第8話 その全てを忘れた訳では無い

何か良く分からない状態だ。

納得がいかないとかじゃ無いけど何だか複雑。

首を傾げる事態が多い様な。


心がモヤモヤするって言うか。

根本の全てを姫は教えてはくれなかった。

奈々と別れながら帰る俺達。

俺は腕を組んで?を浮かべて首を傾げる。


「結局何がどうなっているのだ?」


「アハハ。教えないよ?絶対に」


「そう。ひみつ」


「.....うーん。.....何かなぁ」


「でもうーん。気がつかないなんて鈍感」


少しだけ悲しそうに指をくるくる回転させる夢色。

意味が分からないし何が鈍感なのか。

いや、まあとある可能性は浮かぶんだけど有り得無いだろ。


幾ら何でも、と思って否定される。

その感情の名を(恋)と言うが。

何度もいうが流石に有り得ないんだが。


「でもでもぉ。夢色にそういう感情にさせるのは凄いねぇ。お兄ちゃん?アハハ」


「.....うーん.....」


「でも幼馴染さんが居るなんておもわなかった」


「ああ。話す機会が無かったからな。すまん」


「話す機会が無かった?.....隠してたんじゃ無いのぉ?お兄ちゃん」


いやいや姫。

勘弁してくれよマジに、と思いながら苦笑いを浮かべる。

それから俺は姫の頭をぐりぐりする。


姫は、キャー、と言いながら俺から笑顔で逃れる様にする。

そうしていると.....目の前を誰か歩いているのに気が付いた。

見ると有栖だ。

俺達は顔を見合わせてから駆け出す。


「よ。有栖」


「!?.....な、何。どうしたのアンタ達」


「荷物を重そうに持っているじゃないか。持つぞ。スーパーに買い物か」


「お使いね。確かに。っていうかこれぐらい持てるけど。そんな優しくしなくて良いから」


「まあまあ」


姫が仲裁に入る

それから有栖にニコッと笑顔を見せる。

そうしてから、お姉ちゃん。お兄ちゃんが持つって言っているんだから預けたら?、とウインクを見せる。

そう、と夢色も賛同する。

俺はその2人の姿に笑みを浮かべながら有栖を見る。


「.....全く。まあ2人がそう言っているから仕方が無い。アンタ持ちなさい」


「.....素直にそう言え。お前は」


「.....」


「.....何だよ」


「.....別に。アンタは本当にこの地球上最も訳が分からない存在だって思っただけ」


訳が分からない存在、か。

確かにな。

今の俺も何でこんな事をしているのか分からん。

正直言って.....妹とはいえ。

こんな馬鹿な事をするのが、だ。


「アンタはそんなに女性にモテたいの?それとも何かあるの?」


「疑り深いな。俺はそんな単純な気持ちは無いんだが」


「.....変人ね。本当に」


「.....変人じゃ無いけどな。まあ」


まだ1パーセントも満になっているとは限らない。

だけど.....俺はそれでも。

少しだけでも歩みだせたらな、と思う。


例えばそうだな。

それが一滴とかパーセンテージを満たさなくても、だ。

俺は思いながら有栖の荷物を持つ。

するとそれをみんなが持ってくれた。

俺は、有難うな2人とも、とお礼を言う。


「全然構わないよ。お兄ちゃん」


「だね。姫お姉ちゃん」


有栖は俺と妹達を見ながら溜息を吐く。

それから俺に向いてくる。

アンタの様な男がいっぱいだったら.....良かったのに、と呟いた気がしたが。

曖昧で聞こえずらい。

それを本当に呟いたのか聞き返す勇気も無いので.....そのままにした。



「お兄」


「.....?.....どうした。夢色」


「お兄の部屋に行きたい」


「.....何で?.....来ても面白く無いぞ?」


洗濯物を畳みながら。

俺の作業を手伝っていた夢色がそう言った。

蝶々の髪留めを直しながら、だ。

俺は夢色に溜息を吐く。

そして苦笑しながら夢色を見た。


「分かった。でも刺激が強いものがあるから片付けるからちょっと待ってくれ」


「.....何それ。女の子のはだかとか」


「.....いや、そういうものじゃ.....」


「お兄.....本当にない?お兄は男だから」


「.....」


無いと言えば嘘になる。

思いながら俺は夢色に冷や汗を流す。

ジト目がキツイ.....。

と思っていると夢色の顔が何だか.....青くなってきた。

俺は目を丸くする。


「.....おと.....こ.....だか.....ら?」


「夢色?どうした?何だか顔が青いんだが.....」


「.....」


そして見開いて夢色は横にばたんと倒れそのまま苦しそうにゼエゼエ言い始めた。

俺は愕然としてそのまま立ち上がる。

スマホを踏んじまってなんか音がしたがそんな事はどうでも良い!

何だ一体!?、と思いながら、誰か来てくれ!、と絶叫した。

洋子さんが顔を見せる。


「.....!.....まさか.....」


「ゆ、夢色が.....洋子さん!いきなり倒れたんです!」


「大変!薬を.....!」


「え.....!?」


そして喘息の薬の様な物を戸棚から出した洋子さん。

それから夢色に吸わせた。

ゼエゼエ言っていたのが小さくなる。


俺は???を浮かべながら洋子さんを見る。

洋子さんは顔を顰める。

そして夢色のその白い髪の毛をゆっくり撫でた。

悲しげな顔をする。


「.....久々ね。無理していたのかな」


「えっと.....これは何ですか?洋子さん」


「.....ごめんなさい。基樹さんには話したけど春木君には話して無かったわね。.....これは喘息よ。.....粒子とかじゃなくて心の病気の.....」


「え.....?」


「.....虐待されていたのよこの子は。そして私もDVを受けていたの」


「.....!」


苦笑して夢色を静かに膝枕させる洋子さん。

それを聞いてから俺は思い出す。

確か有栖が俺を恨んでいた理由を、だ。

それは.....親父に夢色が虐待された、という事を。

そして眉を寄せて唇を噛む俺。


「.....御免なさい。最近、夢色は過去を思い出さない感じで楽しそうで発作が無いからそれなりに大丈夫と思っていたのだけど.....君に心配を掛けさせちゃったわね.....」


「.....いえ.....」


そして姫と有栖も急いでやって来て駆け寄って来る。

心配げな悲しげな顔で、だ。

俺はその姿を見ながら夢色と洋子さんを見て拳を膝の上で握った。

どれだけ苦労していたのだろう。


そしてどれだけ苦しかっただろう。

そんな気持ちが自然と湧き上がってきて.....複雑な思いだった。

夢色はずっと汗を流していたが.....喘息などは落ち着いた様である。

俺は安心しながら倒れた衝撃で外れた蝶々の髪留めを拾う。

それから.....夢色に無言で真剣な顔で持たせた。

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