STAGE3:同期

3-1:新人対決

「さってと、これで君たちも晴れてノービスクラスに昇格だね。

ようこそ、ヴァルキリーゲームズへ♡」


ミト・コロシアムの事務所にて。

両手を広げて歓迎の意を示す梨花の前には、4人の若き女戦士ヴァルキリーが立っていた。

真樹をはじめとする今年の新人達が一同に揃ったのだ。


「いやー、ここにいる新米は全員10代!

若い子がどんどん出てきて、お姉さん嬉しいわー♪」


大袈裟に言う梨花の言葉で、真樹達もチラチラとお互いに目を合わせる。

同じ学生なのだろうか、みな若いわけだ。

これからこのゲームで戦っていく、同期でありライバル。

意識するなというのが無理というものだ。


「まぁ、早くも一人脱落しちゃったけど」


梨花がしれっと言ったのは綾のことだ。

彼女はあれ以来、コロシアムに来ていない。


負けたら淫らな罰ゲームというこの闘技場。

ペナルティに耐えられなくなってしまった女性など珍しくはない。

新米がショックで来なくなるなどよくあることなので、梨花は特に気にした素振りも見せずに話を続ける。


「んで、分かってると思うけど、ここから先はマジの競争。

強い奴は持て囃され、弱い奴は弄ばれる。

綺麗な身体を保てる奴なんてごく一握り。

明日には男達の慰み者になってるかもね☆

それがイヤなら、必死に鍛えるように!」


梨花は改めてこのゲームの内容を口にする。

ここからが本番なのだと、改めて教え込むように。


ビギナークラスの時のように、相手が力を測ったり手加減してくれるわけではない。

夢のため、賞金のため、純潔を守るため、本気で勝ちに行く女の闘い。

お互いに真剣なのだ。

その本気のぶつかり合いが闘いを盛り上げるのだ。


「一方で、可愛い子は貢がれるけど、醜い子は見向きもされない。

自分の『女』を晒すリスクを負わなきゃ駆け上がれない。

試合日時とかは結構融通効くから、顔や身体のケアも大事にすること。

大金を稼ぐのが目標なら、女を磨くことも忘れずに。

いつ男達に見せてもいいようにね♪」


にこやかな梨花の言葉に、真樹は顔を赤くする。

チラリと見回すと、同じように顔を赤らめる人もいた。

ペナルティを気恥ずかしいと思うのが自分だけなんてことはなくて、少しホッとする真樹であった。


この闘技場の肝であり、選手にとって分かりやすいリスクとリターン。

それが、女の身体そのものを賭けるという内容。

負ければ観客の手で弄ばれてしまうが、その観客が『手を出したくなる』容姿でなければお金を賭けてもらえない。

リングに上がる前から戦いは始まっているのだ。

どちらが多く貢いでもらえるか、という女の闘いが。


「それじゃ、さっそくキミたちの次の試合カードを決めようと思うんだけどね~」


梨花が軽く手を叩き、4人の注目を引く。

今日集まってもらったのは他でもない、新米たちの今後の試合を組むためだ。

正直、彼女たちの試合スケジュールはまだ白紙。

お互いに顔を合わせて、それぞれの反応を見ながら、盛り上がりそうな試合を決めようと考えたのだ。


そうだな~…と口にしながら、新米たちの顔を見回していく。

そして…



「まずは真樹ちゃんVS大山オオヤマちゃん!

