第4話 魅惑の食べ物を夢想する

 寝ている者達を気にしたシルアは、小さな声で呟いた。


「ステータスオープン」


 その言葉で『神のシステム』が起動する。


 すると、シルアの見詰める正面に透明のパネルが浮かび上がった。


 そのパネルに載っている情報をつぶさに観察してみた。


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 【シルア】

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 種族 :人間

 職業 :農奴

 年齢 :8

 レベル:2

 HP :5/30

 MP :5000/5000

 力  :2

 魔力 :5000

 体力 :10

 敏捷 :5

 器用 :5

 運  :30

 祝福 :創造神の祝福

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 一般スキル(Lv/Lv上限) 

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 無属性魔法  1/10

 魔力操作   1/10

 悪食     4/10

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 才能スキル(Lv/Lv上限) 

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 魔素耐性 30/100

 魔素変換 30/100

 魔素吸収 10/100

 魔力譲渡じょうと 10/100

 魔力波動 20/100

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【魔素耐性】

  └大気中に含まれる魔素による精神汚染、身体汚染に耐えうる能力。


【魔素変換】

  └魔素を気体(魔素霧)・液体(魔素水)・個体(魔素石)に変換できる能力。


【魔素吸収】

  └大気中に含まれる魔素を効率よく体内に吸収し、MP・魔力に置き換える能力。


【魔力譲渡】

  └自己のMPを他者に移譲する能力。レベル次第で魔力も移譲できる。


【魔力波動】

  └自己の魔力数値の属性魔力を、体外空間に魔力波として放射する能力。


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 このステータスを見て私が疑問に思うのは2点。


 ──1つはレベル。

   

 今だに私のレベルは2のままだ。


 何故か私だけ、孤児院の皆よりも、レベルが非常に上がりにくい。


 私は魔物を討伐するのが怖いし臭いし面倒臭がりやな面もある。


 それでも同年代の人達より大分レベルが低かった。


(何か理由があるのかもしれないけど……)     


 『神のシステム』には、次のレベルに必要な経験値は表示されない。


(だから、何故なのかはわかんないの)

(まあ、レベルが低くても今のところは、何とか成っているけど……)


【魔力波動】Lv20のスキルがあれば、魔力の衝撃波と魔力弾の乱れ打ちで大抵の大人達は、襲いかかってきても、私は余裕しゃくしゃくで返り討ちにできていた。


 今の所は、何とか対処出来てはいる。


 実際に強そうな大人達が襲いかかってきても、私の【魔素吸収】と【魔力波動】のダブルコンポで、大量の高濃度魔力を直接浴びせ掛けてやれば、大抵足腰が立たなくなる。その間に逃げてしまえばいいんだ。


 ただし、この力は直ぐに暴走する。


 取り扱いが凄く厄介なんだ。


 此れまでは、余程のことが起きない限り、使わないようにしている。

 

 ──もう1つ疑問に思うのは、才能Lvの上限値。


 一般スキルのLv上限値は10が最大値。


 才能スキルのLv上限値は人によるみたいだけど……。


 通常の才能スキルのLv上限値は15~20が相場だと言う。


 才能があると、そのスキルの能力の限界値の壁がより大きくなるけど、さすがに私の才能Lv上限値は高すぎる。


 国に仕える【剣聖】の才能スキルでもLv上限値が50だそうで、私の才能の成長限界が高いのは、お分かりいただけたと思う。


 しかも、殆どの大人達は一般スキルが殆どで才能スキルを持つ人間は限られる。


 Lv上限値までスキルLvを上げきれていないのが普通のようだし。


 これで、私の種族が人間だというから、全く訳が解らない。


 間違いなく両親の片方は魔族だと考えられるけど、今のところそれしか思い浮かばない。


 私の容姿が白っぽいのも、多分、魔族の血とかの影響もあるんだと思う。


 運の数値が孤児の子達の中でも結構良い値のはずなんだけど、何故か現在の職業が農奴……。


 おかしいとは思うけど、才能に運を使い果たしたと考えれば、ちょっとは納得できるかも。


【魔素耐性】があるから、大気中の魔素を吸収しても体に変調をきたしにくいし、魔素に身体が汚染される危険も限りなく少なく成るから、長生きできそうな能力だとは思うけど、才能があってもその才能を活かす機会が全く無いのである。


 私の才能は当然お国にも知られていて孤児院に神童がいると噂に成っていたそうで、自分じゃ全然自覚がなかったけど、私はある意味有名人だったらしい。


 そうしたなか、孤児院を出た後は、お国に強制士官するよう命令されて、私はそれを黙って受け入れた。


 そして、授業料が国費で払われて、私自身は全くお金を負担しないで今年念願の魔術学院に入学できたけど、そこで私は、早々に人生を大きく踏み外したんだ。


(その時まで、私には輝かしい未来が約束されていたのに──)


