第6話 別視点(一般農奴オギバナ) 狂気の集会 

 何だかんだとアタイ等の策略を難無くり抜けやがった。


「チッ、あのクソガキ」


 アタイは溜まった鬱憤うっぷんをぶちまけた。


 アタイは、タヌキ寝入りを決め込むと、あのガキが慌てるザマをじっと見張ってたんだが……。

 やっぱり、一筋縄ではいかねえようだ。

 何の事はねえ、あのガキは、この寝床ねどこからトンズラしやがった。


 何なんだよ、あの異能は?


 まあ、あのクソガキの異能の力が、ハッキリしない内は深追いはしねえって決めてんだけど、どうにも心がざわついていけねえや。


「これだから、異能持ちは、いけすかねえんだ」


 アタイの名前はオギバナ。


 ここの掃き溜めの奴隷共もビビって縮こまる暴力団『暗闇の沼』の団長ヘドルドの情婦じょうふの1人だ。


 アタイはここのくそみたいな掃き溜めに来てよう、そろそろ1年になるんだ。


 ここで生き残る道はただ一つ、強い奴と寝て快楽を楽しんでりゃいいだけさ。


 簡単だろ。強い奴とねんごろの関係になれば、権力が持てんだぜ。


 上手い飯も食えて、人を指図する御身分にも成れるしよ。


 いいだろ、この生活も中々捨てたもんじゃないぜ。


 まあ、そんないい御身分だったアタイだったけどよ、ここ最近はよ、ツキが落ちてきやがった。


 全てはあのガキが、アタイ等の掃き溜めに住み着くように成ってからだ。


 ガキの始末を早くしねえと、アタイのほうが先にヘドルドに壊されちまう。


 ああ、イライラするぜ。


 ムシャクシャしていた気持ちの昂ぶりを抑える為に、そこらへんのゴミ共に八つ当たりゃ、ちった─、心も落ち着くかもな。


 近くに居る寝た振りをした無関係のゴミ女に狙いを付けると、そいつの腹を目掛けて、勢いよく蹴り上げる。


「ぐはっ」


 蹴りを入れられたゴミ女は、うめき声をだすが……。


「声を出すんじゃねえぞ、寝てろ」


 鋭いドスの利いたセリフに、ゴミ女は小さく丸まり震えていた。


(へっゴミ屑がっアタイの視界に入ってくんじゃねえよ)


 シルアが大部屋から出たのを気配から察知した複数の女性農奴達が、散り散りに離れて横になっていた場所から、むくりと起き上がる。


 そして、豊満な体型で腕組みするオギバナの元に、散っていた仲間達が寄せ集まってきた。


 ここに集合した女性達が共謀きょうぼうして今回の犯行を実行した者達だ。


 この者達は、熟睡したシルアに睡眠薬を口に流し込むと、更には、裏から手を回して盗んだ卵を無理やり口に押し込み、窒息ちっそく死させようとしていた。


 だが、その悪意に満ちた計画は、神の力に守られたシルアを前にして、敢え無く失敗に終わったようだ。


 シルアは熟睡してまったく気づく様子が無かったが、実は、これが最初の犯行では無い。


 最初に実行した犯行では、寝てる間に、小瓶に入った毒薬をシルアの口に流し込んでいた。


 だか、それも逆に寝ぼけたシルアに両手を掴まれると、毒薬の瓶ごと奪い取られ、瓶ごとガリガリと食べられていたようだが……。


 このような身の毛もよだつ程の残虐非道ざんぎゃくひどうな行為が、何度も実行されていたようだが、此れが心まで病んでしまった農奴達の狂った日常であった。


 どうやら、その寄せ集まった者等は、仲間内で話し合いを始めるようだ。

 

「なあ、オギバナ。ちょっと聞きたいんだけどよ」


 アタイに声を掛けた奴の名前はモンティ。

 馬鹿で使い勝手がいい、アタイのお気に入りの駒の1人さ。

 馬鹿はアタイの言う通りに動いてりゃいいのによ。

 もし、アタイを馬鹿にしやがったら、ボコってやるぜ。


「あそこでアタフタしてる間に騒でやりゃ、よかったんじゃねえの。そうすりゃよう、あのガキ、逃げ場が無かったんじゃねえのか」

 

 モンティの考えも分からんでも無いけどよ。

 だが、もっと頭を使いな。


「ちった─頭を使いな、モンティ。自暴自棄になったガキが何するか、分かんねぇんだ。馬鹿みて─に危なねえ橋、渡れる訳ねえだろ─が」


「なんだっけな、ことわざで確か、虎の尾をって……言葉が出てこねえ、忘れちまったぜ」


 外野にいる1人が呆れた顔でアタイの代わりに答えを言う。


「虎の尾を踏むだろ。オギバナ」


 くそっ後でコイツをボコってやる。


「そう、それだ、虎の尾を踏んだらやべえんだ。わかんだろ」


「ここは騒ぐより、今の状況を利用してやんだよ。あのガキの異能は異常だからな、近づき過ぎたら、此方こっちが殺られちまうんだぜ。切れたガキの巻き添えを食うのは割に合わねえしな。アタイは、巻き添え食って死ぬのは御免なんだよ」


「てめえが、どうしても馬鹿な考えが捨てきれねえんだったら、アタイ等が居ない場所でやんな」


 アタイの考えに賛同する仲間達がモンティに文句を垂れる。


「そうだぜ、もっと頭を使いな、モンティ」

「モンティ、オギバナに逆らうのは勝手だけどな」

「あたしも死ぬのは嫌なんだ。やるんなら、1人でやんな」


 仲間の非難に狼狽うろたえ間抜けな面をしたモンティは、馬鹿丸出しの言葉を言いやがる。


「御免って、俺は頭が悪いから解ねえんねえだよ」


「なんで、ここにいる全員が、あんなクソガキに怯えてんだよ」


「モンティは知らないのかい、ヘドルドの片腕だったガラクラが返り討ちにっただろ」


「ああ、知ってるぜ。あんときは確か、あのガキがヘドルドさんの情婦じょうふになる話を蹴ったんじゃなかったかい。その腹癒はらいせに、ガラクラさんが腕っ節のいい奴らを5~6人程引き連れて、あのガキにおそい掛かったんだろ」


「全員、その場で倒されちまったって聞いたな、確か、んでそれがなんだよ」


「アンタ、相変わらず呑気のんきな性格で幸せそうだ。まあ、そこがアンタの長所でもあるんだが、モンティ、いいかい、よ~く聞きな」


「返り討ちにあった奴等は全員、あの後、重度の魔素に全身を犯されちまったんだ。奴等は毒がじわじわ体内をむしばむように黒ずんでいってよ、5日後には全身が真っ黒になって全員おっ死んじまったんだぜ。怖くねえかい。アタイはあのガキの異能の力が怖いね。死んだ奴等の死ぬ前の症状から判断すればよ、ありゃ~黒死病こくしびょう以外にはありえねえ死に様だろ」


「黒死病っていや、掛かったら最後、治す手段がねえ病気じゃねえのかい」


「ああ、そうさ、あのガキの異能は黒死病を振りまく異能に違いねえ」

「それによ、他にもまだ隠し持ってる異能をありそうだ」


「うへ~、んなら、さっき俺がたまごを口に押し込んでたの、やばかったんじゃねえのかよ。そんなやべえ話があんなら先に言えよ。俺も黒死病にかかったかも知んねえじゃねえか」


「モンティなら大丈夫さ、馬鹿は風邪引かねえっていうだろ」


「そりゃ、ただの迷信じゃねえかよ」


「そうは言うけど、アンタはアタイらに、これまで風邪を引いたことないって自慢してたの忘れたのかい。モンティの馬鹿はそんじょそこらの馬鹿じゃないから安心するがいいさ」


「確かに風邪なんか引いたこともねえって言ったのは俺だ。だけどよ、それとこれとは、話が違うだろ」


「へ──、何が違うんだい。モンティ…言ってみな。今度はアタイが聞いてやるよ」


 ほう、この馬鹿がアタイに意見すんのかい。

 事と次第によっちゃ、モンティを袋にするぜ。

 

「さあ、いいな」


 アタイは目を細めてモンティを睨みつけてやる。


「い…嫌、なん……なんでもねえ」


 モンティはブルブル震えてやがる。

 

「なんでもねえって、勘違い、そう勘違いしたんだ」


 何だい、足も震えてるじゃねえか。


「俺は馬鹿だからよ、同じでいいかもしんねえな。ここで俺が生きてられんのもオギバナのお陰だしな。頭を使うのはどうにも肩が凝って仕方ねえぜ。やっぱ考えるのはオギバナに任せるのが1番だ。次からはそうするぜ」


 満足のいく答えも貰ったアタイは顔の表情を緩めて、モンティに労いの言葉を掛けてやる。


「ああ、物分りがよくて、アタイも助かるよ」


「モンティはアタイが命じるまで、あのガキに手を出すんじゃねえぞ。アタイらのような、弱い人間が、バケモン相手に正面から戦いに挑むのは、死に急ぐことにしかなんねえんだからな」


 外野からアタイの話に同意する声がした。


「弱ったように見えても、異能の力は侮れねえからな」


「ああ、そうさ。侮った馬鹿達は死んじまったから、同じ間違いは起こさねえ。アタイらは姑息こそくに立ち向かえばいいんだよ。あのガキを真綿をしめるようにじわじわ追い込んでいくんだ。そのほうが糞詰まんねえ日々に、花を添える娯楽が出来て楽しいだろ」


