第17話 たまごの試食会が始まっちゃった
ぷっぷちゃんのパネルは、私に甘えるようにモジモジしながら近づいてくる。
「ぷっぷちゃんは、甘えん坊さんだね」
「もしも、ぷっぷちゃんに身体があったら、絶対にぎゅーってして離さないんだけどな」
「でもね、そんな風にモジモジされたら文字が読めないんだ」
「私にパネルを見て欲しいんでしょ」
「甘えたい気持ちは十分に伝わったからさ、だから、ちょっとの間でいいから、ジ─ッとしててくれないかな」
その言葉でぷっぷちゃんのパネルの動きが止まった。
魔結晶を無造作に口に放り込んでから口を潤すことで、さっきまでの感傷的な気分をリセットして気持ちを入れ替えて、さあ、気分爽快息リフレッシュ。
気分をスッキリさせたから、元気ハツラツなまま、ぷっぷちゃんのバネルを確認してみると……。
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────検索完了────
ケンプグリム大農場。
全農奴1789名の全
◎検索結果はここをクリック。
新規
◎
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多分だけど、さっき無意識に喋っていた独り言を、しっかりぷっぷちゃんに聞かれていたのかもしれない。
それを忠実に実行したのかもしれないけれど……。
ぷっぷちゃんが良かれと考え実行した検索内容は、いっさい自重の文字がない検索だった。
その検索は、私の常識の壁を軽々と超えてきた。
「プッフォ──!!」
ビックリして喉を詰まらせた私は、口の中に転がしていた魔水と魔素結晶を、勢いよく口から吹き出してしまう。
(ぷっぷちゃん、そこまで頼んでないよ~、暴走ぷっぷちゃんに変身しちゃ嫌~)
(そんな、特殊検索機能、聞いたことないしさ)
(こんな新機能があるのが神殿にバレたら、私の身柄がどうなるかなんて想像もしたくないけど…)
(異端者とか邪教徒認定されたら、最悪なことになりそうな予感がビンビンしてくる)
吹き出した魔素の液体は、ぷっぷちゃんの透明パネルを通り抜けて、霧状になり虹色の輝きを放って消えていき、私の唾液で汚れた魔素結晶はその辺に転がる。
数人の大人達が地面に転がる魔素結晶の欠片を奪い取ろうと群がっていく。
慌てて周りの大人達をキョロキョロと見渡してみる、すると……。
比較的近くにいる大人達の視線が私に集まってる。
今のお馬鹿な行動が大人達の目に止まったようだ。
(やばい、やっちゃった)
(こんな時に注目を集めるなんて、私ってやっぱりお馬鹿さん)
誰が鑑定スキルや解析スキルを駆使して覗き見ているのか、それもわからない状況なのに……。
やってしまったもんは、元には戻らない。
とにかく、これ以上関心を集めるのは、絶対に不味い。
「ぷっぷちゃん、ごめん、情報を全部クリアして。それから何もしないで待機してて頂戴」
(ゲッ目の前にいる人と目があった)
(ヤバイ、茹で
霧を吹きかけた方向にいた、体格がゴツイ数人の大人達が立ち上がった。
かなり機嫌悪そうだ。その大人達は日焼けした顔が真っ赤になってる。
彼らは指先で指図し合いながら、私の逃げ場が防ぐように周囲を取り囲んでいく。
私の不注意から、これまた、生きがよさそうな筋肉ムキムキおじちゃんに絡まれてしまった。
ムキムキおじちゃんのグループの中から、1人の大人が進み出て来る。
その大人のおじちゃんは、鋭い目付きで睨みをきかせて、私の前に立つ。
そのおじちゃんは、右目に眼帯をしていた。眼帯からはみ出るような傷跡が妙に生々しい。
でも、なにより特徴的なのは、左腕が肩の付け根から無い事。義手もつけてない。
これは生きていく上で大きなハンデだといえる。
「おいおい、嬢ちゃんよ、てめえ、いま何吹きかけやがった」
そう言うと、痛そうに顔を歪めたおじちゃんは、庇っていた右腕を差し出すようにして見せてきた。
おじちゃんの利き腕は、黒く小さな粒のシミが腕全体に広がっている。
体内に入って魔力に染められた純粋は力は、魔素や魔力に耐性がない人には、毒と全く同じ症状になる。私の吹きかけた魔素と魔力を含んだ霧状の
(黒いやけどみたいな傷跡で痛そうだけど……)
(これをやった犯人は私しか有り得ない)
(目撃者は沢山いるから、言い逃れなんか出来っこない)
(どうする私!?)
