STAGE2:制裁
2-1:不良の絡み
「さーて真樹ちゃん、次がビギナークラス最後の関門だよ♪」
「最後って、まだ2戦目じゃないですか」
コロシアムを訪れた真樹は、ご機嫌な梨花に出迎えられた。
真樹の次の相手が決まり、数日後には次の試合に挑むことになる。
敵を知れば百戦危うからず、相手の情報は知っておくに越したことはない。
詳細を聞きに直接訪れたのだが、梨花がやたらとご機嫌なのに少し引いてしまう。
「まーまー細かいことは気にしない!
真樹ちゃんも、なんとなーくは分かってたんでしょ?
ビギナークラスは、このヴァルキリーゲームズの入門試験っていうのは」
「はぁ、まぁ……」
「コロシアム専属の
ま、アタシらはそういう役目も担ってたわけよ」
確かに、薄々はそうだろうとは考えていた。
梨花は手加減していた様子だし、観客を入れる興業である以上、ある程度実力が無いと興醒めである。
何戦かは実力を測られる試合になるだろうとは思っていたが、まさか早くも「次で最後」になるとは。
「で、次の相手もコロシアム専属だけど、その子に勝てれば晴れて本格デビューってわけ」
ヴァルキリーゲームズはクラスが分けられており、戦績によって上下する。
当然上のクラスの方が賞金額が上がるため、基本的には上を目指して戦っていくことになる。
クラスを上げる際は、上位の実力者と戦うことになるのが通例だ。
頂点への道を歩み始めた実感がようやく出てきた。
次なる戦いに向けて、闘志が沸いてくる。
自分はやはり武術家だ。
強い相手と戦って、自分が更に強くなることに喜びを感じる人間だ。
そのことを改めて再確認出来て、つい笑みがこぼれてしまう。
「次の相手は、どんな人なんですか?」
「にひひ。そう言うと思って、会えるようにしといたよ」
やや前のめりに聞く真樹に、梨花はにこやかに返すのだった。
ヴァルキリーゲームズは地下施設で行われている。
ミト・コロシアムの場合、雑多なビル群の地下に作られた地下道が、いくつもの施設を繋いでいる。
バトルの会場となるリングの他にも、選手たちの憩いの場となる大浴場があったり。
コスチュームを管理する衣裳部屋は、劇場の倉庫かと思えるような広さを確保していたり。
地下道の中には、関係者ならば格安で宿泊できるホテルに直通になっているものもある。
そして、戦士達に欠かせないトレーニング施設も併設されている。
広々とした部屋に、最新式のトレーニング機器がいくつも置かれた場所。
そこらのトレーニングジムよりも充実していると言っていい。
こちらも大浴場同様、所属する
存在自体は知っていたが、実は真樹はまだちゃんと利用したことが無かった。
そんなトレーニング施設の前に来た時、扉から一人の女性が出てきた。
「あり?
「アァ?んだクソチビ」
開口一番、梨花に罵倒をかます。
「いやー、ひどいねー。新人なのにこの態度ー」
「オレに負けた奴が何言っても、負け犬の遠吠えにしかなんねーよ」
「あっはは、真樹ちゃんとの差!」
綾っぺと呼ばれた人物は、恐らくは真樹と同年代だろう、かなり若い女子だった。
日焼けした肌と目元の濃い化粧、染め上げた茶髪はややカールしている。
デニムのショートパンツを履き、丈の短いシャツで肩とへそを見せていた。
見た目はまさしく「ギャル」である。
腰は綺麗なくびれを見せる一方、出るところはしっかり出ており、モデルだと言われても違和感が無い。
だが、梨花との僅かなやり取りの中でも、口の悪さが見て取れる。
鋭い目で睨みながら威圧しようとする様は、どう見ても不良のそれである。
梨花の方はまったく動じていないようだが。
「あ、真樹ちゃんは初めてだよね。
この子はキミと同じく、この間入ったばかりの新人。
ヤンキーギャル・
「誰がヤンキーだ誰が!!」
あまりにもあんまりだが、あまりにもしっくり来る二つ名だった。
その不良娘は、真樹に視線を向ける。
「てめぇか、噂の猫耳つけたアバズレってのは」
「あ、あばずれ……」
さっそくの口撃に唖然とする。
どうやらどんな相手にも、とりあえず噛みつく性質の人らしい。
「あんなもん付けても、あざといだけじゃ勝てねぇぜ?
ま、男どもの喰い物にされてぇってなら構わねぇがな」
くくっ、と悪い笑みを見せる綾に、さすがの真樹もむっとなる。
勝負以外で手をあげるつもりはないが、挑発されて何もしないクチでもない。
真剣な表情で睨み返す真樹。
傍から見ていれば、優等生と不良の絡みである。
そんな2人の視線が火花を散らしているのを全く気にせず、梨花が綾に聞く。
「キミも次、ライと戦うんでしょ?
ここにいるってことは、挨拶でも済ませてきた?」
「ハッ、どんな奴かと思って見てみりゃ……
あんなデブにオレが負けるとでも思ってるのか?
どうせなら、オレがこっちを負かした方が盛り上がるんじゃねぇか?
