4-2:動画投稿者・ヤミト
その男は、突然現れたのだった。
「やぁ、君たちが公園で修行してるっていうミニスカート女子かい?」
真樹・大山・梨花の3人が修行をしていたある日。
森で囲まれた町はずれの公園に若い男がやってきて、しかも声を掛けてきたのだ。
「あれ、☆リリカ☆ちゃんじゃない。
やっぱり、
「およ、ヤミト君じゃ~ん。今日もネタ探し~?」
「まーねー。噂の公園で殴り合う女子ってのを見に来たんだけどね。
まー、君たちがいるなら納得だ」
梨花と顔見知りらしい、20代前半と思われる若い男。
やや童顔ながらも顔は整っており、どこかのアイドルかホストと言われても納得できるイケメン。
黒い髪の中に一房、青いメッシュが入っているのがやたら目立つ。
真樹はなんとなくこの男に見覚えがあった。
その横で、大山が顔を真っ赤にして震え上がる。
「あ、あ、あ、あ、アンタはぁぁぁ…………!!!」
「やぁ大山ちゃん。こないだはとっても『良かった』ね」
「うぉおああああああっ!!」
ヤミトと呼ばれた青年がにこやかに笑いかけるが、何かを思い出したのか頭を抱えて叫ぶ大山。
彼女の態度で、真樹も彼が何者なのかを思い出した。
先日の大山との試合で、負けた大山に対するペナルティ。
リングに残された彼女に触れる権利を手に入れた男達、その中の一人だった男だ。
最初に躊躇いなく大山の胸をつついたのは印象に残っている。
大山は思わず胸を抑えて後ずさりした。
彼女からすれば、自分の身体を弄んだ男の代表格なのだから。
考えてみれば、観客達だって地下闘技場を出れば普通に生活しているのだ。
どこかで出会う可能性は十分あるのだ。
闘技場の外で
リングで自分達に触れてくるような男達が、町中で話しかけてくることだって十分にあり得るのだ。
場合によっては、ストーカーしてくるような輩も現れるかもしれない。
今更ながら、ヴァルキリーゲームズというゲームに参加することが、どれだけリスキーなことなのか実感して来たのだった。
もっとも、並みの変質者なら自力で撃退できる自信もあるのだが。
「なるほどね、あれから覇氣の修行をしてたってわけだ。
やっぱり真樹ちゃんも覇氣使いだったんだね」
うんうんと唸るヤミトは、視線を真樹へと移す。
真樹も思わず身構えてしまう。
少なくとも覇氣のことを知っているようで、真樹はこの男に対して警戒感を上げる。
「私のことまで……」
「そりゃ、僕は君のファンだからね。
対ライ戦、やたら賞金多かったでしょ。
あれ、僕が20万くらい突っ込んでたんだよ。
いやー、まさか合計で50万以上行くとはちょっと予想外だったけど。
たぶん、僕以外にも大金賭けてた人がいたんだろうね~」
(あなたかーー!!私をやたら持ち上げたのはーー!!)
心の中で真樹は叫ぶ。
現在ミト・コロシアムの注目株へと成り上がった真樹だが、その原因は賭けられる賞金の多さにあった。
ライ戦で合計50万
それに引っ張られているのか、その後も真樹の試合は、新人としては異例の金額の賞金が続いているのだ。
客について詳細は教えてもらえないものの、毎回数十万をつぎ込む熱心なファンがいるということだけは、マネージャーから教えてもらっていた。
試合に出る側としては高額賞金はありがたいが、なんだか必要以上に持ち上げられているような気がしてこそばゆかったのだ。
その原因となった男が目の前にいる。
しかも、どういうわけか自分のことを気に入ってくれているらしい。
その割に、大山戦の時は彼女の方に賭けていたようだが。
あの時は大山の熱心なファンだと思ったのに。
自分の友人にお近づきになろうとしてる男から、実は自分のことが好きなんだと言われたような、なんとも複雑な気分である。
そんな苦い表情をしている真樹のことを興味深そうに見ていたヤミトだが、梨花の方へと向き直った。
「☆リリカ☆ちゃんが修行に付き合うなんて珍しいじゃない。
期待してんだ、真樹ちゃん達に」
「ま~ね~。昇格戦どうすれば盛り上がるかなって悩むくらいには、期待度高い子たちだよ」
梨花は最近の悩みも含めて話す。
実際、期待しているのは間違いなかった。
「梨花さん、この方とお知合いですか?」
「まーねー。うちの常連さんってのは分かるでしょ?
