18『ハルナを捨てて他の女と遊ぶの』


 さて、蝉の鳴く季節の話をしよう。

 学校は夏休みに突入したけれど、僕達はというと、変わらず室内でゲーム三昧だった。小学生の頃は妹の陽菜と相部屋だったのもあり、集まる場所は、一人部屋のあった九都の家だった。

 御心にも一人部屋があったけど、彼女に限っては他の友達との約束もあり多忙を極めていた。そこで話し合った結果、九都の部屋をゲーム部屋としたのだ。理由はそれだけではないのだけど。

 一階では親御さんがパン屋さんを営んでいる。その日もいつものようにおじさんとおばさんに挨拶をし、二階の部屋へ向かった。

 そう、決定的な理由は、この部屋だ。


 九都波芦の部屋は、控えめに言って、天国だった。


 まず、ゲーム機の数だ。

 メジャーなハードは勿論、見たことないようなものまで揃っていて、ソフトの数もセンスも申し分なかった。あまり女の子らしいとは言えない部屋だったけど、僕からしてみれば、そんなことはどうでもいいことだった。ここはもはや、ゲームセンターデビルダム、いや、ゲームセンターココノツだ、と、馬鹿なことを妄想したものである。


「パイアーエンブレム、パイナルファンタジー、パイレントヒル! あ、パイ乙ハザードもありますけど、どれにしますか?」


 パインナップ、違った。ラインナップな!

 特にパイレントヒルとパイ乙ハザードは小学生のするレヴェルのものではなかったので、——まぁなんだ、僕の可愛い妹、陽菜は普通にやっているけれども、——と、それはさておき、当時はもの凄く興奮したものだ。


 僕と九都がパイ乙で盛り上がっていると、少し後ろで頬を染める御心。それがいつもの光景だった。

 そうだ、御心は意外とピュアだった。あの頃も、そして、今現在も、御心はあまり変わっていない気がする。御心は楽しそうにしていたけど、何処かうわの空でもあった。あの頃の僕に、そんな些細な変化を察知する能力はなかったけれども。


「ねぇハル君、ココロちゃん、せっかくの夏休みなんだし、外に出かけたりしないの?」


 ある日こぼれたそれは、御心の本音だったのだろう。多分、御心はゲームが特別好きというわけではなかったのだと、今ならわかる。

 僕に付き合って、ゲームをしていてくれたんだ。


 そんな御心の提案で僕達は日を改めて、市民プールへ出かけることとなった。

 プールと言えば水着だ。しかし、ここで問題が発生する。九都が水着を持っていなかったのだ。それもそのはず、九都は身体が弱い。あまり激しい運動は出来ない、ましてや、プールなんてもってのほかだったわけだ。


「稀沙ちゃん、なら、ハロの水着を買いに行くの、い、一緒に来てくれませんか? ひ、一人で行くのは、ちょっと恥ずかしくって……」

「え? いいの? ココロちゃん? だって、激しい運動は」

「だいじょーぶですよ。ハロは見ているだけでも楽しいですし、ハロの方こそ、誘ってもらえて嬉しいんです! だから」


 ハロを連れてってくれますか? そう言った九都に御心は笑顔で応えた。


 そして数日後、——プールへ出かける当日。

 僕はその日になって気付いた。そう、僕はこれからクラスの女子二人とプールへ行くわけだけれど、それってもしかして、リア充とかいうやつじゃないのかと。ボッチの僕が、クラスの中心的存在である御心稀沙と、影は薄いがよく見ると結構可愛い九都波芦、そんな女子二人とプールへ行くのだから。

 これがリア充でなくて何だろうか? 爆発物に注意しなければ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 御心の水着姿……


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 九都の、水着、姿……


「お兄ちゃん、どうしたの? 顔がキモいよ? ビンタしようか?」

「はっ、陽菜!? いや、な、何でもないよ陽菜」

「お兄ちゃん、ハルナと遊ぶやくそく」


 し、しまったぁ!! 確かにした。

 僕は数日前、陽菜と遊ぶ約束をしたのだった。


「お兄ちゃん、ハルナを捨てて他の女と遊ぶの?」

「ほ、他の女だなんて! そ、そんなわけないじゃないか。僕には陽菜しかいないんだから!」

「ふぅん……じゃ、後ろの二人は?」

「え?」


 振り返るとそこに、九都波芦と御心稀沙がいた。

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