妖精の瞳

 ジュジュとカーディウスは、パーティー会場の外へやってきた。

 ジュジュがカーディウスを引っ張る形で、パーティー会場の外にある大きな庭園へと来たのだ。ゼロワンとアーヴァインが険悪な雰囲気になっていたので、そこから逃れるように外へ出たのだが、庭園を見たジュジュはここに来たのが正解だと悟った。


「わぁ……綺麗」

「ライメイレイン家が誇る、大庭園ですね。このパーティー会場は、大きな催し物を行う際に使われるのです。昔は、先代の公爵夫人がよくお茶会を開いていたそうです」

「へぇ~……先代ってことは、公爵様のお母さん?」

「ええ。アーヴァインは嫌っていましたが、美しいお方でした」

「そっか……あ」


 と、ジュジュはようやく気付いた。

 カーディウスを引っ張るように、腕に抱き着いていたのだ。

 カーディウスは困ったように微笑み、ジュジュは慌てて離れた。


「ももも、申し訳ございません!!」

「あはは。構いませんよ。それと、私に敬語は不要です。アーヴァインと同じように接していただければ」

「お、同じようにって」

「ふふ。普段はもっと砕けた口調で話すのでしょう? 今は、そのようにお願いします」


 カーディウスは、人差し指を立てて片目を閉じた。

 アーヴァインもさることながら、カーディウスも相当な美形だ。

 アーヴァインは男性を強く意識させる容姿だが、カーディウスはどこか中性的だ。サラサラのロングストレートヘア、整いすぎのように感じる輪郭、作り物のような瞳に、メガネをかけている。

 体格も、アーヴァインと比べると細い。おかしな言い方だが、守ってやりたくなるような容姿だ。

 カーディウスは、ジュジュに手を差し出す。


「では、せっかくですので……お散歩しましょうか」

「あ、はい……」

「あなたの眼については、歩きながらということで」


 ジュジュは、カーディウスの差し出した手を取り、庭園内を歩きだした。


 ◇◇◇◇◇◇


 夜の庭園は、月明かりだけが頼りだった。

 だが、その月明かりこそ、この庭園にマッチする光だ。

 真っ白な大理石のタイルが月明かりを反射しているおかげで周囲は明るく歩きやすい。

 咲き誇る花は全て白薔薇……夜の闇にこそ、この庭園は相応しい。ジュジュはそう感じた。


「ジュジュさん。いくつか質問をしてよろしいですか?」

「あ、はい」

「では……あなたの、ご両親は?」

「両親? おじいちゃんだけですけど……あたし、捨て子だったんです。おじいちゃんの鑑定屋の前に、布でくるまれて捨てられてたって」

「…………そうですか」

「あの、それが何か?」

「……落ち着いて聞いてください。これは、ボナパルト家の歴史書を調べたら、それらしい記述が出てきたのです」


 カーディウスは「やはり」と言いたげだ。


「ジュジュさん。あなたの『妖精の眼』は……アーレント王族にのみ伝わる、妖精と契約した証です」

「……は?」

「鑑定士の始祖と呼ばれる、アーレント国王一世。彼もまた、妖精の眼を持っていたそうです」


 ジュジュは、意味が分からず首を傾げた。

 カーディウスの話は続く。


「妖精の眼は、アーレント国王一世が亡くなられた後、その子孫に受け継がれていったようです。妖精の眼はこの世全てを見通す最高の鑑定眼。その眼を恐れた王族が、妖精の眼を持つ者を消していった……そして、妖精の眼を持つアーレント王族は、その力を失ったと伝わっています」

「え、お、恐れたって……お、王族同士で?」

「ええ。妖精の眼を持つ者は、自動的に国王に即位したそうです。きっと、それが納得できない王族がいたのでしょう」

「え、待って待って。じゃああたしは……?」

「恐らく、先祖返りとでもいうのでしょうか? ジュジュさん、あなたは間違いなく、アーレント王族です。詳しく調べないとわかりませんが、捨てられたのにはきっと、理由があるはず」

「…………」


 ジュジュは、頭がパンクしそうだった。

 アーレント王族。つまり、ゼロワンと同じ。

 

「あ、あたし……どうすれば」

「とりあえず今は、アーヴァインの元で鑑定眼を鍛えるべきでしょう。それと、あなたが王族であると証明されたら、きっと困る連中も出てくる……」

「…………」

「今は、普段通りに生活をしてください」

「あ、あの……アーヴァイン公爵には」

「このことは、私からお話「必要ない」

 

 と、どこからともなくアーヴァインが現れた。

 さらに、その後ろにはゼロワンも。


「……そういえばここは、私とあなたの遊び場でしたね」

「ああ。よく鬼ごっこやかくれんぼをしたもんだ。それより……妖精の眼、本当なのか?」

「ええ。ボナパルト家の書庫を漁り、それらしい文献を見つけました。アーヴァイン、あなたもライメイレイン家を調べて下さい」

「……ああ。妖精の眼か」

「な、なぁ……ジュジュが、王族って」


 ゼロワンは、ジュジュを見た。

 様々な感情が混ざりあったような表情だ。


「まだ可能性です。ゼロワン……このことは、他言無用ですよ」

「あ、ああ……そっか、ジュジュ……オレの従妹かもしれないんだ」


 そして、アーヴァインは、カーディウスからジュジュを抱き寄せた。


「わわっ」

「そろそろ戻るぞ。すまないが、もう少しだけ付き合ってくれ」

「う、うん……わかった」

「それと……済まなかった」

「え?」

「…………」


 アーヴァインの横顔は、どこか申し訳なさそうに憂いていた。

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