「何だかゾクゾクするわ。今度は私も計画立てんのに混ぜてくれないかい」


 こいつの名前はステリカ。アタイと同じヘドルドの情婦じょうふだ。


 アタイのほうが先輩だけどな。


「ああ、いいぜ、ステリカ」


「嬉しい、流石オギバナ、話が早くて助かるわ」


「私も参加するぜ。んで、オギバナよう、どうすんだ、この後の後始末は?」


「決まってんだろ、夕方にでも警備隊につきだしてやるさ」


「アタイらがガキの口に玉子を押し込んで食わしたとはいえ、玉子を食ったのはあのガキだ。それは間違いない事実だろ」


「寝ながら食い続ける根性には、恐れ入ったがね」


「あとは、たらし込んだ警備兵に、有る事無い事話を盛って告げ口すればよ、後は警備兵達がガキを楽しく甚振いたぶってくれるはずさ」


「相変わらず怖いね─、オギバナさんは」


「私ゃ─、ヘドルドの命令に、素直にしたがってるだけさ。色白のクソガキが大人しくヘドルドに掘られてりゃ、ここまでしなかったよ」


 そばに集まった仲間達は、おのおの笑いながら、お互いの感想を言い合う。


 この部屋には、他にも女性達が大勢寝ていたが、自分には関係ないと寝たままの姿勢を貫いて、その意思を固く主張していた。


「私ゃぁ、あのクソガキが突然玉子を握り締める時にゃ、ビビったね」


「それなら俺が一番ビビったぜ。なんせ間近だったからな。玉子が一斉に光りだしたのにもビビったけどよ、そもそも、なんで生卵が茹で玉子になんのか、全然意味が分かんねえぜ。なんせ、あのガキが薄くを開けた瞬間には、肝を冷やして、冷や汗かいちまったぜ」


「後はよ、アレは何だったんだ。訳分かんねえぜ」

「玉子の殻の破片が、突然大量に現れるのも変だしよ、しかも、何なんだ、あのガキを盾にするように廻り出すのわ」


 女性の言うように、彼女達は、シルアに襲いかかる過程で不可思議な事態に遭遇そうぐうしていた。


 シルアの寝てる周囲に、突如、鋭利に細かく砕けた殻の破片が空宙に出現すると、浮遊しながら、襲撃者達を威嚇いかくしていたのだ。


 その不思議な怪奇現象に恐れをなした襲撃者達は距離をとり、暫く様子を伺っていたようだ。


「それなんだけどさ、見て頂戴よ、私のこの手。その浮かんだ殻が張り付いて取れないわ。それでさあ、この張り付いた殻が少しずつ大きくなってる気がするのよ」


「私も腕に張り付いて取れないわ。何なのさ。あのガキ」


「何、不安な声だしてんだ。たかが卵の殻じゃねえか、ほっときゃその内取れるだろ。唾でも付けときな」


「気持ちわりいんだって、何だよこれはよ、もう、誰か後ろからナイフで、あのガキを刺してくんねえか」


「いいね、賛成だ。わたしゃ、相した方が手っ取り早くて有難いね。あのガキの最後の瞬間を、賭けてるアタイからしたら、さっさとコロッとって欲しいんだよ」


「モンティ、お前の出番じゃないのかい」


「俺はオギバナの言う事は聞くが、お前等の言う事は聞かねえぜ」


「でもよう、あのガキは弱そうに見えて、中々、しぶとくねえか」


「今度はどんな方法で殺るのか、もっと、考えたほうがよくねえか」


「普通に寝てる間にナイフで刺しちまえば、あんなガキ一発で終わりだろ」


「やりたきゃ1人でやんな。あのガキ寝てる間も、どんな異能を使うか予想が付かねえだ」


「そうだよ。止めときな。この前毒飲ませてた奴がよ、毒が効きゃしねえからって、首締めようとしたら、あの後、どうなったのか見てなかったのか」


「知られえよ。私はその時は寝込んでたからね。知ってんならさっさと話してくれねえか」


「ああ、聞いて驚くなよ。そいつ、首を絞め用としたらよ、いきなり手元から石化し始めんだ。一瞬の間に全身まで石化が及んで、石像みたいになったと思った次の瞬間にゃ、その石像が砂のように崩れて消えちまった」


 アタイもあの光景を側で見てたけど、流石のアタイもビビったね。

 とんでもねえ化物に喧嘩売っちまったとも思ったさ。

 だが、今更逃げ出しちまったら、それこそアタイ等はお仕舞いだ。

 仲間を殺されて、仇討ちも出来ねえ『暗闇の沼』だって噂がたった日にゃ、目も当てられねえ。

『暗闇の沼』としても後には引けねえんだ。

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