第11話 未来の真実
「いらっしゃーい! 遠矢がこんなに友達連れてくるなんて珍しいなぁおい」
「あれー? パパ……じゃなくて遠矢さんってお友達少ないんですか~? 意外~」
美咲のやつめ、何を白々しい態度をとっているんだよ。僕の普段の生活ぶりはここ最近ずっと見ていた癖に。もしかしたら未来の僕は「学生時代は友達いっぱいだった」なんて嘘を教えているかも知れないけどさ。
「おじさま、この人たちは私が集めたんですよ。ねーみなさん♪」
「可愛い子に誘われたんで来ちゃったっす。我柳タツヤっす」
「私は久遠くんのクラスメイトの、椎名綾です。おじゃまします」
「おじさん久しぶり」
「怜ちゃんもすっかり綺麗になっちゃって。こりゃいつ嫁に行っちゃうかわからんな、今のうちに唾つけとけよ遠矢!」
うるさいよ! 怜とは幼馴染であってそういう関係じゃないんだ。それにあっちだって僕のことを異性として意識していないだろうし。最近はそういうジョークもセクハラとして成立するんだから気をつけて欲しいよ全く。一度会社をクビになったんだからさ。
「みんないい子そうじゃないの遠矢~。美咲ちゃんの人脈の広さに感謝だな」
「うん、そうだね父さん」
僕は父に返事をした後、少し考えていた。この乱入者もといゲスト三人を呼んだのは美咲だといった。つまり美咲に選ばれた人間――未来の関係者の可能性が高い。たとえば椎名さんは言わずもがな。美咲の母で僕の未来の結婚相手。だが他の二人はどうだろう。
怜は僕の幼馴染だけど、あくまで小さい頃からの友人ってだけで別にここに呼び出す程の人物じゃないように思えるな。いや誕生日パーティに呼ばなくて良いって意味じゃなく、美咲が呼んでくる理由が謎って意味で。
三人目はタツヤと言ったか。彼もどうやら関係者らしい。じゃないとこんな場に呼ばれるわけがない。見るからに遊んでそうな人で、僕とも椎名さんとも関わりそうにない気がするんだけど……。
「気になりますー?」
不意に後ろから美咲が声をかけてきた。耳元に甘い吐息を吹くのはやめて欲しい。くすぐったくて背筋が笑うから。
「パパ。私がどうしてこの三人を呼んだか、そろそろ気が付いてるんじゃないですか?」
「未来の僕たちの関係者……だろ」
「さっすが私のパパ♥ その聡明さに美咲、惚れ直しちゃいそう~」
適当なことばかり言っちゃってくれるよ。肝心の理由がまだ分かってないって言うのに。この三人が未来でどんなことになるのか、僕は全くのノーヒント。難問クイズに挑戦してるようなものだよ。確か「ウミガメのスープ」ってクイズゲームがあったけど、それを解いている気分に近い。
登場人物の一場面だけを見て、その裏で何があったのかを当てなさいって感じのクイズだ。美咲は僕にウミガメのスープを解かせようとしているのか?
「まま、時間はたっぷりありますからよく考えてねパパ。それじゃあ今日は遠矢さんの誕生日を祝してカンパーイ」
「カンパーイウェェェイ! トオヤが誰かしらねーけどぉ」
「乾杯。久々に遠矢と一緒にパーティなんてしたね」
「かんぱい~ってただのクラスメイトの私が来ても良いのかなぁ?」
美咲の思惑は知らないが僕も久々の誕生日パーティ、少しくらいはしゃいだって悪くないよな。こんなに大人数(当社比)が家に来るのも久々だし。今は美咲の考えは少し忘れておこう。
「うわーん、もうつらいよ久遠くんー!」
「し、椎名さん……?」
「みんなが私のことクラスのアイドルとか学校のアイドルって持ち上げるんだけど、全然そんなことないのに! 私より可愛い子なんていっぱいいるよ? A組の西野さんとかB組の東浜さんとか、それから……」
「だ、大丈夫だよ! 椎名さんには椎名さんの良さがあるって。僕は少なくとも、椎名さんと一緒に勉強してると楽しいかな……なんて」
「うう……ありがとう久遠くーん……!」
椎名さん、これ酔ってないか? 未成年しかいないから酒は用意してないはずだけど。父さんにもそこら辺はキツく注意したはずだし。でも確かに言われてみれば少し酒っぽい匂いがするような……。
「いやぁ~これうめえっスね。こんなんでジュースって言い張れるんだから、マジチョロいっすわ」
「ちょ、ちょっとごめん! それ借りるよ!」
僕はちゃらいさん改めタクヤの持っていた瓶を奪い取る。瓶にはちゃんとシャンメリーと書かれてある。アルコール度数も記載されていない。れっきとしたノンアルコールのドリンクだ。だけどこの瓶から香ってくる香り……昔父さんが飲んでたシャンパンに似ている。
「ああそれ、私が買っておいたんです。皆さんお好きかと思いまして」
「美咲……! 君がいた世界だと僕らは成人して酒も飲める年齢になっているかも知れない。でもこの世界だとみんな未成年なんだ。タツヤって人もみたところ成人はしてないみたいだし、未成年に酒を飲ませるのは犯罪だ」
「だーいじょうぶですよパパ。このシャンメリー、本物のお酒みたいな味と香りがする正真正銘のジュースです♥」
「ほ、本当なのか? だとしたらみんなは……」
「はい、場酔いってやつですね。ふふ、みなさんかわいい」
「かわいいじゃないよ!? どうするのこの状況! せっかくのパーティがぐだぐだじゃないか!」
「まぁまぁ。パーティはあとで私とパパの二人っきりでやるとして、今は皆さんに注目してください。面白い物が見れますよ?」
「面白いもの……?」
美咲が指を差した方へ視線を向けると、酔いに酔わされた三人が小声で何か呟いていることに気付いた。
「ったくよぉ……顔が好みだからついていったのに、なんでこんなクソつまんねえパーティに……。俺は一発ヤレれば満足だってのに……」
「久遠くん……あの子とどういう関係なの~……。あの子誰なの……どうして……いっしょに住んで……それなのに私と約束して……」
「遠矢……遠矢遠矢遠矢遠矢ぁ~……遠矢遠矢とおやとおやとおや……」
三人とも酩酊状態のようになっていた。起きているのか、寝ているのかも分からない。そんな状態で独り言を漏らしている。酒を飲んだ後のうちの父さんみたいだ。
しかも三人とも本音の部分が漏れている。タクヤは美咲の体目当てでついてきた碌でもない男のようだ。いや誘ったのは美咲からなんだけども。椎名さんは僕と美咲の関係を疑っている……? なぜ椎名さんが僕と美咲のことを知っているのだろう。もしかしてこれも美咲の差し金なのか。怜に至ってはなんか怖い。僕の名前を連呼してどうしようというんだ。そんなに卒業してから連絡しなかったのを怒っていたのか?
