第12話 ホームランと.....?
加藤にぶん殴られた傷は幸いにも深くは無かった。
まあ内臓破裂でも起こしていたら激痛では済まんだろうな。
俺は、イテテ、と思いつつ。
その。病院に行ったほうが良いんじゃない?、と言う有栖に首を振る。
大丈夫だ、と。
それから俺はモールとか購入した物を持って帰宅する。
というかさっきから思っていたけど横の有栖の様子が少しだけおかしいのが気になるのだが。
「どうしたんだ?有栖」
「へ!?.....な、何でも無いわよ」
「.....お前、そんなキャラクターだったっけ?おかしくないか」
「良いから。気にしない!」
「は、はい」
有栖は顔を赤くしながら文句を言う。
俺はその注文通り前を見る。
側では子供が公園で遊んでいた。
そんな姿を見る。
すると.....有栖もそれを見た様でこう呟いた。
「ねえ。春木ってマトモな子供時代って過ごした事ある?」
「.....!?.....い、いや。無いな。子供時代は呪われていた」
名前で呼ばれるとは思わなかった。
少しだけビックリしながら有栖を見る。
有栖は少しだけ苦笑しながら、やっぱりね、と答える。
そして悲しげな顔をした。
「.....そうなのね」
「.....手の届かない目標に何時も何時も手を伸ばしていたよ。本当に下らなさすぎて思い出したくも無いけど」
「.....こう言っちゃ悪いかもだけど私は.....春木。アンタが今の今まで頑張ってくれたお陰でアンタに出会えたから.....良かったと思う」
「.....え?」
「.....あ!深い意味は無いから!気にしない!」
赤くなりながら前を見る有栖。
それからそそくさと去って行った。
俺はその姿に見開く。
そして.....、そうか、と思う。
そんな考え方もあるんだな、と。
思ったのだ。
買い物袋を握り直して有栖を見る。
それから雰囲気を変える為に茶化した。
「.....何だよ。その言い方はもしやお前は俺が好きなのか?ハッハッハ」
「.....へ?.....そ、そんな事無いわよ!!!!!」
「え」
「.....アンタ.....冗談でもそんな言い方は止めて」
「あ、は、はい」
怖い。
怒られた。
さっきみたいな回答をしながら顎に手を添える俺。
というか何でこんなに赤面で怒るんだ?
思いつつ俺は目を丸くしながら有栖を見る。
頬を膨らませて、ったく、と言っている。
「.....でも春木。アンタに出会って確実に世界は変わってきているわ。.....アンタに出会えて良かった」
「.....そうかい。そいつは良かったよ」
俺は苦笑いを浮かべながら.....居ると。
またもや声を掛けられた。
おーい!!!!!、という元気はつらつな声。
俺はビックリしながら公園の方を見る。
野球グラウンドから聞こえた。
「おーい!はるちゃん!.....と。誰!?その美少女ちゃん!?」
「.....煩いと思ったらお前か.....」
「おうおう!失礼だね?きみきみ〜」
泥だらけで居ながらもよく似合っているユニフォーム姿の女の子。
ニカッとしながら俺を見てくる。
元気はつらつで.....有栖には勝らないかもだけどそれなりのボーイッシュ美少女。
俺はその姿を見つつ有栖を見る。
有栖は、こちらは?、と聞いてくる。
俺は、俺の幼馴染だ。名前は田中奈々だ、と答える。
ヨロヨロシクシクー、と笑顔でニコニコする奈々。
有栖は、成程、と直ぐに納得してから頭を下げる。
「.....成程。田中さん。私は.....有栖です。八島有栖です」
「.....え?マジで?はるちゃん.....それじゃこの美少女が妹ちゃん!!!!?ファ!?」
目をパチクリしながら驚愕する奈々。
有栖も少しだけ恥ずかしそうに身を捩った。
俺はその姿に苦笑しつつ奈々を見る。
奈々は顎に手を添えて有栖を観察していた。
「紹介が遅れたな奈々。というかお前は何をやっているんだ?」
「うん?あ!.....えっとね!草野球だよ。趣味だからね!大会だよ〜」
「そうなんだな」
「折角だから大会に参加してよ。はるちゃん」
「嫌だって。俺、腹を怪我してるから」
さっきの加藤のクソボケに殴られた傷だ。
あのクソ不良、絶対に許さない。
これに対して、えぇ!?怪我しているの!?、と驚愕する奈々。
