自殺しようとした僕が急にモテ始めた件〜未来の娘を名乗る美少女がパパと呼んできます〜
taqno(タクノ)
第1話 自殺しようとしたらやばい女と出会った
突然だが僕は自殺することにした。
十二月の中旬、冬休みを前にして僕は橋の手すりに立っていた。
理由は聞かれても困る。とっても困るんだ。ここのところ色々とあって、僕の心は電子レンジに入れたダイナマイトのように、取扱注意なじょうたいになった。
ただ強いて理由を挙げるなら……人生に疲れた。そう言うのが適切だと思う。
流行病のせいで高校受験に失敗するし、入た高校ではぼっちになるし。今いる高校の校風に中々馴染めず、仲の良い友達も少ない。ボッチじゃないだけマシかも知れないのかな。
これまた流行病のせいで会社が倒産したせいで父さんはユーチューバーになるとか言い出して、それが幸か不幸かバズってしまった。最近では家族を動画のネタにしようとしてきてるし。家の周りには知らない人が押しかけるわ、怪しい張り紙が張られるようになるわで大変だ。僕のプライベートまでカメラに収めようとした時は流石にキレたさ。
母さんは仕事がテレワークに移行したのを良いことにソシャゲにハマり、若い男のグループに入って姫プレイしちゃって遅れてきた青春を謳歌しすぎている。家事などすっかり他人事だ。何が嫌って母さんがソシャゲにつぎ込んでいるお金が全て父のYouTubeでの稼ぎだって言うんだからいたたまれない。若い子にちゃん付けしてもらえるのがそんなにいいんですか母さん。あなたもうすぐ5×歳でしょうに。
そんなすっかり変わってしまった久遠家の日常に何とか慣れようとしていた僕に最後の悲劇が襲いかかった。大好きだったVチューバーが実の姉だったのだ。普段の配信で出てくる内容が完全に僕のことを言っていたので、恐る恐る姉に確認してみると事実だった。あんなに素っ気ない姉が人にこびこびな可愛らしい声を出してるなんて知りたくなかった。僕のスパチャ代返せよちくしょう。
とまあ、散々僕の自分語りに付き合ってもらって申し訳ない。用は環境の変化に対するノイローゼ的なやつだろう。変化を受け入れられい旧世代的価値観を持って生まれた僕には久遠家に居場所はなかったらしい。
そんなこともあり、僕
別に誰も恨んでないよ。環境が僕に合わなかっただけ。学校も自宅も、僕の居場所なんて無いわけで。そこであと数年間生きるとなると、正直かなりキツい。これが自殺をする理由、動機だ。
あれ……思い返してみるとかなりしょうもないな……。
いやでもこの日のために自殺系サイトとか見まくったし、知らず知らずのうちに姉へと貢いだスパチャのせいで減った小遣いで買い集めた道具もある。
今日を逃したらきっと決心が揺らいでしまう。今日がベストなんだ! 自殺日よりだよ! 自殺に日よりがあるのか知らないけど……。
「でも父親が元リーマンユーチューバー、母親がゲームで姫プして囲いを作ってて、姉がこびこびのVチューバー……こんなの絶対普通じゃないよ。正直きついって……」
散々姉に課金してきたくせに酷い良いようだと我ながら思う。でも実姉はきついよ! どれくらいキツいってラブコメ漫画で実姉キャラがハーレムに参戦してくるくらいキツい!
姉や妹がいない人からすれば、美少女のねーちゃんや妹がいるとかうらやましいって思うんだろう。でも違うから! あんなのオタクの抱くお姉ちゃんや妹じゃねーから! 言ってしまえば僕は奴隷だよ、十秒以内に要件聞かなきゃプロレス技かけられるんだよ? 小学校の頃とか普通に毎日痣出来てたよ!
