第10話 長女の有栖の過去

俺は正直言って.....3姉妹と仲良くしようとか思わなかった。

そして相手の再婚相手の女性もどうでも良いと思っていたのだが。

だけど俺は.....思う。

今は違う、と。


俺は3姉妹を見ていて。

それから洋子さんを見ていて.....。

世界は全然違うと思ったのだ。


相変わらず明るい訳じゃ無いけど.....。

俺の母親に散々否定されたからそれは仕方が無い。

だけど色は違う気がした。


思いながら俺は学校から帰って来ての午前中授業だった金曜日。

目の前の3姉妹を見る。

3姉妹は写真を撮ってくれ、と言ったので俺は写真を洋子さんのスマホで撮る。

洋子さんと4人で、だ。


その洋子さんは、仕事から基樹さんが帰って来たら基樹さんと共に撮りましょう、と言っている。

俺は少しだけ恥ずかしく思いながらも頷いた。

そして自宅の前で写真を撮る。

すると撮り終えてから有栖が俺をジト目で見てきた。


「何にやけているの?気持ち悪い」


「相変わらずの毒舌だなお前。色々考えたんだよ」


「そう?何を考えたの」


「.....」


『えへへ。お兄だけだよ。こんな事するの』


一気に身体が熱くなった。

スマホを見て。と言うよりも.....、と思いつつ夢色を見る。

夢色は俺の姿に、ニヤッ、としていた。

勘弁してくれよ本当に.....、と思う。

あんなに積極的だったか?


「何?何かしたのアンタ。何かキモイ」


「.....あのな.....何もしてねぇよ」


「夢色が部屋に行ったけど。まさか.....」


「手を出してねぇよ!!!!?」


何を言ってんだよ!

