5、有栖の秘めた思いを解く時

第20話 春木の独占権

この世界は様々な花が有る。

しかしその花が全て上手く咲き誇っている訳では無い。

個性が有るから。


時に絶望も有り。

喜びも有り。

そして時には悲しみも有る。


だから俺は姫を救うと。

そして夢色を、有栖を、みんなを。

救うと決めたのだ。

当時の俺だったら考えられなかった。

思いつつ俺は遊園地のベンチに座っている。


「わーい」


「.....楽しそうだな。夢色」


考えながら俺は目の前の遊んでいる姫と夢色を見る。

所謂、メリーゴーランドに乗っている。

俺はその光景を見ながら疲れた体を癒していた。


本格的にジジ臭いなって感じだが。

そう考えながら俺は苦笑いを浮かべながら紙コップに入っているジュースを飲む。

そうしていると親父と洋子さんと一緒に行った有栖が来た。


「何?もう疲れたの。ジジ臭いわね」


「あのな。何でそう俺の思っている事を直ぐに口にするんだお前は」


「ああそうだったの。お爺さん」


「こらこら」


そして有栖はスカートを丸める様にしながら俺の横に腰掛けた。

それから俺を見てから前の夢色と姫を見る。

夢色と姫は一緒に遊びながら笑顔を浮かべている。

するとそんな姿を見て有栖は俺を見てきた。


「.....私からもお礼を言うわ。有難う。春木」


「何がだ?」


「.....姫を自殺から救ってくれて有難う。.....私の大切な妹達だから」


「.....そりゃそうだろうな。心から大切な家族だと思うよ。.....本当に間に合って良かった」


「.....何であの場所が分かったの。春木」


俺か?.....カンだよ。何だかあそこが見晴しが良いしな、と回答する。

有栖は、そうなんだ、と言葉を発した。

すると有栖は、アンタって本当に不思議ね、と話す。

そして俺を見てくる。


「.....そうだな。俺自身も全く分からないけどな。自分自身が」


「.....そうね。.....だから私もアンタを.....」


「え?」


「.....何でも無い。.....聞き返さないでよ」


「意味が分からん」


そして有栖は持っていた小型の鞄から何かを取り出した。

蝶のキーホルダーだ。

俺は?を浮かべながら見ていると。

有栖はそれを差し出してきた。

そして俺を柔和に見てくる。


「.....アンタにあげる。.....これは私の3姉妹の意味の大切なキーホルダーだけど」


「え?.....何でくれるんだ?」


「.....アンタも家族だから。.....そして3姉妹が認めたって事。これをアンタにあげるって事は」


「.....!」


「.....これからも宜しく」


有栖は少しだけ恥じらいながら俺を見てくる。

俺は、そうか、と苦笑いで答える。

そして.....蝶のキーホルダーを受け取った。

それから俺は持っていたスマホに身に付ける。


「.....有栖」


「何」


「丸くなったな。お前」


「.....アンタのせいよ。ここまで尖らなくなったのは」


「.....そうか」


俺は笑みを浮かべながら有栖を見る。

有栖は俺に少しだけ笑みを浮かべてから。

俺と一緒に前を見た。

それから.....メリーゴーランドを見る。

そういえば親父と洋子さんはどうしたんだ。


「親父と洋子さんは?」


「.....基樹さんとお母さんはデート中よ」


「.....成程な。.....親父め.....」


「お義父さん面白い人ね。本当に」


「そうだな。俺を守ってくれたのも親父だったからな」


最大のミスだったと言っているよ。

と俺は有栖に答える。

その言葉を聞いた有栖は、ミスじゃ無いわ、と言う。


それから俺をジッと見てくる。

アンタのお母さんとお義父さんが結婚しなかったらアンタという存在は産まれなかったんだから、と言葉を発した。

俺は目を丸くする。


「アンタみたいな人が産まれなかったって事よ」


「.....確かにな。奇跡は奇跡だしな」


「アンタは本当に良い人よ。私が好きになる程にね」


「.....え?」


「.....あ」


今、告白された?俺。

思いつつ有栖を見つめる。

有栖は真っ赤に染まっていく。

そして、な。何でもない!忘れなさい!、と有栖は慌てる。

いや、忘れないけどな。


「お前.....俺が好きだったのか?」


「.....ち、違うし」


「.....まあそう否定すんな。有難うな」


「煩いわね.....」


頬を真っ赤に染めながら。

有栖は羞恥故か前を見つめる。

でも好きになったものは仕方が無いでしょ、と話す。

珍しい反応だな。


「.....俺なんかを好きになっても仕方が無いぞ。しかし」


「.....アンタ自らを卑下しているけど違うわよ。.....アンタは私達を何度も助けてくれた。だからアンタは本当に格別の人だと思うわ。私が好きになったぐらいの人だから」