とまあ僕が家族に対する罪悪感なんてこれっぽっちも無いことが分かって貰えたと思う。
強いて言えば事後処理とか警察への対応は大変そうだけど、それはマジごめん。
「じゃあ、ここから飛び降りれば全部終わるんだ……」
僕がいるのは冬場の河川敷、それを見渡せる橋の上だ。夏場は度胸試しに飛び込む子もいるけれど、冬にやれば凍死一直線だろう。交通事故を装ってもよかったんだけど、それだと相手の運転手に申し訳ないし、これが一番簡単そうだったから。
僕は橋の手すりに足をかける。後は立ち上がって、そのまま前方へダイブすればグッバイ現世だ。もしかしたら異世界転生出来るかも知れない。それだったら僕の推しのVチューバーのマミム・メモちゃんとイチャイチャ出来る世界がいいな。花道花梨(姉のV名義)は炎上しなくていいから僕の死までネタにしないでくれ。父さんは動画のネタにしそうだなぁ。死後のことまで心配しなきゃイケないのか、まったく嫌な時代に生まれてしまったモノだよ。
「よーし、やるぞぉ……っと!」
足元がふらつく。今夜は大雨だ。雨風の勢いは予想以上に強くなっているらしい。橋の下を見てみると、川の流れも大荒れだ。お爺さんが「畑の様子見てくる!」っていったまま帰ってこないレベル。これに飛び込めば、朝のニュースに名前が出るくらいには取り上げられるだろうか。
「はっ……ダメだ、発想が父さんや姉さんに近くなってきてる……!」
僕が踏みとどまってしまったら……家に帰った後の光景を重い浮かべた。父さんはしかめっ面で動画編集してるのかな。若い母はソシャゲのチャット欄を眺めてニヤニヤしてるんだろう。姉さんは……どうせ『うちの弟が自殺しようとしたんやけどw』と慣れない関西弁で今日も同接を稼ぐんだろう。
うん。帰る理由が全然ないねっ!
もう疲れたんだよパト〇ッシュ……割とマジで生きるのに疲れたんだ。生きる目的とか理由とか、そんなご大層な目的持つ子は生まれからして違うんだよきっと。僕はどこの家にもいる普通の男子高校生なんだ。ただ、考えすぎる癖はあるかもしれないけど。
バカがバカなりに考えた結果、この町で数年……もしくは死ぬまで暮らすのは嫌だ。スマホを買い換えるたびに携帯ショップの店員が誰かに漏らし、そこから友人に知らされたり、面倒くさい。この令和の時代にプライバシーのプの字もないんだよ。酷くない? 嫌なら自分から町を出て行けって? 正論、ごもっともな意見だ。でも普通に考えて一六歳そこらの子供が誰の助けも無しに故郷から出ていくとか出来ないよね。漫画のキャラはどうやって日銭を稼いでるんだろう。いや今大事なのはそこじゃないか。
僕に残された選択肢は一つしか無い。簡単じゃ無いか。
「生きたくない……」
いや
「死にたい……」
未練とか心残りとか、そういうのは全部捨てた。姉さんにファンなのがバレて煽り倒された頃に心は既に死んでるし。後は肉体の死を待つのみ。そう思えばこれからすることも怖くない。
でも、強いて言えば同じクラスの水端さんとは、ちゃんと話してみたかったなぁ。
まぁどうでもいいか。
「せーのっ……って、うわっ!?」
僕が意を決して川に向かって飛び降りようとした、その時。
横から強い衝撃がぶつかってきた。
「駄目ですよこんなところで死のうとしたら! そんなの私が許しません!」
「えっと、君は」
地面に落ちた後、顔を上げるとそこには僕と同じくらいの歳の女の子がいた。暗くて顔はよく見えないけど、直感で綺麗な子だと分かった。
「パパはこんなところで私の……私たちの未来を壊しちゃうんですか!」
「パパ? あの、ごめんね。僕まだ高校生だしそれにど、童貞だからパパになるようなことをした覚えはないんだけど」
「そんなことは知ってます! 私は久遠美咲、あなたの未来の娘です!」
「え、ええっ!?」
「その驚きよう、どうやら信じて貰えたみたいですね」
僕、これ知ってる! 新手のキャッチセールスだ!
こういうのに捕まると値段の書いてないお酒とか飲まされて、頼んでもいないオプション代が追加されたりして数十万円はらわされる羽目になるんだ! 漫画でやってた! 僕は今無一文だ。お金が払えないとなるとお店の怖い人にお仕置きされてしまうらしい。そんなのごめんだ! 自殺すると入ったけど殺されたいとは思ってないよ!
「信じて貰えたみたいなので話を進めますが……って、ちょっと!? どうして逃げ出すんですか!」
「すみません僕未成年何でそういうお店はちょっと!」
「そういうお店って……はっ! パパったらまたそういうこと言ってー! この時代でも変わってないんだからー!」
こうして人生に疲れた僕の一世一代の大決意――自殺しようとしたら未来の娘を名乗る美少女にストーキングされることになりました。
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