1-2:アイドル☆リリカ☆
『初めましてー、梨花でーっす!
リングネームはアイドル☆リリカ☆!
永遠の17歳でーっす!』
ミト・コロシアムに正式に所属となったその日。
マネージャーである男が紹介したのは、このコロシアムに所属する先輩
真樹より少し小柄の体格、ピンクのツインテールを揺らす女性は、出会って早々ににこやかな顔を見せた。
『は、初めまして!真樹といいます!
よろしくお願いします!』
裏社会といえど失礼があってはいけない。
ビシッと背筋を伸ばして礼をする真樹だったのだが…
『ふむふむ、B88、W57、H87ってとこかな?』
『え…!?』
礼など何のその、梨花の視線はもう真樹の身体に向いていた。
自分でも把握していないスリーサイズをいきなり言われて、困惑する真樹。
『ちょい身長は高いけど、一般的な子よりはスタイルよし。
くるくると周囲を周り、じろじろと真樹を見ていく梨花。
『顔もよし。素朴で真面目な純真ちゃんって感じかな。
勝気なイケイケというタイプじゃないけど、道場の技は真摯に受け継いでるってとこ?
普通にしてたら地味っ子だけど、ちょいと弄れば化けそうだねー』
『あ、あの……』
やや緊張気味な真樹のことを興味深そうに見ていた梨花。
その様子にやや呆れた様子で、マネージャーの男は続けた。
『ふむ……では、あとは彼女から聞くといい。
私よりも詳しく教えてもらえるだろう』
『え、ちょっとマネージャー!?』
『梨花、コスチューム合わせからやってもらいたい』
『あ、なるほどそこからねー。おっけ、引き受けたー。
可愛くなってるからビビんなよ~?
というわけで、お姉さんがキミの衣装を見繕ってあげよう!』
『え、ええ…!?』
そんなノリで、衣装室に連れ込まれたのだ。
それから数十分もしないうちに。
真樹は猫耳スパッツの女子校生ファイターへと変身させられていたのだった。
「おー、いいじゃん!
さすがアタシ、いいセンスだ」
自画自賛して笑う梨花を横目に、真樹は自分の姿を鏡で見る。
普段来ている制服とはまた違う、魅せるためのセーラー服。
自分の黒髪に綺麗にマッチする黒猫の耳、スカートの下からチラ見する水色ラインのスパッツ。
この姿で戦うことになるのか。
おかしいところはないだろうか、観客に笑われないだろうかと自問自答してしまう真樹であったが。
「大丈夫大丈夫♪
ちゃんと可愛く出来たからさ、あとはちゃんと戦えることを証明するだけだね」
梨花はただ、自信満々に笑うだけであった。
「いやー、それにしても今月は若い子が立て続けにエントリーしたねー。
真樹ちゃんを入れて、このコロシアムだけで5人も。
うんうん、花が増えるのはいいことだー」
「5人、か……新米同士、いいライバルになれるかな?」
「おっ、いいね。闘志燃やしてる?」
真樹のつぶやきに梨花は楽しそうに笑う。
真樹とて武術家、しかもこのヴァルキリーゲームズである。
単純に仲良くなれるとは思っていない。
ただ、武術をたしなんでいる友人が身近にいなかった真樹は、お互い切磋琢磨できる相手がいればいいなと期待してしまう。
「なんか他のコロシアムでも、新人が多く参戦してるらしくってねー。
この中で這い上がるのは大変そうだけど、ここで頭一つ抜けた実力と魅力を見せれたら、一気にハイレートのクラスまで駆け上がれるかもよ?」
どうやらここ最近は、
闘いの実力はもちろん、女としての魅力も備えていなければ勝ち上がれない。
コスチューム一つとっても、注目度を上げるためならなんでもやらなくては這い上がれないのだという。
とはいえ、そこはれっきとした格闘大会。
武術家としての実力があることは大前提。
試合で勝ち上がることが注目度を上げる最短の道なのも間違いない。
「にひひ、瑠璃亜ちゃんと戦いたいなんて理由でこのゲームに挑もうって子が現れるとは思わなかったよー。
いいね、目指すはチャンピオン!
夢はでっかく!それでこそ若者!」
からからと笑いながら肩を叩く梨花のことを見る真樹。
その物言いの小柄な先輩は、自分と同年代か、もしかしたら自分より年下にも見えるが。
ひょっとして結構歳いっているのだろうか、などと考えていると…
「何か失礼なこと考えてない?」
「い、いえ何でも」
「よろしい」
永遠の17歳と自分で言っている以上、そこに触れないのがマナー。
世事に疎い真樹でも、さすがにそれくらいは分かっていた。
コスチューム選びがひと段落したところで、真樹はずっと疑問に思っていたことを聞いた。
何故、対戦相手であるはずの彼女が、自分のコスチューム選びに協力してくれているのか。
素直に聞いてみた真樹の問いに、これまたすんなりと梨花は返答した。
「そりゃあ、アタシを引き立ててくれるなら、強くて可愛い女の子がいいんだもん!
このミト・コロシアム専属アイドル、☆リリカ☆の相手になるんだからね!」
大きく胸を張って、自信満々にそう言った。
が、梨花はその態度をすぐに崩す。
「なんちゃって。
契約で所属してる真樹ちゃん達と違って、アタシはここの専属だからね。
案内役と門番役も兼ねてるの。
新米がコロシアム内で変なことしないよう監督するのもアタシの仕事」
その後、コロシアム内の説明や選手同士のマナーなんかも教えてくれた。
マネージャーの男は事務的なことしか教えてくれないので正直助かっている。
梨花は、ほとんどの新人のデビュー戦の相手になるという。
彼女は低レート帯にずっといるので、いつの間にか新人を案内する係が板についてしまったのだという。
本人はそのことをあまり気にしておらず、むしろ新人の実力を図るのにちょうどいい役割を任されていると考えていた。
「というわけで。
瑠璃亜ちゃんに挑むつもりなら、アタシを軽く飛び越えるくらいのつもりでいきなよね!
もっとも、大した実力もナシにこのゲームに挑んだのならどうなるか……分かってるね?」
にこやかに笑う梨花だったが、その笑顔には確かな妖艶さが見え隠れしているのだった。
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