14 奇跡、願い、僕は捨てない

 呼応する、世界。咆哮が反響して、また、地が同じように咆哮して。

 抉り、石が剥き出しになり、飛び交う。 

 木が咆哮するように軋み、己の根を伸ばしていく。

 「!ちぃっ!」

 木の根は、抜き放った刃に裂かれたものの、飛び交う石までは難しく。

 防ぎきれないか、頬を掠めて。

 出血があり、しかし、男は拭い去って、睨み付ける。

 揺らぎ、見えない速度で突進してきた。

 「ぐぅぅ!!!」

 展開する光の膜で、防ぐものの、やはり衝撃だけは、貫いてきて。

 飛ばされまいと踏ん張るならば。

 周囲の木々がその枝葉伸ばし、僕を支えてくれる。

 「!」

 動物の温もりはないが、木々が示す優しさに包まれたと。

 つい、温もりを感じ、心まで温かくなる。

 支えてくれたと。 

 きりっと向き直ったならば、相手を見据えて。

 今度は押し返すように、手を動かしたならば。

 「?!くそっ!!!貴様、どこで……!!」

 光の膜が閃光し、逆に衝撃を放って相手を突き飛ばした。

 驚きの声耳にして、僕は支えられながらも立ち、飛んでいく相手を見つめる。

 「……おぉおおおおぉお……。」

 温もりと、今この勢いに任せて僕は、息を吸い込むように唸り声を上げて。

 呼応、大地は揺れて。

 呼応、木々は揺れて。

 ―おぉおおおおお!!!

 呼応、怨讐の願いたちもまた、揺れる声で吠えて。

 ……力を与えていく。

 「おぉおおおおお!!!!」

 僕と怨讐の声が重なる、その瞬間に、僕の頭上には光のリングが形成されて。

 そう、神様が見せた、願いが叶う瞬間の、光の輪。

 願い、それは世界の終わり?

 願い、それは、あの男をまず殺すこと。

 光の輪、凝縮し、激しい発光の玉を作っては、僕の眼前に降り立っていく。

 願い、それは、殺すこと、実現のために。

 「行けぇえええええええ!!!」

 咆哮し、その光の玉、手にとっては男へと投げつける。

 丁度、弾き飛ばされて、体勢を整えようとしていた男の眼前に、玉は迫り。

 「?!くそっ……?!」

 爆音と共に、炸裂して、激しい光を周辺にまき散らした。

 掻き消されたが、男の声も聞こえ。

 どうやら、思わぬ攻撃に、成す術なく、という感じか。

 どうなったか分からないが、気配が消えた気がする。

 「……ふーっ!ふーっ!!」

 荒い息吐きながら、頭を冷やして、冷静に周辺を見渡して。

 静かになったか、その証明を探すために。

 「!」 

 遠くの方に煌めき一つ。

 何かに気付いた僕は、光の膜をまた作った。

 それと同じタイミングで、男は突然姿を現して、突撃を食らわせてきた。

 どうやら、今回は速かった模様、僕の防御は上手くいったみたい。

 「……!うっ……。」  

 だが押されているのは、あって。

 反撃の前に、光の膜に次第にヒビが入っていくのを目にしていた。

 このままだと、破壊されて、僕は貫かれてしまう。

 策を巡らそうとするものの、他に思いつかないでいる。

 何より、相手の気迫が強く、視線はおろか、思考も逸らすわけにもいかない。

 「しま……っ!」

 考案するよりも速く、膜は瓦解して。

 しまったと思った時には、貫いた刃は迫り。その瞬間に、死を意識した。

 したのだが……。 

 