「.....そんなもんかね」


「.....そうよ。自信を持ちなさい」


有栖は隠す事なく俺に、好き、と言う様になった。

俺はその姿に赤面する。

そして口元に手を添えながら、ああもう可愛いなお前、と呟く。

すると有栖は、何を!、と真っ赤になる。


「.....私は可愛く無いし」


「.....可愛いっての。良い加減にしろ」


「.....アンタね。.....どんだけ落としてきたのよそれで女性を。良い加減にして」


「いや。普通思うだろ」


「言葉にしないわよ。普通」


そんな感じで言い争っていると。

姫と夢色が猫耳を着けて戻って来た。

まあ何と言う可愛さなのか。

と思いつつ姫と夢色に笑みを浮かべる。


「何の話をしているの?」


「何の話でも無いわ」


「もしかして恋バナ?」


「違うし!」


「あー。恋バナだね。アハハ」


姫!揶揄わないの!

と怒りながら真っ赤になる有栖。

すると夢色が俺の腕に縋ってきた。

そして俺を見上げてくる。


「お兄。でーとしよ」


「いや。ちょっと待てあの2人はどうするんだ」


「さしおいて、だよ」


「駄目だろ.....」


ちょっと夢色!抜け駆けしないの!、と姫が言う。

そして夢色をひっぺがそうとする。

夢色は、いやー!、と言いながら抵抗する。

有栖も困惑した様に見ていた。


「じゃあさ。決めない?何かゲームで今日1日誰がお兄ちゃんを独占出来るか」


「そうだね。それいいかも」


「私はどうだって良いけど」


「またまた〜。お姉ちゃんそれは無いよ。絶対に」


「.....良いってば。私はどうでも」


俺をチラチラ見ながらそう反応する有栖。

その光景に俺は盛大に溜息を吐きながら答える。

そんだけしているのに、どうでも、って事は無い。

参加しよう。有栖、と言う。


「.....アンタが言うなら」


「じゃあお姉ちゃんもね。.....よし。誰がお兄ちゃんを独占出来るか!ゲームだよ!」


「おー!」


夢色が嬉しそうに反応する。

そして3姉妹は俺を賭けて勝負をする為に移動を開始した。

やって来た場所は.....輪投げゲームが出来る場所だ。

俺は後ろ側で成り行きを見守る。

で、100円入れて輪投げをして.....結果。



「私とデートするとは思わなかったわ」


「まあそうだな」


「.....アンタは嬉しい?」


「嬉しいよ。俺は」


「.....そ、そう」


結論から言って俺の事は有栖が独占する事になった。

だけど有栖は何だか嬉しそうな感じだ。

俺はその嬉しそうにはにかむ姿を見ながら前を見る。

こうして歩くと本当にデートの様だ。


「夢色と姫は、配慮するね、とか言って行っちゃったし.....」


「.....まあ相変わらずだな2人とも」


「.....」


「.....」


2回目だが。

どうすれば良いか分からない。

しかし今回は違う。

有栖はチラチラと遊具を見ている。

乗りたい様だった。


「観覧車.....乗るか。有栖」


「え、い、良いの」


「乗りたいんだろ。お前の目がそう訴えている」


「う、うん」


あ。あのさ、と俺の手を見てくる有栖。

俺は、何だ有栖?、と聞くと。

手を握っても良いか、と尋ねられた。

俺は赤くなって頬を掻く。


「まあ良いけど.....」


「分かった。じゃあ握る」


「お前。本当に積極的になったよな」


「煩いわね.....折角だと思ったのよ」


「.....はいはい」


そして俺達は手を互いに握ってみる。

あれ?これやけに恥ずかしいんですけど.....どうしたら良いのでしょうか?

思いつつ俺と有栖はそそくさと観覧車乗り場に向かった。

ヤバい、心臓がドキドキするのだが.....。

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