結構ペナルティにも参加してる、つまり結構なお金落としてってくれてるからね。
うちとしてはそれなりに丁重におもてなししたい相手」
真樹の質問に答えながら、梨花は軽くため息をつく。
ペナルティに参加するということは、試合ごとにかなりのお金を賭けていることになる。
当然ながら、それなりに資産がある者でなければ出来ない。
その上、ペナルティに参加しているということは、選手のどちらが試合に負けるかを当てているということだ。
裏の格闘技にもそれなりに精通しており、目利きが出来るという証でもある。
更に言えば、ペナルティに複数参加しているということは、色んな
コロシアム所属のオンナノコ達をたくさん『可愛がってきた』ということだ。
それでも、コロシアムとしては彼はお得意さんなので、今後も贔屓してもらえるように相手したいところ。
梨花はそのように考えていたが、新米たちからすれば金で女の身体を買う男に映るわけで。
真樹と大山は、少し引き気味な顔をしていた。
「ちぇっ、金持ちのボンボンかよ」
「ひどいなぁ。僕はお金持ちだけど、ボンボンではないよ」
「はぁ?」
「ま、確かに七光りタイプじゃないね。
表の顔も結構凄いよ、彼」
悪態をつく大山の言葉に反応したヤミト。
梨花もまた、彼を擁護するようなことを言い出した。
梨花は顎で促し、ヤミトはスマートフォンを取り出してとあるサイトにアクセスした。
「僕は普段、こういうことをやってるんだよね~」
『はいどうもヤミトでっす、今回の動画はですね~』
彼のスマートフォンに表示されたのは、世界最大の動画投稿サイト『MyTube』。
その動画に映っているのは、間違いなくヤミトだった。
どうやら、競馬で500万賭けて勝負する動画らしい。
そういえばと真樹はヤミトの手元を見た。
ここに来る時も、彼は手持ち出来るビデオカメラを持ち歩いていたのだ。
彼の職業は、日常の光景や様々な企画の動画を投稿して広告費を得る、動画クリエイターなのである。
しかも…
「待って、登録者500万人!?」
「これって、凄いの?」
「
若者に大人気のMyTuber、現代の成功者モデルの一人だねー」
投稿者情報に表示されたチャンネル登録者数を見て、大山が驚きの声を上げる。
あまりピンと来ていない真樹に、梨花が解説を加えた。
「あと、動画でもやってるけど、ギャンブルやったりいろんな事業立ち上げたりしてるよね、ヤミト君」
「ま~ね~。アパレルとかゲーム開発とかやってるかな。
最近は格闘技団体も作ったりしたよ」
「総合で年収100億くらい行くんじゃな~い?」
「ひゃ、ひゃくおく……」
梨花が話す金額を聞いて、真樹がぽかんとする。
ヴァルキリーゲームズのペナルティに参加してくるような男は、大体がお金持ちであるというイメージはあったが、改めて言われると衝撃である。
呆然とする真樹の横で、大山の顔が急に青くなる。
とある可能性に思い至ったのだ。
「ま、まさか……アタイの動画とかもMyTubeに流してないだろうな!?」
それを聞いて真樹もハッとなる。
確かこの男は、先日のペナルティでもビデオカメラを持っていた。
男達に囲まれる大山を撮影してたのを覚えている。
「さすがにそれはしないよ~。
それをやったら、それこそヴァルキリーゲームズの運営に目をつけられちゃうから」
あははと笑いながら、ヤミトは手を振って『MyTube』投稿を否定する。
ふぅっと息を吐く大山だったが……
「だから、こっちに投稿してるんだよ」
『あぁっ、んあっ、やっ、ひゃああん、あんっ……ふあああああああああああああっ!!!』
「うおおああああああああああああああああああああっ!?」
ヤミトはスマートフォンを操作して、別の動画サイトを見せた。
そこに映っていたのは、まさに先日の試合のペナルティで大山が弄ばれている光景だった。
自分の痴態を見せられて、絶叫しながらスマホを取り上げようとする大山。
だが、ヤミトはそれを難なくかわす。
「こ、こんなところですけべな動画見せる奴がいるか!!」
「あっはは、キミの動画なのに~」
「余計悪いわっ!!」
飛び掛かる大山を、ひょいひょいと軽くあしらうヤミト。
華麗な足運びでかわし続けるのだった。
「これはね、V.G.Hubっていう動画サイト。
まぁいわば、ヴァルキリーゲームズ専用の動画サイトだね。
ヴァルキリーゲームズの試合とペナルティは録画されてるのは知ってるでしょ?
