9-13:もう一度、ここから

「うらあああっ!!」


炎の覇氣を纏った大山の右手が唸る。


「ふっ……はぁっ!!」


その大振りの拳から距離を取った裕は、風の覇氣を纏った薙刀を突き付ける!

リーチのある方が有利、裕の行動は自然といえた。


だが、大山はあろうことか、裕の薙刀に向かって殴りかかっていった。


薙刀の先にある木刀の刃には、風の覇氣によって生まれた小さな台風が、ぎゅいんぎゅいんと回っている。

その刃先へ、燃える炎の覇氣を纏ったパンチを叩きつける。


どごんっ!!

びゅおおおおおっ!!


2つの覇氣のエネルギーの衝突により、ぶわりと周囲に突風が吹き荒れた。

その衝撃で、裕と大山は互いにスカートを翻しながら吹っ飛んでいく。

周囲の木々が騒がしく揺れる中、公園の端と端へと飛ばされた2人はすぐさま立ち上がり、乱れた格好を直すこともないまま向き直る。


距離を取っての睨み合いとなったところで、裕はおもむろに口を開く。


「どこまでいっても、ボクらは戦士。

戦うことに生き甲斐を感じちゃうんだよ。

自分より強い相手をねじ伏せたい!

そんな衝動を内に秘めてる!」


闘志を前面に押し出したまま、裕は薙刀を構え直す。

再び彼女の周囲に風が集まり、ひらひらと彼女の服を揺らす。


「色ボケ侍が!そこの男の前では雌になるくせに!」

「そりゃあね!

ボクはヤミト君のことが大好きだし、ヤミト君のためならいつだってこの身を捧げられる!

だけどね、それで強くなる事を諦めることは同義じゃない!」


今度は裕の方から飛び掛かってきた。

足に纏った風の力を使ったのか、助走も無しに勢いよく飛び上がり、大山に向かって武器を振り下ろす。


大山はその攻撃を回避するが、裕は着地するとすぐさま横薙ぎに武器を払う。


「くっ…!!」


大山は咄嗟に炎を纏った右手で、薙刀を殴り返す。

再び、覇氣同士のぶつかり合いが起き、その爆風で周囲に風が吹き荒れた。


だが、風の覇氣が弱まっていたのか、咄嗟だった大山の炎の覇氣が弱まっていたのか。

今度は2人は吹っ飛ばず。

周囲に突風が吹き荒れ、服をはためかせながら、2人は武器と拳をぶつけあったまま睨み合う格好となった。


「ヤミト君も言ってたでしょ?

人は常にたくさんの欲望を抱えてるものだって!

ボクはヤミト君が欲しい。

彼が最強の女戦士ヴァルキリーになって欲しいと願うなら、迷うことなく戦える!

けどね、それが無くてもボクはきっと戦えるよ!

強くなって、今まで自分を蔑んでた奴らを見返したい!

ボクの家が受け継いできた流派、その意味を変えたい!」


まくし立てるように裕は言葉を続ける。

礼儀正しい女侍でも、一途な女の子でもない、己の気持ちの昂るまま戦う戦士の顔で。


以前の裕にとって、家の流派である天地無縫流は大嫌いなものだった。

裏社会における古武術を密かに受け継ぐという、自分の家の宿命が嫌いだった。


だが、ヤミトと出会ったことで、この流派を受け継ぐことに前向きになれた。

その上で、自分の流派の意味を変えるという、新しい目標が出来た。

この力は、ただの秘匿された裏の武術ではない。

裏社会でも権威ある、最強の流派であると証明する。

そんな欲望ねがいが、徐々に形成されていったのである。


裕にとっては、生きることにおいてヤミト第一であることは変わらない。

だが、戦いを通して得たものは他にもある。

それを否定する気は無いし、戦いをやめる理由は無かった。


「エロザムライと言われようが、変人だって言われようが構うもんか!

