第10話 これ、絶対人に見せちゃいけないやつだ

 神のシステムを起動するキーワードを唱えた事で、目の前に現れた半透明のパネルは、道案内の先導役でもするかのように、私の歩く3歩先に浮遊したまま、歩くスピードに合わせて前に進んでいく。


 その神のシステムパネルは、いままでと少し様式を変えているようだ。


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  ────検索画面────  


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神のシステム     Ver.325.0

   ──ステータス管理──

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 以前のステータス画面上には、このような表示画面はなかった。

 これには、私もビックリ仰天してしまう。


「いきなり、神のシステムの画面も、新しく改良されてるし」

「もう、混乱しまくりなんだけど……」

「そういえば、神のシステムの機能拡張ってたしか名前がつけられてたような」

「あれったしか、バージョンアッポって名前だった気がする」

「間違えてるかも、バージョンアップルだった様な気がするな~」

「い~や、忘れちゃった」

「どうせ誰も聞いていないし、ここは可愛らしくバージョンアップップとかどうかな」

「う~ん、長いな~~」

「アップップ……まだ読みにくいな」

「アップ……プップ……そう、ぷっぷちゃん」

「そうよ、今日から私の神のシステムの名前は、ぷっぷちゃんて呼んじゃお」

「愛らしくて、覚えやすいしね」

「よろしくね、ぷっぷちゃん!」


 シルアは、何気無い思いつきで、『神のシステム』に名付けをした。


 この行為が後の物語に影響を与えて行くことに成る。


 ──『神のシステム』とは?


 そう思う者達も少なくないだろう。


『神のシステム』は此の世の神が地上の人々に授けた神器。


 これが答えである。


 だが、この大いなる存在を正確に理解している者達は、一部の特権階級の人間しかいなかった。


 そして、『神のシステム』の全容は、いまだ誰も掴めていない。


 このような大いなる御力を秘めた『神のシステム』なのだが、この世界に暮らす人々にとっては、身体の両腕以上の存在と言っても過言では無い程に切り離せない存在なのも、また事実であった。


 この『神のシステム』がシステム更新バージョンアップされた例は、過去にも例がある。

 

 更新の頻度は大凡おおよそ100年周期で行なうのが通例であり、本来のシステム更新バージョンアップでは、事前に神の啓示として全世界に散らばる各神殿から御触れを出され、特別な祭りが全世界で大々的に催され、盛大に祝うことになっている。


 であるが、今回のシステム更新バージョンアップはこれまでとは違っており、大神殿にも神の神託が無く、全く知らされていない突発的な出来事のように捉えらていた。


 世界中に散らばる大神殿や国々の中枢などは、今日今現在において、神技が偶発的に発生した事実確認に追われ、何処も畏も到底収拾がつく見込みがない程に、混迷を極めていた。


 そして、シルアも同じように混乱しているようである。


 シルアには、他に頼る相手が今はいない為に、しっかり声に出して話していくことで、自分で自分に問いかけ、シルアなりに落ち着いて行動するよう、自身で知らず知らずの内に対処していた。


「たしか、ぷっぷちゃんになる前に、神のシステム上で前もって通知分が送られてくるって習ったんだけど、私、間違って覚えてた?」


(そんなの、見た記憶ないよ)


「まっ、いっか。気にしない、気にしない」


「それは、今は余り関係無いから横に置いとくとして…」


 今は、そんな考えても解決仕様が無さそうな問題よりも、ずっと身近にある差し迫った深刻な問題に、思考を注いで対処していく方が重要だろう。


「このステータスをどう表現すればいいのか、正直なところ、かなり迷うね」


(職業が3つになってるし…これって初めてだよね?私だけが特別じゃないよね?)

(種族が人間?になってるし…私ってば、人間じゃなくなった?)

(それに、一般スキル欄がスッカラカンだし…)

(昨日まであったスキルが才能スキルに進化しちゃうし…)

(へんてこスキルのオンパレードだし…)

(いつの間にか、聞いたことのない称号がついてるし…)

(このステータスをみるかぎり、寿命が大幅に伸びそうだし…)


「こうなったら、もう、この事は見なかったことにしようか」


「そのまま、そっとステータス画面を閉じたほうが絶対にいいと思うんだよなあ」


「そのほうが、精神的に超重たい負荷がぐっと減ってくれるだろうから、出来ることならそうしちゃいたいとこだけど、そう簡単に忘れられるわけないよな。やっぱり、それは、無理だわねえ」


「だけど、このまま1人きりでこんな難題に向き合っていかなきゃいけないなんて、そりゃもう、やる前から気が遠くなりそうだよ」


「私だけでこの問題に向き合うには、ステータスの内容が複雑すぎるんじゃないかと思うんだ」


 そう言うと、私は歩く歩幅を小さくしながら、正面に浮かぶ半透明のパネルを、じっくりと目を凝らすように見つめてみた。


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  ────検索画面────  


□□□□□□□□□□□□□□□□□

神のシステム     Ver.325.0

システム名称    【ぷっぷちゃん】 

   ──ステータス管理──

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【シルア】       

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年齢 :8

レベル:2

種族 :人間?