(ぷっぷちゃんに頼りたいけど、自重がないのは、さっきの検索結果で明らか)
(後先を考えると、その不安要素が怖いから、
それに、さっきは本当に油断してた。
まさか、まさかの、ぷっぷちゃんトラップに、使用者の私自身が引っかかるなんて、
この件が無事に片付いたら、ちゃんとぷっぷちゃんに自重するように注意しなきゃいけないね。
(そうだ、さっきのお助けクエストのやり方を参考にして、さっさと直してやれば、いいんじゃないかな)
まずは、第一声から、しっかり謝ってから、さっさと治してあげよう。
「ごめんなさい、おじちゃん、本当にごめんなさい」
「その怪我を全部治すから、それで許してちょうだい」
ここで喧嘩をするのは愚の骨頂。だから、誠意を込めて謝った。
警備隊に見つかったら関係者全員お縄になって懲罰房はほぼ確実だもん。
「こんなふうにされてから、謝られてもおせえし、出来もしね~約束をすんじゃねえ」
片腕のおじちゃんには、私の誠意が届かない。
お怒りモードのスイッチが入って頭が
「どうせ、この場だけ乗り切って、後でしらばっくれる気だろ」
「馬鹿なガキの考えることぐらい、お見通しだ」
「それに、こりゃ~どう見ても毒だろ、危険なもんを俺らに吹きかけやがって!」
目の奥が燃える様子が幻視できそうなほど怖い目付きで私を睨む。
そう簡単に怒りが収まりそうな目をしていないし、なにより、会話を差し込む余地がない。
「そんなに俺達が憎かったのか、だがな、これはやりすぎだ」
「おりゃ~ガキだろうが容赦はしねーぜ」
「前々から、テメエの生意気そうな態度が気に入らなかったんだ」
ダメだ、この片腕のおじちゃんの話に付き合っていたら、いつ警備隊が現れるかわからない。
見つかったらその時点で警備隊に全ての判断が委ねられる。
「そうじゃないって、すぐに治すからちょっとだけ、その口を閉じててよ」
私は、自分の手に【再生たまご】と【浄化たまご】を創造した。
たまごスキルに関しては、
脳裏でスキルツリーを思いうかべボタンを押すようにイメージしたら、超簡単に出来ちゃった。
「おい、その手の物はなんだ。まさか、手品で
「違うって、おじちゃんに迷惑をかけたから、私の秘密を話すけど、私、たまご使いっていう
「こういう感じでたまごを創造できるようになったの」
「なんだ、そりゃ、たまご使い??」
「聞いたこともない
頭は湯気が上がってそうだけど、少し興味を示した片腕のおじちゃん。
「たぶんそうだよ。今日ステータスを確認したら、そうなってたもん」
「それで、そのたまごと俺の怪我が治すのに、なんの意味があるんだ」
「まさか、そのたまごが償いの品ってわけじゃねえだろうな」
さらに続けて【たまご変換】スキルで【茹でたまご】に変換して、殻むきのスキルを使用すると、たまごの殻は溶けるように消えていく。
あっという間に、湯気が出るアツアツ茹でたまごの完成だ。
「熱い、熱い、はい、このたまごを受け取って」
「あちっあちい、おい、嬢ちゃん、白いたまごが貴重だからって、これで帳消しにはしねえぞ」
口ではそういっているが、顔は何処となく緩んできてる。
この顔はもう少しで落ちそうな顔だ。
唯一見える片方の目は、私じゃなくてたまごの方に目が向いている。
それはそうだろう。奴隷には、白いたまごなんて目にする機会がないし、食べたことがない高級品だ。
しかもアツアツ。出来立てホヤホヤ。
新人農奴達は、ご飯もろくに有りつけない環境に身を置く生活をしている。
尚更目線が食べ物にいってしまうのは自明の理だし、その気持ちは良く分かる。
「お口を閉じててってお願いしたでしょ。もう、少しは私の説明を聞いてちょうだい」
「そのたまごは、私のたまごスキルで作った特別な効能があるたまごなんだ」
片腕のおじちゃんは、私の説明なんか聞いてなさそうにたまごを
もしかしたら、朝食を食べてないのかもしれない。
ものすごく食べたそうにしているのがバレバレだ。
「だから、雑に扱ったら駄目だからね」
「こっちのたまごは【再生たまご】、言葉の通り食べると身体が再生するたまご」
再生って言葉に反応した片腕のおじちゃんは、視線を私に向けた。
「はっ再生ってマジありえねえ、嘘じゃねえのか、そんなたまごがあるなんて聞いたこともねえ」
「嘘かどうかは、食べてみればわかるはずだよ。毒は入ってないから安心して」