ボクがやりたいから女戦士ヴァルキリーやってるんだ!」


勢いよく薙刀を振るい、大山を突き飛ばした。

そして、距離が離れ、体勢を立て直そうとするプロレスラーに対し、薙刀を向けて叫んだ。


「アンタはどうだ!?

まだ女戦士ヴァルキリーやる気あんのか!?」


咆哮と共に、裕は薙刀を振るう。

刃先から放たれた覇氣の風が刃となって大山を襲う!



迫り来る風の刃を目の前にして、大山の身体が、心が燃える。

ここまで言われて黙ってるほど、お淑やかな女じゃねぇ!!!


「うらあああああぁぁぁっ!!」


どかああぁぁん!!


叫び声と共に、大山の身体から熱風が解き放たれた。

その勢いで、風の刃はかき消されてしまう。


スカートが翻るのも無視し、大山は身体中の覇氣を燃え上がらせる。

右手だけじゃない、全身から炎が揺らめいていた。


怒りによる覚醒だろうか。

ここに来て大山は、炎の覇氣による力を全身に纏う、炎の王羅オーラを完全に体得したのだ。


「好き放題言ってくれるじゃねぇか…!」


炎を揺らめかせる大山は、ニヤリと笑うのだった。


「あぁホントだ、らしくねぇ…!

負けることなんて今更じゃねぇか!

今までずっと、気に入らない奴をぶっ飛ばして生きてきた。

勝ちたいと思う奴に勝ちたいから戦えんだ…!

負けたままでいるのが悔しいから戦えんだ…!」


負けたままでいたくない。

それが、大山の欲望。


ただの負けず嫌い。

強くなりたいという熱い闘争心。

実にシンプル、だがそれゆえに力強い。


使命や肩書を背負って戦ってる奴がいる。

大事な人への想いを抱えている奴がいる。

そんな奴らに比べたら、戦う理由にしてはちっぽけで些細なことかもしれない。



だが、だからといって引き下がれるものではない。



霧子にも、真樹にも、葵にも。

目の前の侍女サムライおんなにも。

このまま負けっぱなしで終われるものか。


「うおおおぉぉらあぁぁっ!!」

「はあああぁぁぁぁっ!!」


どこおおおおおおぉぉんっ!!


もう一度、炎の拳と、風を纏った薙刀が激突する。

今まで以上に派手な爆発音が響き、再び突風が吹き乱れ、周囲の木々をガサガサと揺らしていく。


「……はは」


拳と薙刀をぶつけ合う中、大山は声に出して笑いだした。


自分でも分かる。

顔の笑みが戻ってきた。

心の底から、喜びを感じているのだ。


こいつの言う通りだ。

アタイはそもそも、戦うことが好きなんだ。

強い相手に挑んで、勝ちたいという心を常に持っていたのだ。


まったく、自分が情けない。

ちょいと激しいことされて、自分がエロいだけの女なのかもって沈みかけていた。

男達にいい女と思われたい、そういう気持ちがあるのも認めていた。


だが、だからといって戦いを諦める理由にはならない!


もっと戦いたい。

もっと強くなりたい。

それもまた、自分の中に宿る欲望なのも確かだから。



ニッと笑顔を向ける大山に対し、裕もまたニヤリと笑みを浮かべる。

戦いたい、勝ちたい、ねじ伏せたい。

お互いにそう思える相手に出会えたという喜びが、2人の間で共有されていく。

静かに、だが確かに熱い闘志をぶつけあっていく。


今、2人が考えていることはただ1つ。


勝つのは自分だ…!








…と、行きたかったのだが。





ピーーーーーーーーッ!!


