第25話 私は夢色ちゃんとお友達になりたい
共同作業で素晴らしい絵が完成した。
みんなで初めて制作した絵である。
俺は.....手をクレヨン塗れにしながら汚い手で.....その画用紙の絵を見る。
最後の仕上げは俺がやったが.....まあ何というか。
頬にもクレヨンが付くぐらいに集中していた。
そして夢色も、である。
やってくれた。
やり遂げてくれたのだ。
「.....お兄ちゃん.....」
「.....ああ。完成だな」
「出来たよ.....!!!!!」
「ああ。そうだ。よく手伝ってくれたな。夢色」
その絵は家族写真をモチーフにした絵である。
背後に居た先程やって来た親父と.....洋子さんも笑みを浮かべて俺達を見てくる。
柔和な感じで、だ。
俺は.....画用紙に書かれているその華やかな絵を見ながら。
笑みを少しだけ浮かべた。
そして心の中で別れを告げる。
誰にと言えば勿論あの人だ。
さよなら。
母さん、と、だ。
「やれば出来るじゃない。兄貴」
「お前は何時も本当に上から目線だよな.....有栖。でもお前も手伝ってくれて有難うな」
「.....べ、別に.....」
「もー。お姉ちゃん素直になりなよー」
「煩いわね!姫」
有栖は言いながら拳で姫をグリグリする。
俺達はそれを見ながら大笑いした。
そして.....絵は額縁に飾られてから.....そのまま。
リビングの一番目立つ場所に飾られた。
所謂.....ダイニングテーブルの近くに、だ。
「ここなら春木の絵がよく見える!アッハッハ」
「そうね。あなた。春木君の絵.....とっても良いわ」
「.....有難う御座います。洋子さん」
「.....ええ。.....あ、そうそう。それはそうと春木君。それで.....ちょっとお願いがあるのだけど」
「.....はい?」
俺は目を丸くしながら洋子さんの言葉に耳を傾ける。
すると洋子さんは親父の顔を見てから頷く。
そして、実はね。夢色が美術館に行きたい、って言っていて.....。
もし良かったら連れて行ってあげてくれないかな、と洋子さんは笑みを浮かべる。
俺は、構いませんよ、と柔和になる。
「.....あの子は絵が全てだから。.....大切にしてあげたいの」
後ろで遊んでいる3姉妹を見ながら。
少しだけ悲しげに俺を見てくる親父と洋子さん。
俺は自らの胸に手を添えた。
それから.....頷く。
「.....洋子さんは優しいですね。絶対に無理矢理に学校に行かせようとしないのが」
「.....私は嫌な母親にはなりたく無いから。だから無理は言わないの。あの人みたく」
「.....そうですか」
「と言う事で春木!任せるぞ!アッハッハ」
それから俺は親父と洋子さんに言われてから。
明日が短縮授業なので夢色を美術館に連れて行く事になった。
しかし.....その道中で嫌な事があってしまう。
それは簡単に言えば。
夢色の同級生の事だった。
☆
「今日はお兄とデートだね」
「そうだな。デートだ。夢色。行きたい場所を言えよ。お金は貰っているから」
「わーい!」
姫と有栖は用事があるらしい。
会社に洋子さんと親父は行った。
ので今現在、俺と夢色しか家には居ない。
なので俺と夢色はおめかしして外に出て行く。
「.....お兄。今日は私おひめさま」
「そうか。じゃあ俺はお前に傅くよ。お姫様」
「有難う。おにい。好き」
「簡単に好き好き言うなよ.....」
そんな会話をしながら歩いていると。
ビクッと夢色が足を止めて俺の背後に隠れる。
目の前から3人組の男子。
つまりランドセルを背負った同級生らしき奴らが来た。
童顔のソイツらは俺達に気が付いた様で指差してケラケラ笑ってくる。
あっれ?神田じゃね?
