第15話 幼馴染がヤバい
朝から姿が見えなかった美咲が、どうしてここに……僕の学校にいる? それになんだ、その制服は。まるでうちの生徒みたいじゃないか。いったいどうなっているんだ。気が付けば元旦から今日までの記憶が無いし、怜から送られてきたLIMEの内容もわけがわからない。もう僕にはどうしようもないことだらけだ。
「美咲……今までどこにいたんだ。いや、そんなことよりもその格好は……?」
「パパが聞きたいのはそんなことですか?」
「それは……いやでも……! もう僕には何が起こってるか分からないんだ! 気が付けば数日間の記憶が無いし、怜がおかしくなった! それに君もどうして家からいなくなってるんだよ! なんなんだ、これじゃ……これじゃまるで……!」
「悪夢みたい……でしょうね。でも残念ですけどこれは現実です。パパが正月元旦の夜にみた悪夢でもなければ妄想でもありません。パパのスマホに送られてきた怜さんの写真も本物です」
「な、どうして写真のことを知ってるんだ。僕ひとことでも怜のLIMEの内容を話したか……」
まさか写真を送ってきたのは美咲なのか? あんないたずらを怜がするとは思えない。もしかすると未来では怜がストーカーと化すって聞いて、それを信じていない僕に警告の意味でもあんな通知を送ってきたんじゃないか? それならばまだ納得がいく。少々行き過ぎた行為だとは思うが、娘が父にやることだ。
「ねぇパパ、今頭の中でこんな風に考えてない? 『美咲のヤツ、怜のふりして悪質な写真送って来やがって』ってね」
「えっ……」
「あははっ図星! パパ分かりやすすぎです! もう、そんなんだと将来苦労しますよ。例えば資料が出来てないのに通例報告会でプレゼンする時とか。具体的には12年後の今日ですけど」
「すまない美咲。まどろっこしい言葉じゃなくて、具体的にわかりやすく説明してくれよ! もうこのままじゃ、僕……頭がおかしくなりそうだ……!」
「…………」
美咲は溜め息を一つこぼした。それは僕に対するものだったんだろうか。だとしたら僕は美咲の期待を裏切ったということになる。美咲が一体僕に何を期待していたのか、それすらも分からない現状だけど。数少ない味方にまで見捨てられてはこれ以上僕の精神が持ちそうにない。
僕は美咲の両肩に手を置き、逃がさないようにつかんだ。この不思議な現象の連続には必ず美咲が絡んでいるそれは間違いない。根拠は何かと聞かれれば直感としか言えない。
だが普通に考えてみて欲しい。こうも続いておかしな出来事が起きれば自ずと犯人が見えてくる。全ての出来事に美咲が関わっているんだ。だからこの子が犯人かは置いとくとして、関わっているのは間違いない。
「酷い顔ですね、人を悪者って決めつけたような顔。そんなパパもかっこいいかも♥」
「説明しなさい。元旦から一体何が起きたのか」
「はぁ~分かりました。ただその前に怜さんの家に行きましょう。たぶんその写真の血、本物ですから」
「また写真を見もせずに……。なぁ、なんで美咲は怜のLIMEのこと全部知ってるんだよ!」
「教えて貰ったからです。見てはいませんよ」
「教えてって……誰に」
「パパに。今から十数年後だけど」
十数年後の僕が美咲に教えたというのか、この悲惨な内容のメッセージを。親が子供に話すようなモノじゃないだろう。何を考えてるんだ、未来の僕……!
「子供の頃、とても大切な友達がいた。でもその子とは別々の高校になった。しばらく話すことも無かったけどある日、怖いメールが送られてきた。それは事故のメールだったって」
「事故? これが事故だって!? こんなの、どう考えてもメンヘラの自傷行為だろ!」
「パパは子供にグロい内容を出来るだけ避けて伝えたんだろうね。おかげで私はその夜怖くて眠れませんでしたが」
「美咲でもそんなことあるんだ」
てっきりホラーとか見ても表情一つ動かさないタイプの人間かと思ってた。だけどちゃんと人らしい感情とかあるんだな。怖がる美咲か……今度見てみたいな。バ〇オハザードのVRやらせるか。
「ほら、私の話を聞いたからパパの顔、明るくなってる♪」
「あっ」
本当だ。先程まで感じていた胸が詰まりそうな圧迫感、それに頭の締め付けられそうな緊張感、冷や汗も消えている。美咲のやつ僕を落ち着かせるためにこんな話をしたのか。気が回るというか、頭がいいな。
「さぁパパ。怜さんの家に向かいますよ!」
「何言ってるんだ、まだこれから授業があるだろ」
「幼馴染の人生と勉強、どっちが大事なんです? ちなみに未来のパパはここで怜さんの自宅に救急車をよこしたと言ってました。これも未来を変える分岐点かもしれません」
「怜の人生……」
深く考えたことはなかった。僕には僕の人生があって、椎名さんと結婚して義理の娘が出来てそれで満足だったのかもしれない。でも怜はどうだったんだろう。将来既婚の僕をストーキングするようになると聞いて、可哀想だと思った。怜は怜で幸せを見つけて欲しかった。
だからここで未来の僕とは違う行動を起こせば、怜の未来も変わるかも知れない。確証はないけど、やってみる価値はありそうだ。
「わかった、怜の家に行こう」
「場所は分かりますか?」
「何年一緒だったと思ってるの。目を瞑ってたってたどり着けるさ!」
「ふふ、頼もしいパパも大好きです♪ あ、そうだ。この自転車借りていきましょう」
僕らは下駄箱で靴に履き替え、学校を抜け出した。一直線に怜の家を目指して。重いペダルをこぎながらふと、頭の中に怜の顔が浮かぶ。こんなところで死なないでくれよ、怜。君は僕にとって一番の友達なんだから。
「ああ……本当に面白い」
「美咲、何か言った?」
「んー? 何でも無いですよー」
美咲の声が聞こえた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。怜の家はすぐそこだ。自転車を乗り捨てて玄関まで向かう。
「鍵は……かかってない」
「不用心ですねー」
「入るよ……」
ギィィ……
静かな玄関に戸を開く音が響く。家の中を見る限り誰もいないようだ。いやそんなはずはない! あの写真が本当なら怜はきっと……!
「ここだ」
「この部屋が怜さんの……?」
「……」
美咲の問いに無言で答える。扉の向こうに待っている光景を思い浮かべると、声を出すことさえ出来なかった。僕は力なく、精一杯の力で扉を開いた。
「怜! 大丈夫……か……」
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