◆告白編◆

24『ココロレンタル、はじめました』


 ココロちゃんじゃなくて、私が死ねば良かったんだよ。邪魔な私が、——うわ言のように天を仰ぐ御心の隣に座り、空を見上げてみる。


「……ハル君……最近になってよく屋上で独り言を言ってたよね……私はそれを見てね、ハル君とココロちゃんの間には入れないんだって思った。だから、ハル君の告白も断っちゃった。そんなはずないんだって、知っているから……ハル君がココロちゃんの幻を見るくらいに追い込まれて——」

「——いや、それなんだけど、本当に居るんだ」

「へ? いま何と?」


 何やら反応がおかしいけど、


「だから、その、何から説明すればいいのかわからないけれど……」


 僕は今年の春からの出来事を、出来るだけ細かく説明した。最初は眉をしかめていた御心だけど、最後には、馬鹿みたいな九都の幽霊、しかも触れちゃう系、食べれる系の幽霊の話を信じてくれた。

 御心にはその姿は見えていなかったようだ。しかし、九都が御心を横切った時に、懐かしい香りがしたと瞳を潤ませた。

 確かに、九都と共にいた時、知り合いは誰も周りに居なかった。僕が独り言を言いながら歩いているだけだったのだ。水族館でも、京都でも、何故か店に入りたがらなかったのはその為なのか。

 僕はどうやら、相当痛い人間を演じていたようである。


「ココロちゃん、そこに居たんだ……そこに、居たんだよね、ハル君。だとしたら私、酷いこと言っちゃったよ。謝らないと……」

「波芦はずっと、僕と御心のために動いてくれていた。あの頃から変わらない、とんだお人好しだ。御心、僕も波芦に言わなきゃいけないことがある。一緒に捜してくれないか?」

「……うん、わかった。今度は私が……ココロちゃんのために」


 その後、体育祭を終えた僕と御心は学校から少し離れた場所で落ち合い、日が暮れるまで九都を捜して歩いた。しかし、彼女は見つからなかった。

 仮に九都が幽体だとして、恐らく食べることには困らないだろう。いつも焼きそばパンを食っているけれど、あれは癖のようなものだろう。そうでなくては困る。



 日々は過ぎる。僕と御心は、あれからずっと二人で行動している。九都波芦を捜し出すためだ。校内でもあることないことが囁かれはじめる。

 さておき、色々試してはみた。例えば、屋上に焼きそばパンを配置してみたり、九都と行った場所に二人で行ってみたり。行く先々で御心は少し拗ねていたけれど。


「むぅ、ココロちゃんめ……めちゃくちゃ遊んでるじゃない……」

「あ、あくまでレンタルだからな?」

「ふーん、レンタルでお泊まりまでしちゃうんだね〜?」


 そう、今僕達のいる場所は京都。

 京都のネットカフェの一室である。連休を返上して新幹線でわざわざやって来たのだ。

 密室で御心と二人きり、この状況は極めて危険だ。何が危険か。言うまでもない。目の前に学園一の呼び声高い御心稀沙が横たわっているのだ。これが危険でなくてなんだろうか。


「ここでココロちゃんと、何、してたの?」

「な、何って、ざ、雑談?」

「……再現、してみてよ?」


 駄目だ。これは完全に疑われている。

 僕は御心にフラれた夜、九都とキスをした。してしまった。情欲に、僕は負けたのだ。傷心の僕を、九都は優しく慰めてくれた。

 それを御心で再現、


「無理だぁぁっ!」

「な、なんでよ!」

「ばっ、おま、何顔あかくしてんだよ!? 変なこと考えてないだろうな?」

「は、はぁ? そ、そそそ、そんな、別に、お、男の子と女の子がこんな個室で二人きりとか、ぜ、絶対何かあるとしか、お、おお、思えないってだけで、つまりその、ハ、ハル君にあんなことやそんなことをされるのを、き、き、期待してるわけじゃないっていうか、えっと……か、勘違いしないでよね!」


 御心は、可愛いかった。


 そんな馬鹿な思考を巡らせていると、横の個室から壁を叩かれて敢えなく退室。他所でやれ、とのことだった。何を!?


「……ハル君の馬鹿……」

「拗ねるなよ……」

「拗ねてないわよ……ばかばかばか」


「御心、せっかく京都に来たんだ。色々見てまわろうぜ?」

「え!? いいの!? ココロちゃんともイッてない未開の惑星に!?」


 いや表記がおかしいのと、惑星って。


「行こう! 私、実は色々調べて来たんだよね〜」

「御心、楽しむ気満々じゃねーか」

「ど、どうせ私の気持ちはバレてるんだし、ちょっとハル君をレンタルするくらいいいでしょ?」

「……ココロレンタル、はじめました〜」

「はいはーい、私、かりまーす!」

「焼きそばパン一つで手を打ちました」

「ました、じゃないよ〜」

「ましたったらました。安いもんだろ?」

「なんだかムカつくけど、でも……」


 それでも嬉しいんだから、滑稽だよね。と苦笑いを浮かべる御心の頭をポンと叩く。


「そんなことないさ……僕は嬉しいよ。御心が僕を想ってくれていたこと、めちゃくちゃ嬉しいんだ。気付かなくて……悪かった」

「……惨めになるからやめて。でもレンタルした分は、しっかり彼氏してね。私は、それで吹っ切れるから……ハル君は、ハル君の求める答えに向かっていいんだからね」

「あぁ、そのつもりだよ」


 僕の答えは決まっいる。


 ほんと、世間様から見れば、僕はとんでもない悪者だろう。

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