紫農奴になった私

第21話 取り調べを終えて、その翌日

 1日中、缶詰の中で取り調べを終えた、その翌日。


 遠くに鐘の音が聞こえる。

「ぷっぷちゃん、今何時??」


 ぷっぷちゃんは、自動検索した結果をパネルに表示すると、私の目の前に現れ提示する。


────────────────

  ────検索完了────

 日付 光月11日(創曜日)

 時刻 6:12

  ────────────

────────────────


(この鐘の音は、朝明けの鐘か)

 昨日は寝る前に【目覚ましたまご】を食べて寝たから、意識が急速に覚醒していく気分を味わう。

 目がパッチリ冴えて、とてもさわやかで気持ちいい目覚めだ。


 大農場に来てから身につけたくせで、自分の周囲を軽く見渡す。


 粗末なベッドが無造作に置かれた子部屋の中。

 レンガの壁の中央にある小窓の面格子めんごうしの隙間から朝の日差しが差し込む。

 目に付いたのは、部屋の隅に置かれた比較的新しい木製の机と椅子。

 その木製の机と椅子は作りは雑だけど私の背丈に合わせたサイズだ。

 他には何も置かれていない小ざっぱりとした部屋だった。

 

(あれっ部屋が大部屋じゃないって…あっそうそう)

(私……個室を貰ったんだった)


 後先を余り顧みずにした昨日の行動が、思いも寄らない結果をもたらした。


 それは、昨日の取り調べを兼ねた個人面接の中で勝ち取った報酬、それは……。


 ──個室の定住許可証。


 昨日まで住んでた隙間風が通り抜けるボロい宿舎には、個室なんてなかった。


 今は、そこより上等な上級管理官専用の宿舎にいるの。


 農奴達の宿舎には、ランクがあって個室完備の宿舎は紫農奴だけが使えるんだ。


 この個室で寝ていた私は……。

 なんと、紫色の農奴服を着てるのでした。


(ふふんがふんのラン♪ラン♪ラン♪あそーれ♪)

「やったね、私。ラン♪ラン♪ラン♪」

 歓喜の心情を表現しようと、朝の第一声を発した。

(8歳の幼女の身なのに、わずか1ヶ月で農奴内での下克上げこくじょう達成、万々歳)

(おめでとう、私、ありがとう、私)


 辛酸しんさんをなめなめしながら、ジッ、と耐え忍んだ缶詰かんずめ状態化での取り調べと個人面談。


 その成果がこれでした。


 ずっと正座をしてて、辛くなかったかって。


 心配してくれてありがと。

 でも、それなら大丈夫。安心して。

 流石にあれからずっとは正座をしてないって。

 あの後、ちゃんと、私だけ別の部屋に移動して、しっかりとした中央の椅子に座れたから。


 まあ、入った部屋は、樹齢が古い1本の巨木で作ったと思われるコの字型の細長い形状で格式高い彫刻が掘られたデザイン机と、高そうな装飾椅子がある落ち着かない雰囲気の大部屋だったけどさ。


 部屋に入ると、装飾椅子に座る多くの大人達の視線が一斉にそそがれたから、無意識にその視線から背を向け部屋から逃避する姿勢をとったけど、鋭い目付きで睨むオセリアさんから「無駄だ、逃げるな、諦めろ」と言われて…。


 農奴達の間では部屋名の由来となった無数の恐怖の逸話いつわがあるらしい『圧迫あっぱく拷問室』の部屋に押し込められた私は、コの字型の机を挟んだ中央の証言台の前に座らされ……。


 逃げ場のない中で、出席した取り調べ担当官等や交渉担当官達を相手取り、神経が磨り減る圧迫面接のような取り調べの始まりから、1日中缶詰状態でただ只管ひたすら耐える私。


 まだ、向こうの部屋で反省して正座していたほうがマシだったと、今更思った所で、後悔先に立たず。


(あ~、辛かった、もう懲り懲り)

(あんなの朝早くから思い出すもんじゃないって)


 頭をぶんぶん振ってフラッシュバックした情景を振り払うと、その辛い思いに蓋をして、漏れでないようにギュッと閉める。

(これで、しばらく大丈夫)

