第22話 犬猿の仲だった女の子
「ジェットコースター.....結構過激だったな」
「そうね.....私も結構きつかったわ。ジェットコースター得意なのに」
俺達は目を回しながら。
ジェットコースターの近くのベンチに腰掛けていた。
流石はこの街一番の.....いや。
この県一番のジェットコースターだわ。
そう考えながら俺は.....有栖を見る。
有栖は目を回しながらだが俺を見てクスクス笑う。
「アンタの顔。情けなかった」
「.....うるせぇな。こんなに凄いとは思って無かったんだよ」
「.....でもそういうのも可愛いから良いけど」
「いや。可愛く無いだろ」
「可愛いよ。兄貴なら」
有栖はニヤッとしながら俺を見てくる。
少しだけ紅潮した感じの、だ。
俺はその姿に、全くな、と額をガリガリ掻く。
そして有栖に苦笑した。
それから額に手を添えて溜息を吐く。
「お前.....本当にベタベタになったよな」
「そうかな。.....まあそうかもね」
「.....それがお前だったんだな」
「.....悪い?」
プクッと頬を膨らませて有栖は俺を見てくる。
俺はその姿に、イヤ、と言いながら笑顔を浮かべる。
そして首を振る。
悪いとかそんなんじゃ無いし嫌いじゃねーよ、と。
有栖は、良かった、と可愛らしくはにかむ。
「飲み物買って来る。気分悪いし何か飲みたい」
「.....じゃあお金持ってけ。これ使え」
「.....もう良いって。そういうの」
「良いから使えよ。それに兄貴なんだよ俺は」
「.....分かった。じゃあ指示に従う」
初めからそうしろよ、と俺は苦笑する。
有栖は、全く兄貴は美味しい所だけ兄貴面するから、と頬をまた膨らませてから笑みを浮かべてそのまま去って行く。
それから俺はそれを見送ってから空を見上げる。
空は.....澄み渡る様に晴れている。
「.....丸くなったもんだな。俺も」
そしてそれから10分経ったが。
まだ有栖は戻って来なかった。
俺は首を傾げながら有栖の向かった方に向かうと。
何だか.....金髪の男に絡まれていた。
いや、またかよ.....、と思いながら俺は様子を伺う。
加藤と鈴木では無い事は確かだ。
どうもナンパの様だ。
「ねぇ。君可愛いね。彼氏居るの?」
「.....忙しいんですけど」
「.....またまたそう言わず。.....二つ飲み物持っているしさ」
「友人です。一緒に来ていますから。だから忙しいですから」
「そう?じゃあ俺が言ってやるから」
そんな感じで人の気配が無い場所で絡まる男。
俺はその姿を伺っていたが。
助けようと思い、動き出した。
すると有栖は眉を顰めて顔を上げてから。
それから満面の笑顔を浮かべる。
「アンタみたいなウザい男より良い男性を見つけたんだから。死ねよ」
それから思いっきりの金蹴りを有栖はブチかました。
俺の金も痛みでヒュッとなりそうな。
そのぐらいの痛みの有りそうな蹴りだ。
そして男は予想外だったのか、ぐ.....、と言いながら腹を丸めた。
それからこっちにやって来る有栖。
「.....?.....兄貴.....?」
「お、おう。強いなお前.....」
「だって兄貴の様な良い男の人が居るのにあんなのに絡まれる必要無いから」
「お、おう」
そして俺の手を握ってから、行こう、と笑顔を浮かべる有栖。
それから歩き出す。
その中で思ったけど。
何で有栖はこれだけ強くなったんだろうか?