 「やめて!!!」


 「!!」

 「!」

 どこからか響いてきた、聞き覚えのある声が止めに入ってくる。

 幸いだね……けど。

 同時に耳にして、男はピタリと僕の首元ギリギリにて、刀を止める。  

 僕は、止まったことにほっと胸を撫で下ろす。

 さて、止めてくれたのは誰と探したなら。

 男の後方、より離れた場所に、その姿はある。

 それは、男が連れていた、病弱の少女。

 あの、大学のキャンパスで、ご高説を垂れていた、世間知らずの。

 今回のその少女、垢抜けたと言えばいいか、少し成長した印象を感じる。

 心配そうに、男を見つめて。

 男は視線を、今度は少女に向けて。

 それは、あの時見せた、大切にするようなものではなく、威圧である。 

 「……邪魔をするな、ミラ。お前が見ていい物じゃない。俺は、こいつを殺さないといけないんだ。殺さないと、世界が滅ぶ。滅ぼしちゃ、いけないんだ、そう、お前の持つ、〝奇跡〟の力を使ってまでも、な。」

 反論も静かに述べて。

 止めなくてはならない、滅びを。

 男がそうする理由は知らないけれど、重要な使命のよう。

 「知っています!あなたが、そのせいで苦しんでいることも。〝罪〟に苛まれていて、その贖いと、温かい場所に帰りたいということも!ですが、あなたも見てきたでしょう?世界が、どんな状態なのか!知っているはずでしょう?虐げられている人々が、どれほどいるか!……だから私は、そのために力を使いたい!そんな人々を救うために、力を使いたい!」

 「ぬっ……。」

 男の使命、知っていてなお、と反発する少女、らしくなく。

 やはり。

 あの時見た、か弱く、世間を知らなさ過ぎる無垢な姿は、そこにはない。

 きっとあの後、あらゆるものを見て知り。

 自らが課せられた運命を感じ、何を成すかを悟った姿のか。

 思わぬ反発に、男は眉をピクリとさせ、持っている刀を僕から離す。

 少女は男に反発した後、男が引き下がったと思い。

 ゆっくり僕へと歩み寄ってきた。

 「お見苦しいところをすみません。私、あなたのおかげで気付きました。」

 「!」

 今度は、僕に話し掛けてきて。

 僕は、何だろうと、彼女を見つめて。 

 「気付いたのです。あなたが私を叱咤したその時に感じた、深い悲しみと、この世間を憂う、心。それを癒し、この世界を幸福にする、私はそうすべきだと、感じるようになりました。色々地方を回って、私はこの自分の気持ちを確信しました。……あなたに感謝します。」

 「……。」

 言葉は続き、僕は静かに聞いていて。

 「自分じゃ何もできない私に、あなたは道を与えてくださいました。私は、あなたの心の中にある闇を払うと共に、この混沌とした世界を希望へと変えさせていただきます。」

 言い切っては、静かに目を閉じ、祈るように両手を合わせて。

 少女は言った、自らが感じたことを。

 少女は言った、僕によって、目を覚まされたことを。

 世間を見て、もう無垢なままではいられないと、自らの使命を悟ったと。

 故に祈る、己の使命全うのために。聖女の微笑みに変わったならば。

 「……やめろ、ミラ。使っちゃいけない。」

 察知してか男は、一変して焦りに似た表情を見せ、懇願のように言ってくる。

 それが、どういうものか、分からないでいるけれど、何かがあるようで。

 ……意地悪にも僕は、困った表情見せた男に、酷く愉悦を覚える。

 なるほど。

 祈ってくれるついでに、この男が破綻するのなら。

 これほどいい憂さ晴らしはなかろう。

 さあ、始めよう。始めてくれよ!世間知らずの少女、己の力で。

 祈りに呼応して、少女の頭上に、光のリングが形成される。

 天使のような、輪とも思える。

 ―あぁああああああ!!!!

 歓喜の声響き、世界中に散らばった。

 怨讐の願いたちが、その天光に導かれているようで。

 願いたちが光となって輝き、リングと融合していく。

 そうそれは。

 苦しんだ者たちが、苦しんだ魂たちの歓喜にて。

 この腐敗と混沌に満ちた世界を変える力へと、変換される、願いへと昇華される。

 すなわち、世界の終わり。

 すなわち、『ワールドエンド』。

 浜凪が成しえなかったことを、成す。

 ……その情景を、男は静かに、いいや、壊れるほど震えて見て……いない?!

