第2話 未来の娘とハーレム計画

 未来の僕の娘を自称する美少女――美咲に自殺を止められた結果、僕たちはマックで話をすることになった。

 正直今月は余りお金無いんだけど……自殺するつもりで無駄遣いしたのが原因ですが。



「ふむふむ、この時代のマックはまだバンズもパテも分厚いんですね! 私の時代だともうぺらぺらですよ」


「露骨な未来人アピールありがとう。でも周りの人の視線が痛いからもう少し声小さくしてね」


「そ、そうでした。私が未来人ってバレてしまうと時空管理局から免停処分が……」


「タイムスリップに免許あるの? っていうか君何歳なのさ。見たところ一五歳くらいだけど」


「おおっ! いきなり正解を言い当てるなんて流石パパ! 時代は違っても私たちはやっぱり親子なんですね」


 いや僕は全く信じていないんだけどね。この子の妄言の可能性が90%、本気で信じちゃってる可哀想な子って可能性が10%だと思ってる。

 だいたい僕には彼女すらいないんだ。過去にも今にも女子とふれあう機会すらない。それがどうして娘など出来ようか。



「僕の娘って言うからには生まれた歳はいつか言える? 未来の出来事とか的中させられるの? そこまでしないと流石に信じられないんだけど」


「ぶー……まだ疑ってたんですか。仕方ないですねぇ、これを見てください」


 美咲は古びた新聞紙をバッグから取り出し、テーブルに広げる。随分古いな……平成初期あたりの新聞だろうか。



「これは明日の朝刊です」


「ちょっと待て。いくらなんでも無理があるでしょ。明日の朝刊が今手に入るわけ無いし、仮に入手出来てもこんなにぼろぼろなわけがない」


「それは私が未来人だからです! 大変だったんですよ? パパがママに出会った日から逆算して、こうやって今日に飛んでくるのも、その証拠を集めるのもすっごく大変でした」


「いや、でもまさか……」


 新聞の日付欄には確かに明日の日付が書いてある。ご丁寧なことに我が家で取ってる朝刊と同じだ。見出しは海外で新型流行病の感染者数が過去最多になったと書かれてある。最近落ち着いてきたのに縁起の悪いことだ。


「で、でもさ。新聞なんて作ろうと思えば本物そっくりに作れるでしょ? 僕を信用させる材料としては弱すぎると思うんだけど」


「そ、それはそうなんですけど……時間旅行には持ち物制限とかもあって、時間の流れに影響を与えるものは持って行っちゃ駄目なんです……」


「タイムパラドックスの原因になるからだろうね。SF作品でよくあるやつ」


「そうですそれです! さすがパパ、何でも知ってますね!」


 美少女におだてられるというのは今まで経験してこなかったから、正直気分が良い。けれど目の前の少女が僕の娘を自称する危ない女である可能性が高いから、素直に喜べない。不安半分っていった感じだ。

 もっと言うと期待なんてこれっぽっちもしてない。どうせこの後「嘘でしたー」って言われてその一部始終がカメラに収められるなんて可能性も十分にある。父さん、まさかこの子を雇ってそういう動画を取ろうとしてないよな?


 だがこのまま疑っていても話が進まない。一旦彼女の目的を聞いてみようじゃないか。



「それで? 君がこの時代に来た理由って?」


「簡単です! パパの自殺未遂を止めて、ママとくっつけるんですよ!」


「バックトゥーザフューチャーかな」


「なんですかそれ? 漫画とかですか」


「今までの会話で一番未来人っぽい反応だったよそれ」


 そっかー、未来の子はバックトゥーザフューチャー知らないのかぁ。名作なのになぁ……。そういえば最近も金ローで放送される頻度減ってるもんなぁ。時代の流れってつらい。



「ねぇパパ、寂しそうな顔してどうしたの?」


「なんでもない、こっちの話だよ」


 同い年くらいの子にここまで溝を感じるなんて、これが本当のジェネレーションギャップか。



「パパがあそこで飛び込んでたらヤバいことになってたんですよ?」


「ヤバいこと? 死ぬとかじゃなくて?」


「はい! 両足が複雑骨折で腕のけん?とかも切れちゃって、全治数ヶ月の大入院! 当然おじいちゃんたちからは怒られて、学校の中では悪い意味で噂になっちゃったって聞きました。そのせいで高校時代は地獄だったって言ってました」


