謁見

 カーディウスの動きは迅速だった。

 ジュジュに話を持ち掛けた数日後。カーディウスは、謁見の間で国王と向かい合っている。

 国王の傍らには、ゼロワンが控えていた。

 カーディウスは、跪いて言う。


「ご報告があります。この度……ボナパルト家に養子を迎えました」

「なんと。そなたが養子だと?」

「はい。ボナパルト家、いえ、このアーレント王国の繁栄に必要不可欠な人物であるかと」

「ほほう、そなたがそこまで言うとは」


 アーレント王国は、顎髭を撫でながら言う。

 ゼロワンは唖然としていた。カーディウスが養子? 何も聞いていない。

 それに……何故か嫌な予感がした。


「そなたの養子ということは、将来はボナパルト家の……?」

「いえ。そのつもりは全くありません」

「……なに? では、なんのために?」

「はい。彼女・・は、ボナパルト家の一員として……ライメイレイン家の当主、アーヴァイン公爵の花嫁として、お出ししたいと思います」

「花嫁……まさか!」


 ここで、ゼロワンはようやく気付いた。

 だが、今はカーディウスとアーレント国王が話をしている。遮るのはマナー違反だ。

 アーレント国王は、花嫁と聞いて首を傾げる。


「ふむ……花嫁ということは、養子は女性なのだな? だが、アーヴァイン公爵には、すでに婚約者が……」

「はっきり申し上げます。サイレンス伯爵令嬢より、ボナパルト家公爵令嬢の方が優秀であります」


 言い切った。

 バネッサより、ジュジュのが優秀だと。

 もしバネッサがいたら、顔を真っ赤にしていたに違いない。

 だが、アーレント国王は「ふぅむ」と唸る。


「ライメイレイン家の後継者問題は承知している。だが公爵……サイレンス伯爵の令嬢がすでに婚約者に内定しておる。優秀だからといって、そう易々と婚約者を変えるのは」

「優秀。そう、優秀なのです」

「……公爵」

「陛下。我がボナパルト家の令嬢は……この私より優秀です」

「……なに?」


 この言葉に、アーレント国王は眉をぴくっと持ち上げた。


「彼女は、《遺物》を鑑定することができます」

「なんだと!?」

「間違いありません」

「……それが事実として、どうして今まで黙っていた? 養子に迎えてから私に報告だと? そして、ライメイレイン公爵と縁談させる? ボナパルト公爵……そなた、何を考えている? アーレント王国二大公爵の繋がりを深め、王家を滅ぼそうとでもいうのかね?」

「断じて、違います」


 カーディウスは言い切った。

 そんな気持ちはかけらもない。

 ただ、親友が望まぬ結婚を強いられている。それを救うべく、ジュジュとくっつけようとしているだけなのだ。こんなことを言っても信じてもらえるわけがない。

 アーレント国王は、ため息を吐いた。


「まぁいい。それより……遺物を鑑定できるというのは本当か?」

「この眼に誓って」

「……では、それを証明してみせよ」

「かしこまりました」

「鑑定不能の遺物はこちらで用意する。ボナパルト公爵、そなたの養子を連れ、この場で鑑定してもらおう」

「陛下。もし鑑定が確実なものだとしたら……婚約者の変更をお認めくださいますか?」

「いいだろう。優秀な者同士なら異論はない。幸い、ライメイレイン公爵が婚姻届を書くことを渋っているようだしの」

「ありがとうございます」

「鑑定は明日。場所はこの謁見の間でだ。ボナパルト公爵……もし偽りだった場合。相応の覚悟をしてもらおうか」

「はっ……かしこまりました」


 こうして、全てカーディウスの思惑通り、事は進んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


「カーディウス!!」

「ゼロワン王子……何か御用ですか?」


 王城の帰り道。

 カーディウスは、ゼロワンに引き留められた。

 ゼロワンは、カーディウスの胸倉を掴む。


「養子ってなんだよ!? それに、アーヴァイン兄の婚約者!? ジュジュを巻き込んでなにしてんだよ!!」

「…………」


 最もな怒りだった。

 カーディウスはにっこり笑い、すぐそばにあったドアを指さす。


「ここでは目立ちます。こちらへ」

「…………」


 ドアを開けると、そこは客間だった。

 ドアを閉めるなり、ゼロワンは食って掛かる。


「で、どういうつもりなんだ!!」

「簡単です。ジュジュさんとアーヴァインは惹かれ合っている。そして、アーヴァインは望まぬ結婚を強いられている。それらを阻止するために、ジュジュさんにはボナパルト家の養子となってもらい、アーヴァインと正式に婚約をするんです」

「惹かれ、あっている……?」

「ええ。ジュジュさんは言ってましたよ? アーヴァインは大事な人だと」

「…………ッ」


 ゼロワンは、胸が痛む。

 ジュジュと話すのは心地が良かった。でも……それが恋だと自覚はしていなかった。

 惹かれ合っていると聞き、ようやくわかった。

 ゼロワンは、ジュジュを愛していたのだ。


「ゼロワン……残念ながら、もう遅いです」

「う、うるせぇ……」

「どうか、応援してください。あなたにとって兄のような男性と、友人の女性が幸せになるために」

「…………ッ、もう行けよ」

「はい。では……」


 カーディウスは、そのまま無言で退室。

 残されたゼロワンは、ずるずると崩れ落ち……膝を抱えて丸くなった。

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