22 語られない物語、語られない物語よ

 「……。」 

 言われても、神様は静かで。いや、冷徹か。

 神様なのだ、その神様に向かい、無礼千万だ、罰を与えると。

 こちらも鋭い眼光で、睨み返して。

 「……さっきといい、なかなか無礼なことをしてくれるわね。さっきは、あなたのしぶとさに敬意を示して、大目に見ていたけど、これは流石にね。私に刃を向ける行為とは、どんなことか、身をもって教えてあげる。」 

 言って、両手を広げ。

 翼広げるように動かすなら、光の膜が至る所に形成されていく。

 よく分からない文様まで、浮かんでは威厳を世界中に放ち。 

 瓦礫には不釣り合いの、琥珀の色に染め上げる。 

 だが次には、似つかわしくないや。

 袖をまさぐって、古ぼけた懐中時計を取り出した。

 ……価値なんて、ほとんどない、神錆びたような?でも、よく分からない。 

 要は、大したことなさそう、としか。

 「……来なさい、〝クロノス・ギア〟!!」

 何やら、言葉述べて、それを宙に浮遊せると。

 「!!」

 その懐中時計は、ガリガリという不協和音を立てて、形を変えていく。 

 懐中時計だった形は崩れ、……カオスという形の定まらない様子。

 大きさも、変貌。形と相まって、巨大でよく分からない様子に。

 そこには、かつて懐中時計であった、という事実が成り立たないほどに。 

 それらがしばらくそうあると、やがては平衡に至るように秩序を持ち。

 形を成すなら、それは、〝大剣〟と呼ぶに相応しい。

 幅広の、巨大な剣となる。

 ああ、単なる大剣というには、言葉足りないや、もう少し言うと。

 その刀身には、さも時計であるかのような歯車のある物だ。

 異形の、大剣。

 見ていて僕は、息を呑んだ。一体あれは、何だとばかりに。

 「……。」

 「……。」

 説明なんてものはない、双方静かで。 

 まあ、こちらで類推するなら、〝神様の大剣〟と言うことにしよう。

 他方神様は、さも誇らしく構えては、切っ先を男へ向けて。

 男は、一瞬キョトンとしたものの。

 相手が攻撃すると悟るなら、きりっとまた見据えることにする。

 いやそもそも、先に切っ先を向けたのは男なのだから……。

 まあいいや。

 一触即発、その際にて。

 「はぁああああああああ!!!!」

 まず動いたのは、男だった。

 目にも留まらぬ速度で、刺突を繰り出す。神様は、反応しない。

 なら、貫かれるのでは?

 そうでもない。

 神様に切っ先が到達しそうになった時には、その速度が急激に下がり。

 スローモーション、からの。

 「……っ!」

 ふっと、息を吐き出して、軽く手を動かすなら。

 反発する力が生じ、急激な速度で男を弾き飛ばした。

 「?!なっ!」

  言葉紡ぐ前に、男は瓦礫の山に一直線。

 衝突、崩れてきた瓦礫に埋め立てられてしまう。

 終わったと思ったか、神様は一呼吸、さっと装束の土埃払い。

 一方僕は、いや、終わっていないだろうと思っている。

 散々瓦礫の山に圧し潰されても、這い上がって来たんだから……。

 案の定。

 一瞬、神様の背後が揺らぎ、男の姿が見え始めて。

 ……と、思ったら、神様は知っていたかのように。

 見ることなく大剣を翻して、その方向に盾のようにして。

 「?!くっ!」

 男の刺突を、いとも簡単に防いで。

 ……からの、そのまま大剣を振り回して。

 それこそ素早く、男の身体さえ、巻き込み。

 「?!ぐぁぁ?!」

 高く、男を放り上げてしまう。 

 高く打ち上げられた男は、反応が遅れたか、何もできずにいて。

 そのまま、自由落下で、瓦礫の山に向かう。

 いいや、より酷いことになりそうだ。

 神様もまた、跳躍を見せて、そのまま男に対して、大剣を振り上げてきて。 

 様子、重さを感じさせない。

 それでいてそれ程振り上げるなら、その威力は凄まじいものだろう。

 人なんて、簡単に斬られてしまう、それ程の。

 当然。

 何もできない男は、自由落下に加えて。

 神様の力を与えられた斬撃に、急加速の落下をその身に受ける。

 威力たるや、瓦礫の山を簡単に突き崩し、クレーターにしてしまい。

 さらには、斬撃による傷痕さえ、刻み付ける。

 爆心地たる男は、目を丸くして、しかしタフかな。

 身体は切断されずにあり、反動を示すかのようなバウンドを示すが。

 だが、言葉紡げない。

 神様は何事もなかったかのように、ふんわりと瓦礫の山に降り立つと。

 見下すように見据えて。

 冷徹に、視線を向けて。

 「……それなりに〝神様の力〟を使えるようだけど、だめね。それよりも、世界が好きなようだから、好きな世界の破片で埋めてあげるわ。さようなら。」

 一言紡いでは、さようならと手を合わせた。

 すると、周辺の瓦礫が勝手に動き男がいる穴を覆い隠していく。

 残酷かな、とうとう男を地面に埋め立てるか。   

 微かだが、ぐしゃりと潰れる音が聞こえて。

 見て、光景を想像すると、気分が悪くなる。

 このまま、潰されてしまえば、僕が抱く鬱屈も解消されるであろうが。

 相手は僕でもあって。自分が潰されたと思うと、……確かに。

 静寂。

 まあ、これにて、あの男のお話は、終わり……。

 ……じゃない。

 「!」

 空間は揺らぎ、気付いた神様はしかし、防御して見せる。

 神様の眼前の空間揺らぎ、形が象られたならば、あの男が現出して。

 空間を跳躍したか。それ以前に、そのタフさに感心してしまうよ。

 どうやら、生き埋めになる前に、脱出して、攻撃を仕掛けたみたい。

 だがそれも勘付かれて防御されてしまう。 

 光の盾は、男の攻撃を残酷にも防ぎ。

 「っ!!!」

 けれども男は諦めない。呼吸一つ。男の体が揺らぐ。

 その後、背後に回り込むか?

