第18話 死ぬ事で全てが救われるから

姫が居なくなった。

俺は青ざめながら姫に電話する。

高校もほったらかしで全力で街中を走る。


人にぶつかりながら。

そして人をかき分けながら奈々と共に探す。


何処だマジに何処に行ったんだ姫。

頼むから死ぬ様な真似をするな。

これ以上、何かを俺は失いたくない!

俺は思いつつ走っていると.....この街のそれなりに良い景色が見える高台に着いた。

息を切らす。


「ゼエゼエ.....」


マジにあてが無いんだが。

どうすれば良いのだ。

これはマジにどうしたら良いんだ。

俺は.....どうすれば良い?

親父!


「.....!」


そうしていると。

目の前の高台の柵の先。

立ち入り禁止区域に姫が立っているのに気が付いた。


つまり崖の先。

いや。ちょっと待て。

アイツ.....飛び降りようとしている!

俺は携帯を、全ての荷物を投げ捨てた。

そして最後の力を振り絞って全力で走ってから姫の肩を掴む。


「.....おに.....いちゃん?」


「.....お前。マジのマジにふざけんなよお前。何やってんだコラ!」


「.....何やっているって死のうとしているんだけど」


「.....」


とにかくあと一歩で死ねる場所だ。

俺は姫を連れてそのまま柵を超えてから。

ベンチが有ったのでそこに座らせる。

姫は全く姫の気配が無かった。


顔の表情が死んでいる。

俺は歯を食いしばってから。

そして拳を握り締める。


「.....お兄ちゃん。何で止めるの。私が死ねば全部解決するよ」


「.....死ねば良いってのも納得がいく。でもな。.....お前が死ねば夢色も有栖も.....それどころか洋子さんもそして親父も。そして俺もみんな苦しむからな!お前は目の前の死だけを見ているかもしれないけど!」


「.....お兄ちゃんはアホだね。こんな子は要らないよ。余計な真似をする子だから。.....死ねば良いんだよ。私なんて」


姫は自嘲気味に笑う。

駄目だ.....何を言い聞かせれば良いのだ?これは.....。

俺は思いつつ額に手を添える。

そして.....眉を顰める。


困ったな本当に。

考えながら俺は姫をジッと見つつ。

とにかくと奈々にメッセージを送った。

そして改めて姫を見る。


「.....私は死ぬべき存在だよ。みんなよりもね」


「.....」


「.....だからお兄ちゃん。.....死なせて」


「.....駄目だ。それで解決するなら俺も死んでいる。とっくの昔にな。お前は死なせない。そしてこの先も一緒に生きるんだ」


アハハハハ。

お兄ちゃん。それは無理だよ、と姫は大笑い。

それから俺をジッと見てくる。

死んだような目で、だ。

クマが出来ている。


「みんなを幸せにするなら私は死ぬべき。そしてみんな.....私を.....」


「いい加減にしろ!!!!!」


俺は姫に絶叫した。

姫は驚愕しながら俺から目線を外していたが直ぐに俺に戻す。

そんな絶叫をするとは思わなかった様である。


そりゃそうだろうな。

喉が痛い。

今ので、だ。

俺は膝を曲げて埃塗れのズボンのまま膝を曲げて姫を見つめる。


「お前は.....命を投げ出すのか。そんな事をすれば.....洋子さんがどんだけ悲しむと思ってんのか.....分かって無いだろ。俺達以上に悲しむのは洋子さんだ。姫。そしてお前は死ぬには若すぎる」


「.....じゃあお兄ちゃん。.....貴方は私と地獄に堕ちてくれる?一緒に。.....そんな事出来ないよねアハハ。今までも色々な人が恐れおののいてだったからね。だからお兄ちゃん.....」


「.....地獄でも閻魔でも.....一緒に。お前と一緒に会いに行ってやるよ。このまま一緒に居てやるよ。俺は」


「.....え.....」


何なら今すぐにお前の為に犬にでもなってやるよ。

兄貴を捨ててやるよ。

この魂はお前の為に生きてやるよ。

だから頼むから死ぬな、と俺は姫の手を握る。

姫は衝撃を受けていた。


「.....お前が死なないなら何でもする」


「.....まあでも言葉だけでしょ。お兄ちゃん。.....じゃあ学校をサボってそれから朝から日が沈むまでずっと手を握って一緒に居てくれる?.....アハハ。そんなの無理だよね。分かってるよ」


「.....良いよ。.....その一部をやってやるよ。今から」


姫は、え?、と目を丸くする。

俺は草道に捨てていたスマホを拾った。

そのまま学校にナンバーし電話する。


そして、もしもし。俺は2年の八島春木って言います。学校を飛び出した馬鹿野郎ですが俺の担任に言って下さい。暫く学校サボります、と電話した。

事務員が、ちょ。き。君!?、と言う中。


俺は電話をブチッと切る。

その中で姫が愕然として俺を見る。

俺は?を浮かべて姫に向く。


「.....何だよ。お前がやれって言ったんだぞ。姫」


「.....お.....お兄ちゃん馬鹿なの?一緒になんて無理だって。.....冗談のつもりだったのに.....」


「丁度良い。家で勉強すればいい。つうか俺もかったるく思ってたしな。嫌な場所に無理に行く必要無い。お前の見本になったろうしな」


「.....」


俺を見つめたままポロポロと涙を流す姫。

何で。そこまで。するの。お兄ちゃん。

と言葉が途切れ途切れで.....そのまま号泣し始めた。


嗚咽を漏らし始めた。

口元に手を添えながら、だ。

俺は、それは、と説明しようとした時。

奈々がやって来た。


「はるちゃん!」


「.....おう」


「奈々ちん.....?まさか奈々ちんまで学校サボったの.....?」


「うん。当たり前だよね。居なくなった大切な友人の為なら学校ぐらい当然の様にサボるよ~。アハハ」


意味が分からない。

何でこの私の為に?、と大粒の涙を流す姫。

地面が水玉になっていく。

俺は姫の頭をガシガシした。

心配そうに奈々も姫を見つめる。


「.....もう良いか。この事をみんなに言っても」


「.....良いよ。.....どうせもうこんな.....バレているだろうし」


姫は涙声で俯いたままそう言う。

そうか、と俺は複雑な顔で返事をする。

そして静かに奈々を見る。


奈々は、何があったの?、と悲しげに聞いてくる。

その事に俺は説明した。

1から全部、だ。



「馬鹿.....姫ちゃんの馬鹿.....何で黙ってたの.....」


「.....御免なさい」


「.....」


やって来た夢色が、奈々が、姫が。

3人が涙を流しながら固まる。

俺はその姿を見つつ.....複雑な顔を浮かべたままにする。

すると.....奈々が顔を上げた。


「.....はるちゃんも.....馬鹿.....何で話してくれなかったの」


「.....すまん」


「.....ゆるさない。次は絶対に話してよ。お願い。こんな重要な事」


「.....そうだな」


すると今度は姫が顔を上げた。

そして.....俺を見つめる。

ゴメンねお兄ちゃん。学校が.....、と呟く。


ああ。そんな事か。

どうだって良いんだ学校なんぞ。

何日も行かなくても卒業は出来るしな。


「.....姫。それはもうどうでも良いんだ。.....それよりも落ち着いたか」


「.....まだ生きる意味が分からないけど.....お兄ちゃんの言葉が重くのし掛かった」


「.....そうか」


「.....だからお兄ちゃん。私と一緒に居てね。そして.....私と付き合ってね」


「.....ああ。.....へ?」


何の事だ、と俺は目が点になる。

すると、あーあ。

姉妹って何でこうも同じなんだろう、と姫は頬を赤くしながら俺を見てくる。

それはどういう意味だ、と思っていると夢色と奈々が固まっていた。

俺は???を浮かべながら姫をキョトンと見る。


「.....恋愛対象。.....好きになっちゃった。お兄ちゃんの事」


「.....へ?.....えぇ!!!!?」


「.....だから今から恋人という事で付き合ってくれない?お兄ちゃん」


「今それを言うか!?」


何でだよ!!!!!

すると夢色が、ダメェ!、と涙目で割って入って来る。

それどころか奈々も、だ。

俺はその姿に姫と共に笑った。

良かった。取り敢えずは、と思いつつ、だ。


「.....でもこの先どうする」


「.....そうだね」


「.....うん」


顎に手を添える俺達。

立ち向かわなければいけない。

全ての敵に、だ。

俺達は笑い合ってから.....真剣に考える。

さあ.....どうしたもんか、と思いつつ、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る