第24話 凛子の使っていたクレヨン

遊園地から帰宅した。

今はリビングで夢色と一緒に居る。

凛子とアドレスも電話番号も交換して、だ。


そして俺は.....最後に凛子に渡されたもので.....画用紙に向いていた。

横に.....手を添えてくれる夢色が居る。

笑顔で俺を見てくれる。


「.....」


最後に凛子から渡されたもの。

それは.....薄汚れた小学生が良く使っている様なクレヨンだった。

それも俺が凛子と最後にバトルをした時に小学生だった凛子が使っていたもの。

俺は見開きながら凛子に、こんなもの貰えない、と言ったが。

君だからだよ、と凛子は笑みを浮かべた。


『君が絵を描くまで持っていて。そして使って。.....それが私の最大の願い』


「.....凛子.....」


「お兄。大丈夫?」


「.....ああ。恐れたら駄目だよな。お前らも凛子もみんな俺をサポートしているのに」


うん。そうだよ、と俺に笑顔を再度見せてくる夢色。

俺はその姿に頷きながら.....絵コンテを持つ。

これは夢色が使っているものだ。

拝借して使っている。

そして.....描こうとしたが。


「.....ぐっ.....」


「お兄.....!」


過去の.....全てがフラッシュバックした。

俺は画用紙が歪んで見えてきた。

吐き気を催し俺は口元に手を添える。


母親に背中を殴られた時を思い出した。

それから、無理なのか?、と一瞬だけ思う。

だけど.....。

この場で諦める訳にはいかない!


「.....お兄。やっぱり止めようか.....」


「.....駄目だ。せっかくみんながサポートしてくれたんだから」


「お兄.....うん。じゃあがんばろう」


「.....有難うな。夢色。大好きだ」


「.....!.....も、もー!!!!!お兄のアホ」


アハハ、と真っ赤になる夢色を見ながら。

俺は目の前の画用紙をまた見る。

それから.....絵コンテを構えた。

何を描くかと言われたら.....俺達の家族だ。

それを描きたいのだ。


「.....」


「.....」


それから俺は絵コンテで下書きしていき。

消しゴムで消してからまた描く。

そうしてから描いていくが.....駄目だな。

やっぱり腕が相当に落ちた。

2年近く触ってないからなこういうの。


「お兄.....少しこっちもこうしたほうが」


「.....だな。お前の助けが要るな」


「うん。.....こうしてお兄の助けになるのが嬉しい」


夢色は俺の手に手を乗せる。

そして2人で一生懸命に描いていく。

すると姫が室内に入って来た。

お風呂に入っていた姫が、である。


「お兄ちゃんお風呂.....あ。描いていたの?」


「.....ああ。夢色の助けも借りながらな」


「描いていくよー」


すると姫は俺の近くに座る。

そして俺に寄り添って来てから俺に縋ってくる。

まるで.....恋人の様に甘えてくる。

これに対して、もー!!!!!姫お姉ちゃん、と嫉妬する夢色。


「えへへ。お兄ちゃんの匂いー」


「お、おい。姫。良い加減にしろ。恥ずかしい」


「嫌だもん。お兄ちゃん好きだから」


「お兄を取らないで!!!!!姫お姉ちゃん!」


夢色は一生懸命に俺達をひっぺがそうとする。

すると、夢色ゴメンゴメン、と姫が離れた。

それから、何をモデルに描いているの?お兄ちゃん、と聞いてくる。

俺はその言葉に、うちのパズル完成の家族だ、と答えた。

この事に姫は見開く。


「.....お兄ちゃん.....」


「お前も有栖も夢色も。みんなピースが欠けちゃいけないんだ。分かるか?」


「.....うん.....お兄ちゃん.....有難う」


「.....だからもう死ぬなんて言うなよ」


「.....お兄ちゃんが、有栖お姉ちゃんが、夢色が居るから大丈夫。私はもう.....死なないよ」


その言葉に俺は、そうか、と返事をする。

それから俺は.....目の前の画用紙を見る。

画用紙にはまだまだ下書きのままで止まっている。

そうだ。


「.....姫。お前も協力してくれ」


「.....え?何を?絵描けないよ私」


「大丈夫。.....お前らの服の色を決めてくれ。それだけだ」


「.....!.....分かった!」


「お前は服選びが得意だからな。姫」


姫は、うん!、と八重歯を見せて笑顔を見せてから直ぐに服色の指示をしてきた。

その色をモチーフに服を定めていく。

すると今度は着替えをしていた有栖が入って来た。

それから、絵描いているの?、と聞いてくる。


「有栖。お前も協力してくれ」


「.....何を?春木」


「.....そうだな。お前は絵を描く為の参考写真を持って来てくれるか。家族写真」


「.....そういう感じの絵を描いているのね。成程。.....じゃあ持ってくるよ」


有栖は笑みを浮かべてからそのままアルバムを取りに行く。

こんなに違うんだな、と思っている。

共同作業ってこんなに楽しかったっけ?、と思いながら、だ。

考えながら俺は.....笑みを浮かべながら描いていく。

何だか画用紙に対する吐き気も無くなった。


「お兄?どうしたの?ニコニコして」


「.....お前らと一緒で本当に楽しいなって思っただけだ」


「.....お兄.....」


「.....お兄ちゃん。有難う」


「そりゃこっちのセリフだよ。姫。夢色。有難うな」


そして俺は汗を拭いながら.....描いていく。

下書きを仕上げていく。

すると有栖が家族写真を持って来てくれた。

つまりこの前のやつとか、だ。


「これで良いの。春木」


「ああ。有難うな。よし.....」


「どんな絵が出来るのかな」


「.....それはお楽しみだ。姫」


それから俺は絵をゆっくり描いていく。

俺は手を真っ黒にしながら.....顎に手を添えながら一生懸命に下書きをする。

そしてようやっと古ぼけたクレヨンの出番がきた。

俺は.....色を着けれるだろうか。

そして.....俺は母さんを忘れられるだろうか。


「.....」


「.....お兄。わたしがやろうか」


「.....ん?.....やってみるか?」


「うん。私と姫お姉ちゃんがやる。有栖お姉ちゃんも」


「.....じゃあやってみてくれ。背景は俺が描く」


うん、と頷きながら姫と夢色は話し合って真剣な顔で検討していく。

俺はその姿を見ながら少しだけ休憩を、と思ってお茶を飲む。

すると後ろからアリスが抱き締めてきた。

俺を、だ。


「.....ちょ、ちょっと.....何するのん?有栖ちゃん?」


「んー?妹が兄貴に甘えているだけだよ」


「.....そ、そうですか」


「ふふふ」


俺に笑みを浮かべつつ。

そして優しく俺の頭を撫でてくる有栖。

俺は赤面しながらも。

有栖のその心地良い抱き締めに浸りながら。

身を寄せながら.....2人を見ていた。


「.....兄貴」


「.....何だ?有栖」


「私に説教をしてくれて有難う。捨てなくて有難う」


「.....お前はきっと変わると思っていた。だから諦めたくなかったんだ。ただそれだけだからな」


「.....兄貴らしいね。うん」


そして離れてから夢色と姫に混じりながら絵の構造を検討していく有栖。

俺はその姿を見つつ天井を見上げた。

それから、ようやくだな、と呟いてから。

俺は真正面を見た。

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