 気分を鎮める為に、いつもの習慣である神に祈りを捧げる。

 頭の中にイメージした神様に感謝の気持ちを伝えると、魔力をタップリと奉納した。


「朝のお祈り、終了っと」

(そんじゃ、神様から授かったスキルはちゃんと使わなきゃ)

(神様に失礼だよね)


 朝の習慣も終えた私は、朝の優雅ゆうがなお菓子タイムの一時を過ごそうと思い立つ。


「今日のお菓子たまごは、どんな味かな?」

「考えるだけでよだれがでそう」


 ジュルッと口から垂れてくよだれを慌ててふきふきする私。


 ベッドから起き上がると、木製の板で組まれた床に足を下ろす。

 両手の手の平を開いたら準備は完了。

 ワクワクした気分を味わいながら、両手の上にお菓子たまごを創造するように念じてみた。


 スキルの効果は今日も抜群ばつぐんのキレを見せ、空間からき出すようにたまごがその姿を現した。そのたまごは、昨日とは色合いが少し変わり、表面の白身が薄く黄色がかり透けて見える。


「今日のは、黄色なんだ。見た目は凄く綺麗きれい

「どんな味なんだろう。さっそく、そおれ、パクッとな」


「モグモグ、何これ、甘い、甘すぎる、超美味しい」

「甘さでお口の中で1杯だよ」


 シルアが食べてるお菓子たまごの今日のメニューは、たまごの形をした水羊羹ようかんだった。

 

「今日のは全面がお菓子になってるし、冷たくてツルッとした食感も最高」

「モグモグ、ゴックン」


 完食すると、また『神の御声』が届く。


『【お菓子たまご】を完食した。特殊効果が発動、HP自動回復効果が1日(32時間)持続する』


(へ~、今日のお菓子は持続時間が長いね)

(これはいいかもしれない、色々使い道がありそう)


 昨日のやりすぎ案件を引き起こしてから、いまさら自重し始めるのも、多分周りがほおっておかないと思うから難しいと思う。

 それに農奴達の信頼を勝ち取るには、胃袋を掴むのが手っ取り早いと昨日の一連の状況から学ばせてもらった。

 胃袋をつかむのに、お菓子たまごは強力な武器として使えそうだ。

 なんてったって、この甘さを味わったら、もう最後。きっと虜になるに違いない。

 甘味のある食べ物なんて贅沢な物は、農奴達は口に出来ないから。

 こんな風な甘いお菓子さえ与え続けていけば、きっと近い将来、私の軍門に下るだろう。

 農奴の皆を手懐けていったら、そのうち『シルアちゃんを助け隊』の創設する道が開けたそうな気がする。


(こうなったら、やるっきゃないからやっちゃおう)


 大人買いならぬ大人創造をしようと、机の上に爪重なるように指定してスキルを同時に展開した。

 昨日【たまご召喚】レベルを30まで上げたから、30個同時に召喚しても大丈夫。

 机の上はたちまちお菓子たまごで山のようになる。

 溢れてきたら、【たまごBOX】に全部収納。

 MPが少なくなたら【魔素吸収】でMP回復。

 何回かこの作業を順に繰り返していき、切りのいい所がきたら、ぷっぷちゃんにたずねた。

 

「ぷっぷちゃん、どれくらいの数になったかな」


 ぷっぷちゃんは、抽出したデータをパネルに表示した。


────────────────

  ───たまごBOX───

  ────抽出完了────

【お菓子たまご】 合計823/個数

├【大福餅たまご】  438/個数

│└大福餅だいふくもちが入ったたまごのお菓子。

│ 完食時の特殊効果:

│ 運が1時間100%UP

├【羊羹ようかんたまご】    385/個数

│└たまごの形状をした羊羹ようかん菓子。

│  完食時の特殊効果:

│  HP自動回復効果が32時間持続 

│         

└[    ]         0/個数

  ───日付/時刻────  

 日付 光月11日(創曜日)

