第5話 未来の娘と同居します?
学校から帰ると、家の前に美咲が来ていた。家の場所を教えた記憶は無いけど、未來の娘というのが本当ならしっていても当然か。
「こんにちはーパパ。今日もご機嫌いかがですか~」
「聞いて驚け美咲。僕はなんと! 冬休みに! 椎名さんと……」
「あーデートの約束取り付けたんですか? 流石パパ! 大人しそうな顔して手が早いんだからぁ」
「ううん、デートの約束はしてないよ」
「はい?」
「冬休みも一緒に勉強するって約束はした。すごくないか? この前まで全然知り合えてなかったのに、急に距離が近付いた感じがしてさぁ!」
ハイタッチして嬉しそうだった美咲の顔が一瞬にして無表情に変わる。怖っ百面相かよ。変顔百選とかで動画投稿すればそこそこヒットすると思うよ。もちろんタグに美少女とかアイドルってつけてね。
「はぁ~……」
「人の顔を見て早々に溜め息とはなんだ。そんなことしてると幸運が逃げていくぞ。うちの父さんもよく言ってる」
「あーおじいちゃんですね。はい、私も似たようなことはよく言われました。そうですよね、いけませんね。でもパパのあまりの脳天気ぶりに溜め息一つこぼしちゃったのくらい見逃してください」
「なんだよ脳天気って。今まで接点がなかったクラスのアイドルと二人で会う約束したんだぞ。これって大きな進歩じゃないのか」
「パパには大きな一歩でも人類には小さな一歩です」
「格言を悲しい例えに使わないでよ」
というか人類には小さな一歩って……好きな子に話しかけて、出かける約束をする。それって結構勇気がいると思うんだけど。もしかして周りのみんなはこれくらい平気でやってるのか。だとしたら確かに僕には大きな進歩だけど、全然大したことじゃないのかもしれない。
あれ、そうなるともしかして……椎名さんも?
「ママも絶対、パパのことを男子として意識する段階には来ていませんね。クラスのガリ勉から勉強の誘いを受けた、くらいの印象です間違いない」
「ま、待って! それじゃあ、あれかい? 僕が精一杯勇気を出して誘ったあれは、椎名さんからすれば一大イベントですら無いのか!?」
「そりゃそーですよ。どうやらこの時代のパパは情緒が未発達のようですね。大人になったらあんなに格好いいのに……」
「ん? 何か言ったか」
「いえ別に~」
どうしたんだろう美咲。駄目だしをしてきたかと思えば一人でブツブツと。そしたら急に黙ってしまって。こっちは美咲百面相を拝みに来たんじゃ無いんだけどな。いや来たというなら美咲の方が客なわけだけど。
ああ、そういえば美咲と会ったら聞こうと思っていたことがあったんだ。この子は未来からやって来た僕の結婚相手の連れ子だと言う。つまり血は繋がっていないが僕の娘だ。そんな彼女がこの時代ではどこで寝泊まりしているのか、非常に気になる。
「美咲、いっつも思ってたんだけど君って普段どこで暮らしてるんだ? 見たところ僕と年は変わらないくらいだろう。知り合いもいないこの時代で、衣食住とか困ってないか?」
「あれ~? それってひょっとしてもしかして、私のこと心配してくれてますか~? やっぱりパパって優しいなぁ、だーいすきです」
「お、おう」
その言葉を贈るのは僕ではなく数十年後の僕宛てなのが正しいのだろうけど。それを指摘するのもおかしな感じだし、僕は美咲が抱きついてきたのを少し困った気持ちで受け入れた。
未来の僕ならきっと培った社会性とあふれる父性で美咲をやさしくあやしたに違いない。でもここにいる僕は、ただ美少女に抱きつかれてたじたじしているだけの高校生だった。
どうしたものかと両手をわきわきと虚空に漂わせていると、満足したのか美咲から離れてくれた。
「安心して。私、危ないところには泊まってないから! と言うかパパも知っているところだよ?」
「え? 僕も知ってる……? な、なぁそれって……ビル街にある怪しい看板の多いホテルじゃないだろうな」
「怪しい……ってそれ、ラっラブっ……サイッテー! 娘にそんなこと聞くとかホント大嫌い!」
「違うから! 真面目に聞いてるだけだから! ここら辺に民泊とか無いし、あるとしたらそこくらいしかないだろ!?」
僕は必死に誤解を解こうとしたけど、美咲は絶対セクハラ目当てだったと引こうとしなかった。この子、少々頭がピンクな方向に偏っていないかな。誰だよこんな教育したヤツは。未来の僕でした。最低だな未来の僕、人として尊敬できないよ。
しばらく言い合っていると、家の中から誰か出てきた。なんと最悪なことに出てきたのは父さんだ。流行病のせいで職を失い、YouTuberとして生きていくことを決めたロックなおっさん久遠健一(40)。現在は前職の経験を活かして動画編集をしている……だけならよかったんだけど、YouTuberとして人気が出始めてちょっと困ってる。
そんな父さんに美咲と一緒にいるところを見られれば、また面倒なことになる。いや、既に見られているから面倒は確定だ。今はどう言い逃れすれば良いかを考えなくては……。
「よー美咲ちゃん、そいつの帰りを待っててくれたのかい。優しいねぇ」
「いえいえおじさま。泊めていただいている身ですし、これくらい当然です」
「はいーーーー!?」
「あれ、お前には言ってなかったっけ。この子うちで預かることになった美咲ちゃん。なんでも家族が海外転勤して、こっちでクラスのが心許ないってんで部屋を貸してやってるんだよ」
「聞いてないけど! い、いつから……」
「えーと、二日前だな」
二日前というと、僕が自殺しようとして美咲に助けられた日だ。つまり美咲はあの日からずっと同じ家で暮らしていたというわけか……?
「改めてよろしくお願いします。
「うんうん美咲ちゃんはいい子だねえホント。それじゃあおじちゃんは仕事の続きがあるから部屋に戻ってるよーん」
「あ、はい。おつかれさまです~」
父さんはそのまま自分の部屋まで帰っていった。きっと今日も動画を投稿して、編集して、ネタ出しして、撮影をするんだろう。僕と違って血液型がA型なだけあって、まめな性格だ。
それはともかく……
「どうして隠してたのかな美咲ィ~……!」
「だって~私がいきなりパジャマ姿で部屋に入っていったら、パパおどろくでしょ?」
「別の意味でね! 心肺停止レベルの衝撃でね!」
「あはは~パパのツッコみ未熟だね~ってのはともかく、これからママと仲良くなるためにサポーターは近くにいたほうがいいでしょ?」
「そ、それは確かにそうだけど……」
「大丈夫。おじさんたちには変なこと言わないから、ねっ?」
椎名さんそっくりの顔で、椎名さんはしないようないたずらな表情。僕は複雑な気持ちになりながらも美咲との共同生活を了承せざるを得ないのだった。絶対面倒なことになる気がするんだけどなぁ。
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