第11話 ありがとう、神様 ①
「これってもしかして、凄くない?」
私は、右手に持つたまごを、青空の空高くにかざすと、ジ─ッ、とそのたまごを見つめる。
その青空の眼下には平原と林が交互に広がっていた。
(食べる宝石みたい、すごく綺麗)
純白の茹でたまごは、初めて手の平に現れた時から殻が付いてない。
だから、触り心地が柔らかい。
(触り心地も最高!!癖になるのは間違いない!!)
(プニプニしてたら感触が心地よくて落ち着くしね)
(ほんわかした気分に浸れるしね)
(やっぱ、たまごセラピーの効果は抜群だ)
(このまま食べちゃうのが、なんだか、もったいない感じがしてくるよ)
(こうなったら、もうちょっとだけプニプニしていたい)
(たまごちゃん♪もうちょっとだけ、こうさせて)
その宝石みたいなたまごを、プニプニに癒しを求めるように軽く握り締めながら、もうすぐ到着する目的地へと向けてトボトボと歩を進めていく。
そのまま進んでいると目的地まで、目の先に見える近場の場所まで来た。遠目で見ると、高いブロック塀の向こう側に一目で目を引く派手な御屋敷と、レンガ造りの関連施設の輪郭がはっきりわかる。
ブロック塀で仕切った広大な敷地の中心には母屋の御屋敷が建ち、そこでは大農場を管理する一族の内の3人の兄弟達がハーレム要員の女農奴達と住んでいる。多分もう農奴達は起きて建物の横の畑の世話をしていると思う。
新人研修は、3人の兄弟達が3班に分かれて行われる。
指導員として教えるのは、ほぼ、ここに住む女の農奴達で、兄弟達は魔物たちが寄ってこないように、警備する大人達を従えて付近を監視している。
「やっぱり早くついちゃったね」
「太陽の位置がまだあんなに下の位置にあるね」
「近くで時間を潰してようか」
感覚的にもう少し時間がありそうだ。
建物の敷地内に入っていくのは、正直に言うと、あまり乗り気じゃない。
それは私が、新人達の中でも除け者扱いをされているからで、これに対しての対処法があったら、頭を下げるのもかまわないから教えて欲しいとすら思ってしまう。
新人の大人達が、もしも、その場に数名でもいたら、絡まれそうで面倒臭い。
何故除け者扱いされるかといえば、私が公爵家の家族を殺害したのが噂になって。
そんで、目出度くボッチになったの。
公爵家の息子の仇と言われた人間と仲良くなりたいと思うような、そんな趣味趣向が一般人と違う人間は、そうはいないと思う。
新人の大人達も、当然のように近くに来るなという態度をみせる。
その態度だけなら、十分に対処できる。
しかし、暴力まで振るわれそうになると、危険だから近寄りたくはない。
まあ、そうした拒絶反応をとるのも無理はないとは思うけど。
大人達からしたら、私とかかわり合いになりたくないのだ。
そうなるとこちらとしては、もう、開き直るしかない。
それを黙って受け入れると、これ以上被害を被らないように対処していくしかない。
(ホント、色々面倒いね)
(まあ、今まで派手に暴れた私がいうのもなんだけど)
結論をだした私は、研修時間になるまで、近くにある林の木に身を寄せて身体を休めることにする。
どうせならこの時間を有効に使おうと思いにいたり、林の中に分け入り太い木に寄りかかると、あたりを警戒しながら、そのまま思考の海へと潜っていく。
────────────────
────検索画面────
①職業:たまご使い
└たまごを自由自在に扱う職業。
②職業:薬師見習い
└薬草基本知識があり初級調合技能を持つ専門技術者見習い。
③職業:農奴(アスバール公爵家奴隷)
└農業を専門職とする奴隷。
────────────
────────────────
私は、NEWバージョンの神のシステムを命名した呼び名──ぷっぷちゃんのパネルを指先で操作して検索画面に職業を抜き出して表示してみた。
(は~、やっぱり、これは夢じゃないのね)
ステータス上では、やはり新しい職業欄にたまご使いっと表示されていた。
それに、私は薬師見習いの知識もなければ、調合技術も持たないのに、その職業に何故かついていた。
職業:たまご使いなんて、これまでに一度もそんな職業があるとは、聞いたことがなかった。
多分、前の神のシステムから、新しい神のシステム──ぷっぷちゃんになった段階で、新たに実装されたジョブじゃないかと思う。
だから、私がその職業名を公開したら、おそらく職業名から判断されて、残念職業だと思われる確率が高い。
けど、私はステータスを見た後だから、この職業は当たり職業だと幼いながらも理解しているつもりだ。
後は、その当たり職業に馴染めるかどうか…それは、私の頑張りしだいだと思う。
これからは、私みたいに知られていない職業の人達が大勢でてくるんじゃないか。
そうなれば、それは、私としてもありがたい。
新たに実装された職業についたのが、私だけだったら、それはもう最悪だ。
もし新たに実装された職業に就く人が多ければ、それなら、その内の1人として、注目される人波に上手く紛れ込める。その場の新しい職業に就いた人達と親しくなれば、注目される機会が自ずと減る。
(厄介事は、なるべく回避したいしね)
力さえ見せなければ、そう出来るんじゃないかと思う。以前の私は、王族に名前を覚えられるほどに目立っていたそうだから、同じ失敗は、もう、二度としたくない。