ともかく三者三様の本音を聞けるという貴重な体験が出来たわけだが、それでも僕には美咲の目的がわからなかった。
「これ本当にシャンメリーか? ラベルだけ貼り替えてるとかじゃないだろうな」
「そこはどうでもいいじゃないですか。大事なのはあの人たちのことです、パパ」
「それは、そうだけど……」
タツヤは典型的なヤリ目的の男。美少女相手ならホイホイついていく、もしくは相手が断れないような状況に持って行ってまでやることをやりそうな男だ。個人的にこういう人間は好きじゃない。だがそれと美咲に何の関係が……。
「あっ……まさか」
「気付きましたー? 流石パパ、判断がはやい!」
「遅くないかな……。つまりこの男は……美咲の……椎名さんの……」
「はい。ママの元夫で私の血の繋がった父です」
やはりそうか。この場に呼ばれるにはあまりにも不釣り合いで、おまけに唯一の男性。問題がある人間ではないかと思っていたけど、まさか美咲の実父だったとはね。美咲の話だと仕事もろくにせず、椎名さんに金を要求して遊んでばかりいたという。娘の美咲にも酔った勢いで暴力をふることも少なくなかったとか。これは僕の偏見だが、そういう大人になりそうな予感はある。非常に申し訳ないけどね。
「じゃあ椎名さんは……」
「あははー。実はこの前、ママにばったり会っちゃったんですよね。そこでパパの家にお世話になってることもバレちゃって、ごめんなさいパパ……」
「この前椎名さんの様子がおかしかったのはそういうことか。自分そっくりの人間がクラスメイトの家に住んでるっていい気分しないもんな」
「ママは悩みやすい性格ですし、後でフォローおねがいね♪」
「美咲のミスだろうに人に投げやがって……」
だが椎名さんに特に問題が無いということがわかってよかった。強いていうならばこのタクヤとかいう男とは絶対に近づけちゃ駄目だな。椎名さんは意外と押しに弱そうだし、こういう手合いに簡単に騙されそうだ。
「じゃあ怜は? あいつとはただの幼馴染のはずだけど」
「はぁ~……そこが一番問題なんですよねぇ」
「問題って?」
怜が問題のある人間だとは思えない。真面目で責任感も強い、僕が一番格好いいと思う女子だ。そんな怜に一体どんな問題があるというんだろう。僕には皆目見当も付かない。
「その人……パパの愛人なんですよ」
「あ……え? ま、待ってくれよ美咲。今なんていった? 僕の聞き間違いか?」
「まあ自称愛人とでもいいましょうか。要はストーカーなんですよ、その人。結婚した後もパパのことを諦めきれず、ずーっと後をつけてくるんです。探偵まで雇ってママの私生活を監視してまで……。そのせいで一時期久遠家はナーバスでしたね~♪」
「待て待て! 僕が怜のストーカーになるなら分かる。いやなる気も無いけど、まだ分かるさ! でも怜が僕のことを……? それはいくらなんでも美咲の創作だろ?」
「そうだったら、私も嬉しかったんですけどねぇ。実際登下校中に何度かその人につけ寄られましたし。物陰から写真を取られたりもしました。怖いったらありゃしません」
「そんな……怜が……」
信じられない。僕のもっとも信頼する幼馴染が、僕のストーカーになって家族にまで迷惑をかけることになるなんて。だって怜は僕のことを異性として意識してないはずだ。僕と怜はいわば兄妹みたいなもので、恋愛感情とかそんなものとは無縁の関係だとずっと思っていたのに……。
「面白いですよね。人間って内側では何を考えてるか分かりませんもん。だからパパ、安心してください。美咲だけは絶対に、パパの味方だよ♥」
笑顔で、両手を僕の顔に添える美咲を……僕は振りほどけなかった。いや、振りほどかなかった。出来なかったんだ。美咲の目はまるで宝石のように輝いていて、見ていると吸い込まれてしまいそうなほどの妖艶さがあった。まるで蛇に睨まれている、そんな感覚さえも覚えてしまう。
「パパ……美咲は最高の未来のために、絶対にパパと幸せになるからね……」
未来の娘の言葉が、やけに脳裏にこびりついた。今日の誕生日は当分忘れられそうにもない。
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