 私が大農場で強制労働するはめになる、そもそもの原因は、特大級の魔力暴発。


 あの時は、魔術学院の入学式の当日にお貴族様の不興ふきょうをかってしまい、何故か公式競技場で直接対決する羽目になった。


 面倒だからそれを力で押さえつけようとしたのが悪かった。


 レベル2の私は、周囲からかき集めて吸収した魔素の力の制御が全くきかない。


 そのまま魔力が荒れ狂うように大暴走をやらかして、終いには、特大級の魔力暴発を引き起こす。


 普段見られないような規模の魔力爆発だったけど、結界の中に魔素が充満してたから、譜とした切っ掛けでこうなったんだと思う。


 兎にも角にも、入学式を祝う晴れやかな舞台が一変して、阿鼻叫喚あびきょうかんの現場と化して、大惨事だいさんじになっちゃったからなのでした。


 幸い魔力結界で覆われた場所での決闘だったから、爆心地にいた決闘相手側の公爵家の6男がちりになって死亡したのと、魔力結界の装置完全破壊、会場の軽微損傷、怪我人軽傷者多数ですんだけど、お貴族様に死亡者が出たのは流石にまずかった。


(私にとっては、死んでも当然のクソ野郎だったけど……)

(殺すつもりまではなかったんだ)

(でも失った命は、もう戻らないからね)


 一緒に入学した孤児仲間にちょっかいをかけて、身分を盾にして集団で暴行しようとする奴には、天罰が必要だと思っていたけど、今はやりすぎた自分の犯した罪に少し後悔してる。


 普通なら貴族を死亡させた首謀者はその場で首を切ってお仕舞いなんだそうだけど、創造神の祝福を持つ私を処刑するのは不敬ふけいで出来ないそうで、結局南極こうなっちゃった。


(今現在の私の正式な身分は、アスバール公爵家所有の奴隷……)

(王家に所属していた私の身柄は、息子が死んだ公爵家に引き渡されて──)

(ここで大人達に混じって一生働くのが私の罰)


 今現在の私の才能は、魔力が人より優れていてもそれを活かすことが出来ないただの魔力電池に過ぎない。


 なので、この才能を活かすためにも、魔法の勉強を専門職の人に師事して学びたかったけど、農奴になったから、その方法はもう取れない。


 次に人にいつ師事する機会があるのか、今の私には、それはまったく未踏せない。


(どうやら、自己流で魔法を研究していくしか道はないのかもしれないね)


(ふう、いろいろ考えていたら、もっとお腹が空いてきた)


 お腹が空きすぎて、ぎゅるるるる、とお腹が何度も鳴っているのがわかる。


 なんだか空腹感で考えることも億劫おっくうになってきた。


 お腹を抑えて両手を軽く組んだ姿勢で横になると、神様への魔力奉納と祈りを手早く済ませて、そのまま目を閉じた。







 目を閉じると、暗闇に包まれる感じに安堵あんどする。


 この暗闇の時間は、誰にも邪魔されない。


 農奴にも与えられる自由な時間だ。


 私の頭の中は、相変わらず空腹感に支配されているが、その思考にふたをする。


 今日、一日中作業して体力もないから、きつくて苦しくて辛かった思いにも蓋をして閉める。


 その中での楽しかった仕事内容だけと抜き出すと思い耽るように、じっくりと振り返ってみたくなった。


 あの眼下に広がる場景には、圧倒された。


 あんなに沢山の鶏を見たのは、生まれて初めてだった。


 大きな飼育建屋の中庭で元気に歩き回る鶏達。


 独特のほっこりするような鳴き声や、首を動かすときの可愛い仕草に、アッという間に魅了されてメロメロになった。


 今日は初めて養鶏場で鳥の世話をして、本当に疲れたけど、でも楽しかったな。


 その場にいた先輩農奴にいろいろ質問したら知らないことも教えてくれたし、白い高級食材の興味深い話しもしてくれたんだ。


 忘れがたい体験だったから、あの高級食材の姿形が目に焼き付いて忘れられそうにない。


 汚れを知らない純白色のコロコロ転がる面白い食べ物。


 まだ一度も食べた事の無い魅惑みわくの食べ物。


 この大農場で見て触って教えられた可愛らしい形をした食べ物は、一体どんな味がするんだろう。


 お貴族様やお金持ちしか食べれない食べ物を一度でいいから口にしてみたい。


 そんな思いをそっと静かに呟いた。


「あ~ぁ、一度でいいからアツアツ茹でたての卵をお腹いっぱい食べてみたいな」


 このまま、ここで農奴として生き続けるとしたら、その夢も、生涯しょうがい叶わない夢になるかもしれない。


 でも、夢は叶わなくても、夢を見ることは自由なんだ。


 私はその自由をこれからも行使していくつもり。


 それは、農奴でも変わらない誰もが持つ自由で平等な権利だから。


(神様、それくらいなら、罪を犯した私でも望んでもいいですよね?)


(まあ、いいって言わなくても、続けますけどね。御免ね、神様)

 

 さてさて、ここに来てから毎日するようになった願いをして、さっさと寝ちゃおうか。


(──神様、お願いです)


「早く、この悪夢から目覚めますように……」


 きっと叶わない希望を、周りの目を気にして小声で呟くと、神様にもう一度お祈りを捧げて、そのまま深い眠りについた。










 その夜、私はとても言葉では言い表せない素晴らしい夢を見てしまった。


 そして、その夢の世界において結ばれた契約により、いままで巧く噛み合っていなかった運命の歯車は、新たに部品を取り替えられると、また勢いよく動きだしていく。

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