「こっちのたまごは【浄化たまご】、このたまごは……ちょっと調べてみるから待ってて」
私がじっくり片腕おじちゃんを観察してるから、余計に食べにくいのかもと気を効かせる為に、視線を透明パネルに向けると、検索する動作をしてみせる。
魔素の穢れ=浄化、と閃きで創造したけど、本当の効能を教えたほうが安心して口にできると思う。
ここでは敢えて、ぷっぷちゃんに直接指示しないで、手作業でパネルを操作していく。
それは、高性能ぷっぷちゃんの存在を
ぷっぷちゃんの存在が、今後どういう結果に至るのか、全く予想がつかない。
しばらく、自分でパネル操作をしたほうがいいのかもね。
────────────────
────検索画面────
浄化たまご 1/個数
└
周辺に設置すれば、魔を祓う簡易の
結界として利用可能。
たまごを
を持つ雛が生まれる。
完食すると、体内の穢れを祓う効能
と呪いの効果を打ち消す効果が1日
中(32H)持続する。
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この説明文だと、魔素の毒は解毒されるかどうか、いまいちわからない。
ついでだからと、解毒作用のあるたまごを検索してみた。
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──スキル取得画面───
解毒たまご 必要たまごSP 50
└解毒作用があるたまご。
どんな猛毒に犯されていても、これを
食べれば解毒できる。
このたまごを孵化させれば、解毒魔法
を生まれながらに使いこなす
れる。
完食すると、体内の毒を解毒する。
さらに毒無効効果が1日中(32H)
持続する。
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───────────────
これだ、あった。さっそくたまごSPを消費して【解毒たまご】を入手すると、脳裏で【茹でたまご】に変換し殻むきされたイメージをしてみたら、イメージ通りに手の平に現れた。
茹でたまごは熱いから洋服の裾で包んで持つようにして、それから、視線を片腕のおじちゃんに向けてみると……。
──おじちゃんは眼帯を取った素顔の両目から、涙を流しながらたまごを食べていた。
ちょっと前の
今は泣き虫おじちゃんにジョブチェンジしちゃった。
腕が再生されるだろうとは、言葉尻から分かっていた。
なんだけど、実際に目にすると涙を流したくなるのも、分かる気がする。
おじちゃんの片腕はいまも再生中で、再生される腕は、根元から生えてくる感じじゃなく、魔素の輝く粒子が集合して、徐々に腕を形作るように見えるんだ。
眼帯を外した眼にも魔素が入り込んで白く輝きを放っていた。
その再生される様子は、とても幻想的に映る。
「今食べてる【浄化たまご】は、身体の穢れを祓って、呪いを打ち消す効果があるってさ」
「おじちゃん、泣きながらでもいいから、この茹でたまごも念の為に食べといて」
「効果は解毒の効能があるたまごだって。これで魔素の毒も無毒化できるみたいだよ」
いまも輝いて再生されているほうの手で茹でたまごを掴むと、おじちゃんは、口の中に一気に放り込むと、何度も口の中に入れたたまごを噛む。
食べるのに夢中で話をする場合じゃないみたいで、その表情は希望が溢れたように顔の表情が崩れていた。
「なあ、嬢ちゃん、俺等の怪我もそのたまごで治してくれんのか」
その声がするほうに身体を向けると私が負わした怪我とは、人目で違うと分かったけど、泣き虫おじちゃんと同じグループの人みたいだし、まあ、いいかと思い、気軽に声を返した。
「いいよ、そのかわり、1人づつ順番ね」
「後はどんな怪我でどこが不自由なのか、具体的に私に教えてくれない?」
「それと、これ以上注目を集めたくないから、周りの大人の人達から私を守って欲しいんだけど、お願いできる?」
「それくらいなら、お安い御用だ」
「みんな、このたまごの嬢ちゃんの周りに立って壁になってやんな」
その後、私はこのおじちゃんのグループにたまごを渡し続けた。
その一連のやり取りは、当然、周りに居た他のグループも目にしていたから、1つのグループだけで終わらせると角が立つ。
なんだかんだと、一旦たまごを配り始めたら、雪だるま式に数が増えていって、
