第13話 夢色の絵と消えた筈の個性

ここ最近、俺って何だか.....とんでもない目に頻繁に遭っている気がする。

例えばそうだな。

夢色に俺の頬にいきなりキスをされたり。


いきなり奈々に公開処刑の様に周りに人が居るのに大声で告白されたり。

俺は.....割と本気で困惑しか無いんだが.....。

思いつつ試合後の奈々を見る。

奈々は全然気にしない様な感じの笑顔だった。

顔に泥を付けてやり切った様な、だ。


「えへへ」


「.....あのな。.....お前。俺の恥ずかしさを考えろ。マジにバカなの?」


「元から私はバカだから。アハハ」


「いやお前!!!!!このマジなアホンダラ!うーん!恥ずかしい!」


俺は赤面で顔を覆う。

周りの人達がニヤニヤしている。

気が付けば試合は後半戦に突入してしまい周りがオレンジ色の夕方になった。

試合は負けたがとんでもない感じだ。

しかし俺にとっては羞恥の色にしか見えん。


いや、割とマジに助けて下さい神様。

すると奈々はバットの先にグローブを付けてから有栖に向いた。

楽しんだ様な有栖に、だ。


「有栖さん」


「.....はい?何でしょうか」


「負けないからね」


「.....え?何がですか?」


「.....とぼけても無駄だよ。.....有栖さん。貴方がはるちゃんに向いていた目は.....人を好いている目だったよ」


俺は奈々のニコニコした言葉に目をパチクリする。

あらあら若いって良いわねぇ、とそれぞれの声がする中、だ。

と言うか一気に目が点になった。

今何つった!!!!?

え!?有栖が!?


