22『ハル君からの、プレゼント』
昼食を終えモール内をあてもなく歩く。
御心は終始ご機嫌で、一緒にいる僕の方が少し戸惑っていたけれど、というか、周りの目がすごく気になって固まっていたのだと思うのだけれど、しかしそれも不思議と慣れてきてしまうもので。
「ハル君ハル君っ、見て、可愛い?」
「あ、あぁ、かわいいよ」
洋服を合わせてはしゃぐ御心。その後、値札を見て項垂れる御心。今日の彼女は実に面白い。普段はあまり見れないような顔をしていた憶えがある。
洋服を買ってあげられるなら、そうしてあげたいのだけど、僕の手持ちでは到底手に入れることは出来ない。そんなことは御心も承知なのか、その場をはなれ他をまわることに。
時間はあっという間に過ぎ、時刻にして午後五時半。結局、僕達は何も買わなかった。所謂、ウインドウショッピングだ。それでも御心はとても楽しかったと笑った。しかし、すぐに伏せ目になり頬を染める。小学生の僕でも考えさせられる、そんな案件。
僕は徐に彼女の手をとり、さっきまわったファンシーショップまで戻ることにした。
「……す、好きなの一つ、買ってやる。こ、これくらいしか出来ないけれど」
「ハル君……?」
虚をつかれたように目を丸くした御心が掠れた声で言葉をもらす。
「……買ってくれる、の?」
「いいぜ。キーホルダーだけど」
「ううん、嬉しい! ハル君からの、プレゼント」
「そ、そんな大層なものじゃないって。ほら、選べよ」
ねぇ、ハル君? と、僕を見つめる御心。当時の僕達は殆ど身長に差がなく、それこそ真っ直ぐに僕の瞳を見つめる御心が視界に映り込む。
「……お、お揃いにしても……いい?」
なるほど。僕は理解した。
九都とお揃いのエモフレキーホルダーが欲しいのだと、そう解釈したのだ。
「わかった。波芦の分だな。いいぜ、二つくらいなら買える」
「……あ……うん、ありがとう、ハル君」
御心が笑顔を見せる。二つ、キーホルダーを手に持ち、笑顔で涙をひとすじ流した。
「御心? なんで泣いて……腹でも痛いのか?」
「ち、違うもんっ……これは……」
嬉し涙だよ、ばか。と目を擦る御心。
「……でも……そんなところが……——」
「ん? なんか言った?」
「なんでもないし……ばか!」
いつもの御心に戻っていた。
そして僕の方が成績はいいからな?
さておき、午後六時、店を背に歩く。
緩やかな坂道を越えれば、見慣れた町の景色が視界を埋める。その下り坂を下った角で手を振り、またね、とそれぞれの帰路についたのだった。
こうして僕の初デートは終わった。
今考えると、その後、御心がそのキーホルダーをつけているところを、見たことはなかった。
僕はそのことをもっと深く受け止めるべきだったのかも知れない。だけれど、あの頃の僕に、それは無理な相談だったんだ。
何故なら、僕の初恋は御心ではなく、
「波芦のやつ、キーホルダー喜ぶかな」
なんて言葉を漏らすくらいに、僕の心は九都波芦に傾いていたのだから。
本当、身の程知らずな奴だと思う。
自分に嘘はつけなかったのだ。
そう言えば格好良いかも知れないけれど、要は、結果的に御心の心を弄び、傷つけていたのが、当時の僕、茂木陽人、小学六年生だった。
そしていま、現在も、彼女を傷つけていたのかと思うと、僕はなんて罪深い奴なのだろうと、今更になって思わされるのだ。
時は過ぎ、三学期。
あの日が目前に迫っている。
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