8-17:敗者が飲み込むもの
『はああぁぁっ!!
映像に映っていたのは、真樹がライバル視しているお嬢様、沙耶だ。
彼女がどこかのコロシアムで戦っている様子が映っていた。
ここが
プロレスのような四角いフィールドにロープが張られたリングだが、煌びやかにライトアップされており、ド派手な音楽が鳴り響いている。
周囲には巨大なモニターがいくつも並び、派手な文字と共に沙耶と対戦相手の姿を映していた。
格闘技のリングというより、まるでライブ会場のようなド派手なステージ。
そこで沙耶は、サキュバスを模したセクシーな衣装の選手を相手に戦っていた。
対戦相手は、顔立ちからして西洋系の外国人だろうか。
派手目なピンク色の長い髪を揺らし、胸元が大きく開いた黒いレオタード、脚には蝙蝠を思わせる入れ墨をした、大人なお姉さんという雰囲気の対戦相手。
そんなサキュバスお姉さんは、沙耶の連続蹴りをまともに食らってリングを転がる。
なんとか立ち上がったが、肩で息をしているようにふらふらだ。
ついでにその大きな胸も揺らし、周囲の観客の視線を集めている。
だが、真樹が注目しているのは沙耶の方だった。
技を出した彼女は、両手両足が光を纏っていたのだ。
真樹が再現するのに苦戦していた、覇氣をその身に纏いパワーアップする技法、『王羅』を既に身に付けているようなのだ。
『
沙耶はそのままトドメを刺すべく、光り輝く手足を振るい、強烈な連撃を相手に叩き込んでいく。
バシリ、バシリと相手を殴る音が会場に響き、そのたびに光の粒子が宙を舞う。
リズミカルに攻撃を当てていく様子は、サキュバスを楽器にしたライブでも行っているかのようだった。
『トドメですわぁぁぁっ!!!』
最後に沙耶は、強烈なソバットを叩き込んだ!
大柄なサキュバス姉さんの腹に直撃!
相手はそのまま華麗に吹っ飛んでいき、巨大なスクリーンに頭から激突した。
がしゃああああんっと派手な音を立てて画面が割れ、そこに埋められる対戦相手の姿が映された。
『決まったああああぁ、沙耶の新奥義・光翔虎月乱!!
オーガン選手、立てないかぁ!?』
オーガンと呼ばれた、外国人らしいサキュバス姉さん。
巨大なスクリーンに突き刺さり、壁尻状態を晒しているオーガンは、そのまま動く様子はない。
『3、2、1……0!!
WINNER、沙耶ぁぁぁぁ!!!!』
『『『YEAHHHHHHHHHHH!!!!』』』
あっという間にカウントが進み、沙耶の勝利が確定。
コロシアムから歓声が上がった。
そして、実況からこの言葉が飛び出した。
『海外から招致した大物選手を、見事撃破したお嬢様!!
これで沙耶は間違いなく、エキスパートクラスに昇格となるでしょう!!』
「……えっ!?」
実況のセリフを聞いた真樹が目を丸くする。
隣にいた梨花は、肩をすくめながら説明を続けた。
「ま、そういうことだね。
真樹ちゃん達が天命戦やってる間、沙耶ちゃんは国際戦ってのをやってたんだよ。
海外の選手を招待して戦うってやつね~」
ヴァルキリーゲームズが海外でも展開されていることにも驚くが、沙耶がそんなイベントに参加していたことにも驚く。
ヤクシマ以降会っていないが、彼女もまた己の戦いを続けていたということだろう。
「で、見事勝利した沙耶ちゃんは昇格が確定!
ピース5の中では一抜けだね~♪」
それは、若手の注目選手の中で、真樹を超えて最も有力選手となったことの証。
そのことに、真樹は衝撃を受ける。
自分のライバルが、一歩先へと進んでいる。
それは喜ばしいこと。
親友でありライバルである子が、一緒に強くなろうと誓った相手が、間違いなく前進しているのだ。
友として誇らしいし、純粋に嬉しくなってくる。
そして、悔しいこと。
今まで対等と思っていたのに、自分はその舞台に出遅れている。
相手に負けないように奮起するところだろう。
…今までの真樹だったなら。
「こりゃ真樹ちゃんも負けてらんないね~♪」
「わ、私は……」
呑気なテンションで話す梨花の言葉に、いつもならすぐに答えられたはずだ。
私だって負けてられません、と答えるところだ。
なのに……
心が燃えてこない。
もっと戦いたいという衝動が、沸いてこない。
(私……どうしちゃったの?)
自分でも戸惑う。
あれだけ戦うことが大好きだったのに。
ライバルとの競い合いほど、心が熱くなるものはないと思っていたのに。
「……どしたの?」
真樹の様子がおかしいことに、梨花もすぐに気付いたようだ。
そして、少し考えた後、梨花は問う。
「もしかして、今更怖くなった?」
「そんなことは……」
真樹が答えようとした瞬間……
ひゅっ!
「きゃっ!?」
梨花は攻撃を放った。
即座に顔面に向けて拳を向ける。
もちろん当てる気は更々なく、ただの寸止めだったのだが……
真樹は思わず目を瞑ってしまう。
以前の真樹だったら驚きこそすれ、避けるなり手で防御するなりしただろう。
しかし、そんな素振りすら見せられないほどになっている。
(うーん…………こりゃ思ったより重症かもね)
真樹の様子に、梨花はすぐに彼女の状態を読み取った。
なるほど、これはまずい状態に違いない。
攻撃を前に目をつぶってしまうのは、怖いと感じるから。
以前までは無かった、戦士を前にして恐怖を抱く状態。
真樹は、今までは感じていなかった、戦うことそのものに対しての恐怖を抱いてしまっているのだ。
昨日の天命戦の内容は、既にV.G.Hubで展開されている。
そこから、梨花は真樹がこうなった原因を推察する。
真樹は今回、初めて明確な黒星をつけた。
それも、ただの敗北というだけではない。
天明戦の3戦目、マスタークラスのカグヤとの対決。
世間的には達人相手に食らいついた脅威の新人として見られているが、実際には全く歯が立たなかった。
神氣の暴走なんてものまで起こしたのに、歯牙にも掛けないくらいの圧倒的な差を見せつけられてしまったのだ。
あまりにも高すぎる壁の登場に、自信を喪失しても不思議ではない。
これに加えて、1戦目と2戦目も、あまり気持ちのいい勝利とはならなかった様子。
特に2戦目の出来事。
共に挑んだ大山との対決。
普通にぶつかるのであれば何の問題も無かったろう。
しかし実体としては、既に敗北し一度はペナルティで苦しんだ大山を、もう一度敗者に叩き落すような展開となってしまった。
試合前に戦うことを躊躇ってすらいたのだ。
気持ちよい勝利とならなかったことで、これからも戦い続けることにさえ迷いを生じるようだった。
自信の喪失と戦う理由への迷い……
それでぐちゃぐちゃになった心に追い討ちを掛けるように、激しいペナルティが真樹を襲った。
拘束された状態で、男にも女にも弄ばれていく身体。
その中で受けたカグヤの指摘。
激しい恥辱を受けた中で、自分が実は淫乱な娘なのではないかという疑問が大きく膨らんでしまったようなのだ。
戦うためではなく、エッチなことを楽しむためにヴァルキリーゲームズに参加してるのではないか。
そんな疑問を持ってしまった自分の心に戸惑ってしまっているのだろう。
一度頭に染みついてしまった迷いは、そうそう取れるものではない。
(いやー……やっぱ真樹ちゃんも女の子なんだねぇ)
こういうことは、ヴァルキリーゲームズでは珍しくはない。
戦士としての誇り、多額の賞金、刺激的な体験など、様々に上げられるだろう。
しかし、淫らなペナルティは否応なく『ただの色欲』という理由を付け加えてくる。
戦う理由が『淫らな体験をする』というものに書き換えられる可能性。
これに戸惑い、自分は色欲魔なのではないかと思ってしまう者は後を絶たない。
こうした悩みを感じて戦いの場を去る者もいたし、なんならそのまま己の欲望に溺れて、風俗嬢へと堕ちていく者達も山ほど居た。
そういった事柄も含めての裏社会なのだ。
普段の梨花だったら、そのまま雌落ちしていく女を見送るだけだったろう。
(けど……勿体無いよねぇ……?)
だが、真樹に対してはそれは惜しいと感じてしまう。
彼女が本気で頂点を目指して戦ってきたのを知っているからだ。
それくらいの才能もあるし、そのための努力も欠かさない健気な娘。
引き分けによってペナルティで辱めを受けても、立ち上がるだけの強さも持っていた。
真樹の戦士としての熱意には敬意を払っている。
彼女の熱意に充てられて、自身にも戦う熱を思い出させてくれたほどなのだ。
運営として見ても、彼女ほどの話題性がある
ここまでヴァルキリーゲームズが盛り上がってきたのは過去に例が無い。
これほどのスター性を秘めた美少女闘士。
このまま失意で脱落されてしまうのは、あまりにも惜しい。
「うーん……
真樹ちゃん、初めての黒星で色々と心の整理が追いついてないんじゃないかな?」
「えっ……?」
あえて詳細を語ることはしない。
ただ端的に、真樹の心の状態だけを指摘する。
「戦士にとって敗北は糧になる。
言葉にするのは単純だけど、実際は飲み込むのも大変でしょ?
アタシはもう負け慣れしちゃってるけど、敗北ってやっぱりショックなものなんだよ」
梨花はニコニコと笑っているが、いつものような悪戯っぽい顔でない。
慈しむように優しく語る顔だ。
改めて、真樹は『若手』なんだと痛感する。
どれだけ超新星と持て囃されようと、そこは可愛い女の子なのは違いない。
ペナルティから受ける衝撃は、なんだかんだいっても若い娘には衝撃的なもの。
今回で3度目とはいえ、これまで必死に押さえこんでいた苦しみ…いや、自分の中に膨らむ『欲望』に戸惑っているのだ。
「ここまで戦いと修行漬けだったし、身体も心も疲弊してるんじゃないかな?
夏休みももうすぐ終わりだし、ちょっと休暇を取ってみたらどうかな?」
「休暇、ですか……」
戦う意志を示し続けなければ、己の欲望に溺れゆくのみ。
だが、心にも休息は必要だ。
身体だけでなく、心も整える時間が必要なのではないか。
梨花はそう判断した。
真樹は戸惑いつつも、自身でも休息の必要はあるのかも、と思うようだった。
黙り込んでいるものの頷いているのを見て、梨花は言葉を続ける。
「そう、休暇。
例えば……実家に帰ってみるとか?」
真樹は一人暮らしをしているが、まだ学生の身分。
保護者がいるはずだし、夏休みに帰省しないのはむしろ変だろう。
梨花としては常識的な提案のつもりだったのだが……
「実家、かぁ……」
真樹は、複雑な顔を浮かべるのだった。
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