 時刻 6:24

  ────────────  

────────────────


「ありがと、ぷっぷちゃん、まっこんなもんでしょ」

「無くなりそうになったら、スキルツリーから【たまご創造】出来そうだから、また補充すればいいや。それにしばらく急ぎの仕事もないから、そんなに慌てて作る必要ないかもねって、あれっ、あれれっよく考えたらそんなに【お菓子たまご】を溜め込む必要あったかな?」


「まっいっか、気にしないでいこう」

「たまごを作れば作るだけクエスト達成できるし、いいでしょ。この作業中も2回ほど『神の御声』でクエスト達成のお知らせが届いたし、決して私が抜けてる訳じゃないと思いたい」


「さてと、今日は今からご飯食べに食堂にいくのは決まってるんだけど、ご飯食べてからどうしようかな。紫農奴は今日は休日なんだってさ。いきなり休日って言われても、何していいか、正直わかんないよね」

 

 この世界は1週間が10日区切りになってて、紫・紺・緑農奴は創曜日と闇曜日は休日なんだって。


 ちなみに1週間の曜日はこんな順番で過ぎてくの。


 創曜日 紫・紺・緑農奴は休日

 光曜日 

 火曜日 

 水曜日

 氷曜日  

 木曜日

 金曜日 

 雷曜日 

 土曜日 

 闇曜日 紫・紺・緑農奴は休日


 灰色の新人農奴と、茶色の普通農奴は年中無休の休み無しだから、私の分まで頑張って働いてほしい。ルバッカとフェゼラも頑張って。私は私でやることあるから。


(あっそうだ)

 

 ご飯食べたら、ルバッカとフェゼラに【たまごマップ】で遠くから見ながら、たまご実験の人柱にして色々遊んでみようと思ってたんだ。絶対に見つからないから、やりたい放題。超楽しそう。


 後は、それとは別に、ちょっと調べておきたい件が1つあったんだ。


 その件が、もし私の予測通りなら、また美味しいもの食べられるかもしれない。

 

(ちょっと楽しみかも)


 あっそうそう、スキルの勉強会も少しずつしていかないと。


 ロゼルハルト様からは、自分勝手にスキルの検証をするのを禁止されたけど、そんなの、守るだけ馬鹿を見るからね。


(そんなの常識、常識)


 約束なんて、農奴達が暮らすここの場所では、所詮しょせん破るためにあるんだから。


 ロゼルハルト様立ち会いの検証なんて、こっちから願い下げたいしね。


 これ以上ロゼルハルト様に主導権を握られるのも勘弁したいから。


 ステータスの完全開示はぷっぷちゃんの協力もあって、なんとか防げたけど、あんまり私の情報をロゼルハルト様に知られたくないんだ。

 

 だから、スキルの練習を秘密にしていこ。


(まっ今日の予定はこんなとこかな)

(後は昨日の議事録をもう一度確認して、急ぎでやらなきゃいけないのがないか、もう一度確認しとこうか)

 

「ぷっぷちゃん、昨日の議事録だしてくれない?」


 ぷっぷちゃんは検索した内容をパネルに表示した。

────────────────

  ────検索完了────

   ─個人面談の議事録─


・シルアの待遇改善。

 紫農奴に昇格。

 個室貸出。

 付き人5名任命。選考日時:光月13日(火曜日)16時から開始。  

 護衛4名任命。 選考済み:光月14日(水曜日)に顔合わせをする予定。

・大農場内でのたまご使い認定書の発行。

・大農場内での薬師営業許可証の発行。

・大農場内に薬師営業所の建造。 

・魔術の訓練指導員の確保。

・養鶏施設にて、採卵鶏さいらんけい改良強化・育成強化・卵質向上・産卵率UPの研究補助。

・定期的に食堂にたまご納入。(再生たまご、元気たまご、どちらかを納入すること)

・御屋敷の地下施設にスキル検証研究所を新設。

 所長ロゼルハルト就任予定、創設メンバー シルア就任予定。 

・公爵家・神殿には一切の能力を秘匿すること。


・ボインボインズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断で決定)

 女面鳥ハーピー(SP1000で取得可能)を育て、所有権をケンプグリム家に譲渡。

 初回契約5匹を今月末までに納入する。

 女面鳥ハーピーを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 ケンプグリム家からの要請があれば、追加契約に応じること。

