13『狙うは一等賞だよ』


 修学旅行から、数週間、



 体育祭、


 ——僕は御心と、一心同体となった。


 我が校の体育祭は修学旅行を終えて数週間後に開催される。各学年、チームは二つに分かれる。

 そして、僕と御心は同じチームとなり、それぞれ二人三脚の選手に選ばれ、あろうことかペアとなったのだ。

 当然、全男子から嫉妬の目を向けられると思っていた。しかし、面白いことに違ったのだ。僕みたいなボッチなら御心をどうすることも出来ないだろう、と、そんな謎の安心感で容認された。それを喜ぶべきかどうかは、その辺りは僕の勝手なのだろうけれど、それでも僕は、若干の、いや、相当な気まずさを感じざるを得なかった。


 御心に対する想いと、それに反した、あの夜の出来事が、御心を直視出来ない僕を作り上げていたのだ。あの夜。そのことについては、おいおい話すとして、今は目の前のことに集中しなくてはならない。そう、体育祭はもう始まっていて、僕と御心の出番も目前に迫っているのだから。

 青春は待ってくれないのである。


「が、頑張ろうね、ハ……も、茂木、くん……!」


 体操服姿の御心が僕のすぐ隣にいる。御心の肩まで伸びた髪が風に靡く。そう、肩まで。御心稀沙は、修学旅行の後、髪を切った。そして僕を、茂木君と呼ぶようになった。しかし、それ以外は不思議なことに以前と変わらないのだ。

 明るくて活発で、誰にでも等しく優しくて、すげぇ可愛くて、でもちょっとお馬鹿な、そんな御心稀沙みこころきずなは据え置きのまま、呼び名と髪の長さだけが変わった。僕からしてみれば、それはもう、だけ、では済まないのだけれど。


 号砲、所謂、スターターピストルの乾いた音が鳴る。鳴る度に一歩、前に出る。そう言えば、鳴るで思い出したけれど、九都の奴はどうしているのだろうか。同じチームではないところを見ると、九都は偶数班なのだろう。ボッチの僕が心配することではないのだけれど、うまくやれているのだろうか。

 号砲パァン! と、近くで音が鳴り、僕の思考は止まった。

 御心は僕の瞳を真っ直ぐ見つめ、小さく頷く。僕はそれに応えるように頷いた。

 そうだ、今は目の前のことに集中だ。間違って御心を転倒させようものなら、それは、考えただけで恐ろしい。ここは無難に走って切り抜けるのがいいだろう。僕のような奴が、いちいち目立つのも、


「茂木君、次だよ!」

「あ、あぁ」


 御心の腕が僕の肩にまわる。僕は同じように、彼女の肩を抱いた。僕と御心は、一心同体となった。

 くじ引きとはいえ、この状況は男子からしてみれば最高のシチュエーションだろう。学園のアイドル御心稀沙とここまで密着出来る機会はないのだから。こうしていると、新たな発見もあった。

 御心の胸が、思ったより大きかったのだ。右半身に伝わる柔らかな感触がそれを物語る。僕はおっぱい評論家ではないのだけれど、これは所謂、Cカップ。手のひらにちょうど収まるジャストサイズおっぱいなのではないだろうか? いや、ガキの早計なのは重々承知の上だ。

 御心稀沙、神は不平等だ。アイドル顔負けのプリティフェイスに最高のプロポーションまで与えるとは。頭は少し残念だけれど、それだって逆に可愛いポイントになってしまうのだから。ズルい!


 しかし、しかしだ! おっぱいと言えば九都だ。

 いや、こんな時に何の話だと思われるだろうけれど、思春期ボーイには重要な案件なのだ。

 御心の胸は確かに魅力的だ。体操服姿にタスキがけしているせいか、その魅力は更に引き立つ。そう、御心ですらこの有様なのだ。いや、有様ってのはおかしいが、僕は今、語彙力のカケラもない男に成り下がっているけど、そこは置いておくとして、この格好をした九都が今、このグラウンドの何処かにいるのだ。僕はその姿を想像してしまった。

 全米が泣いた、そんなフレーズが頭に過ぎった時、


 号砲パァン


 号砲が鳴り響いた。瞬間、僕の身体が浮いた!


「茂木君っ! 狙うは一等賞だよ!」


 何ですとーー!?

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