「おいおい、いつまで待たせんだよ」
「早くしろよ」
途中でやめたら、後ろに並んでいる大人達の暴動が起こりそうだから、もう、やめられないの。
こんな筈じゃなかったのに。
たまごを創造するのに、MP消費するけどそこは【魔素吸収】スキルが大活躍。
脳裏で何度も神の御声が聞こえるけど、ステータスを確認する暇がない。
もう、てんやわんやで
「うめ──、こんなたまご始めて食べたぜ」
「はい、よかったですね。では、次の人、ご注文をどうぞ」
「俺、【満腹たまご】と【元気たまご】のトッピングでふわとろ【半熟たまご】で頼むぜ」
あっという間に【満腹たまご】と【元気たまご】を【たまご合成】してやって…。
後は、【半熟たまご】に【たまご変換】して、はい、完成。
「はい、どうぞ、アツアツなので、気をつけて食べてね」
「ありがとよ、たまごの嬢ちゃん」
「はい、ありがとうございました。では、次の人、ご注文をどうぞ」
「待ち疲れたわ。それじゃあ、トッピングは【満腹たまご】と【美肌たまご】と【ダイエットたまご】のトリプルで」
言い終わる前に3つのたまごを【たまご合成】をする。
「形状は、【
次は【燻製たまご】に【たまご変換】して、はい、完成。
「はい、これでいいですか」
「へ─、いい匂いがして美味しそうじゃない。気に入ったらまたお願いするわ」
「はい、ありがとうございました」
(ふう、ちょっと一息しよう。それにしても……)
「泣き虫おじちゃん、いつまでもメソメソ泣いてないで、こっちに来て手伝って」
元片腕おじちゃんは、いつまでもメソメソしてるから泣き虫おじちゃんと命名した。
その泣き虫おじちゃんの身体は、完全回復を果たし、眼も腕も元通りだ。
なんだけど、あまりにも嬉しかったのか、地べたに座り込んで小さくなって泣いている。
もう、いつまで泣いてるんだろう。
「泣き虫おじちゃんのグループの人達、もう死にそうな顔して手伝ってくれてるんだよ」
「いまは、もう猫の手も借りたいんだから」
実は、本当に猫の手をかりていて、もうしっかりバリバリ働いてる。
もう、今は自重のことなんか気にしてられないんだもん。
【
その
その可愛らしさには、流石の大人達も暴力を振るいにくいのか、目元を下げて農奴達が話を聞いてるのが、遠目に見える。
あ─、癒される。カワイイは正義だ。今度、ちゃんとした名前を考えて付けてあげなきゃね。
「待ってくれよ。聖女の嬢ちゃん。泣きはらした顔で人前に出れるわけねえだろ」
「それに、その泣き虫おじちゃんって呼び方は止めてくれねえか、聖女の嬢ちゃん」
体格がしっかりしているのに、目元が真っ赤。かなり違和感があるのは事実だ。
「その聖女の嬢ちゃんって呼び名を改めてくれたら考えてあげるよ」
「名前ならさっき教えただろ、俺の名前はベルラーソだからな。そう呼んでくれよ。聖女のシルア嬢ちゃん」
この泣き虫おじちゃんとも、言い合いをしている内になんとなく馴染んできた。
やっぱり食べ物の力は偉大だ。そんな食べ物を自由に創造できる私ってば、超有能なのかも。
「まだ、長いから、やりなおし」
この泣き虫おじちゃんは、腕と眼が完治してからは、私に崇拝の目を向けてくるようになった。
ぶっちゃけ、うざい。やめてほしい。180°接し方が変わったから、気持ちわるいしね。
「じゃあ、聖女シルアだ、これ以上はゆずれんぞ。俺のこころがそう叫ぶからダメだ」
「それ、一番駄目な呼び名じゃないですか」
「もう、言い換える気がなさそうだから、私は、おじちゃんのことをナキベソさんっていうことにします」
泣き虫ベルラーソ──略してナキベソ、うん、いい名前だ。言葉の
ナキベソ、ベソカキのベルラーソ、うん、これもいい感じ。
「なんだよ、その弱々しい名前、そんな呼び方されたら、周りから舐められるだろうが」
「その呼び方だけは勘弁してくれねえか」
「そんなの、私、知りませ──ん」
「それじゃあ、次の人、ご注文をどうぞ」
こんな場面が朝の朝礼の時間まで、永遠と続いた。
そして、この祭りが終わった時には、もう二度とやらないぞ、と神様に誓った。
その後、私は後悔の念を抱くことになる。もう少しだけでもいいから自重しとけばよかったなと。
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