 

・ピカピカフェアリーズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断により決定)

 妖精フェアリーを育て、所有権をロゼルハルトに譲渡。

 初回契約5匹を今月末までに納入する。

 妖精フェアリーを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 長男ロゼルハルトからの要請があれば、追加契約に応じること。


・ワンワンバスターズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断により決定)

 犬人ワンガル(SP1000で取得可能)を育て、所有権をブランガストに譲渡。

 犬人ワンガルを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 初回契約5人を今月末までに納入する。

 次男ブランガストからの要請があれば、追加契約に応じること。


・ニャンニャンマスターズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断により決定)

 猫人ニャダルを育て、所有権をエルラドフに譲渡。

 猫人ニャダルを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 初回契約達成完了。

 3男エルラドフからの要請があれば、追加契約に応じること。


・ツンツンファイターズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断により決定)

 一角獣ユニコーン(SP15000で取得可能)を育て、ケンプグリム警備隊に納入。

 一角獣ユニコーンを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 初回契約5頭を今月末までに納入する。

 ケンプグリム警備隊からの要請があれば、追加契約に応じること。


・グリフォンライダーズ隊を創設。(仮の命名は契約者の独断により決定)

 鷲獅子グリフォン(SP30000で取得可能)を育て、ケンプグリム警備隊に納入。

 鷲獅子グリフォンを創造する時は1人でしないで、護衛立会のもと行うこと。

 初回契約1頭を今月末までに納入する。

 ケンプグリム警備隊からの要請があれば、追加契約に応じること。

  ────────────

────────────────

(ふ──、ワケワカメ)

(まあ、今日は特に用事なさそうだし、自由にしようか)


 自由??その言葉は私に当て嵌るとは、到底思えないのだが。


──『仮初の自由』。


(こんな言葉が今の私にピッタリなのかも)


(護衛やら付き人がついたら、その『仮初の自由』もどうなるのやら)


(まあ、精々、仮初の自由を満喫しようか)


「んじゃあ、今日も早く起きたし食堂でご飯を食べにいこう」

「話したい愚痴が昨日の1日で山ほど出来たから、ダルカロさんに沢山聞いてもらわなきゃね」


 外に出る前に、部屋の中をじっくりと見渡してみた。


 個室を使わせてもらうのは、実は初めてだから、実はちょっと嬉しいんだ。


 孤児院時代も、王宮で行儀作法を習ってる間も孤児院の仲間達と共同生活をして暮らしてたからね。


 とても小さな部屋だけど、私らしくていいと思う。


 この部屋に帰ってきたら、少しは女の子らしくお花でも飾ってみるのもいいかもしれない。


「さあ、いこうか。いってきます」


 誰もいない部屋に向かって挨拶をした。なんだか、そうしたかったんだ。


 感慨深げにドアを開けて部屋を出て、外に足を踏み出すと、


「おはよう シルア、良く眠れたか」


といきなりすぐ真横から声が掛かった。


「へっ……」


 そこには、男まさりな体格とその体格に合う重装備を装着したオセリアさんともう1人の女性がドアの横に立っていた。


「え…え~っと、おはよう、オセリアさん……ここで何してるんですか」

「護衛だが、それがどうかしたか?」

「護衛はまだつかないはずじゃ?」

「あんな小細工にいちいち引っかかるな。あれは嘘だ」

「えっ」

「ロゼルハルト様がやることだ、どうせ、迷惑ばかり押し付けてくるシルア、お前への嫌がらせだろ」

「え─、もう、あのエロオヤジめ、自由時間を満喫しようと思ったのに」

「ロゼルハルト様もシルア、お前がそうすると踏んで私を護衛につけたんだ」

「大人しく観念しろ」

「は─、観念しますから、どっか行って欲しいな」

「無理だ。ロゼルハルト様が私の上司だ。お前じゃない」

「食堂にいくんだろ、私達も一緒にいこう」

「は~、仮初の自由すらなかったのね。ガックリ」

「何をしている。さっさといくぞ」

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