第21話 開かれた未来
有栖とデートしている気分だ。
いや、まあ何と言うか付き合っている訳では無いのでデートでは無いが。
正確には今現在の状況は、デート擬き、と言える。
俺は観覧車のゴンドラの中の目の前に座っている有栖を見る。
有栖は目を輝かせて周りを見ていた。
この観覧車はこの街では一番の高さだからな、と思う。
俺の判断だけど、だ。
「凄い。あんなに街が小さく見える」
「.....確かにな。この観覧車デカいからな」
「.....確かにね。デカいわ」
「.....そうだな」
目の前の有栖はモジモジしながら俺を見てくる。
というかチラ見というか。
俺は.....少しだけ咳払いしながら外を見る。
ヤバイな。好きとかじゃ無いけど結構恥ずかしいわ。
美少女と仮にも一緒なのだ。
それは恥ずかしいし.....とにかく心臓の鼓動が.....と思っていると。
「.....アンタ以外はあまり話した事無かったのにね」
「.....?.....何を?」
「.....あのクソババアの事。アンタの事.....信頼しているからかな」
「.....そうなのか」
「3姉妹だけしか話してない」
俺はビックリしながら有栖を見る。
有栖は苦笑しながらくすくす笑って俺を見る。
俺は頬を掻きながら.....有栖を口角を上げて見る。
すると有栖は、ねえ。アンタは本当に彼女は作らないの、と言ってくる。
「.....俺はそんなに良い人じゃ無いからな。作れないよ」
「それもまた卑下しているわね。違うから。絶対に」
「まあ俺は結局.....母さんの呪縛から逃れられないんだと思うから」
「.....そう。じゃあ私がもし呪縛を解いてあげるって言ったら」
「.....無いって。そ.....」
そこまで言い掛けて俺は有栖を見ると。
有栖の唇が俺の唇に重なった。
丁度、俺の頬を有栖が持つ形で、だ。
え.....ってか、えぇぇ!!!!?、と酷く驚愕しながら有栖を見る。
すると有栖は平然そうに俺を見てくる。
ふふっ、とか言いながら、だ。
「どうせアンタは言っても聞かないし。心から信じてもらうにはこれしか無いから」
「おま。お前!?!?!うっそだろ!」
「ふふっ」
「.....いや。割とマジに衝撃なんですけど」
「.....ファーストキスだしね。これ」
それから少しだけ頬を朱に染める有栖。
俺は愕然としながら有栖を見る。
そして.....俺の手を握ってくる有栖。
有栖は、アンタを側で支えるわ。好きな人を、と答えた。
「だから私達から離れないでね。.....あとこれは秘密だから」
「.....お前.....」
「.....ふふふ。美少女のキスなんて受けれない人も居るんだから」
「まあそうだけど!?」
「アハハ」
そしてゴンドラはだんだん下に降りて行く。
有栖はニコッと笑顔を見せながら俺を見つめる。
俺はその姿に、全く、と額に手を添える。
すると有栖は更にこう言った。
「正直言って人を好きになるとは思わなかった。.....当時はそんな気持ちも無かったからね。有り得ないけど。.....アンタが溶かした。私の心を」
「.....雪女みたいな心を、か?」
「そうね。特に男は信じれなかったから。有り得ないわ。もっと」
「.....そうか」
「責任取りなさいよね。春木」
いや。責任て。
俺のせいかそれ?
考えながら俺はため息混じりに有栖を見る。
有栖は.....笑顔を浮かべていた。
そしてゴンドラは.....地上に降りる。
それから俺達は外に出た。
「楽しかった」
「.....そ、そうだな。色々有ったけど」
「あら?そんなに不思議かな。ロマンチックならするでしょこういうの」
「しないって.....」
「アハハ」
そして俺達はまた手を繋いでみる。
それから俺達は次の目標を定めてみた。
次は.....ジェットコースターにでも乗ってみるか。
思いつつ有栖を見てからそう言う。
有栖は、アンタの行く場所なら何処でも、と答える。
「じゃあジェットコースターでも乗るか」
「そうね。分かったわ」
そうして俺達はジェットコースターに乗ろうと思い。
歩き出して行く。
すると有栖が、ねえ、と顔を上げた。
そして俺を見てくる。
春木は将来とか考えているの、と言葉を発した。
「それはどういう意味だ?」
「いや。考えているのかなって思って」
「.....考えるもクソも無いな。今現在で本当に手一杯だ。.....だけど.....お前らを見ていて人に関わる職業がしたいと思ったよ」
「.....人に関わる職業?」
「例えば老人の介護とかな。介護職だ」
そう。成程ね、と有栖は笑みを浮かべる。
それから俺の手を握る。
私は本当に目の前だけで精一杯だから、と話した。
俺はその姿に目線だけ動かして、そうなのか、と言葉を発する。
そうね、と答えた有栖。
「クソババアと親父のせいで全部壊れたけど。.....だけど春木が私にこの世界を見せてくれた。だから私は一歩を歩み出すわ」
「そうだな。俺もお前らを見てからそう思った。.....一歩を踏み出そうって」
「同じね」
「.....少なくとも悪い感じはしないな。今の状態なら過去を忘れて一歩を踏み出すのは。この家族なら何処魔でも行ける気がするから」
「.....そうね」
だから俺は姫を救いたい。
お前らもそうだけど今は姫の事を、と俺はジェットコースターを見上げながら言う。
有栖も、そうね、と俺を見てから頷く。
俺はその姿に、今はこの時間が与えられたから楽しむか、と笑みを浮かべる。
せっかくだしね、と回答する有栖。
「ジェットコースターなんて久々ね。私にとっては」
「まあ俺もだけどな」
「.....楽しみましょう」
「確かにな」
ちょっと怖いが。
それもまた一歩だと思うし。
思いつつ俺は.....ジェットコースター乗り場に行きつつチケットを購入してから有栖に渡そうとした。
すると有栖はお金を出す。
「さっきも奢ってもらったから」
「.....良いよ別に」
「良くないわ。受け取りなさい」
「.....は、はい」
でもやっぱり威圧は健在だな。
俺はお金を受け取りながら苦笑いを浮かべる。
そして俺は.....チケットを改めて渡してから。
そのままジェットコースターの順番を待った。
「.....そういえば春木。.....学校はどうするの?」
「.....サボったものは仕方が無い。学校側にはぶっ殺されるだろうけどな。それに俺の担任には。そして主任には。.....親父は納得しているから幸いだけどな」
「本当に御免なさい。私の妹達のせいで」
「命と学校とどっちを優先するなんて決まっている。だから全く問題無いし大丈夫だ」
「.....相変わらずだね。春木は」
相変わらずだよ、と苦笑する俺。
有栖は、でもそういうのは嫌いじゃないわ、と言う。
そして俺を笑みを浮かべて見てくる。
春木は春木らしく生きて、と、だ。
それから俺に寄り添う。
周りが、ァア?、的な感じになる中、だ。
「.....お、おう。.....し、しかしこんなに甘える様な人間とは思わなかった。お前が」
「アンタは兄貴でしょ。.....兄貴に妹が甘えても良いじゃない」
「.....意味が分からない.....」
「良いから分かりなさい」
「いや.....無茶苦茶だ.....」
俺は思いっきり苦笑する。
だけどまあ悪い気はしないな。
ようやっとスタート地点に立てた様な気分だ。
ここからが.....全ての始まりだな。
考えながら俺は.....山積している絶望を解決するシナリオを考える。
共に生きていける。
そんな未来を考える為に、だ。
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