「言ってたってのはその、未来の僕が?」


「それはもう、目が死んでるような感じで」


 確かにあの橋から飛び降りれば死ねたかも知れない。でも、死ねなかったかも知れない。そうなるとただの大怪我で、そんなことをしたヤツを周りは腫れ物扱いするだろう。死ねなかった方がよっぽど酷い未来が待っていたとは何という皮肉なんだろう。



「君が僕の自殺を止めた理由は分かった。でももう一つ……ママとくっつけるっていうのは?」


 美咲の話を聞いていて疑問が浮かんできた。彼女の話が仮に本当だとしておこう。その場合僕は将来美咲の母――つまり僕の嫁と出会い結婚することになる。わざわざ美咲が過去の時代にやってきてまでやることがそれなのか?



「パパは私のパパだけど……本当のパパじゃないんです」


 美咲が少し悲しそうに言ったのを僕は見逃さなかった。



「ママは昔悪い男と結婚して、その間に私が生まれました。父親はすぐに私たちを捨てて借金だけ残してきました。とっても辛くて大変だった……。そんなとき、ママはパパに出会ったんです」


「ああ、話が読めてきたよ」


「私はママにあんな男なんて選んでもらわず、最初からパパを選んで欲しい! そうすれば私たち家族は最初からずっと幸せな家族になれるはずなの!」


「美咲……」


 美咲の必死の表情に思わず僕は水を飲んで一息つく。気圧されるっていうのはこういうことなんだろうか。

 だが美咲のプランには一つ重大な問題を抱えている。それはどうするつもりだろう。



「君がタイムマシーンだか超能力的な何かでこの時代にやってきたのは、まぁこの際深くは聞かないよ。でも僕が最初から君のお母さんと結婚した場合、未来が変わるんじゃないのかな」


「それは、その……」


「さっきも言ってたじゃないか。未来を変えちゃうようなものを持ち込んじゃいけないって。それってつまり、未来そのものを変える行為も駄目ってことじゃない?」


 タイムパラドックス。時間旅行の矛盾。数々のSF作品で取り立たされてきたこの手の問題が実際にはどうなるのか興味があるけど、それよりも美咲本人への影響が心配だ。



「確かに未来を変えちゃ駄目っていう風に言われてます。でもそれは、こう考えられませんか? 未来が変わっちゃうから影響を与えてはいけない――と」


「つまり君の計画は上手くいくと?」


「それは分かんないけど……。あんな父親、早く忘れたい。ずっとパパと一緒だったって記憶に変えたい。じゃないとパパが可哀想なんだもん」


「可哀想……?」


 なぜそこで僕が可哀想になるんだろう。確かに現在進行形で可哀想な状況にいるけど。自殺未遂失敗からの変質者の長話を聞くって状況にいるけれども。



「パパ……いっつも優しいんだ。でもそれってママや私に気を使ってるからだと思う。本当はもっと、私たちに踏み込んできたいはずなのに。私たちもパパの優しさに甘えてて……家族なのに」


「美咲……」


「だから私はパパとママに本当の夫婦になってほしいの! そのためにこの時代に来たんだから!」


 美咲の話は筋が通っている。いやタイムトラベルとかあり得ないじゃんって前提は置いといて。何故この時代に来たのか、動機としてはよく分かる。僕も女性が悲しがっているのは嫌だ。笑っている子が一番可愛いと思う。

 それに未来のお嫁さんを救うと言う話だ。これは僕自身の問題でもある。だって頑張ったらその分早く結婚できるんだもんね! 実家から旅立てるぜうっひょーい!



「分かったよ美咲。君の計画に僕も協力する」


「ホントに!? ありがとうパパ! 大好き!」


 いきなり抱きついてくる美咲。彼女からしたら親に対する感謝の行動なのかもしれないが、僕からしたら同年代の女子と急接近だ。刺激が強すぎる……!



「どうしたのパパ?」


「い、いやなんでもない……」


 こうして僕と美咲の未来を変えるプロジェクトが始まることになった。

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