それを見るためのサイトなんだけど、僕みたいにペナルティで動画撮影をしてる人も、それをシェア出来るってわけ。
こっちは完全に会員制だから、普通の人には見られないよ」
確かに説明されていた通りではある。
ちなみに動画は無料で見れるわけではなく、購入することで初めて見ることが出来る。
動画の出演者には、後でその売り上げのいくらかが支払われるという仕組みになっているのだ。
ペナルティでも男を魅了できれば、半永久的に稼ぐことも可能なのである。
ちなみに、ヤミトのような投稿者の動画の場合、出演者と投稿者の両方にお金が行くようになっている。
この大山の映像も、買われて見られるほど大山とヤミトの両方にお金が行くというわけだ。
「でも、ネットに上がってるなら流出の危険があるんじゃ……」
「ま、それは確かにあるけど。
もしそれをやったら、運営が流出元を割り出して粛清しちゃうし。
でしょ、アイドル☆リリカ☆ちゃん?」
「まーねー。そこはもう、裏ハッカーとかにも協力してもらって。
複製とか再投稿とかしてる奴をシメるね、きゅっと♪」
真樹の疑問に対して、ヤミトと梨花は笑顔で解説する。
なんか色々と物騒な単語が聞こえている気がするが。
ネットというのは常に違法アップロードとの戦いではあるが、ヴァルキリーゲームズの場合、物理的に黙らせる方法があるらしい。
さすが裏社会。
NO MORE 映像泥棒というわけだ。
「さて、そろそろ僕はお暇するかな。
さすがにヴァルキリーゲームズのことも、覇氣使いのことも、表の動画には出せないでしょ」
「ま、それが懸命じゃな~い?」
噂の喧嘩する女子校生を動画のネタに出来ないかと思ってやってきたのだが、ヴァルキリーゲームズが絡むとなれば表社会の動画にするのは避けた方がよさそうだ。
何も知らない者ならばともかく、コロシアムに入り浸っている身としては、余計な疑念を運営側に持たれたくはない。
ヤミトはそう判断し、撮影を諦めて去ろうとしていく。
「ちょっと待ってください」
「…何かな、真樹ちゃん」
公園を出ようとするヤミトを、真樹が呼び止めた。
彼女の目は、何かを確信しているような熱い視線を出していた。
「ヤミトさんも、もしかして……」
「はは……一目で見抜くなんて、やるじゃん」
真樹が何を言いたいのかを察し、ヤミトは軽く笑った。
「せっかくだ、少しだけ見せてあげるよ」
真樹に向き直ったヤミトは、軽く腕まくりをして、拳を握る。
軽く腕を回し、準備運動。
そして……
「パワーウィンド!……ってか?」
軽く腰を落とし、地面スレスレをアッパーで掬い上げるような動作をする。
腕を振り上げたその時、彼の元からびゅおっと風が舞った。
「うわっ!?」
「うひゃああっ!?」
「あーもー……」
巻き起こる風は真樹達へと向かい、ぶわっとスカートをめくり上がる。
慌ててスカートを抑える真樹と大山。
今日は特訓のために、スパッツも短パンも履いていないのだ。
「試合外で
「僕は手は出してないでしょ?風のいたずらさ」
梨花がジト目で抗議してくるが、ヤミトはさらっと答える。
確かにこの程度でいちいち相手していては面倒だと、梨花もため息をつく。
「それじゃ、大山ちゃん頑張ってね~。
でないと、また僕に撮影されちゃうことになるかもよ?」
「ぐ……!」
ヤミトの言葉に、大山は顔を赤くしながら睨みつける。
「それと真樹ちゃん」
「はい?」
「今後も期待させてもらうよ、いろんな意味でね」
真樹に対して、ヤミトは含みのある言い方をした。
もっとも、この様子では彼女の何を狙っているのかは大体想像がつくのだが。
「それじゃ、修行頑張ってね~」
満足した様子で、ヤミトは手を振って去っていく。
公園の入り口の階段を降りていき、やがて通りを渡って姿が見えなくなっていった。
青年がいなくなったのを確認して、大山は拳を震わせる。
「ぐぐ……あんなのに胸触られたんか、アタイは!
決めた、絶対に覇氣をものにしてやる!
そして、またアイツがアタイに賭けてる時に堂々と勝ってやる!!
あんにゃろーをホントに見返してやるぅ!!」
一人気合を入れている大山の横で、真樹は真剣な表情をしていた。
たった今、あの男がスカートめくりに使った技。
その正体について、確認するように梨花に聞く。
「梨花さん、あの人……覇氣使い、それもかなりのですよね?」
「まーねー。多分、普通に戦っても真樹ちゃんと張り合えるか、それ以上くらいには強いと思うよ?」
「げ……マジか」
梨花の返答に、大山の声がさらに引きつる。
真樹もまた真剣な表情で、彼が去っていった公園の入り口を見つめていた。
さっきの風は、ヤミトの覇氣によるものだった。
彼の身体から放った覇氣が、風という形を取って自分達に飛んできたのだ。
少なくとも彼は、覇氣の放出が出来るほどの力を持っている。
技自体は低俗だったけど、ああ見えて覇氣使いとしてはかなりの腕前なのは想像がついた。
彼は『MyTube』の活動の中で、大抵のことは何でもこなせてしまう天才肌な人物と言われているらしい。
動画投稿者として世間の目を引く演者として活躍する傍らで、様々な事業を成功させてきた実業家でもある。
それに加えて、覇氣使いでもあるという一面を見せた。
裏社会のことも知っており、武術家としてもかなりの実力者であることは間違いない。
表には知られていない顔を持っていることからも、あのヤミトという青年の底知れなさが伺えた。
「……真樹ちゃん、言っとくけど。
ヴァルキリーゲームズには女性しか参加できないからね」
「…それは残念です」
真樹の表情を見て、梨花がすぐにツッコミを入れた。
強者を前にすると、挑みたいと身体が疼いてしまう悪癖を、すかさず指摘される真樹であった。
だが、この時の真樹は気付いていなかったのだ。
ここで彼に出会ったことで、真樹は大きな一歩を踏むことになるのだと。
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