それに新人奴隷が目立つと面白くない顔をするのは、そこらじゅうにいて、その人達は潜んで目を光らせている。
ここで生き残る為には、目立たないようにすること。それが一番大事なことだ。
そうすれば、私は、枕を高くして寝られる日もそう遠いことではないと思う。
ただ、このまま大人しくここの大農場の底辺で蔑まれて惨めな思いを持ち続けるつもりはない。
いつかは、ここから抜け出して自由になりたい。でも、その方法がわからない。
糸口すら、何も見つかっていないのが実情だ。
たとえ強そうなスキルを得たとはいえ、私はまだ子供だから、もしここから抜け出せたとしても、すぐに大人達に知られてしまう。そうなると、私はすぐに命を落とすと思う。
それに、この大農場から脱走できたとしても、公爵領からは
(だから、逃げだず行動を起こせないんだ)
公爵領から出らない理由はすごく簡単。
それは、私が奴隷の身で、逃亡出来ないように契約したから……。
奴隷に落ちる前段階に執り行う作業には、契約者に逆らえないように命令を強制服従させる紋章──【奴隷紋】を魔術契約で埋め込む作業工程がある。
紋章はおへそを中心にして、円状のサークルとして刻み込む。
サークルの中には、契約内容も一緒に刻まれ、その時に、公爵領から外にでるのを禁じる契約が、私の刻印として、刻みこまれた。
その【奴隷紋】が身体に刻み込まれているかぎり、公爵領土から出た時点で契約違反となり【奴隷紋】に埋め込まれた爆死魔術が起動して死んじゃう。
さらには、逃亡が発覚した時点で、公爵家の人間が管理する【奴隷紋】と対として作られた【共鳴石】を叩き割りさえすれば、同じく爆死魔術が起動して死んじゃう。
(やっぱ、死ぬのは御免だよ)
この【奴隷紋】の解除方法は知らない。まだここにきて1ヶ月間は、毎日必死に生き抜くだけで、他に気を回す余裕がなかった。調べる気力もなかった。ここに来て、ようやく調子が良くなったから、これからは情報収集を焦らずにやってけばいい。
当座の目標は、まずは、ここでの環境改善を第一に考えていく事。
そしてルバッカとフェゼラと寄りを戻して、3人で寄り添ってお互いが守りあえる関係に戻る事。
後は、信頼出来そうな仲間を見つける事。
最終的な目的は、奴隷から何とか開放されて、3人一緒にここから生きて逃げ延びる事。
(死ぬまでここで働かされるのは嫌)
(目標に向かって、足掻いて、足掻いて、生き延びる)
(まだ諦めたくないから)
新しい職業を神様が授けていただいたからには、この職業をもう少し、使いこなしていくのが近道かもしれない。
たまごを自由自在に扱うって載っていたけど、思っただけで、何もない無の空間からたまごが作れるなんて、ちょう有能職だと思う。
そういえば、単純に思っただけで、スキルが起動できるって、何気に凄いことだって、聞いた記憶があるな……。
そう、あれはたしか、孤児院で桃色神官のホルセラ姉ちゃんが、そう話してたような……。
私がたまごを無意識に取り出したりするのは、実はかなりの訓練が必要らしくて、私みたいに無意識で使えるようになるには、かなり長い年月をかけた訓練が必要だって言ってた。
そういう無意識でスキルを発動できるまでにスキルを昇華した人達をスキルマスターって名誉な名前が付けられて、同じ職業の人達から崇められて、偉くてお金持ちになれるらしい。
ホルセラ姉ちゃんからは、スキルをただステータス上で覚えていても、自分で意識して起動する意思を明確にしなければ、スキルはその効果を発揮しないって言われて、もっと真剣に訓練に取り組むようにとぷんぷんに顔を膨らませて怒られた時の何気ない日常の記憶が蘇る。
私は、ホルセラ姉ちゃんの怒った顔が懐かしくなって、また怒られたくなったよ。また、いつか逢えたらいいな。
まあ、そういうことで、ほとんどのスキル保持者はスキル発動失敗を防止する意味合いで、
それを教えられたスキル初心者は、尚更、大声で叫ぶ傾向が強いそうで、その大声を出すか出さないかで、強い人か、弱い人かすぐに見分けがつくそうだ。
(んで、そんな
(なんだかマジシャンになったような、とっても偉くなった気分を味わってるけど)
(これが日常的に無意識に使えるってことは、もしかして……)
たまごがいつでも自由自在にだせるってことは、何気なく考えてたけど、今私が一番欲しいものじゃないのかい。
それさえ、自由自在に出来れば、生活環境が劇変するけど、これって本当に現実?
昨日までの苦しみを覚えているからどうにも信じられない。
(──食べ物の心配をしなくてもいいってこと?……)
(──これからずっと……夢じゃないよね?…)
夢ならそろそろ覚めるはずだけど、そんな予兆はない。
(嘘じゃないよね?……ほんとだよね?……)
私は、その場で小さく縮こまるように身を屈めた。
そして、力を極限まで溜め込む。
「う~~~~ん」
そして、溜まった力を爆発させようと、両手両足を大きく広げジャンプした。
両手を天に向けて突き出すと、これ以上ないくらい大声で叫ぶ。
「やった─、うれし─、バンザ──イ!!」
そして、その場でピョンピョン飛び跳ねる。
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