第2話 三女の夢色の過去

俺は表彰とかが昔から嫌いだ。

簡単に言ってしまうと嫌悪感が増す。

つまりを言うなら.....期待されるのが嫌いなのだ。

だってへし折られるからだ。

そんな期待の全てが、だ。


俺は.....ショックだった。

だから俺は2度と期待をされてはならないと。

その様に思っていたのだが。

出会った初日にこう言われた。

親父の再婚相手の神田さんという女性に、だ。


貴方は姉妹の束縛の鎖を破壊してくれる存在。

だからお願い。

私の娘達を助けてほしいな。


と、そんな感じで、だ。

俺は頼られるのが嫌だったのに.....何故かそんな感じになってしまった。

その事に.....俺は溜息を盛大に吐く。

それから今に至っている。

今俺は.....ラノベをまた読んでいる。


「どう破壊しろっていうんだ.....」


ただその呟きだけだった。

虚空に消えていく。

俺は.....天井を見上げる。


赤の他人だ、所詮は、だ。

だから意味が無いと思っているのだが。

だけど、だ。


俺は.....兄という役職になっている。

3姉妹を仲良くさせる指名が有る気がする。

そう、親父に頼られているのだ。

諦めるとかほったらかしに出来ない気がする。

俺は思いながら.....ゆっくりと起き上がる。


それから俺は部屋から出ようとした。

すると目の前に姫が居た。

俺はビックリしながら姫を見る。

姫は俺を見ながらニコッとして見せる。

髪留めを指差した。


「.....お兄ちゃん。お願いが有るの」


「.....何だ」


「.....夢色に.....この髪飾りを見せてくれない?」


その小さな手にはリボンが有る。

蝶の柄、である。

そういえば.....夢色は蝶のカチューシャとか着けてなかったな。

どういう事なのかと思っていたのだが。

成程、そういう事か。


「.....何で俺がそんな事をしないといけない。無理に決まっているだろう」


「お兄ちゃん。これはチャンスだと思うよ。.....夢色とも仲良くしたいでしょ?それに.....お姉ちゃんとも」


「.....何でそれを着けてないんだ。夢色だけ」


「.....簡単に言ってしまうとね。.....髪の毛が嫌いだから真っ白に折角のリボンが染まるかもしれないからって事を言っていたね。.....そんな事無いんだけど」


