第27話 別視点(ベスネシス) 隠された真実
私の名前はベスネシス。
歳は内緒。
女性に年を聞くのは、禁句だから、この話はこれでお仕舞い。
歳なんかどうでもいいでしょ。
まだまだ若いお肌でピチピチだし、今だって現役の恋する乙女なんだから。
今はしがない護衛隊員として働いてるけど、前の職業は宮廷魔術師だったんだよ。
宮廷魔術師ってかなり偉いんだからね。
詳しく正確にいうと第5
役職の意味合いは、5つの魔法陣を同時に使いこなす技量をもった魔術師として、宮廷の中枢で働くしがない一般公務員って解釈が適当だと思うわ。
そういう役職を勤めてたから、当然、魔法や魔術は得意な部類になるわね。
何故、こんな場所に私が居るかといえば、それは、偉い人から命令されたからに決まってるでしょ。
私の理想は、宮廷の隅に隠れて全ての会議をボイコットしながら、魔導具の研究を死ぬまでずっと続けれたら、それで良かったんだから。
でも、最高権力を持った王族の命令には従うしかなかったわ。
命令内容は、シルアちゃんを見守り導き育てろってさ。
つまりはシルアちゃんの保護者になって面倒を見ろってことよ。
私には荷が重いし、研究のことで頭が一杯だからって、一度は
怖いわ。王族。しがない平民の身分じゃ、この力には逆らえないわ。
丁重にお断りした翌日には、国庫の財宝を転売したという偽造書類を、山ほど机の上に積み上げられて…。
全ての偽造書類には、私のサインと押印がしてあるの。
私は一目で転写魔術だと見破って、それを申告したけど誰も信じてくれなかった。
その偽造書類の総額が、私の全財産とほぼ同額。
今までの
路頭に迷った私に、救いの手を差し伸べた、優しい元同僚の
上司になるロゼルハルト様から、王族印のある物々しい親書を差し出され「読んでみろ」と。
手渡しされた親書を開いて読み勧めていくと──。
その親書には、この地で農奴として生きるか、シルアが成人するまで保護者となるか、好きな方を選べって内容が書かれていて、ここから逃げたら、その日からS級犯罪者として指名手配するって脅しの文章も、親切ご丁寧に追記として書かれていたわ。
一応、甘い言葉もあって、任務を達成した
(も──、思い出したらムシャクシャする)
(強引すぎでしょ。やりすぎだと思わない?)
ここまで綿密な計画を立てれれて、その一部に組み込まれたら、もう、断るなんて出来ないでしょ。
まあ、そういう長い話があってこんな
それからは、影からシルアちゃんを見守る仕事をしていたわ。
勿論シルアちゃんに、見つかるようなへまはしてないわ。
私が直接見張れば丸分かりだから、私と契約した召喚獣に見張ってもらってたの。
召喚獣の名前は、ハーティア。
大白鳥の召喚獣だけど、大きさも変えられるから、小鳥のサイズになって遠くから視覚を共有してシルアちゃんの行動を観察してたからね。
シルアちゃんがピンチの時には、遠隔から魔術で支援もしてたわ。
そういう風に、ここ1ヶ月シルアちゃんを影から見てきたけど〝この国がシルアちゃんを特別視するのは解らないでもない〟というのが私がだした結論ね。
あんなに簡単に魔石や魔素結晶を創造する才能の力があったら、お国からしたら、かなり魅力的に映るわね。
しかも魔石の品質も自由自在に操れるみたいだし。
それに本人の魔力を一切使わないで、周囲にある魔素だけで作り上げてるから超低燃費の格安物件。
普通なら、あれだけ魔素を日常的に触れていたら、魔素に身体を犯されそうなもんだけど、その
もう、魔素の穢れに侵食されない身体を持つだけでも凄いことなのに、その上であの能力でしょ。
あの子を迷宮に連れて行けば、超高品質の魔石を無限に生産できそうだもの。
軍事的な面から見ても、シルアちゃんの才能は無視できないわ。
昨日だって、大規模魔術、いいえ、大規模な神事をやすやすとこなしちゃうんだもん。
あの力もかなりの
おそらく、辺境区を統括するアグリスタ神殿区長には、あの力を感知されたでしょうね。
アグリスタ神殿区長は、私と同じ年代の女性だけど、笑顔の裏で何を考えているか、全く読めないのよね。
(困ったものだわ)
今日にでも、シルアちゃんが引き起こした後始末をしなきゃいけないけど、どう誤魔化したらいいかしら。
これもロゼルハルト様と直ぐにでも相談しなきゃいけない案件ね。
神殿が関わってくるから、早く何とかしないと、もっとややこしくなりそうね。
これだけでも大変なのに、今回のトラブルなんかはもう、最悪だわ。
今日からシルアちゃんと一緒に行動するように言われた矢先に、このハチャメチャ具合。
(もう、どうしていいか、全然対応策が思い浮かばないわ)
(あ─!!も─!!