考えながら俺は有栖を見る。
「有栖。お前強くなったな。前より」
「.....兄貴のお陰。兄貴が居るから強くなった」
「.....?.....それはどういう?」
「好きな人の元に帰るって決意と全てが有るから.....今もこうやって目標立てて行動出来るの。アハハ。昔と違うから」
「.....そうか。そいつはまた。アハハ」
そして有栖は赤面しながら飲み物を出してくる。
遅くなってゴメンね、兄貴。
と笑顔で、だ。
俺はその少しだけぬるくなった飲み物を飲みながら有栖を見る。
すると有栖は、じゃあ次は何処行こうか、と柔和になる。
「.....次は.....そうだな。お前の好きな場所に行こう」
「.....そればっかりだね。アンタ。.....今度はアンタの好きな場所に連れて行ってよ」
「.....俺の好きな場所?」
「そう。春木の好きな場所」
「.....俺が好きな場所か。.....気になった場所なら有るけど」
じゃあそこが私の行く場所。
と答えながら俺に寄り添う有栖。
俺は、オイオイ、と呟きながら盛大に溜息を吐く。
そして苦笑いを再度浮かべた。
「.....でも何処に?」
「.....絵の個展みたいな場所があった。画廊かな。.....多分遊園地の開催なのだろうけど。.....絵の展覧会みたいなのだ」
「.....あー。子供が描いたりした絵かな?.....でもちょっと待って。.....兄貴。確か絵は観るのも描くのも苦手って.....」
「.....そうだな。絵は苦手だ。だから描く事は出来ない。.....でもな。このまま観ないのも嫌かなって」
「そうなんだね」
「ああ」
春木がいつか絵を描けるのを祈ってる。
いや、私と夢色と姫が.....何とかするよ、と穏やかな顔を浮かべる。
その事に、まあ無理はしないで良いからな。俺個人の問題だしな、と回答した。
有栖は、いいや。兄貴の問題は私達の問題でも有るから、と答える。
そして俺の前に出る。
「.....だからいつかで良いから。絵をまた描いてみたら」
「.....そうだな。まあいつかな」
「.....春木の母親って何で春木を潰したんだろうね」
「オイオイ。いきなりだな」
「そうだね」
まあ母親は潰したかったんじゃないよ俺を。
それなりの.....天才にしたかったんだろうな、と言う俺。
その事に、アンタみたいな良い人をこき使うとか最低だね、と嫌悪の顔を浮かべる。
俺は、まあな、と頬を掻く。
「そんな下らない事を考えても仕方無いしな。今更」
「.....確かにね。.....じゃあ行こうか」
「おう」
そして俺達は絵の展覧会のあっている場所に向かった。
それからそこを最後の場所にして。
夢色と姫と合流する事を決めた。
そして.....静かに遊園地と一緒に建造されたと思われる画廊に入る。
築40年だそうだ。
「.....遊園地の歴史と遊園地の絵が飾られているのね」
「そうみたいだな。写真とか」
「.....何か思い浮かぶものがある?」
「.....無いな。特には。嫌気が差すだけだけど。でも絵は綺麗だ」
「そうなのね」
有栖は目の前の絵達を見つめてから俺を見てくる。
そして、ねえ。アンタさ。私達と趣味を作らない?、と提案してきた。
俺は???を浮かべながら、趣味?、と聞き返す。
すると有栖は、そうよ、とまた柔和になる。
「アンタには趣味があまり無さそうだから。だから私達が満足する趣味を作ってあげる。私達と一緒に出来る趣味を」
「.....そりゃ有難いな。今はもうラノベとかしか無いから」
「じゃあ私はラノベを読む」
「.....アホンダラ。極端すぎるわ」
「何で?アンタと同じ趣味を持ったって良いじゃない。.....奈々さんに負けない様にしないと。恋も」
「.....」
もう何というか。
恥ずかしい、としか言いようが無い。
どうしたもんかね、と思う。
そして、だからラノベを貸しなさい。家帰ったら、と有栖は意気込む。
俺は、いや.....ラノベって過激だぞ?多少、と顔を引き攣らせる。
「えっちなのは知っているわ。アンタの部屋に有ったしね。えっちなの」
「.....オイ。何時の話だそれは」
「しーらない」
「.....マジに部屋漁るの勘弁してくれ.....」
有栖はニヤニヤしながら俺を見る。
俺はその事に本格的な溜息しか出ず。
幸先が怖い様な.....そんな感覚に包まれた。
それにアンタがえっちなのはトイレ覗いた時からだしね、とも言う。
畳み掛けてくるなコイツ!!!!!