さっそく、新人同士の対決をやってみない?」


梨花はさっそく、ビシッと指を指して2人を指名するのだった。

真樹と、その隣にいた女性を。


「はは、いきなり期待度ナンバーワンと戦えるとは光栄だな」


真樹の隣にいた大山という娘は、フランクに話しかけてきた。

真樹は思わず見上げてしまう。




第一印象は、デカい。

だが、ライに感じたのとは別のデカさだ。



まず身長が高い。

恐らく180cmは余裕で超えるだろう。

真樹も女子校生としてはやや高い方だが、彼女はそれよりもデカい。

きっと学校で整列すれば、一番後ろの方にいたに違いない。


服の袖やスカートの下から見える腕や脚も、一般的な女子よりは太く見える。

ただし、ライのように太っているというわけではなさそうだ。

鍛え上げて筋肉が盛り上がっているのが分かる。

体型からして、レスリングか何かをやってきたのではないかと予測する。


そして何より…



「アタイの胸が気になるかい?」

「い、いえ!…すみません」

「はは、まぁいつものことさ。気にすんな」



何よりも目に付くのが、胸がデカいこと。

びしっと張りのある身体つきの中で、一際柔らかそうな胸がどどんと存在しているのだ。

服の上からでも分かる、100はあるのではという大きさ。

真樹も一般的な女子より大きい方と言われているが、大山のそれはまさに『爆乳』と呼べる代物だった。

つい視線がそっちに行ってしまったが、慣れているのか気にしてない様子だ。


青いボブカットの髪を揺らして快活そうに笑う顔も整っている。

可愛いというよりかはカッコいいという印象があるが、ぱちりとした目は意思の強さを感じさせる。

総じて、姉後肌というのが似合いそうな人物だ。


「アンタ、こないだライをぶっ飛ばしてただろ。

その細腕のどこにそんなパワーがあるのか、興味があんだ」

「あはは……それはまぁ、試合でのお楽しみってことで」


大山の方も真樹に興味深々の様子だ。

気さくに話しかけているが、恐らく探りに来ているだろう。

そこは笑ってごまかす。

『覇氣使い』というのはもうバレてるかもしれないが、いきなり手の内晒すようなことはしない。


「はは、そりゃそうだ。

アンタとなら熱い戦いが出来そうだ。

やっぱ、戦いってのは熱くなきゃいけねぇよな!」


大山の方は特に気にした様子もなく、胸の前でバシリと拳を合わせる。

彼女の闘志が燃え上がっているのが、真樹にも感じられた。

その熱気に応えるように、真樹もまた大山を正面から見合う。


『勝ちたい』という素直な欲求が身体を巡る。

ここまで正面から闘志をぶつけてくる相手は久しぶりだ。

武術家として、挑まれた勝負に応えないわけにはいかない。


「小耳に挟んだんだけどアンタ、あの瑠璃亜さんに勝つことを目標にしてるんだって?」

「はい。私の憧れの人です」

「へぇ……それでこのゲームに殴り込むなんて面白いな」


このミト・コロシアムの……否。

現時点でヴァルキリーゲームズの頂点にいる女戦士ヴァルキリー、瑠璃亜。

美しさと強さを兼ね備えた、無敗の女王。

彼女に憧れる者は珍しくない。


だが、瑠璃亜の闘いを知っている者ならば、彼女に勝ちたいという言葉はたやすく出さない。

彼女はあまりにも強すぎるのだ。

表社会には出てこないような超人じみた武術家たちが跋扈するこのゲームで、なお無敗を保っているのだから。


負ければペナルティというこのゲームにおいて、無敗の女王に挑みたいという。

無謀ともいえる夢のため、一介の女子校生が己の身体を顧みずに、この裏社会に飛び込んでくる。

その想いは相当なものだろう。

なかなかに常識外れの行動と言えた。


もちろん真樹にも、道場再興のための資金を集めるという目的があるのだが、ただ大金を稼ぐだけならばわざわざ頂点を目指す必要はない。

ある程度のクラスまで上がれば十分な金額は稼げるし、それだけの実力はあるという自信もあった。


だが、それだけではイヤなのだ。

武術家としての彼女の心が求めているのだ。


もっと強くなりたいと。



「大山ちゃんも似たようなもんじゃん?」

「はは、違いねぇ!」


梨花の言葉に、大山も笑う。


「ま、アタイにも憧れの人ってのがいるんだ。

負けられないよな、お互いによ」


ニヤリと笑う大山にも憧れる人がいるようだ。

そして、その憧れに近づくために、より高みを目指している。

そのための第一歩として、真樹はこの上ない相手である。


真樹自身はあまり自覚していないが、新人の中で真樹は人気・実力ともにナンバーワンと目されている。

大山からすれば、いきなり期待度抜群の相手と戦うことになる。

強敵には違いないが、勝った時のリターンは色々と大きいだろう。


「うむうむ。やはりこのカードが面白そうだね。

それじゃ、真樹ちゃんと大山ちゃんの対決!

これでいいね?」


梨花の確認の言葉に、真樹と大山が同時に頷く。

これで次の対戦相手が決まった。

試合日時やレギュレーションはまた改めて伝えられるが、相手が決まったとなればやはり昂る。

お互いに目を合わせ、バチバチに火花を散らし合うのだった。


「にひひ。

ちなみに2人とも、オトコ経験はあるの?」


梨花の唐突な質問に、『う……』と真樹は顔を赤くする。

大山を見ると『はは……』と顔を赤らめながら、乾いた笑いを浮かべている。

どうやら彼女も、その手の経験はないらしい。


「にゃはは、これはますます楽しみになってきたね~♪」


にんまりと笑う梨花の意味が分からない2人ではない。


ここはヴァルキリーゲームズ。

新米同士といえど容赦はない。

ここでどちらかは確実に、純潔を失うということなのだから。

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