(何なのよ!あの玉子!?)
(本当にどう対応したらいいのかしら??)
(シルアちゃんもあの玉子を食べてたでしょ)
(それなら、
これもロゼルハルト様と直ぐにでも相談しなきゃいけない案件ね。
ベスネシスはかなり混乱しているようだ。
混乱しているベスネシスだけではない。
表情を面にみせないように振舞う警備隊員全員が混乱していた。
シルアが軽く考えた行為が、とんでもない事態を引き起こした。
──そもそも【奴隷紋】とは何か?
【奴隷紋】とは、一部の深層意識を従属化させ、その
いわば【奴隷紋】とは、魔術による擬似的な呪いのような位置づけだと言えるだろう。
魔術理論上ではそうと言えるが、この【奴隷紋】は、解説の通りの効果をそもまま発揮する刻印ではなかった。
いまだ明確な魔術理論が確立していない世界において、刻印魔術の性質上、幾つもの穴がある。
これは、幾つかの例を上げて説明してみよう。
刻印魔術を持続させる為に必要な魔力は、周囲の魔素を取り入れることで解決している。
しかし、魔素密度が低い場所では、刻印魔術の働きが限りなく鈍る。
刻印の効力は、術者の刻印魔術レベルが高いほど、その効力が十分に発揮できる。
反対に術者の魔力が、対象者の魔力より高くなければ、刻印魔術の十分な効果は期待できない。
より高い魔術耐性スキルを所持する者にも、その効果は限定的となるが……。
そうした場合の想定して、従属契約を違反した者には、【奴隷紋】に刻まれた時限刻印された爆死魔術を起動する追加の術式を組み込み、刻印契約の穴を埋めている。
だが、その爆死魔術も、刻印魔術を通して魔力が供給されなければ発動しない。
環境に左右するのは変わらす一緒だ。
こんな盲点をついた刻印魔術の回避方法もある。
刻印魔術が起動しないように、
たったそれだけで、刻印魔術は魔術を維持できずに刻印の効力が失せてしまう。
その間に刻印を除去すれば、爆死魔術を起動することもなく安全に取り除ける。
このように、刻印魔術とは、環境によって左右されやすく、術者の能力により左右される不完全な魔術と言える。
そもそもこの世に完璧な魔術など存在しない。必ず何処かしらの穴がある。
説明はこれまでとして、話を進めていこう。
今回の状況は、シルアが与えた
オセリアがシルアに意趣返しを仕掛けたのが、そもそもの事の起こりなのだが、オセリアとしては、まさかここまでシルアが考えなしの馬鹿だとは思いもよらなかったことだろう。
何の検証もせずに、あれほどのとてつもない効果のある高異物を、全員に配るなんて馬鹿のすることだ。
シルアが才能があるのは、魔力方面であって頭脳ではない。
これが、手痛いしっぺ返しを貰ったオセリアが経験として学びとったことだった。
当然シルアに話さないと決めたのは、この場を統括する立場にあるオセリアが、このことをまずは1番に考慮して判断を下した。
『これ以上の面倒事は御免だ』
それがこの場で懸命に対処する警備隊員等の一致した心の叫びだった。
そうした危機的な状況を、農奴達に悟られる危険を最小化し、事態を沈静化させようと、今この場にいる警備隊達は、一丸となって必死に職務を遂行していた。
