2-3:制裁権

「さぁて、まずはライに賞金!

1万6000エン

相変わらず少ねーなぁ……もっと気合入れてこうぜ!」


そう言いながら、実況は賞金の入った封筒を手渡す。

最低賭け金が2000エンの試合でこの額である。

綾とライの人気の差を如実に物語っていた。


「んもぉぉぉ!!

あちしの魅力、いつになったら分かってもらえるのかしらぁぁぁん!!」

「とりあえず何でもデカけりゃいいってもんじゃないってことだ」


ぼよよんと腹を揺らしながら叫ぶライに、さらっとツッコミを入れる実況。

身体のデカさは戦いの武器にはなるが、ことヴァルキリーゲームズが求める物とは違うところが大きいのである。

そこにライが気付く日は来るのであろうか。


何にせよ、この試合はライの勝利である。

ライの相手をそこそこにして、実況は倒れたまんまの綾を軽く叩く。


「おーい、いい加減起きてくれよ~綾~」

「…………はっ!?」


ぺしぺしと頬を叩かれて、ようやく意識を取り戻したらしい綾。

呆然とした表情で、リングを見回した。


「え……オレ……負けた、のか…?」


青ざめる綾に、うんうんと頷く実況。

状況を理解した綾は、ますます青ざめる。


「バカな……オレが、こんな簡単に……」

「そういうことだ。

ちなみにもし勝ってたら28万7400エンだったぞ。

ま、観客の大半がお前に賭けてたから、こんなもんだろ」


なるほど、なかなかいい金額というのは事実だったようだ。

観客達は、綾にお金を差し出すだけの価値があると判断したということだ。

いや、正確には綾の身体にか。


「もっとも、負けたからこの賞金は没収。

さぁ、お楽しみの時間だぜ?」


下卑た顔で実況が煽る。

そうこうするうちに、黒服のスタッフに連れられて5人の男達がリングに上がってきた。

今回、綾に賭けた客のうち、最も賭けた金額が多い5人。

ペナルティの権利を獲得した男達が、ニヤニヤといやらしい顔つきで不良娘に迫る。


「や、やめろ、来るな!来るんじゃねぇ!!」


さっきまでの威勢はどこへやら、狼狽しながら後ずさり。


「オレはまだ、誰にも身体許してねぇんだ!

こんなとこで、ヤラレてたまるか!!」

「むっほっほ、いいですなぁ。粋がっているのに怖がる様、良い演技です」

「演技じゃねぇ!!」


コロシアム常連客の紳士が手を伸ばす。

少しずつリングの端に追い込まれた綾に、遠慮なく触れようとする男達。

いよいよ紳士の手が綾の肩に触れた、その時……


「触んな!!」

「むおっ!?」


綾は思いっきり、紳士を殴り飛ばしてしまった。

思いっきり顔にグーパンをかましてしまったのだ。


「あー……」


リングに倒れた紳士を見て、梨花が呆れと共に声を出す。

噛ませになるとは思ったが、そこまで行ってしまうかという呆れ。


「やっちまったな……」


実況の男もまた、目つきが鋭くなる。


真樹は、会場の空気が変わっていくのを感じ取っていた。

実況の男、そしてスタッフである黒服たち。

ぴりぴりと張り詰める緊張感が漂う。


同時に、観客達からも異常なほど期待の眼差しを感じる。

普段のペナルティ以上の何かを期待する目である。

熱気と興奮を抑えきれないような様子の観客達。

ただでさえ欲望渦巻くゲームだというのに、観客達がその欲を抑えていないのだ。


「ふ……ふっふふ、やってしまいましたなぁ」


殴られた紳士が、鼻血を抑えながらゆっくりと立ち上がる。

そして、一言言い放つ。



「制裁権を発動したいのだが、よろしいか?」



「ペナルティ拒否の態度、顔面にパンチ…

まぁ十分要件は満たしてると思うけどな」


実況の男が勿体ぶる。


「な、なんだよっ……制裁権って?」


綾が訝しがる。

聞き慣れない言葉だ。


「いやいや、ちゃんと説明したはずだぜ?

もしも、負けた女戦士ヴァルキリーが、ペナルティの権利を得た客に対し、何らかの不利益を与えた場合……

例えば、殴って怪我させるとかな。

その場合、客の方から制裁権ってのを発動できるんだよ。

よりキッツイ罰ゲームを与えるよう要請できるのさ」

「なっ……」

「もちろん無尽蔵に制裁権なんてしたら収拾がつかないから、OKかどうかはコロシアムが判断するが……

鼻血出るくらい強く殴っちまったら、まぁ通るんじゃねぇか?」


ニヤリと笑う実況の男。

周りの男達も、ニヤニヤと下衆な笑みをいっそう深くする。


観客を殴ってはいけないというのは、最初に契約した時に厳重に注意されているのだ。

怪我上等の殴り合いの場であるコロシアム。

そこで戦う戦士の拳が、一般的な身体つきの人間を殴ればどうなるか。

そんな事態を未然に防ぐためのルールでもあるのだ。

女に無遠慮に手出ししてくるから、なんて理由はこの場所では通らない。


「ざけんな!!オレは……!!」

「おっと!」


それでも、純潔を守りたいと思うのは、女としての本能だろう。

このまま黙って弄ばれるわけにはいかないと、綾は実況の男に殴りかかった。


実況は即座に避けるが、綾にとってはそれで良かった。

そのまま綾はリングを飛び下り、逃げ出していく。

通路を駆けだしていく綾を見て、実況が叫ぶのだった。


「獲物が逃げたぞー!!

第一種捕獲体制ーー!!」

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