第15話 変わりゆく世界

有栖も。

姫も。

そして夢色も。


みんな傷付いている。

だけどその中で最も傷が付いていたのは.....姫だった。

俺は心の底からショックを受ける。


今もずっとイジメを受けてそしてボロボロになっている姫の事を聞いて。

そして周りにそれを伝えない様に必死にしている姫の姿を見て.....俺は折角のパーティーに半分ぐらいしか乗る気にならなかった。


その間、姫は俺にニコニコしていたが、だ。

俺はその姿を受けながらジュースの入った紙コップを見る。

かなり複雑な思いだ。

すると姫がコントローラーを差し出してきた。


「お兄ちゃん。そんな顔しないで。ゲームしよ」


「.....姫.....」


「そうよ。何でそんな暗い顔をしているのアンタ。辛気臭い」


「.....そうだな。分かった。ゲームすっか」


でも正直言ってそんなに乗る気にならない。

考える事が多過ぎて。

ショックがデカ過ぎて.....だ。


姫も少しだけ俺を神妙な顔で見ていたのをチラ見する。

さて.....どう歩むべきなのかここから先、と。

その様に考えざるを.....えなかった。



親睦会はそれなりに成功した。

夜、自室で俺は奈々を見送ってから後頭部に手を添えて天井を見上げる。

しかしながら絶望的だ。

俺が、だ。


どうにかしてやりたい、と思うが。

学校のイジメに手を.....伸ばして良いのだろうか。

それに改善するとは限らないし。

迂闊に手を出して良いものでは無い。


「.....クソッタレ。忌々しいな。そして相当にもどかしいな。.....俺の姿を見ている様だ。まるで.....当時のあのイジメられていた」


俺は昔、イジメを受けていた。

しかしそんなに酷いものでは無い。

つまり.....姫より全く酷く無い。


だけど姫は。

その全てで地獄を見ている。

今もずっと、と考えていると。

ドアがノックされた。


コンコン


「.....?.....はい?」


「.....私。有栖だけど」


「.....は!?有栖!?」


俺はガバッと起き上がってから。

そのままドアを勢い良く開けてみる。

そこに.....有栖が寝巻き姿で立っていた。

俺をジッと真顔で見ている。

それから後ろを指差す。


「お風呂入ってくれない?」


「.....え?.....あ、ああ。すまないな」


「.....それから」


「.....はい?な、何でしょう?」


何かまたとんでもない事に足を踏み入れてない?アンタ。

と俺を眉を顰めて見てくる有栖。

俺はギクッとしながらも。

直ぐに姫の事を考えて首を振った。

それから笑みを浮かべる。


「どういう意味だ。俺は何時も通りだぞ」


「そうやって嘘を吐くの?自分自身は私達に真面目になれとか変に真面目に行動しながら。それで良いと思っているのアンタ」


「.....嘘を吐いてないよ。俺は」


「.....じゃあ何でそんなに滅茶苦茶に落ち込んでいるのよ。隠しているつもり?.....こんだけ見ていれば流石に分かるわ。落ち込んでいるのが。家族とかそれを置いてでもこれだけ一緒なら」


「.....隠し切れてなかったか」


そうね。

初めから認めなさい。

と言うか.....まさかまた私達の事なの?アンタ?

と言葉を発しながら俺を真剣な眼差しで見てくる。

俺はその事に口が滑りそうになったが姫の言葉を思い出す。


お願いこの事は誰にも言わないで、と。

特に姉妹には、と。

その事で.....拳を握り締める事しか.....出来なかった。

するとその手を有栖が握ってくる。

か細いがそれなりに艶のある手で、だ。

女の子の手だ.....って!?


