アンサング・ストーリア
15 語られない物語
……。
……。
……。
語られない物語。
語られる時。
清らかな魂は、とこしえより帰還する。
頭の中にフレーズが響き。
光の先、男の半生語るか、映像が流れ始め?
あるいは、映像が切り替わっていく。まるでそう、時を遡るように。
姿も変わり、そう。
ああ、まあ。
ほとんどは変わっていないが、髪色が元に戻って。また、得物もなく。
だがしかし、シルエット状態にか、顔がよく分からないようになってしまう。
一体何が、そう思考するよりも先に。
そう、言うなれば〝物語〟謳われて。
それは……。
語られない物語……その男の、嘆き。
男の半生は、不幸の連続だった。
……男は嘆いていた。
……男は怒っていた。
嫌っていた。
2010年代、とても不遇な時代であると。
利権が良心を喰い、精神を蝕んでいく。
嘘が真実を喰らい、覇権を広げていく。
身近では、僕ら若者が喰われ、未来を奪われていく、斜陽のこの国にて。
では、それらを、〝凄惨〟の言葉で形容して。
男は、この世界が嫌いだった。
むごい。
いつも誰かを憎悪し、いや、させられる。
何かを憎悪させられる。
生まれ育ったこの国の中でさえも。
むごいとしか言いようがない。
だから、呪った、この国を、この世界を。
だから変えたいと思った。
しかれども最初から、そんな呪詛を吐くことはなかった。
生まれも育ちも、普通。学校の成績だって普通、大学だってそう。
ごく普通に生活する。
悪く言えば、ぱっとしない、目立たない男のよう。
それがどうして?
この時代が突きつける、〝闇〟が痛めつけてきたからか?
それとも、見出した新たな〝闇〟によるものか。
ああまあ、さながら自分事のようなことも……。
それは……。
高校生の時、文芸部に所属しては、忌み嫌う奴に絡まれ、罵倒される。
それは……。
大学の時には難癖をつけられて。
国家権力をだしに金をせしめ取ろうとする悪党に絡まれ。
SNSじゃ嫌いな奴に罵られ。
不景気、大震災に不況。就職活動はろくな目に遭わなかった。
故に、呪詛を垂れ流した。
激怒した。
涙しながら激怒した。
最終的には激怒した。
吠えた。
吠えに吠えた。
全てを吐き出すように。
嘆いた。
己の時代に。
祈った、奇跡の到来を。けれども叶うことはない。
故に見えた、世界の暗黒部分、反吐を出し。
ある国で起きている、人権無視の、事実上の侵略行為。
同じ宗教なのに、子供のような理由で対立する戦場。
考えないようにし、将来奴隷にするようにしたこの国の政策。
利権絡みで、ちっとも平等でない経済。
譲り合いを忘れ、自分の物にしたいという国同士の対立。
等々、下らないことが列挙される……。
ああさながら、自分事のよう。
涙は枯れ果て。
最早、怨讐の願いだって叶いやしないと。
それでも身体を引きずって、どこか、遠くへ願っても。
ああだけど、他人事だったか。
願い叶わず。
僕なら、絶望に苛まれてしまうだろう。
……。
……。
自分に問う、世界をどうしたい?
答えは……。
「?!」
だが、男の半生は、俺のような感じで、前の自分のモノローグで終わり。
じゃないみたい。
……そんな不遇であっても、乗り越えた。
心が砕けそうになっても、それでも耐え抜いた。
ただひたすら、奇跡を願い、希望を求めて、歩き続けた。
だからか、神様が願いを叶えてくれたみたいに、男は就職する。
羨ましいことに、男は、そんな時代であっても、就職してみせたのだ。
そうして、切磋琢磨し合える仲間と出会い。
毎日を、嘆き悲しみを忘れるように生き続ける、それは至上の幸福。
「……っ!」
その様子には、反吐を覚えて。
苛立ちさえ感じる。
何せ、羨ましい、それが筆頭として出てくる。
これを見せて、はい、感想をどうぞ、なんてことしたら。
僕は苛立ちの果てに、この男を殺しかねない、それほどに。
ああそうとも。
こんな物語を見せて、何をするつもり?
感想をどっかの誰かが聞くなら、最悪だ。
僕の傷を抉るの?なら、そんなことを問う奴らも。
この語るであろう男もろとも、殺してやる!
そんな幸せ、崩れてしまえ!
「!」
……と思ったら、割とあっさり崩れるみたい。
けれども男の幸せ、そんなに長くは続かない。
ある時からのブラック環境に、疲弊。
転職。
その先で……契約社員にて、……そして、クビ。
男は、絶望した。
自分の何がいけなかったか?!
自分の素性がダメなのか?!
いいや、違う。
会社都合という言い訳に。
ただただ、口減らしのためだけに。
そも、自社の製品を買わないという、客にもなれないそれで。
クビにしたのだ。
結果として男はどうなるか?
僕だったら吠えるさ。
男だって、吠えたさ。
慟哭に、怒りを混ぜて。
故に望むか、〝ワールドエンド〟。
……さて、見ていて僕は、何だか晴れ晴れする。
結果として男は、まるで今の僕のように、神集う社へと向かうのだから。
服装こそ、作業着の様相だが。
……どこかで見たような、バックパック。
きっと大切な物でも入っているか、あるいは、まさか僕と同じ物とか?