突如として、甲高い笛の音が聞こえてきた。


「こらーーーっ!」


そして、聞き覚えのある甲高い声が響く。


「なーにをやってるですかーっ!」


ふと声のする方へ顔を向けると、公園の入り口から綺麗な前傾姿勢で走ってくる婦警の姿が見えた。

あれには見覚えがある。

ヴァルキリーゲームズに対して敵意を持っている、大変に職務熱心な婦警さん、神無月だ。


「やべっ…!」

「あー、あのお巡りさんは流石に逃げた方がいいかもねぇ」

「う、うん…!」


流石に公共の場である公園で暴れすぎたか。

覇氣のぶつかり合いによる爆発音は周囲にも聞こえていただろう。


今回はこちらに非がある。

が、あれに捕まるととんでもなく面倒なことになるのは目に見えている。

ヤミトと裕も同じ結論をしたらしく、3人は一斉に頷くと、一目散に公園から逃げ出したのだった。


「こらっ、待つですよ、ちょ、はや、待ってーーー、待ちなさー……」


暴走お巡りさんの叫びを尻目に、女戦士ヴァルキリー2名とおまけのイケメンは駆け出していくのだった。




その後、神無月を振り切った3人は、ミト・コロシアムに通じる地下道の入口へと至る。

ようやく一息をついたところで、大山と裕は改めて向き合う。


「…裕、だったか。

アンタとはいずれキッチリと決着ケリをつけてやるさ」

「ふふん、当然。

ライバルになるくらいならね」


落ち着いた大山は、改めて裕への闘争心を高めていく。


「それと……一応、礼は言っとく。

おかげで、当初のやる気を思い出せたからな」

「うんうん。初心忘れるべからず、だね」


礼を言う大山に対し、裕も笑顔で返すのだった。


大山は己の拳を見つめる。

確かに自分は強くなっている。

だが、まだまだ力が足りないのも分かっている。


勝ちたい人がいる。

負けたくない相手がいる。


恥辱と屈辱に塗れたとしても、戦い続けられる者が女戦士ヴァルキリーでいることが出来る。

イズモでの敗戦は、その意味を嫌というほど痛感した。


だけど、それでも戦いたい。

そんな己の欲望を、はっきりと自覚できたから。


「まぁ、僕としては注目の女の子がリタイアしなくて嬉しいけどね」

「うるせぇ、てめぇにだけはどんなことされてもなびくもんか…!」


イラッとするほど眩しい笑顔を向けるヤミトに、大山は渋い顔で応える。

戦い続けるということは、この男に狙われ続けるということでもある。

だが、それに向き合う覚悟も出来たのだった。






…その後、真樹と瑠璃亜が現れたことで、ヤミトと裕は挨拶もそこそこにお暇することになった。

元々2人はミト・コロシアムの所属ではないし、軽く敵情視察のために訪れただけだ。

だが、思った以上に収穫は大きかった。


「いやー、まさかあんな風に焚き付けるとはねぇ」


道すがら、ヤミトは感心したように言う。

落ち込んでいたであろう大山の闘争心を煽る形で元気づけた。

これは裕だからこそ出来たこと、彼には出来なかっただろう。


「えへへ、ヤミト君はただエロい女が欲しいわけじゃなくて、強くて可愛い女の子が欲しいんでしょ?