あらぬ疑いを掛けるな!?、と思いながら。

俺は洋子さんにため息交じりでスマホを返す。

洋子さんは、有難うね、と言いながら受け取りつつ俺の頭を撫でてくる。

そして柔和な顔をした。


「.....貴方は私の良い息子ね。やっぱり」


「.....洋子さん.....」


俺はビックリしながらもナデナデに少しだけ穏やかになる。

するとその間に有栖が割って入って来た。

それから俺を見る。

全く、と言いながら、だ。


「はいはい。うちのお母さんを取らないで」


「あらあら。嫉妬かしら?有栖」


「え!?ハァ!?違うよ!?お母さん!」


「ハハハ」


そんな子供じゃないもん、と有栖は頬を膨らませる。

それから俺達は笑い合う。

そして家の中に戻って来た。

すると姫が、お兄ちゃん、と俺を見上げてくる。

ニコニコしながら、だ。


「どうした?姫」


「うん。えっとね。親睦会やろうかと思って」


「.....は?」


「お姉ちゃんとお兄ちゃん、そして夢色と私。それでね。仲良くなる為の親睦会みたいなの」


いや。それは。

仲良くなれないだろそもそも俺と有栖は。

俺は苦笑いを浮かべながら姫を見る。


次に洋子さんと話している有栖を見る。

有栖は全く何も知らない様だ。

俺は顔を引き攣らせた。


「ねえねえ。姫お姉ちゃんたち。なにを話しているの」


「.....ん?そうだね。夢色。えっとね。親睦会やるよ」


「.....え?親睦会?」


「そうだよ。親睦会だよ。有栖お姉ちゃんも強制参加で」


「いや.....強制参加かよ」


そうだよお兄ちゃん。アハハ。

と笑顔を見せる姫。

強制参加って更に参加しないだろ。

俺は顔を更に引き攣らせる。

すると、何話しているのよアンタ達、と有栖が来た。


「親睦会するよお姉ちゃん」


「.....それって強制?」


「当たり前じゃん。強制だよ?だってお姉ちゃん居ないと意味無いし」


「.....何時やるの」


「明日、土曜日だよ♪」


ふーん、と俺を見てくる有栖。

それから、じゃあ参加する、と答えた。

やっぱりお姉ちゃんは、と言い掛けた姫の目が飛び出る。

まさかの答えだった様だ。

俺も愕然とする。


「別に人に誘われるのは嫌だけど。家族だし」


「.....お姉ちゃん?」


「.....有栖お姉ちゃん.....」


「お前。まさかそんな答えが出るとは思わなかった」


「私を何だと思っているの。嫌な事ばっかりしないわよ」


それにアンタが言ったんでしょ。

妹達に迷惑ばかりを掛けるなって、と笑みを浮かべる有栖。

俺は見開きながら.....口角を上げる。

ああ。有難うな。約束守ってくれて、と答える。

そして姫と夢色は顔を見合わせながら笑顔を見せた。


「じゃあ親睦会開催決定!!!!!」


「いえーい!」


「.....」


「.....おう」


有栖はあまり親睦会に乗る気じゃない様だが。

それでも有難い。

これは結構な一歩だな。

思いつつ俺はみんなを見た。


すると.....姫が、じゃあ今から親睦会開催の為に飾り買って来てくださーい!、といきなりくじ引きの紙を笑顔で取り出した。

そしてこう言う。


「でもお兄ちゃんは強制でーす」


「.....罰ゲームより酷いな!?」


「さてさてー。組み合わせは~?」


「話を聞けよ」


俺はツッコミを入れながら額に手を添える。

まあ大体姫の予想通りで仕方が無いのだろうけど。

思いつつ俺はクジを引く3人を見る。

そして.....。



「何で私がアンタと一緒に.....」


「まあ.....仕方が無いだろう」


「仕方が無いにせよ.....」


「まあまあ」


飾り付けを買う役目。

それは俺と有栖になった。

何だか夢色はガッカリしていたが。

夢色は外に出たがらないんじゃ無かったのか?

思いながら俺は顎に手を添える。


「.....」


「.....」


姫と夢色が送り出したのは良いが。

取り合えずどうしたもんかな。

ニュースとか好きな物とか。


それでも全く会話も続かないんだが。

困りつつ考えながら歩く。

すると有栖が言葉を発した。

驚く俺。


「.....アンタはどんな人生を歩んで来たの」


「.....いきなりだな。ビックリだぞお前」


「.....は?何で驚くの。.....まあ少しだけ興味があるしね」


「.....俺の人生は簡単に言うと経験値の山積以外何も無かった」


「?」


それはどういう意味なの?、と有栖は真顔で聞いてくる。

俺は空を見上げてから、夢色には話したけどな、と苦笑いを浮かべた。

そして俺は有栖を見る。

自嘲気味の笑みを浮かべた。


「レベルアップをする訳でも無いのに俺は経験値が必要だった。.....当初は母さんに認められようと思う経験値だ。だけど今となっては.....って感じだな。そんな人生だったよ」


「.....」


「.....正直才能無かった。俺には。.....でも母さんは強要したんだ。それで壊れてね。俺の中の何かが」


「.....アンタも同じなのね。.....私もそうだったけどね」


「え?」


私の場合は.....祖母ね。

と答える有栖。

それから、クソババアが死んでせいせいした、と答えた。

俺はその言葉に、そうか、とだけ答える。

すると有栖は話を続けた。


「私はピアノだった。.....上手くならなかったけどババアが音楽家で。.....やれって言うから。長女として貴方は優秀になりなさいと。やらされた。.....苦痛だった」


「.....そうなんだな」


「うん。.....鞭を打たれながらの深夜を削ってのピアノ練習。父親の夢色への虐待。.....私の個性はその時に死んだかもね」


「.....」


ピアノを触るのが嫌で仕方が無くてね。

と皮肉な感じで笑みを浮かべる有栖。

俺はその姿を見ながら.....見開いた。

同じ顔だな、と。

腱鞘炎にもなったのに得られるものは何も無かった、と有栖は言う。


「ババアのせいで人生が狂った」


「.....お前も酷い目に遭ったんだな」


「.....アンタと同じよ。だから.....男を信用出来ないのもあるけど老人も嫌い」


「.....」


すると有栖は俺を見てきた。

でもアンタの行動を見ていて世の中悪い事ばかりじゃ無いんだなって思った。

アンタは.....不思議な人ね、と俺に笑みを浮かべる有栖。

俺は見開く。


「.....全くな。そうやって何時も笑ってりゃ可愛いのにな。お前」


「.....何か言った」


「何も」


俺は目を閉じてクスクスと笑う。

有栖は頬を膨らませた。

そして俺達は歩いて行く。

果てしない道のりの様に感じる道を、だ。

だけどそうでは無い道を。

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