「.....」


俺はジッと姫を見る。

姫はその視線に耐えられないのか苦笑いを浮かべる。

絶対に似合うと思うんだよね、と。

でも無理はしなくて良いよお兄ちゃん、と俺を見てくる。

3姉妹で髪留めを着けた姿で写真が撮りたいけどね、と姫は力無く笑う。


「.....これが私達姉妹の願い。お兄ちゃん。お願い。もし良かったら.....この役目を担ってくれない?」


「.....無理だ。俺は.....」


「初めから無理って言っても仕方が無いよ。お兄ちゃん」


「無理だって」


俺は否定を続ける。

すると.....姫は俺の目を見ながら。

諦めた様に俯いた。

それから顔を上げてから、エヘヘ、と笑う。

そしてポケットにリボンを仕舞った。


「.....分かった。じゃあ止めとこうかな。お兄ちゃんゴメンね」


「.....ハァ.....」


「?」


「分かった。貸してくれ。そのリボン」


「.....お兄ちゃん?」


俺は3姉妹の兄だから。

だからやるべき事はやった方が良いだろう。

思いつつ俺は姫に手を伸ばした。

それからリボンを受け取る。

そうしてから姫を見た。


「.....姫。お前は優しいな」


「.....え?そうかな」


「.....今、何処に居るんだ。夢色は」


「リビングだよ」


「.....じゃあお前は俺から離れてくれ。俺だけで行って来る」


姫は目を丸くする。

それから柔和な笑みを浮かべた。

そして、有難う。お兄ちゃん、と呟く。

俺はその姿を一瞥してから返事無くそのまま夢色の居るリビングに行った。

それからドアを開けると。


「.....」


「.....」


夢色が下着姿で居た。

いや、子供用の下着だが。

俺は真っ赤に赤面して、お。おう、と返事する。

どうやら何かを溢して服を着替えていた様だった.....が。

だんだん泣きそうな顔になっていく夢色。


「.....で、出て行って」


「.....す、すまん!!!!!」


「.....えっち」


胸元を抑えながらのその様な呟きを聞きながら俺は逃げて行く。

先が思いやられる気がした。

俺は冷や汗をかきながらそのまま部屋を飛び出して行く。

それから心臓に手を添えた。

参ったな.....。



俺は暫くリビングの外に居たが。

そろそろ良いかなと思い、ドアをひっそりと開ける。

すると夢色が何かをしていた。


俺はその姿を見ながら立ち上がる。

それから、夢色、と声を掛ける。

ビクッと俺を見てくる。


「な、何。変態」


「.....へ、変態とは失礼だな。勘弁してくれ」


「だって変態だから。ろりこん」


「.....勘弁してくれ.....」


額に手を添えながら俺は苦笑いを浮かべる。

すると目の前の夢色が絵を描いているのに気が付いた。

見るとかなり上手い感じだったが。


すぐにハッと気が付いた夢色に隠されてしまった。

何か女の子の絵を描いているが。

俺は夢色を見る。

夢色は不愉快そうな顔をしていた。

そして俺を見てくる。


「.....何の用」


「.....用は.....まあその置いて。お前、絵上手いんだな」


「.....別に。下手くそ」


「.....」


そんな事を言いながら絵を隠す。

気持ちは分からなくも無い。

下手くそと表現したくなる気持ちも分からなくも無い。

だけど今の絵は上手かった。


俺が.....認めるぐらいだから、だ。

母さんの為に描いていた俺が、だ。

今となっては恥ずべき過去だが。

思いつつも俺は声を掛け続けてみる。


「.....夢色。絵を見せてくれないか」


「.....嫌に決まってる。.....私は絵が下手くそ」


「じゃあ話を聞いてくれるか」


「.....」


夢色は俺を見てくる。

その顔は相変わらずの不愉快そうだったがそのまま話を続けた。

俺な。絵を描いて表彰された事もあったんだ、と。


それから絵は凄く上手かったんだ、と。

でも描かなくなったんだ、と。

すると夢色は真正面を向いたままだったが段々と興味が湧いてきたのか俺にその声を発する。


「.....なんで描かなくなったの」


「.....簡単さ。母親が俺の絵を批評したから」


「.....え.....」


「.....ショックだったよ。幼いながらね」


「.....」


夢色はギュッと絵を握りしめる。

俺はその姿を顔を顰めながら見つつ。

天井を見上げた。

それから話を続ける。


母親にとって絵はどうでも良かったみたいなんだよな。

俺は.....成績さえ優秀ならそれで良いって。

道具だったんだよな俺、と。


夢色は俺に向いてきた。

それから.....唇を噛んで俺を見てくる。

そんなの許せない、と。

俺は.....驚きながら見つめる。


「無理矢理、私を学校に行かせたお父さんみたい」


「.....え?そうなのか」


「.....うん」


「.....」


すると夢色はグシャッとなった絵を俺に差し出してきた。

その絵は.....黒髪の女性の自画像な感じだ。

写真みたいに良く出来ている.....のだが。

誰がモデルかと思ってハッとした。

そして少しだけ悲しくなる。


「.....お前か。モデルは。これは」


「.....黒い髪の毛になりたいからね」


「.....」


とても悲しかった。

そして俺は考えてしまう。

この子は絵を描いていたのは全てが嫌だったんだな。俺以上に、と。

そして全てが壊れたんだな、と。

すると夢色はポロポロと泣き始めた。


「.....お姉ちゃん達もみんな大丈夫大丈夫って言ってくれてる。でも私は髪の毛がこれだから.....学校が嫌だった。だから今は学校に行ってない」


「.....夢色.....」


「貴方と私は似ている気がする」


「.....そうだな。俺もお前が俺と似ている気がしたよ」


「.....」


夢色は俺を見てくる。

それから.....笑みを浮かべた。


俺は初めて見たその笑顔に.....柔和になる。

そうしていると夢色は俺に対してこう言った。

恥ずかしそうに、だ。


「.....お兄」


「.....!?.....どうしたんだ」


「.....だってお兄だから。ね。お兄」


「.....夢色.....」


貴方なら信頼出来そうな気がする、と夢色は笑顔をまた見せた。

その笑顔は黒髪に負けない様な.....しっかりした笑顔だ。

俺も笑顔を見せる。


そして笑い合う。

それから3姉妹は.....それぞれが大変な人生を歩んでいるんだなって。

その様に思った。


「.....ああ。そうだ。夢色」


「.....何?お兄」


「.....リボンだって。姫からお前に。可愛い姿を見せてくれないか」


「.....分かった。嫌だけどお兄の頼みなら」


そして夢色は蝶々リボンを髪留めにした。

俺は.....何だか幸せな感じがする。

こんなに幸せでやり遂げた感じは.....久々だな。

考えつつ俺は.....可愛い姿になった夢色を見つめた。

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