白髪お化けの、と。
成程なそういう系か。
「.....お前そんな大きい男と知り合いだったっけ?アハハ」
「近寄るなよ!ババア!」
何だかイライラしてきた。
このままぶん殴っても良いかもだが.....まあ傷害罪で捕まる。
だからどうしたもんかな、と思っていると。
涙を浮かべている夢色と困惑している俺達に誰かが声を掛けてきた。
こらー!!!!!、と、だ。
「神田さんをイジメるな!!!!!」
おでこを出した女子。
だけど美少女だ。
所謂.....そうだな、髪留めで前髪を結っている様な。
俺はそのそばかすの有る美少女に目を丸くする。
そのそばかすの少女は俺に目を丸くしながらも直ぐに切り返した。
「さっさと去る!.....それともまた私と喧嘩する?嫌だよねそれって」
「.....チッ。面倒な奴だな.....」
「行こうぜ。友杉。クソッ」
それからその男子3人組はそのまま去って行った。
俺がそれを見ながらビクビクしている夢色に声を掛ける。
笑みを浮かべて、行ったぞ、と、だ。
そして、本当に?、とオドオドしながら言ってくる夢色。
俺はそれを確認して、ああ、と返事しながらそのデコの大きな少女を見た。
少女は申し訳無さそうな顔をしている。
そして俺に驚きの目を向けている。
その少女にも笑みを浮かべた。
「.....サンキューな。助かった。マジにぶん殴りそうだったから」
「.....いえ。良いんですよ。.....えっと.....貴方は?」
「俺は八島。八島春木っていう。.....夢色の.....コイツの義兄だ」
「え!?お兄さん.....そうなの?夢色ちゃん」
優しく夢色に話し掛けてくる少女。
夢色はビクビクしながらも頷く。
そして柔和な顔を浮かべた。
しかし.....こんな親友みたいな人も居るんだな。
有難いこったな、と思う。
俺は考えながら夢色を見る。
夢色はジッと睨んで警戒している。
少女は、アララ、と苦笑して言いながらも律儀に自己紹介をした。
初めまして。私は山手夢蜜(やまてゆめみつ)と言います!
と、だ。
「.....君は夢色の同級生か?」
「.....そうです。.....えっと。クラス委員です!」
「.....そうか。.....えっと。もし良かったらお礼がしたい。.....そこの喫茶店に行かないか。飲み物を奢るよ」
「え?で、でも。.....夢色ちゃんが私を受け入れてくれるか.....」
「.....こう見えるけど夢色はきっとお前を.....有難うと思っている。だから大丈夫だと思うけどな。な?夢色」
お兄は優しすぎる。察しが悪い、と俺にぶー垂れる夢色。
俺は、まあそんな事言うなよ、と苦笑い。
それから改めて夢蜜ちゃんに向く。
頬を掻きながら.....夢蜜ちゃんは俺にニコッとした。
「.....でも良かったです。優しそうな.....お兄さんが夢色ちゃんの義兄さんで。.....昔は違ったみたいだから.....」
「.....有難うな。そう言ってもらえて光栄だ。.....しかし夢蜜って名前.....素敵だな」
「.....えへへ。そうですか?あ、えっとですね。この名前は.....丁度、夢色ちゃんと同じなんです。夢の部分が」
「.....だな。確かにな。良い感じだ」
俺は夢色を見る。
夢色はあからさまに不愉快そうだったが諦めた様に俺の側でため息を吐いていた。
その様子に、じゃあお言葉に甘えて.....、と律儀な夢蜜ちゃんは俺に頭を下げる。
それから、これからも宜しくです。お兄さん、と深々と頭を下げた。
そして一瞬だけ夢色が離れた隙を狙ってから小さな声でこう言ってくる。
「夢色ちゃんとお友達になりたいんです。私」
「.....!」
「.....だから協力してくれませんか」
「.....分かった。君が言うなら協力する。何から何まで。.....宜しくな。夢蜜ちゃん」
「はい!」
笑顔で夢蜜ちゃんは俺にニコニコしてくる。
こんな子が居てくれる。
それだけでもまだ世界は違って見えた。
そして明るく見える。
夢と付く夢色と夢蜜、か。
反発しあっているが.....うん。
お似合いだと思うけどな2人は。
そう考えながら.....俺は空を見上げた。
1つの物語を君に アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou
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