ベスネシスの役目は更に重く、【奴隷紋】を新たに刻み込む突発的な仕事が振って湧くと、その事態収拾に向けてベスネシスの刻印魔術の腕に全てが伸し掛っており、ベスネシスの行動如何によっては、更に事態が混乱する可能性もあった。
この場において農奴達の暴動を誘発させる行動は現に
ベスネシスは、刻印復旧作業を行う際には、予め対象者には目隠しをしてもらい、作業中は誰にも見えないように、警備隊達を集めた肉壁で覆い、その中で作業をすることや、他にも高圧的な態度はなるべく取らないなど、事細かな注意を図って作業を行っていた。
農奴達にはシルアと同様に【奴隷紋】の事実は伏せて伝えられ、騒ぎを起こそうと企む者達は更に隔離しようと計画していたようだが、あの時間帯にいたのが、比較的大人しい部類になる紺農奴と緑農奴達だったのが、なにより幸いしたようだった。
この事実を正確に理解している農奴達も大勢いたが、彼らは食堂の外に集結した数多くの警備隊の姿を目の当たりにして、この場にいる農奴を先導して暴れまわる愚を犯さず、今のところは素直に
上司のロゼルハルトにも真っ先に報告していたが、【奴隷紋】を刻印する術者がすぐに集めれる訳もなく、もう暫く時間を稼ぐ必要があった。
そうした状況において、ベスネシスは、優しい性格もあり状況が発覚した直後には、今後の対処方針を決めかねていた。
自分の組んだ【奴隷紋】により、精神が破壊する人がでないように、より安全な方法を
刻印魔術で記憶を消去する刻印を記述して、その日にあった出来事を、全て忘れさせることも出来なくはない。
ただそうすると、対象者の精神に多くの負担を
記憶が1日無くなるだけでも、人間の中には深く思い悩む性質を持つ者達もいる。
より深く考えて思い出そうとすると、【奴隷紋】の拘束術式にいつ抵触するか解らない。
これは人の生き死にに関わる問題だ。
自分の失敗を後で悔いても遅い。
ベスネシスの性格上、危ない橋は渡りたくはない。
精神を扱う魔術には、細心の注意が必要だということを、ベスネシスがこの場で一番理解していた。
そうしたことを考慮した結果、ベスネシスが考え至ったのが、下手に記憶を
ベスネシスの考えはこうだ。
例えここにいる人達の記憶を操作して忘却魔術刻印を組み込んでも、シルアはこれからもこういったトラブルを引き起こす可能性が非常に高いと考えた。
全てにそんな危険な対処をしていたら、必ず精神が壊れてしまう弱い人間がでてくることだろう。
それはベスネシスの望むことではなかった。
結局、その後の対処方針は、【奴隷紋】の刻印復旧作業を行うのと同時に、前もって農奴達に伝えていた内容を変更せずにそのまま対処していくことにした。
その後は、この場に集まった警備隊員達の一致団結した働きにより、大きな暴動に発展することもなく、穏やかに収束していった。
ロゼルハルトが汗水流してかき集めた魔術師達に、警備隊の衣装を着させ現場に到着した折には、全ての警備隊員から安堵のため息が漏れた。
シルアは、自分が行使した力の意味を正しく理解せずに、安易に考えているようだったが、ロゼルハルトには、また新たな頭痛の種が出来たようだ。
ベスネシスから報告を受けたロゼルハルトは、両手で頭を抱え込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます