13 決死にて、奮い立ててまでも

 「……ふふふ。君と一緒なら、どこまでも行けるよ……。」

 「……。」

 怨嗟の念に、多分僕の、言っては嬉しそうにして。心満ちた顔をして。

 そうであっても僕は、止めるべき時なのに止められない。

 止める権利を、力を持たない。

 ただただ、その様子を黙したまま見つめるしかなく。

 そうとも。

 ここに漂う怨讐の願いたち、他らなぬ僕もまた、その一部であり。

 故に僕は、いわゆる止めることも、助けることもできない、しない。

 その気はない。

 なにせ、止めれば、僕は僕の抱く、怨讐の願いさえ、否定して。

 否定するなら、僕は壊れてしまうだろう。 

 この願いだけが、唯一僕を繋ぎ留めている、そんな気がして。

 故に、僕は止めない。

 ならばここに、浜凪を止める者は、いない。静かに、見守るしかない。

 静か?いや、安らかだね。

 その怨讐の願いたちが、歓喜するように、心は安らぎに包まれそうで。

 止める者はいない。僕は、目を瞑り、祈るかのようだった。

 

 だが。

 

 「……やめなさい!!!!」

 この場において、止める者が現れた。僕は目を開けてみると。

 知ったる声で、この世界にいきなり入り込んで、浜凪を抱き締めて。

 それは、ミケだった。

 同じく光を伴って、この世界に入り込んできたのか。

 あまりに、見ていられなくて、急いできたとも伺える。

「……!!ミケちゃん……!」 

 後ろから抱きつかれて、驚きの表情をしながら、振り返り見ては。

 その一言を向けて。

 「……浜凪さん、やめて!それは……だめよっ!そんなことしたら、あなた、死んでしまうわ!!!」

 辛そうな浜凪を見て、いいや、それだけじゃない。

 その奥にあるものを察してミケは必死に言う。

 けれども、浜凪は、止めない。

 「……無理なんだ……。」

 途端、悲しそうに言い始めて。

 「……神様に、体を捧げた時から……。この体、壊れていってて。ふふ、元から壊れていたか。ぼくじゃ、神様の力に耐えられない……。壊れて、崩れて、僕が灰になってしまう前に、せめて、願いだけは。そう、萩原君の願いだけは、叶えたくてさ……。」

 続けては、悲しそうに顔を伏せる。

 「……でも……っ!」

 だからと言って、ミケが納得するわけがない。

 弱くて、何ができるか分からない彼女でも、言葉区切っては、模索して。

 「!!」

 そうしている内に、浜凪の体は透け始めていく。

 「……ごめんよ、時間だ。」

 ―お別れには、最悪だけども……。ぼくにはもう、時間がないや。だから、せめて願いだけは、叶えさせて。ぼくの生涯で唯一の、友達のために。

 謝りはしたが、最後、言葉は残響のように遠退いていく。

 体の透けは、より強くなって。

 代わりに、光が溢れ、僕とミケを包もうとしていく。

 「!!!やめっ……きゃぁあああ!!」

 「?!ぐぁああ?!」

 そこからの、衝撃波が放たれる。僕らは弾き飛ばされてしまった。

 ―おおぉおおおおおおお!!!!!

 より強い歓喜の声が、響いて、また、上空のリングは、素早く回転しだし。

 倒れたものの、この光景、是非目に入れたいと僕は、すぐに体を起こして。

 心、乱れたものの、今その瞬間には、怨讐の願いたちと同様、歓喜しそうになり。

 そうだ。

 そうとも、叶う。叶うのだ。僕の怨讐の願いが。 

 もう止まらない。

 もう止められない、誰にも。終わるのだ。

 そう思ったならば、僕の口元は、安らぎに緩みそうになり。

 満足げに、見届けれる。

 怨讐の願いたち同様、僕の心の奥底も、歓喜して。

 奥底から表に、浮上しそうになる。

 ……そのはずだった……。

 「?!」

 途端、回転していた空のリングは、きれいに両断されてしまう。

 途端、リングの直下にて、光り輝いていた浜凪も、霧散してしまう。

 ―あぁあああああ?!

 その崩壊に、失望の声が上がり。つまり、失敗した?

 それ以前に僕は、また何が起きたか分からずにいて。

 浜凪は?これは一体? 

 僕の理解を越えていた。

 ……いいや、一つだけ理解できることがある。それは。

 「……あれほど言ったのに。貴様はまだ抱いていたんだな。」

 「!……っ!……っ!!!」

 「?!ちょ、ちょっと?!な、何?!は、萩原さん、顔が……?!」

 憎らしい声が、代わりに聞こえてきたことで。

 おまけとして、説教までつけてきた。

 僕は一転、歯軋り一つ、歯を剥き出しにして、食い縛って。力も、両手に込めて。

 突然の僕の変化に、ミケは驚いた様子。 

 さてその声は。

 他ならぬ、僕を暴行し、脅迫したあの男だよ!!!

 散る光、浜凪の場所の。紛れて見える、銀色と琥珀色の瞳。

 神聖さを感じさせない、使い古しの作業着姿。

 やはりあの男で。

 その手には、抜き放たれた刀が見え、光に当てられ、嫌に艶やかに輝き。 

 その刀の煌めきに、僕は、弱いにも関わらず、歯向かうみたいに睨みつけ。

 それは、浜凪を、浜凪の放った光を切り裂いたから?

 いいや、残念だがここで僕は、利己的で、願い叶わないそれが嫌で嫌で。

 腹立たしく思えてならない。

 「……ほう。一丁前に歯向かうか。」

 僕のその様子に、煽るように言ってくる。

 それでいて、笑顔も見せず、ただ見据えていて。

 それは、僕がどう足掻いても敵わないだろう。

 力見せなくとも、感じさせる、顕示だ。

 だが僕は、煽りに乗ろうが乗るまいが、どの道歯向かうことに変わりない。

 邪魔をされた、それも何度目か。我慢しようも、何もない。 

 元より、怨讐の願いのために、神前に赴いたんだ、最初からない!

 僕は、立ち上がったなら。

 「いい加減に、しろよぉおおおおおおおおおおお!!!」

 咆哮して、殴り掛かる。

 軽く跳躍して、拳を振り上げて。

 男は、そう動くと既に予想していた、刀翻して。 

 僕に向けて、斬り裂くように振る。

 躊躇いなし。拍子もなし。

 最初からそうするつもりだったようだ。なら僕は、斬られて?

 いいや。

 「?!」

 突然、首根っこを引っ張られて、放たれた太刀筋は空を斬り。

 何事かと、後ろを見たら、ミケが僕を引っ張っていた。

 「えと、萩原さんも!ダメよ!!!相手は、相手は……。つ、強い……。」

 悔しそうにしながらも、必死に僕に言い聞かせてきて。

 「?!ぐぁ?!」

 引っ張られた反動に、僕は地面に尻餅をつく。

 そこから、ミケが逆に、僕の盾になるように前に出て。

 両手を広げて、行かせないと男に立ち塞がる。

 「……。やらせないわ。」

 言って、対峙して。けれど、震えは見て取れる。

 それだけ、相手が強いと感じているのだろう。 

 「どけ。……いや死にたいか。浜凪のように。殺してやる。まとめてな。」 

 冷徹な男は、どけろと命じるが。

 ついでに、煽るような、気になるような言葉も付け加えてきた。

 「?!そ、それって?!」 

 ミケは問う。その表情に、焦りも見え隠れして。

 「その通りだ、俺が殺した。そこの萩原桃音が、願いを叶えようとしていたんだ、その媒体となる存在は、殺す。邪魔をする猫娘、貴様も殺す。理由は、言わない。聞く必要はないからな、消える貴様らには。」

 答えとして、冷たく告げ、さらに刀を構え直して。

 「……くっ!」

 焦りも何も、相手は殺す気でいる。

 感じ取った神様は、拭い去るように呻き、構える。

 両手を広げて、また、光を放ち。

 それを円を描くように動かしたなら、光の膜が形成される。何だか、盾みたいだ。

 神様として、修行して、力を上げたのかな。

 「……え?」

 などと思ったら、彼女の背中に、赤い染みが生じ、巫女装束を濡らす。

 「……嘘……?何で……っ?!」

 ミケは、理解できないでいて、驚きにただ、口をパクパクさせるだけで。

 「!」

 何だろうと見たら、対峙していたはずの男の姿が、陽炎のように揺らいで。

 消えていく。

 「っ。」

 微かな呼吸音耳にしたら、彼女の背中。

 そう、僕の眼前の空間が揺らぎ、形を象って、男が姿を見せた。

 さっと刀を払ったなら、どさりという音も響く。

 ミケは体勢を崩して、その場に倒れ込んでしまった。

 「……へっ?」

 情けない声を僕は出してしまう。

 理解を越えた、その速度は、捉えるにはあまりにも速すぎて。

 「軽く突いただけだ。後できちんと処理する。さあ、次は貴様だ。」

 淡々と言い、男は僕に切っ先を向けて。

 それを見て、僕は恐怖する。終わりだと。

 「……っ!!」

 今わの際だと、思い返すことには怨讐で。

 そのせいか、怨讐、恐怖を打ち消して奮い立たせる。僕は、軽く呻いたら。

 「……思い返せば、鬱屈ばかり。嫌なことばかり。死ぬこの時もまた、嫌なことばかり。ああ……。」

 

 「腹が立つ!!!」

 

 言って、吐き捨てて。

 感じた恐怖さえ、拭い捨てて。

 「どうせ死ぬなら……。貴様を殺してやる!!!!!!」

 決意の言葉放ち、僕は立ち上がった。

 ……だから何になる?僕は立ち上がったそれだけで?

 手段はないはずで、抗う術はない。

 それでも僕は、……何を思い付いたか。

 ミケの見よう見まねで、手を広げ、構える。 

 「?!」

 ……全身が奮い立つ感じがして、見たならば、自分が微かに光っている。

 僕は驚きを隠せずにいて。だが、ならばと、僕は睨み。

 円を描くように動かしたなら、光の膜が生じ。

 いいや、それだけじゃない。

 その光の膜に、文字かどうか分からないが、模様と共に浮かび、膜を彩っていく。

 「……?そんな力、なかったはずだが?」

 見ていた男は、眉をピクリと動かし、怪訝そうに言ってくる。

 ……どこか僕を知っているかのようだったが……。

 だがf、この際、もう疑問なんてものはなしだ。思考するのも、なしだ。

 僕は言った、どうせここで死ぬなら、相手の男を殺す、と。

 そうさ、そうすれば僕は、すんなりと、怨讐の願いを叶えられるのだから。

 「……。」

 僕の覚悟、感じ取り、男はならばと、構え直して。

 微かに息を吸ったなら、揺らぐ。

 「!」 

 僕が呼吸したその時には、男の姿はより迫っていて。

 反応遅れ、僕は斬られると思ったものの。

 斬撃、僕に到達する前に、膜に阻まれてしまう。

 「?!やけに強固だな!」

 スウィングに火花散らせながら、少し驚いた様子を見せていた男。

 だが冷静になり、状況を分析する。

 「?!ぐぁ?!」

 僕は、斬撃の反動に飛ばされて。

 「!!なるほど。」

 何か感じ取った男は、閃いたようで。徐に刀を納めたなら、また突進する。

 膜が阻む、だが、衝撃だけは、こちらに伝えてきて。

 「?!わぁああああああ?!」

 僕は衝撃だけで、大きく飛ばされてしまう。どうやら、斬撃ではなく。

 打撃に変えて。

 光の壁ごと、衝撃を与えて僕にダメージを与えるつもりだったようだ。

 現に、石畳に叩きつけられて、思わぬダメージを被る。

 「……ぐぅうう!!!!」

 唸り僕は、また立ち上がる。痛みに震えながらも、だ。

 大口叩いて、ここで倒れてちゃ、意味ないな。

 睨み付けたならば。

 「うぉおおおおおおおお!!!」

 咆哮する。

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