だったら、こんなことでリタイアされたくないでしょ?」

「あっはは、よく分かってるじゃん。

大山ちゃんも、もっと強く、そしてもっと可愛くなれそうだからね」

「それに……ライバルには腰抜けでいて欲しくないってのは本心だから」


裕にとっては、大山はいろんな意味で美味しい獲物である。

ヤミトが熱心に狙っている美少女の一人である以上、狙うことに迷いはない。


だが、自分が戦士として戦い甲斐のある相手を求めているのも本心なのだ。

彼女は自分と同じ歳であり、同じ時期にデビューした新人同士。

そして、少し前まで表社会の住人だったのに、短期間で覇氣を習得して裏社会で戦えるほどになった。

間違いなく天才の一人であり、ライバルとして意識している相手の一人だった。


そんな相手を叩きのめし、ヤミト君に捧げたい。

裕は既に、そんな欲望を滾らせているのだった。


「そういえば、真樹ちゃんの方はどうかな…?」

「あっちも心配ないと思うよ」


大山だけでなく、真樹もまた傷心気味だったというのは風の噂で聞いている。

だが、ヤミトは心配ないと断言した。

先ほど会った真樹の目に闘争心が戻っているのを、しっかりと確認できたからだ。


「それじゃあ、もっと盛り上げないとね♪」


相変わらず爽やかな笑顔を振りまきながら、ヤミトは笑うのだった。

傷心を乗り越え、立ち上がった美少女闘士たちは、今後も素敵な姿を見せてくれるだろう。

彼女達を応援する者として、手に入れたい者として。

若き女戦士ヴァルキリー達がどうすれば一番輝くのか、策略を練り始めるのだった。






「……ほぇぇ、覇氣のことをそんな風に」


一方、真樹は大山や瑠璃亜と共に地下道を歩いていた。

もうすぐミト・コロシアムに着く頃合いだ。


地下道を歩いている間に、大山がつい先ほどヤミト達と話していたことを聞いたのだった。


裕に焚きつけられたことで、戦う意欲を取り戻したこと。

そして、覇氣使いのことを、欲望の力によって進化した人類だというヤミトの解釈。

それは真樹にとっては、なかなかに興味深い考察だった。


人類とは違う、より強大な力を持ったものに進化した存在。

ならば覇氣をより強力にした神氣を操る者は、果たしてなんなのだろうか。


「ま、なんにせよ、アタイも真樹も、進化の途中って感じみたいだけどな」

「うん、だったら進化してみせないとね!」

「ふふ……」


闘志を燃やす若き2人を見て、瑠璃亜は優しく微笑むのだった。



そうこうするうちに、ミト・コロシアムに到着した。


重苦しい扉を開けて奥に進むと、がらんとしたリング。

まだ開場前であるアドバンスクラスのリングで、梨花が待ち構えていた。


「おっす、おかえりー!

休暇は有意義に過ごせたかねー?」


梨花は駆け寄ってくるなり、真樹と大山の顔を見る。


「えへへ、ご心配をおかけしました」

「また世話になるぜ、梨花先輩!」


数日ぶりに訪れた少女達が元気よく返事を返す。

戦うことに迷いのない、熱い闘志をした目。

どうやら、沼は脱してきたらしい。


「ふーん……」


梨花はニヤニヤと笑みを浮かべると……


ひゅんっ!!



「っ!?」

「いっ!?」


瞬時に真樹と大山の背後に回った。

そして……


「ひゃあっ!?」

「うひゃああ!?」


2人の胸を揉むのだった。

慌てて振り払う真樹と大山の拳を避けて、梨花はニヤニヤと笑う。


「にひひ、屈辱と恥辱に塗れても、闘争心も恥じらいも忘れてない。

ごーかっく。ちゃんと女戦士ヴァルキリーを続けていけそうだね☆」

「…もうっ!」

「くそっ、また捕まえられてねぇ!

まだ一人、負けたくないやつがいたな」


ニヤつく梨花を前にして、真樹と大山は顔を赤らめて文句を言う。

だが、なんだかこんなやり取りでさえ懐かしくなってくる。


そうだ、この場所はこういう世界だ。

この日常を楽しんでいたのだ。

そして、こんな世界で戦っていくと、自分たちは心に決めたのだ。


「それじゃあ本日も、ミト・コロシアム開場!

まだまだ楽しいバトルを用意しているから、期待していなよね☆」


にこやかに笑う梨花、傍で微笑んでいる瑠璃亜。

彼女達が待つコロシアムの中へ、真樹達は足を踏み入れていく。


「行こうか、真樹!」

「うん、私はまだ戦い続けるよ!

憧れの人に勝つ日まで!」


もう一度、ここから再出発。

覚悟を決めた少女達の表情は、自然と笑みを浮かべていた。


恥辱や屈辱に対する恐れよりも、新たなる戦いに胸を高鳴らせる。

より強く、より熱い相手との戦いに胸を躍らせる。

その喜びを滾らせている彼女達は、実に晴れやかな表情をしていたのだった。

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