あのブスよりもよぉ!」
どうやら綾も、対戦相手の視察に来ていたようだ。
しかも、相手については随分と不満らしい。
真樹を親指で指しながら梨花に言う綾。
その時だった。
「随分なことを言うわねぇぇぇん……!」
通路に野太い声が響いてきた。
トレーニング部屋の扉が開かれ、ドシドシと重たい足音が聞こえてくる。
(うぉっ!?)
真樹は思わず声を上げそうだった。
すんでのところで止めることが出来た自分を誉めたい。
目の前に現れた人物は、物凄いインパクトを持っていたのだ。
第一印象はシンプルに、デカい。
縦にではない。
横に、である。
水色のワンピースで包んでいる身体は、ぶっくりと太っている。
ウェストは200あると言われても信じるくらい、丸くてどっしりとした、重量感のありそうな身体。
首から上も丸々としており、顔はそばかすだらけ、瞼も重そうで目が細められてしまっている。
美女揃いだと思っていたこのゲームでは、かなり異質な存在。
醜女と言われてもしょうがないと思えるような、ヘビー級な女性が現れたのである。
「あちしの美しさに嫉妬して、そんなこというなんてねぇぇん……!」
「ハッ、鏡見てからモノ言えよ、不細工」
「むぅぅんん!!まだ言うのねぇぇん!!
試合ではギッタンギッタンにしちゃうわよぉぉん!!
あちしの方が、強さも美しさも上だって証明しちゃうんだからぁぁん!!」
「言ってろ豚野郎」
新たに現れたこの大きな女性、だいぶ自己評価が高いらしい。
挑発する綾に対し、地団駄を踏みながら抗議をしているが、その様子は可愛らしいとは言い難い。
しかし、ひょっとして……
「あれがキミの次の相手、ビッグレディ・ライだよ」
「こ、こんにちは…」
視線で問いかけた真樹に対し、梨花はさらりと答えを言う。
このでっかい人が、次の対戦相手になるのだ。
なるほど、第一印象だけでいえば、確かに負けたくない。
とはいえ、挨拶はきちんとするべきである。
ライに向き直り、礼をした真樹。
「んまぁぁ、あなたが噂の猫耳闘士ねぇぇん!!
デビュー戦での賞金額、新人5人の中では一番だそうじゃなぁい!?」
「は、はぁ……」
ライは興味深そうに真樹の方を見た。
やや緊張気味の真樹を気にせず、じろじろと見回していく。
そして、十秒くらいは観察してから一言。
「ふぅん……あちしの次くらいには可愛いんじゃなぁい!?」
「は、はぁ……ありがとうございます」
やはり自己評価が高い女性のようだ。
一応は社交辞令で返したが、さすがに容姿でこの人に負けてるなんて言われたくない。
珍しく、女として負けたくないと思ってしまった真樹である。
「へぇ……てめぇが一番なぁ。
まぁ男ってのは、清純派ってのが好きらしいからなぁ?」
「にゃはは、真樹ちゃん大人気だね~♪」
綾と梨花もまた真樹に目を向ける。
その様子に、真樹はやや身体を硬くする。
このゲームの性質上、賭けられている金額が多いほど人気が高いと言い換えることも出来る。
そして、真樹や綾を含めた新人5人は皆、デビュー戦で梨花と対戦しているのだ。
コロシアムのアイドル・☆リリカ☆を相手にして、どれだけ観客からお金を賭けてもらえるか。
それは、デビュー後の人気を測るバロメーターになっているのだ。
そしてライの言う通り、5人の中では真樹は最も賭けられる金額が多かった。
どころか、デビュー戦で合計10万
観客の嗜好もあるだろうが、少なくとも多くの男が初見で「手を出したくなる」容姿をしていると言ってよかった。
更に、実際の試合では派手な技を見せたことで、
真樹本人が知らないうちに、スタイル抜群の若くて強い娘が新たにやってきたと、コロシアム周辺では話題になっていたのである。
「けっ、こんなのが一番人気の実力者ねぇ。
この程度じゃ、このヴァルキリーゲームズってのもたかが知れてんな」
だが、今ここにいる真樹は、容姿はともかく、そこまで強くは見えないと綾は判断した。
緊張しいの猫耳セーラーの少女は、それだけならば大人しいオンナノコに見えるだろう。
この血と暴力が飛び交う闘技場には似つかわしくない娘にしか見えない。
だからなおさら注目度が高まるのだが。
そのうち呆気なく敗北して、観客達のいい見世物にされるのがオチだろうと考えた。
「ま、いい小遣い稼ぎにはなんだろ。
てめぇもせいぜい、オレの稼ぎになってくれや」
そう言って、綾はすたすたと去っていってしまった。
完全に見下した態度だったが、真樹はそのことに怒りもせず、ただ見送っていく。
「あちしも行かなきゃ。じゃあねぇぇん♡」
野太い声で挨拶をしたライもまた、足音を響かせて通路を歩いていく。
去っていく綾とライを見ながら、真樹はふと違和感を感じた。
話を聞く限り、ライはコロシアム専属の
それなりの実力は持っているはずである。
そして、そこに挑むことになる綾も、自分と同じ新米の
しかし……
「あの、梨花さん……あの人って」
「にひひ、まぁ後はお楽しみってことで」
真樹の疑問を察したらしい梨花は、しかし答えずにニヤつくのだった。
「なんなら見てく?あの子たちの試合、今日だから」
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