背負って。
道中、さながら僕のように歩く。
琥珀色の、美しい夕暮れの光景の元、社目指して。
その社だが、僕の時とは異なり、完全に建て替えられた。
美しい大社造りを見せていて、かつ、琥珀色の一時に彩られていた。
その社に、歩み寄る。
そう、まるで僕のように。
跪く形で、……なら、僕と同じように呪詛を述べるだろう。
……さて、見ものだね。
どんなことを願うか、想像するなら、呪詛。
そこを、その美しい社を、呪詛で穢すか……。
見ものだ。
「……もういい。もういいだろっ!!」
「!……。」
まずは、怒りを込めて、叫び始めるような始まり方。
〝もういいだろ〟……それが、意味するのは。
散々な、苦労、それが押しかかって。
「……散々、そう、散々苦労した。そうやってそうやって、ようやくと思ったのにまた、俺を、苦しめるのかっ!!」
呪詛が続いて。
……でも、静かでしかない。
観光地だというのに、社に集う人は皆無。
「……。」
男は一旦止めて、周辺を見て、静かなことをいいことに。
「それが神様なのか!!!ああ、そうだな!!あの時も!!そうやって無視して、俺を苦しめて!!!胡坐をかいているだけのっ!!そうして、俺が苦しんでいるだろうに、手助けをしない、なら……っ!!ならっ!!!!!」
言葉、語彙、全て荒げて。
最後の言い切りに、思いっきり息を吸い込んで。
「この、……守ろうとするちっぽけな世界!!!全て破壊してやるっ!!!!貴様ら愚鈍な神が愛したもの、全て……っ!!!」
「「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」
「?!」
最後の吐き捨てに、全てを破壊せんとやがて吠えた。
咆哮はすさまじく、およそ遠くの場所まで響き渡るかのよう。
また、およそ人が出せる領域を超えているとさえ思えて、ぎょっとした。
ただの作業員であろうに、それがここまで出せるなんて。
僕と似ていると思っていたが、ここまで荒げられないことに。
異なる点である。
……まあ、ただ。
僕の場合、だからといって、誰も手助けしないし。
挙句の果てには、あの銀髪の男に邪魔されただろうし。
「?!」
が、この男の場合は別のよう。
なんと、神様が作り上げたような虹の輪を、この叫びの元、形成してみせたのだ。
呼応するように作られて。
―おぉおおおお!!
呼応するように、亡者たちが吠える。
「?!なっ、何だ……?!」
男は叫び果てて、肩を下ろしたところで。
その雄叫びに気付いて顔を上げるなら、ぎょっとした。
社の上に形成される、巨大な虹の輪にも。
そう、男が見上げたその先に、待っていたかのように途端、衝撃波を放った。
「?!ぐぅ?!」
「!」
折角上げた顔も、衝撃波に阻まれて、逸らさざるを得なく。
なお、僕は一部始終を目撃していた。
その衝撃波、何と社の周辺を大風と共に薙ぎ払っていき。
やがて街に到達するなら、それさえも薙ぎ払う。
周辺だけじゃない。
その勢いはやがて遠くの街にまで波及して。
沢山の摩天楼に囲まれた街さえ、瓦礫に変えていった。
「……。」
何が起こったか?
「!」
起こったことが僕には分かった。
破壊だ。
僕の望んでいるものが、起きたのだ。
……ただ、あっさりなもので、こう簡単だと、感想も思い浮かばないけどね。
とにかくも、目の前で起きたのは、世界の破壊だと。
「……何が……。」
男も言うや、覆っていた顔を上げて。
周辺を見渡すなら。
「!!」
状況に気付いて、また目を丸くした。
瓦礫の世界において。
人の営みの消えた。
気配の消えた世界にあって。
気付いては。
「……あ、ああ……。」
口を震えさせる。
……それは歓喜の前触れ?
まあ、僕なら、そうするかな。
だけど男は。
「……あ、ああああ?!」
「?!」
歓喜に顔を綻ばせ、ではなく、しまったという感じに顔を歪めて。
それは、なぜ?
望んだからじゃない?
「……ああ、そんなっ……。ああそんなっ!!!!」
……だと思う。
望むなら、〝そんな……〟なんて言わないもの。
「……っ!……っ!!」
望まない、望んでいない。
だのに、これは叶うなんて。
男は顔を伏せるが。
「何でだよぉ!!!何でこんなのは、叶えるんだぁぁ!!!」
やがてまた、吠える。
崩壊した世界において、未だに社としての輝きを放つ、神々の住まう場所へと。
「……これが、これが叶うなら、もっと別の、幸せの願いだって、叶えられた、そうだろうがぁぁ!!!!なんでだよぉぉぉぉ!!!!」
慟哭に近く、まだまだ吠えて。
「……。」
だが、社が答えるわけもない。
いくら、神々しさがあろうとも。
神様が出てくる様子も……今の所ない。
「……っ!!!」
その様子が、堪らなく。
男は、ならまだまだ言ってやろうという気概だ、口を開こうとした。
「やめなさいな。それ以上やっても、無意味よ。」
「?!」
「!」
そんな折に、やっとか、誰かが声を掛けてくる。
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