「.....そういうのって一番止めてほしいんだけど。太陽である筈のアンタがこんなに辛気臭いのは私達が一番辛いんだけど。そして滅茶苦茶に何だか腹立つし。話してくれない?アンタの悩み」


「有栖.....お前」


「あの雨の日に.....私の手を無理に握った癖に。.....これが嫌とは絶対に言わせないわよ」


「.....」


「話すまで戻るつもり無いから。だから話しなさい。今直ぐに」


有栖は柔和な顔をする。

するとヒョコッと、私もいるよ、と夢色が顔を見せる。

ニコニコしつつ俺を心配そうな顔で、だ。

可愛いピンク色の水玉。

俺は.....その2人を見ながら、ったくお前らという奴は.....、と涙を浮かべる。

それから涙を袖で拭う。


「.....どんな事でもショックを受けるなよ。お前ら」


「.....うん」


「.....うん。もちろん。覚悟してるよお兄」


「.....部屋に入ってくれ。取り敢えずは」


そして俺は姫に内緒で2人を招き入れる。

有栖はベッドに。

夢色は前、俺と一緒に居た場所に座る。

俺はそれらを確認して2人を見る。


「.....姫の件だ」


「.....何があったの?姫お姉ちゃんに」


「.....姫な。.....かなりイジメを受けているらしい。それも壮絶な。3姉妹の事も関係しているらしいが.....」


「.....え.....」


「!?.....それって本当に?」


そうだな。これは全て事実だ。

俺しか知らない。

と俺は2人を唇を噛んで見る。


2人は。

というか有栖がかなりショックを受けて口が開いたままになっている。

夢色は、そんな.....、と泣き始めた。

嘘だ、と、だ。

そうだ。


夢色が一番分かるのだろう。

イジメの事に関して、は、だ。

思いつつ俺は唇を隠す感じで口元に手を添える。

そして真っ直ぐに見る。


「姫には内緒にしてくれと言われたが。.....内緒にするのはどうしても苦しかった。どうやら学校の裏サイトでもぶっ叩かれてストーカー行為を受けているみたいだしな」


「.....何でそんな酷い.....。そんな事を話さないの。あの子は.....」


「.....姫お姉ちゃん.....ひどいよ」


「アイツは強いからな。.....本当に強いから。だからその分、弱いんだ」


「「.....」」


2人は俺の言葉に沈黙する。

そして、で。言われてもし1人だったらどうする気だったの。アンタは、と俺を目線だけで有栖が見た。

俺は、行動をどう取ったら良いか分からなかった、と答える。

それから、取り敢えずは学校側に訴えるべきだとは思った、と答える。

すると有栖は俺の言葉を聞いて、取り敢えずはあの子に説得しよう、と言う。


「.....直球でそれをしてどうにかなるとは思わない。.....取り敢えずは無理矢理でも姫を学校に行かせない様にしなければいけないな」


「.....そうね。学校に行かなければ良いのよね。.....あのクソ学校.....ふざけた真似を」


「わたし、学校休むなら姫お姉ちゃんと一緒に遊ぶ。絶対に」


「.....しかし姫がこれら全てに納得するか、だな.....」


無茶苦茶な展開だが。

この2人は真剣に考えてくれている。

姉妹の事だから、では無い。

信頼の全てだろう、きっと、と思える。

それから有栖は、取り敢えずは何としても休ませる。お母さんにも話すわ、と言葉を発した。


「姫。彼女は無理をしているんじゃ無いけど.....多分あれは全部、隠す為の本当の笑顔じゃ無いんだ。これを本物の笑顔にするには.....お前らだけが、そして洋子さんだけがきっと頼りだと思う。この場合は多分.....」


「いや。アンタも頼りよ」


「.....え?」


「.....この問題は私達じゃ無理よ。言い聞かせるのとか。.....アンタも私達に協力して。.....兄貴。お願い」


「そうだよ。おにい」


俺に頭を下げた有栖。

そしてそれを真似して深く頭を下げる夢色。

それから、お願いします、と言葉を発してくる。

俺は驚愕しながらだったが。

それでも、分かった、と答える事が出来た。


家族間の絆。


それが回線を繋ぐ様に繋がり始めている。

そんな気がした。

俺は顎に手を添える。

撫でる様に、だ。

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