「もう良いだろ!時効で!」
「嫌」
「.....ハァ.....」
この子ったら!、と考えながら俺は額に手を添える。
そして駆け出して行く有栖を見ながら。
俺は絵を観る。
その中に.....観た事の有る絵が混じっていた。
今年作られた.....絵だが。
「.....!」
「.....どうしたの?兄貴」
「.....いや。何でも無い.....」
「.....?」
花火が描かれている油絵。
作者名、中森凛子(なかもりりんこ).....。
この子は知っている。
俺が.....昔、お互いの絵で競っていたとっても可愛らしかったライバルだった同学年の女子である。
小学校時代の、だ。
「.....そうか。凛子は元気なんだな」
「.....凛子って誰.....兄貴.....?」
「い、いや。知り合いだった子だよ。昔」
「.....ふーん.....ふーん?」
怖いって。
お前がそんな目をすると。
ただでさえお前の目は鋭いのだから。
思いつつ俺はその疑いのジト目から逃れる様に目の前を見ると。
そこに.....ボブヘアーの苺の髪留めを着けて。
俺を驚きの眼差しでみてくる女の子が立って居た。
物静かそうながらも美少女の、だ。
制服姿で居る。
「.....もしかして.....はっくん?」
「.....お前。凛子か?」
「わー。久々だね。はっくん!」
「何でこの場所に居るんだよ!?」
ニコニコしながら寄って来る凛子。
変わって無い顔立ちだ。
美少女の顔立ち。
それで居ながらものほほんとしている顔。
小顔で.....眉毛も細い。
「.....本当に久々だな。でも」
「.....そうだね。はっくん.....え?此方は?」
「.....彼女ですが何か?」
「.....え.....」
かなりキツイ眼差しで有栖は凛子を見る。
そして俺の腕に絡みついて来た。
私の彼氏ですが何か?、的な感じで、だ。
俺は、お。オイ!?、とヒソヒソ話す。
「凄い!彼女さんが出来たの!?はっくん」
「.....ま、まあな」
「凄い!」
「それはそうと何でお前はこの場所に!?」
「あ。私.....。そうだったね。説明し忘れてた」
てへぺろ、的な顔をする凛子。
相変わらずだな.....オイ。
考えながら凛子を見ていると。
実はね。絵が優秀作品だって選ばれたから受賞をしに来たの、と凛子は説明してくれてから笑顔を浮かべた。
「.....マジで?凄いな。当時から変わらないじゃないか」
「うん。.....そういえばはっくんは絵は?この場所に来たのは授賞でもしたの?」
「.....俺か。.....俺は.....」
「?」
まさか離婚したとは言えないし。
絵を描かなくなったのはそれらが原因とも言えない。
母さんの圧力を受けて居たとも言えない。
俺は心配げに見てくる有栖を一瞥してから答える。
絵はな。.....俺はもう描いてない、と。
これに、え?、とショックを受ける凛子。
「.....え?何で.....」
「.....俺は描けなくなった。絵を。御免な。だから今日は絵だけ見に来た」
「.....駄目だよ。はっくん。あれだけ私と対峙していたじゃ無い。何で絵を辞めたの?張り合いが無くなるよ」
「.....事情が事情でな。すまん」
「.....」
悲しげに俯く凛子。
そうなんだね、と呟く。
俺は、ああ、とだけ答えた。
すると直ぐにガバッと顔を上げた凛子。
じゃあ絵を描くのを慣れよう!、と言い放った。
「.....え?.....い、いや。お前。俺の話聞いてた?」
「聞いてないよ?.....絵を描かないなら描いてもらうしかないかなって」
「アホなの!?」
「アホちゃいまんねんパーでんねん」
「古臭いわ!!!!!」
俺のツッコミに。
まあ冗談は置いておいて、と有栖を見る凛子。
そして彼女さん。貴方も協力して下さい、と真剣な顔をしてから頭を下げる。
有栖は目をパチクリしながら俺を見て凛子を見てニヤッとする。
オイオイ、まさか。
「.....絵をまた描けるチャンスだよ?春木.....ニヤニヤ」
「怪しいって。冗談じゃ無いぞ。俺は描かないぞ!」
「協力します。凛子さん」
「オィイ!!!!?」
有難う御座います!、と笑顔になる凛子。
絵は描かないって言ったろ!
そしてこの日から。
俺は嘗ての絵で勝負していたライバルの巻き添えを食らいつつ。
絵をもう一度描く為の.....訓練が始まろうとしていた。
だけどまあ。
何だか嫌な感じはしない。
それは.....3姉妹が居るからだろうか?、と思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます