3-6:強くなる気持ち


「ふぅ……」


気持ちいい。

戦いの後は、大浴場で汗を流すのが恒例となっていた。

湯船に浸かった真樹はゆっくりと息を吐く。


「勝てたけど……まだまだ足りないかな」


身体が温まり、疲れが少しずつ抜けていく。

そうして頭がクリアになるほど、今日の戦いの反省点が次々と思い浮かぶ。


特に今回は、敗北寸前まで追い込まれたのだ。

情けない姿をしたと自分でも思う。


「にゃはは、まーた悩んでる」


ぼんやりと思考していると、大浴場に明るい声が響いた。


身体にタオルを巻いた梨花が風呂に入ってきた。

そして、もう一人。

タオル越しでも分かる、出るところがしっかりと出てるプロポーション。

大山もまた、大浴場に姿を現したのだった。


「よっ、ご一緒させてもらうぜ?」

「あ、うん」


真樹が身体を避けて、2人が湯舟に入ってくる。

つい、大山の方に視線が行ってしまった。


湯舟にタオルをつけないのは浴場のマナーだ。

大山も浸かる前にきちんと外し、それにより肢体が露になる。

女の自分でさえ、ちょっと羨ましいと思ってしまうカラダ。



…ふと、先程のペナルティが頭によぎる。

この豊満な肉体が、男達の前に曝け出されていたのである。

敗北した罰として、思いっきり辱めを受けていたはずだ。


「その……大丈夫だった?」

「お、おぉ……なんとか、な」


顔を赤くしながら答える大山。

彼女はさっきまで、シャワー室で身体を洗い流していたはずだ。

恐らく梨花にも手伝ってもらい、自分の身体を隅々まで洗っていたことだろう。


しかし、彼女の胸には赤くなった手跡がある。

男達に思いっきり揉まれた跡が、痛々しく残っていた。


そんな様子の大山を、ニマニマとした笑顔で梨花が茶化す。


「にっしし、どうだった?

