女の戦い

「これより、ボナパルト公爵令嬢ジュジュと、サイレンス伯爵令嬢バネッサの、鑑定勝負を始める!!」


 国王による、開始の宣言。

 ジュジュとバネッサは睨みあうように向かい合っている。

 すると、カーディウスが小声で言った。


「ナイト同士が戦うのを見る、お姫様の気分はどうだい?」

「…………ふんっ」

「あいたっ」


 アーヴァインは無視し、肘で小突いた。

 ゼロワンは、ジュジュをジーっと見つめている。

 

「…………」


 負ければいいのに───そうすれば。

 なんて、口が裂けても言えない。

 もし、もし……ジュジュが負ければ。

 負ければ、アーヴァインの婚約者はバネッサになる。そうすれば、ジュジュを───。


「ゼロワン。何を考えてるのか知らないけど、真剣勝負だからね」

「……わかってるよ」


 カーディウスはお見通しなのか、ゼロワンに釘を刺す。 

 アーヴァインは、黙って目を閉じていた。


「…………」


 ジュジュは、やる気だ。

 カーディウスが手を差し伸べたのは間違いないが、アーヴァインの婚約者を名乗り出たのは、間違いなくジュジュの意思でもあるだろう。

 つまり、そう考えていいのだろうか。

 ジュジュは、自分に気があるのではないか。


「アーヴァイン。きみも、判断は公平にね」

「……わかっている」


 やはり、カーディウスにはお見通しだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 鑑定勝負は三本勝負。

 国王が選んだ三つの秘宝を鑑定。より正確に鑑定できた方を勝利とする。

 審判は、特級鑑定士の三人が判断。

 先に、二勝した方が勝ちだ。


「では、最初の鑑定品は……これじゃ!!」


 国王が懐から出したのは、綺麗な虹色のネックレスだった。 

 七つの宝石がはめ込まれているネックレスだ。

 ちなみに、アーヴァインたちも三つの鑑定品は知らない。どんな物だろうと、特級鑑定士の三人に鑑定できない物は、遺物以外にない。

 ネックレスが台座に置かれ、勝負が始まった。


「では、お先に」

「あ、ズルい!!」


 バネッサは、ジュジュを押しのけネックレスを鑑定する。

 黄金のモノクル……やはり、上級鑑定士の証を持っていた。

 バネッサは、ほんの一分ほどで鑑定を終える。


「わかりました。では……どうぞ」

「…………えっ?」


 バネッサから渡されたネックレスは、宝石が一つ取れていた。


「ちょ、宝石が」

「まぁ!! あなた、国王陛下のネックレスを壊したの!? 陛下、この方、陛下のネックレスを壊しましたわ!! 宝石が一つ取れています!!」

「ちが、これはあんたが!!」

「あら? わたくしが壊した証拠でも?」

「……ッ」


 ジュジュは、額に青筋が浮かびそうになったが堪えた。

 そして、モノクルでネックレスを見る。


◇◇◇◇◇◇

〇アレキサンドライト

 

 @@@@@@@@@@

◇◇◇◇◇◇


「くっ……」


 やはり、正確な鑑定ができない。

 宝石が欠けたことで、ネックレスの情報が歪んでいた。

 名前しかわからず、ジュジュは歯噛みする。

 ネックレスを返し、ジュジュは国王をチラッと見る。


「はっはっは。ネックレスは気にせんでよし。では、結果を」


 国王は、全く気にしていなかった。

 むしろ、この状況をとても楽しんでいるようだ。

 バネッサは、鑑定結果を羊皮紙に書いて提出。

 ジュジュも、同じように書いた。

 鑑定結果をアーヴァインたちは羊皮紙で確認……三人とも頷いた。


「勝者、鑑定士バネッサ!!」


 勝者は当然、バネッサだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ジュジュは、怒り心頭だった。

 思わず、バネッサに向けて叫ぶ。


「こんな卑怯なことををしてまで勝ちたいの!?」

「なんのことかしら?」

「…………そう、そう来るの。わかったわ」


 ジュジュは、ため息を吐いた。

 そして、肩の力を抜く。

 国王は、胸ポケットから一枚の羊皮紙を取り出す。


「次の鑑定品は───これじゃ!! では、鑑定始め!!」


 ジュジュはスカートを翻し猛ダッシュ。そして、羊皮紙を台座からひったくる。 

 あまりの速さに、バネッサは驚いていた。


「こちとら元平民!! 特売の野菜や卵を求めて猛ダッシュするなんて日常茶飯事!! 温室育ちのお嬢様に体力で負けるわけないのよ!!」

「な、卑怯!!」

「聞こえないし~」


 ジュジュはモノクルで羊皮紙を鑑定する。


◇◇◇◇◇◇

〇ヴァルプルギスの宝地図


 冒険者ヴァルプルギスが残した宝の地図。

 宝物を見つけた者は巨万の富を得る。

 だが、地図自体が暗号になっており、解読は困難。

 解読方法は至難。

 古代妖精言語をもじったヴァルプルギスが作った文字で解読できる。

◇◇◇◇◇◇


「なるほど。妖精の眼、やるじゃん」


 ジュジュは羊皮紙を台座へ戻し、鑑定結果を書き記す。

 バネッサは、ジュジュを睨みながら地図を鑑定……渋い顔をしながら、結果を書き記した。

 特級鑑定士の三人が結果を確認───驚いたようにジュジュを見た。


「しょ、勝者……鑑定士ジュジュ!!」

「やったぁ!」

「待て。ジュジュ……この地図、古代妖精語で解読というのは本当か?」

「え、うん」

「……なるほど。おい、これを上級鑑定士に回しておけ」

 

 アーヴァインは、壁際にいた鑑定士に地図を渡す。

 ちなみに、この地図は鑑定こそできたが解読はできなかった。その手がかりをジュジュが鑑定で見つけたことにより、後日お宝を発見することになる。

 二回戦は、ジュジュの勝利だ。


 次は、最終戦……これで、全てが決まる。

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