 いや、今度のは違う、揺らいだにも関わらず、男の姿は消えない。

 何をしたのか。

 「?!速度が……っ?!」

 神様は、何か驚いたように言葉を吐く。

 見ると、光の盾に阻まれた剣先が、より奥深くめり込むように。

 金属が擦れ合う鋭い音、それも増して。

 「っ!」

 男はまた、一呼吸。陽炎のように揺らいでは、しかし同じ位置に。

 その時、威力も速度も増したか、光の盾への刺突が、また深まる。

 溢れた力は、周囲に発散され、瓦礫を吹き飛ばす。

 合計すると、威力は相当なもののようだ。

 「っ!!!!」

 一際大きい呼吸音が響いたなら、男の体は揺らぎ。今度は、一瞬で消えた。

 からの、同じ場所に現出しては刺突を。その刺突、更に威力を増し。

 光の盾に、大きく食い込んだ。もう、このままだと、破壊されてしまう。

 「?!くっ!まさかあなた、刺突を繰り返していたの?!」

 「……。」

 食い込む中、神様は見抜いたか、言ってきて。

 「!」 

 僕はピンとくる。どうやら、男は、陽炎のように揺らいでは。

 一瞬で下がり、加速をつけて刺突するのを繰り返していたらしい。 

 パイルバンカーか。

 それも、音速をも越える速度、とても、人間では知覚できない速度の。 

 そのトリックが分かっても、男は無言で。

 「っ!!!」

  返事代わりに、一呼吸。また、刺突を与える。

 「?!!うぅう……!!!」

 光の盾へのダメージは大きく、かつ、力が増して。

 神様でも抑えるのが難しくなってきたか、軽く呻いた。

 「?!……ぁっ?!」

 限界に達し、男の刺突がついに盾を貫く。

 払いのけようと、大剣を振るうが遅く。

 神様は、焦りと驚愕の色に染まるものの。

 束の間、やがて到達する、強力、かつ、高速の刺突に、呆気なく貫かれる。

 微かに叫ぶものの、途端響き渡る衝撃波と。

 伴う暴風に体ごと吹き飛ばされてしまう。

 男の放つ刺突の威力、相当なもので。

 周辺の瓦礫はおろか、無傷であった出雲大社の本殿さえ、破壊してしまう。

 神様の肉体は、その時には彼方の瓦礫の山に衝突し。

 ……皮肉にも崩落、埋められてしまう。

 「……はぁあああああああああ……。」 

 見届けて男は、大きく息を吐き、膝をついて、刀を杖に、休むように屈んで。

 きりっと、神様を吹き飛ばした方向を睨んでいて。

 だが、神様もタフなものか、瓦礫が動き。

 どかし、その姿を晒そうと。その動き見て男はまた、立ち上がり、刀を構える。

 まだ戦うなら、戦うと示して。

 足音近付くものの、だが、力なく。引きずるようなもので。

 姿分かれば、神様の姿は無残であった。

 巫女装束もボロボロ、所々出血もある、……痛々しい姿。

 加えて、その胸には一際目立つ、大きな朱の斑点、刺突跡凄まじい。

 口元からは、血が溢れいて。表情は苦悶。

 ……正直、戦える状態じゃない。

 止まり倒れればいいものを。

 しかし踏みしめながらも神様は、男に歩み寄っていく。 

 男もタフだが、神様もタフだな。

 「……う!うぅ……。」

 が、タフさはどうやら男が勝ったようだ。

 神様は最終的には、男に跪くように膝を崩してしまう。

 悔し涙か、頬を伝い、それら、血と相まって悲壮を感じ。

 「……ま、負けた……わ。」

 敗北の言葉、紡いで。聞いていた男は、構えていた刀を下ろして。

 視線は、しかし、厳しく。それは、男も同じ。

 神様は悔しさが滲み出ていて。

 「……なんてこと、愚者のあなたに負けるなんて……。くぅ……!!」

 吐き出される言葉もまた、悔しそうで。

 力もう出せない、身体もう立てないでいながらも、手を男へと伸ばす。

 震える手、届くことはない。

 タイムリミットか、その手が透き通り始めて。加えて、後光神様に射し。

 より、神々しさが増す。だが、男への攻撃のためではない。

 それは、〝帰還〟のため。……なぜか、僕はそう悟ってしまう。

 文様、読めない文字現れては、神様を優しく纏い。

 「?!」

 何かこう、神様に変化を起こすようで。

 そう、見事な白いアンゴラ猫になる。これは、元の姿に戻ったということか。


 語られない物語。

 語られる時、清らかなる魂は。

 永久(とこしえ)より帰還する。


 「!」

 また謎のフレーズが頭をよぎる。

 その時僕の頭の中に、イメージが侵入してくるのだ。

 それはあのアンゴラ猫の過去……か?

 同じようなイメージが侵入してきたのか、男もまた目を丸くしていた。

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