告書に『印』が浮かぶ。
「ほい。これを見せればオークションに出せるよ。個人で売る時もちゃんと見せてね」
「あ、ああ。このナイフは?」
「……ただの果物ナイフ。剣っぽいけどナイフだよ」
「はぁ……そうかい。まぁいい、けっこうお宝みたいだしな。じゃあこれ、鑑定料」
「まいどありっ!」
ジュジュは鑑定料をもらった。
客は、満足そうに店を出て行った。
「またのお越しを-!」
これは、アーレント王国の城下町の外れの外れにある小さな鑑定屋。ここで働く少女ジュジュの物語。
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