「な、無いですよ!!!!!コイツを!?ぜっっったいに有り得ない!!!!!」


「アハハ。そんな事言っても無駄だよ?私は友人が良くそんな目を好きな人にしていたからね。だから絶対に逃げれないよ」


「.....有栖。いや、お前マジか.....」


「な、無い!バカなんじゃ無いですか!す、すいませんが!」


そして有栖は頭を勢い良く下げてから、失礼します!、と大きな声で去って行った。

俺はそれを愕然と見届けながら奈々を見る。

すると奈々は俺を見上げていた。


そして俺の頬に静かに手を添えてくる。

にまっとした紅潮した顔で、だ。

そして、にひひ、と歯に噛む。


「大好きだよ」


「.....良い加減にしろってお前.....人が見ているから。本気で恥ずかしいんだが。マジに勘弁してくれよ.....」


「.....えへへ」


「全く.....」


真っ赤になる俺。

そして手を振り払った。

もう!嫌だわこの子!こんな子に育てた覚えは無いのに!、と思いつつ奈々を見る。

奈々は、さて。じゃあ帰ろうか、と、にしし、と言いつつ八重歯を見せた。

俺はその顔を見ながら盛大に溜息を吐く。


「因みに私の想いに返事は不要!アハハ」


「.....何だそりゃ.....」


「だって有栖ちゃんも好いているみたいだしね!はるちゃんを」


「有り得ないって。それは。可能性0パーだぞおい」


「うん。でも0では無いよ。はるちゃん。.....知ってる?恋って常に突然なんだって」


いやいや、と言う俺の手を握ってくる奈々。

ナイナイ言っていたら無い事になるよ。はるちゃん。.....だから有栖ちゃんを追いに行こう!、と満面の笑顔をまた見せる。

俺はその姿に、ったく、と苦笑した。

それから空を見上げる。

オレンジ色の空が珍しく煌びやかに見えた。



「.....」


「.....」


また沈黙だ。

と言うのも奈々と別れてから帰宅している中で、だ。

玄関前の事である。

どうしたもんかな、と思っていると有栖が顔を上げた。

それから俺を見据えてくる。


「あのね。言っておくけど恋では無いから」


「そうだな。俺もそう思っている。無いってな」


「.....でも.....はっきり言っていい」


「.....?.....何をだ」


「.....私は春木。アンタを全面的に信頼しようと思う」


俺は思いっきり見開いた。

それから門を掴んだまま有栖を見る。

有栖は笑みを浮かべて俺を見る。

そして、さて、と門を押し開けて言葉を発した。

有難う。今日の事、と、だ。


「.....有栖.....」


「.....とても格好良かった。春木。アンタはヒーローだと思う。大切に思ってくれて有難う」


「.....そうか。.....いや。こっちこそ有難うな」


「.....早く入ろう。ね。姫と夢色が待ってる」


俺はその言葉に、ああ、と口角を上げてから。

そのまま薄暗い中、玄関を開けて行く。

すると夢色と姫が直ぐに、待っていました、とばかりに顔を見せる。

お帰りなさい、と、待っていたよ、と言う。

全てが暖かい感じがする。


「もー。連絡しているとはいえしんぱいだった」


「そうそう。お姉ちゃんとお兄ちゃん」


「.....遅くなってゴメン。2人とも」


そして夢色と姫とハグをする有栖。

俺はその姿を一瞥しながら笑みを浮かべてから荷物を置く。

すると、夢色が直ぐに寄って来た。

笑顔を浮かべながら、だ。

そして画用紙を見せてくる。


「また絵を描いたの。お兄」


「.....え?そうなのか。どんな絵だ?」


「家族の絵!」


「.....!.....夢色。お前.....」


画用紙に描かれた絵を見せてくる。

そこには白い髪の毛の姿の夢色と.....姫。

そして俺、有栖。

それから親父とか洋子さんが居た。

どうやらこの前撮った家族写真を参考にしたらしい。


「.....お前の髪の毛は真白だが.....お前。初めに描いていた黒髪は辞めたのか」


「.....髪の毛も個性って考えた。.....お兄を見ていて.....思った。これでもいいなって」


「.....そうか。夢色。.....また大人になったな」


「えへへ。そうかな」


何だか知らないけど。

多分、娘が居る家族ってのはこんな感じなのだろう。

俺には娘が居ないから分からんが.....寂しくなるのだろう。


大人になっていく、という事で、だ。

横の有栖も姫も俺達の姿を柔和に見ていた。

すると姫が、あ。そうだ、とスマホを取り出す。


「そうそう。聞きましたよ。.....お姉ちゃんがお兄ちゃんを好いているって!」


「ブハァ!!!!!」


「は、ハァ!!!!?」


おま!?.....おま!?

噴き出す俺達。

姫が.....不発弾というか爆弾を投下した。

カチンと固まる夢色。

そしてニヤニヤする姫。


俺は.....、ちょっと待て。何で知っている、と聞き返すので精一杯だった。

有栖もがちんごちんに固まっている。

セメントで固まった様に、だ。


「何でって?だって私、奈々ちんとメルアド交換したんでーす。ついでに全部を話してくれました〜♪」


「お前.....嘘だろマジに.....。.....どんだけ仲が良いのか.....つうか奈々の野郎め.....」


「姫。誤解だから。本当に誤解だから」


「お兄.....」


側で夢色が画用紙を丸めて悲しげな顔で俺を見ている。

完全な誤解だって.....。

無いってそれは。

宝くじが1枚で宝くじの1等が当たるぐらい無いって、と説明する。

すると姫はニヤッとして更に爆弾を投下した。


「奈々ちんもお兄ちゃんの事、大好きなんですね!アハハ。聞きました。草野球大会でおおっぴらに告白したって♪」


「姫ぇ!!!!!それ以上君は喋るな!!!!!夢色の顎が割とマジに落ちたしな!!!!!」


「..........」


マジにこれヤバいって!

この世が終わった様な顔をしているぞ!

有栖も苦笑いで俺を見ている。

顔が引き攣っている。


これは参ったな.....。

まさかこんな最後に.....、と思う。

最後に辱めに遭うとは.....。

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