19『ロリとか言わないで』
「陽菜ちゃん、可愛い水着だね!」
「本当ですっ! ロリッとしてます!」
結局、妹も連れて行くこととなった。陽菜のプール支度は何故か完璧だった。これは母さんの仕業だろう。僕がプールに行くのを知っていて、妹のお守りを押し付けたということだ。
「ロリとか言わないで、メスども」
いやロリだよ。低学年だよ。で、メスとかやめなさいね、ほんと、可愛いやつめ。
さておき、確かによく似合っている。流石は僕の妹だ。世界一可愛い妹、エモい! そうだ、エモウトだ! くぅ〜、連れて来て良かったぜ!
それに九都だ。
思っていたより女子だった。何というか、曲線美? というのだろうか、女性的だった。背は低いし、童顔だし、——まぁ、童顔も何も小学生だから幼いのは当たり前なのだけれど、その中でも幼い雰囲気だった九都が、なんだか少しだけ大人に見えた。それはさておき、
「大丈夫か九都? その、身体の調子とか」
「はい、大丈夫です! ほら、ハロはここで見てますので、稀沙ちゃんと入ってきてください」
「お、おう、わるいな。何かあったら遠慮なく言えよ?」
わかりましたから、と九都。僕は陽菜の手をとり、陽菜でも足の届くプールへ向かった。勿論、御心も一緒だ。そう、水着姿の御心稀沙だ。
健康的な肢体を惜しみなく、恥ずかしがることもなく曝け出した美少女が、僕の目の前にいた。
可愛い、と、思った。
我ながら単純だけれど。それを察した陽菜にお尻をつねられ我に返った僕だった。
一頻り遊んだ僕達は売店で軽く昼食をとった。陽菜と御心がお手洗いと席を外した時、九都は僕に言った。——稀沙ちゃんって、可愛いよね。と。
僕はというと、御心にそんな感情を抱いたことがなかった為、——小さい頃からずっと一緒にいたから、そんな気持ちにならないと言った方がわかりやすいか、——ともあれ、僕は御心を友達としてしか認識していなかった。
勿論、御心稀沙は可愛いと思う。だからといって、特別惹かれるなんてことはなかったのだ。
「ハロも可愛くなりたいです」
「ん? なんか言った?」
「あ、いえいえ! ひひ、独り言、です……」
あの……と、九都は続ける。
「稀沙ちゃんのこと、どう思います、か?」
「……どうって、と、友達だけど?」
「あ、あはは……そ、そうですよね……」
「波芦、お前も友達……だぞ?」
「はっ! あ、あのその……ごめんなさい……」
「だーかーら、なんで謝るんだって。変なやつだな」
九都は笑う僕の目を真っ直ぐ捉え、少しばかり潤んだ瞳で、
「稀沙ちゃんも、名前で呼んで欲しいって……言ってました……」
当時の僕に、その言葉の意味を理解するのは容易ではなかった。数秒の処理時間をはさみ、僕は九都に言葉を返した。
「御心は……御心、だし」
幼いながらも、御心が僕に気があるのかも、と、感じたのを憶えている。しかし僕は、素直に喜ぶことが出来なかったのだ。御心が幼馴染みであることも原因の一つだ。先も言った通り、馴染みが深過ぎるとそのような感情にならないわけで。
「じゃぁ……なんでハロは名前で呼んでくれるのです……?」
こんなことを言うと、クラスの皆に大バッシングを受けるだろうけれど、敢えて言うとしたら、——僕は御心稀沙を恋愛対象として見られない。だからその気持ちに応えることが出来ないのだ。ボッチの僕が学年の人気者から好意を寄せられているってだけで喜ぶべきなのに、身の程知らずもいいとこだ。
だけれど、——
「……特別な理由なんて、ねーよ。なんとなく、波芦の方が呼びやすいってだけだよ……」
当時の僕の心は、九都波芦に向いていた。
波芦が好きだった。
身体が弱くて、小さくて、オドオドしていて、でも本当は明るくて元気な、そんな九都波芦に夢中だった。微力ながら、この女の子を護りたいと、思ってしまっていた。
二人で見つめ合っていると、
「お兄ちゃん!? ハルナがいない間にそんなメスと見つめ合っちゃいや!!」
陽菜の声で意識は現実に引き戻された。いやいや、だからメスはやめなさいって。
振り返ると御心と陽菜がいた。御心は頬を薄く染め、おまたせ、と笑った。それはとても可愛いらしい笑顔で。
「御心、ありがとな! 陽菜に付き合ってもらって!」
「あ……う、うんっ! と、当然だよ!」
その時だった。僕の隣でガタンと音がした。
「ココロちゃんっ!?」
九都波芦が倒れた。
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