 「……ミラ……。くっ……。っ。」

 破綻して、崩れ去ると予想していたのに、男はなお、崩れることはなく。

 持っていた刀、構え直しては、少女に向けて。

 ……まさか?

 嫌な予感がする。

 その通りに、微かな呼吸放っては、地面を蹴った男は。

 なんと、大事にしていたはずの少女を、刺したのだ。

 「?!し、シータ……さん……?!」

 遅れて舞う血の赤と、漏れる声、驚きに。

 「……すまないな、ミラ。俺は今回もまた、失敗のようだ。気にするな。お前の力、俺が貰ってやる。そして、俺が使う。もうお前は、祈らなくていい。ああそうだな。天国に行って、祈っていろ、お前の救いたい魂を。」

 傍ら男は、静かに、祈りに似た言葉呟いては。

 思いっきり刀を抜き放ち、余計辺りに血を舞い散らせて。

 飛び散った血を浴びながらも、こちらに向き直っては、再び構え、僕を見据えて。

 その行為に、狂気感じ、僕は身震いしてしまった。

 「問おう、萩原桃音。」

 「……?」

 攻撃が来るか、身構えていた矢先に、何を言い出すか、僕に問うてくる。

 油断を誘うのか、どうか分からず僕は、首を傾げて。

 「……俺は、何回越えればいい?何回、絶望を越えればいい?何回、災厄を越えればいい?」

 「……?」

 ますますもって、意味が分からない。

 この男は、何を言っている?よく分からない内容に、僕は次第に混乱してきて。

 「やっと見つけたのに。やっと〝帰還〟できるのに。また俺は、繰り返さないといけないか。……。」

 「……?」

 「……。」

 続くことに、どうやら男は、何か繰り返すことがあり。

 それがまた始まるかと落胆を吐いて、最後区切る。

 不審な切り方が僕は気になってしょうがない。


 「もう沢山だ!!!!」

 

 「?!」

 その区切り、間であって。呼吸し、不満を吐き捨てて、僕を睨み上げる。

 思わず真剣さを僕は取り戻し、身構えて。

 相手の剣幕、より増して。気迫が溢れ。

 また、口からは、小さい唸り声も聞こえてくる。

 「っ。」

 微かな呼吸、一つ、吐いたなら男は、地面を蹴り、見えない速度で突進してくる。

 「!」

 反応が一瞬遅れた僕は、せめて手を伸ばしてでも、刀を止めようとした。

 切っ先が触れるか触れないかの間際。

 僕と男含む全ての空間に、眩い光溢れて二人、いいや、全て光に溶け込んでいく。

 「?!な、何?!」

 何事か、僕は声を上げたが、同じく光に溶け込んでいき。

 感覚も、気配も全て光に溶け込んでいく。 

 理解、思考、何もかも超越して、分からなくなって。


 「!」

 矢先、聞こえてくるのは詩だった。誰が詩っているか分からない、詩が。

 

 語られない物語。

 語られる時。

 清らかな魂は、とこしえより帰還する。


 「!!!」

 聞こえたなら、自分が回転する感覚を得て。

 振り回されている?何だか、具合が悪くなりそうだ。

 ああ、幸いなこともある。

 光溢れて、何も見えなかった状況が。

 回転していく内に、見えるようになっていき。 

 面白いことに、スローモーションで、かつ、逆再生するように状況が戻って。

 迫る切っ先が、後退。男は元の、構えた地点に戻り、構えたままの姿に。

 不思議なことは、そこから先、逆再生は終り、静止。

 やがて、男の後ろから、激しい光が溢れて。

 「?!」

 そこからの、暴風の衝撃が走り。

 僕は思わず目を瞑り、守るために自分の顔を腕で覆った。

 流される!!

 その圧を感じつつ。

 ……また、詩を聞いた。


 語られない物語。

 語られる時。

 清らかな魂は、とこしえより帰還する。

 

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