初めてのペナルティは?」

「あぁ、いや……なんつーか……凄かった」

「いやー、ぶるんぶるんでしたなぁ~♪」

「うぅ……言うなぁぁ……」


顔を赤らめて、ぶくぶくと湯船に沈んでいく大山。

ペナルティは、身体を見放題、触り放題。

となれば、彼女の肉体のどこが注目されるかなど聞くまでもない。


まぁ、真樹とて彼女の肉体が弄ばれる姿を観客席で見ていたのである。

彼女が色んな意味で、魅力的な女性であることは理解した。

これ以上深くは聞くまいと考え、話題を変える。


「大山さんって、どうしてこのヴァルキリーゲームズに?」


それは単純な好奇心。

彼女もまた、辱めを受ける罰ゲームがあると分かってて、このゲームに挑んでいるはずである。

彼女の戦う理由を聞いてみたかった。


「ん、おぉ。

まぁこないだも言ったと思うけど、憧れてる人がいるんだよ。

アタイが小さい頃に出会った、女子プロレスラーだ」


大山の方も、特に隠す理由もない。

真樹に聞かれるままに、身の上話を話し出した。


「アタイはさ、子供の頃から成長が早くてさ。

ガキの頃から周りより身体がデカいから、何かと突っかかられやすくてね。

アタイもアタイで、まぁ売られた喧嘩は買う主義だったからよ。

気に入らない奴は遠慮なく殴り飛ばしたりしてたんだ」

「アグレッシブだね…」


だが、なんか想像できる気がする、とは口に出さない。


「喧嘩ばかりだったなぁ。

けどよ、ある日、たまたま会ったのがそのレスラーだった。

喧嘩してたアタイらをあっという間に止めちまってな。

いつの間にか地面に寝っ転がってて、何されたのか全然分かんなかった」


大山は懐かしそうに天井を見上げる。


「その人に言われたのさ。

気に入らない奴を殴るためじゃなくて、デカいことをやり遂げるために強くなれってな。

見ず知らずのガキに説教してくなんて、どんな奴かと思ったよ」


だけど、それが自分の人生を変えるきっかけになったのは間違いなかった。


「けど、その人が……ミストフレイムっていう覆面プロレスラーだって知ってな。

その人を追っかけて、同じジムに入った」

「凄い行動力だね」

「真樹ちゃんも人のコト言えないと思うけどね~」


憧れの人が出来て、その人を追いかけるという気持ち。

真樹には理解できる。

似たような理由でこのゲームに参加している身としては。


「とにかくあの人に認められたかったってのもあるかな。

なんつーか、アタイは子供で相手が大人とはいえ、あまりに呆気なくやられたのが悔しくて。

ついムキになって、必死に体を鍛えた」


おかげで、頑丈さには自信がついたという。

子供の頃から、大の大人を相手にすることを目指していたのだから。

成長した今では、それが大きな糧になった。


「けど、アタイがデビューする頃には、あの人が引退しちまって。

強くなる目標みたいなもんが無くなって、なんとなくダラダラと続けてたんだが…

やっぱそんな調子じゃ周りは気に入らないわけよ。

おまけにこの胸までデカくなるから、変に注目浴びちまうしよ…」


男性からは欲情の目を。

女性からは嫉妬の目を。

彼女の胸は人気を得る武器であると同時に、コンプレックスにもなっていたのだ。


「ま、レスリング自体は嫌いじゃねぇんだけど、表のプロレスって、なんつーか、いかにも見世物って感じがしてな。

強くなることより、観客を盛り上げた奴が勝ちみたいなとこあるからよ。

どこかで気持ちが入ってなかったのかもしれねぇ」


表の世界でも覆面レスラーで、ヒールキャラとして活動していた大山である。

暴れることはキャラには合っているが、それでもどこかで力を発揮しきれないでいた。

スポーツでもあり、興行でもあるから、当然ルールが存在する。

それゆえに、力を持て余しているような気がしていたのだ。


「けど、ある時このヴァルキリーゲームズに、あの人が参加してるって聞いてな。

どうやら表のプロレスを引退してからも、こっちで戦ってるらしい」

「ホントなの?」

「選手については守秘義務があるから詳しくは言えないけどね~。

大山ちゃんに聞いた特徴に該当する人は思い当たるよ~」


真樹は思わず梨花に確認するが、梨花ははぐらかすのみ。

ただ、大山の憧れの人は表のプロレス界からは完全に姿を消しているが、別の活動を始めたという噂があるらしい。

こちらにいる可能性は十分にあった。


「アタイの目標は、あの人に勝つこと。

本当にこのゲームにいるかは分からないけどよ……

アタイは本当に強くなったと、きちんと実感したいんだよな。

…ま、今日はコテンパンに負けちまったわけだが」


そう言って、大山は真樹に向き直る。


「今日の試合は、本当に楽しかった。

アタイを戦士として真っ直ぐ見てくれたからな」

「あはは、私も楽しかった。

思いっきり戦えたからかな?

なんていうか、自分の力を出すのって、気持ちがいいんだよね」

「なんか分かるぜ。

思いっきり暴れるとスカッとするっていうかさ」


普段は隠し持っている力。

暴力という、表社会では抑えなくてはいけない力。

それを思いっきり使える解放感というのもあるかもしれない。

ある意味、裏のゲームらしい魅力を感じ取れた試合であった。


「にひひ、大山ちゃんはコンプレックスも解消できたんじゃない?」

「うぐっ………!!」

「いい女とか可愛いとか言われてたんだよね~♪

身体中モミモミされて、ホントは気持ちよかったんじゃない?」

「うぶぶ…………」


そんな友情場面を台無しにする梨花の言葉に、大山はまたばしゃんと顔を湯に沈める。

顔を真っ赤にしたまま、ぶくぶくと湯船の中に沈んでいった。


辱めを受けるペナルティであるが、これはお金を払う価値がある身体を持っている女戦士ヴァルキリーがいて初めて成立する。


言い換えれば、『モテる女』で無ければ、この舞台に立つことが出来ないのである。

その点、大山には実に魅力的な武器が一つある。

もっとも、それを抜きにしても、彼女は実に『価値がある』女性と見做されていた。

でなければ、あんなに男達が群がったりしない。


ペナルティの最中、大山は男達に色々と言われていたのだ。

『可愛い』『美しい』『強い』『素敵』『エロい』……

だがそれらはむしろ、大山のことを肯定してくれる意見ばかりだった。

そこに喜びを感じてしまったことは否定できなかった。


「ま、覚悟決めたってならアタシは嬉しいよ。

これからもこのゲームで戦ってくれるってなら、アタシは大歓迎だからね」

「…………おっす」


大山は顔だけ出して、短く返事をした。

恥ずかしい目にはあったが、このゲームを降りる気は全く無かった。

憧れの人を探すにしろ、真樹にリベンジを果たすにしろ。

もっと強くなるために、このゲームへの参加を続ける意思は強くなっていたのだった。


(観客達もアタイのことを認めてくれたようだし…)

と頭によぎったが、その考えはすぐに頭の隅に追いやることにした。

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