①職業:たまご使い

②職業:薬師見習い

③職業:農奴

HP :130/30+100(+5000)

MP :5000/5000(+5000)

力  :2(+5000)

魔力 :5000(+5000)

体力 :10+100(+5000)

敏捷 :5(+5000)

器用 :5(+5000)

運  :30(+5000)

寵愛 :創造神の寵愛(UP)

寵愛 :命神の寵愛(NEW)

称号 :たまごの御使い(NEW)

御使いレベル(NEW)    100

たまごSP(NEW)     100 

たまごコイン(NEW)    100 

たまごクエスト(NEW)   0/1

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一般スキル  (Lv/Lv上限)    

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─────  ─/──

─────  ─/──

─────  ─/──

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才能スキル  (Lv/Lv上限) 

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無属性魔法  01/100(UP)

創造魔法   01/100(NEW)

聖命魔法   01/100(NEW)

寿命強化   01/100(NEW)

延命耐性   01/100(NEW)

老化耐性   01/100(NEW)

肉体再生   01/100(NEW)

体力強化   01/100(NEW)

HP強化   01/100(NEW)

悪食     05/100(UP)

猛毒耐性   03/100(NEW)

魔素耐性   30/100

魔素変換   12/100

魔素操作   01/100(NEW)

魔素制御   01/100(NEW)

魔素吸収   10/100

魔素放射   10/100

魔力耐性   01/100(NEW)

魔力変換   01/100(NEW)

魔力譲渡   10/100

魔力操作   01/100(UP)

魔力制御   01/100(NEW)

魔力吸収   01/100(NEW)

魔力放出   01/100(NEW)

魔力波動   20/100

経験値増加  01/100(NEW)

□□□□□□□□□□□□□□□□□

神代スキル(NEW) (Lv上限無し) 

□□□□□□□□□□□□□□□□□

御使い顕現(NEW)    5/─

たまご魔法(NEW)    5/─

たまごスキル(NEW)  90/─

├─────              

├たまごBOX(NEW)  5/─

├たまごの殻むき(NEW) 5/─ 

├たまご化(NEW)    5/─ 

├たまご梱包(NEW)   5/─      

├たまご眼(NEW)    5/─       

├たまご図鑑(NEW)   5/─

├たまご電話(NEW)   5/─    

├たまご通販(NEW)   5/─

├たまご転移(NEW)   5/─

├たまごマップ(NEW)  5/─

├たまごシップ(NEW)  5/─

├たまごハウス(NEW)  5/─

├たまごワールド(NEW) 5/─

├たまご合成(NEW)   5/─

├たまご変換(NEW)   5/─

├たまご進化(NEW)   5/─  

├たまご創造(NEW)   5/─ 

├たまごガチャ(NEW)  5/─

└────  

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─────────────────



「は─、これは絶対、誰かサポートしてくれる人が必要だと思う」


 自分の間抜けさ加減は、魔術学院でやらかした事故から、もう十分すぎるほど思い知ることが出来たから、この危機に手を差し伸べてくれそうな、一緒になってこの難題に悩んでくれそうな人を脳裏に思い浮かべて見る。


 やはりというべきか、脳裏には、すぐに理想の人物の顔と名前と、その人物達との思い出が浮かぶ。


 私にとっても、その2人は、外せない存在ではあるけど……。


 2人は私のことを、今はどう思っているのか……。


 それが怖くて聞けない。


「この2人の顔が名前はすぐに浮かぶんだけど…でもさ、この2人とは、今は時期的に具合が悪くてちょっと厳しいかもしんない」


 その2人とは、孤児院時代からの同じ年齢の仲間でもあるし、大の親友だった。


 2人とも、魔術学院に一緒に入学した同期でもあった。


 一人の名前はフェゼラといって、私をいつも叱りつけてくれる小煩い美顔な女の子。


 もう一人の名前はルバッカといって、正義感溢れる脳筋馬鹿のお人好し。


 フェゼラとルバッカも魔術学園での私のやらかしの煽りをうけて、同じように農奴に身分を落とされた。


 その後、一緒に馬車に揺られて、ここの大農場に連れてこられている。


 今でも思い出すと怒りしか沸かないけど、その煽りをうけた2人には本当に申し訳ないことをしたと思っている。


 私が現場に呼ばれて見渡した時には、フェゼラが頑張って稼いだお金をつぎ込んだ一張羅が、ビリビリに引き裂かれ肌を露わにして泣き喚いていて、そのフェゼラに対して、小奇麗な服を着た若造達が、両腕を押さえつけ、顔を何度も殴りつけていた。


 気づいたら、私は魔力を纏って彼らに向かって叫んでいた。


 だけど、周囲にいる誰もが、私のように助けようと声をあげようとすらせずに、声を忘れたかのように静まり返っている。


 暴力を振るっている奴も、上段の特等席から命令するお貴族様の命令に従って誰も暴力を振るうのをやめようとしない。


 何故という疑問が脳裏に浮かぶ。

 女性が乱暴されていたら、普通は助けるもんじゃないの。


 それなのに、誰ひとりとして助けを求める声が聞こえてこない。


 私は怒りがどんどん湧いてきたけど、今は、フェゼラを助けるのが先だと、群衆をかき分けて彼女の元へと助けに向かう。


 偉そうなお貴族様は、偉そうに高みの階段の頭上から、私達を見下して、数人がかりでフェゼラを乱暴するように命令していたし、側についていたはずのルバッカは、既に気を失って倒れているのに、数人の上級生達に袋叩きされている凄惨な状況だったんだ。


 いつの間にかいなくなった2人を探してたら、あんな場面に遭遇することになり、もうあの時の私は正気じゃなかった。


 もう、その時は、流石に切れて、ことが全て終わってから、ようやく正気にもどったけど、あれから、馬車の中でも、新人研修中に顔を突き合わせても、まだ、2人とは一度も話をしていないんだよね。


(もう、いろいろありすぎてさ~)


「どうすりゃいいのかわかんない、本当に困った、困った。困りまくりだよ」


 私の所為で2人が農奴になったようなもんだから、2人には何としても償いたいんだけど、どう、話をきりだせばいいのかわからない。


 祈るのは得意だけど、考えるのはどちらかというと苦手なんだよね。


「朝の体調の良さもこれなら納得できたけど、素直に納得してこの事実を素直に受け入れちゃったら、多分近いうちに危ない目にあいそうな気がするんだよねえ」


「そもそも『創造神の寵愛』と『命神の寵愛』って、本当にありえなくない」


「私のぷっぷちゃんがちょっと変なんだよ、きっと」


「あ─、でも、ぷっぷちゃんを作った神様を疑うなんて不敬すぎて、私の思いとしては、その考えには共感したくないし」


 神から授かる称号は、加護<祝福<守護<寵愛の順に称号効果がより高くなるって学んだけど、2柱の神から寵愛を授かる人間は、今世紀史上ただの一人もいないはずだから、もしかしなくても、私が人類史上初めての快挙を、知らず知らずの内にやらかしちゃったみたいだけど……どうしたらいいだろうか?


「誰か教えてください。ハガキでも受け付けます。お便りお待ちしております」


「てか、もう頭まで変になってきたかも知れない」


 もう、こうなったら、腹をくくって大聖女でも目指してみるかって、それは、無理無理。


 そう思うほど私は世間知らずじゃない。


 そんな身分になったら、それが最後、それこそ貴族達のおもちゃにされて終わりだから、絶対にそれは嫌だよ。


(それにしても、なんで、ここまで突き抜けたステータスになっちゃう訳??)

(もともとレベル上げをするのが怖いし痛いし面倒臭いと思う私なんかより、もっとレベル上げが楽しくて仕方がなさそうな脳筋さん達のほうに、割り振ったほうが人類の為になると思うけど…)


「そもそもさぁ、人を1人殺した私が、神様から寵愛を授かるって、殺された方のお貴族様ってどんだけ神様に嫌われてるのよ」


(もう、わけワカメ)


「見たことも聞いたこともないスキルが目白押しで、私だけじゃ絶対対処できないよ」


(は─、こんな時は、甘い物でもあれば気分が紛れるんだけどな)


 そう思った次の瞬間には、何故か私の右手には、殻を剥かれた状態の茹で玉子が握られていた。


 その茹で玉子は、手に持っていても熱すぎず、調度いい熱さの茹で玉子であった。


 いきなり現れた茹で卵にいきなり言葉が出てこず、掠れた声だけが口から漏れ出た。


「へっ……」


『たまごクエスト1:たまごスキルを1回使ってみようを達成した』


 突如脳裏に響くように聞こえてきた『神の御声』に驚いて、言うべき言葉を忘れてしまう。、


 またもや変な声が漏れてしまう。


「へっ……」


 私のことを気遣う素振りもなく、只、無機質な声が続けて流れた。


『たまごクエスト1達成報酬:たまごSP10、たまごコイン100を獲得した』


 こうなれば、もう何でもいいからと声を吐き出す。


「ほぇ~~」


『報酬はたまごBOXに収納します』

『たまごクエスト:新たなクエストが追加されます』


 無機質な声が耳の奥から聞こえ無く成ると、強い脱力感に襲われた。


「もう、本当にわけワカメだよ」

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