じゃあ仕方が無いね.....、と控えた。
そして直ぐに切り返す様に、じゃあ有栖さんとはるちゃん。せめて大会だけでも見て行って!、と笑顔になる。
有栖と俺の手を握って行く。
「いや、ちょっと待て。俺達は用事が.....」
「えー。それってもしかしてデートとか?」
「.....違うって。なあ有栖?」
「.....」
有栖は少しだけ目をパチクリして赤くなっている。
いや、有栖さん?言い返してくれよ。
ボーッとしてないで、だ。
さっきから様子がおかしいんだが。
思いつつも俺達は結局、大会を観る羽目になってしまった。
「全く。で?今の成績は?」
「うーん。私の所属チームが2点取ったけど勝ってないね。今は休憩だけど」
「そりゃまた。お前のチームはお前が居るから強いのにな」
「そうだね!確かに。.....ねえ。春木」
「.....何だよ」
いきなり何だか深刻な顔になる奈々。
私って草野球って続けた方が良いと思う?、と聞いてくる。
俺は?を浮かべて、そりゃそうだろ、と回答する。
何を言っても草野球なお前が何を言っている。
というか野球バカの、だ。
「私ね。草野球チーム辞めようかなって思ってるの」
「そりゃまた何でだよ。おかしいだろ」
「.....勉強が忙しくなるじゃん?だからね」
「あー.....」
それは確かにな。
勉強は忙しくはなるな。
だってもう高2だしな俺達。
来年は大学受験だわ、と思う。
すると奈々が指をクルクル回し始めた。
赤くなりながら、そ。それで。さ、と呟きながら。
「.....い、一緒の大学に行きたいしね」
「.....?.....何で?」
意味が分からない、と思っていると。
スパァンと背後から頭を叩かれた。
状況が理解出来た様な顔をしたかなり厳つい顔の有栖だ。
何を理解したんだよ。
っていうか何で叩いた!?
「.....アンタ鈍感すぎるでしょ」
「いや、え?俺が悪いのこれ!?」
「当たり前にアンタが悪いわ。死んで」
「.....え!?そこまで!?」
奈々は俺達の様子に、クスクス、と吹き出した。
そしてジッと俺を見据える奈々。
俺は目をパチクリして奈々を見る。
一緒の大学に行きたい。だってはるちゃんが居るから、と答える奈々。
「.....何でだよ。将来は大切だぞお前。それに俺が目指している学校は県外で遠いって前も話しただろ」
「.....うん。知ってるよ。でも同じ大学、場所に行きたい」
「何でそこまで.....」
俺は困惑する。
全く意味が分からないから、だ。
すると、おーい!田中!集合!、と監督らしき人から奈々が呼ばれた。
奈々は、ご。ゴメン。ちょっと行って来るね!、と笑顔を見せる。
それからヒラヒラと服を動かしながら去って行った。
「うーん。何だか.....意味の分からない事ばかりだな」
「アンタ本当にこういうの駄目ね。鈍感」
「そこまで言われる理由も分からん」
俺は青空をゆっくり見てから首を傾げる。
良い天気だが何だか俺の心はスカッとしない。
と思っていると何だか知らないけどバッターが奈々になった。
どうやら試合が始まった様だ。
「.....?」
久々の試合だなどんな感じだろうか、と思い観戦していると。
ボールを打つ前にこっちを見た奈々。
そして思いっきりニヤッとした。
俺と有栖は顔を見合わせる。
何だ一体、と目の前に顔を戻すと既にピッチャーによってボールが放たれる体勢に入っていた。
そしてボールが放たれて.....奈々はこう言った。
「私は、はるちゃんに恋しているから!!!!!」
物凄い叫び声。
100人ぐらい居る会場が.....まさに驚きの声に包まれる。
予想外の言葉だったから、だ。
子供も大人もみんな、だ。
そして監督も驚いて相手チームも驚いているが。
何よりも驚いていたのは俺です。
今何つったんだアイツ。
「.....はぁ!!!!?!!!!?!!!!?!!?!!」
何だってェ!!!!?
そして奈々は特大のホームランを打ちかました。
ただ俺は愕然として.....ガタガタになって真っ赤になるしか無かった。
ウッソだろお前!?、と思いながら、だ。
有栖はこの事を言っていたのか!
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